第46話 決意 ~ 七小節魔法〈ディスペル〉1発目
異世界における魔法のルールはいくつか存在する。
まず、大前提として、術式を口頭で紡ぐこと。
無詠唱ということはありえず、仮にあるとすれば、それはスキルのほうへ分類されう。仮に魔力を使っているとしても、それはスキル。
魔法を使うには、詠唱を介すること。これが大前提。
次に、魔力を練って、別の何かへ変化させるということ。
言い換えれば、なにかしらの力を別の力へ変化させるということだ。
前述したように、詠唱がなければ、魔力を使おうとも、それはスキルである。
なぜなら、詠唱を行わないと、魔力は、魔力のまま作用する。魔力は燃料のようなものになる。魔力そのものが変化するのではなく、魔力という燃料を元に、スキル使用者が何かを行う。
詠唱を行うと、なにが起こるか。それは魔力そのものが、変化するのだ。
無色の水に色をつけるようなイメージだ。
赤くすれば、ファイアに。
黄色くすれば、サンダーに。
青にすれば、ウォーターに。
術者に関係なく、魔力そのものが粘土のように変化し、世界に顕現するのだ。
魔法詠唱は、小節に分かれている。一番短いものは、一小節だが、重ね掛けもできる。言葉に意味があり、世界法則に干渉する。言霊だと思えばいい。
わかりやすいのは、火属性魔法だ。
『燃えよ』で火はでる。
『燃えよ、燃えよ、燃えよ』で炎がでる。
漢字でいうなら、木を三つ書くと森になるというイメージだ。重ねることで強さが増す。
もちろん、別の言葉を重ねるごとに効果は変わる。
魔法の知識は失っていない。
問題があるとすれば――それは、魔力というより、地球の法則と異世界の法則が同じかどうか、というところだ。
そして、ディスペルが地球という物質が縛る世界に、認められるのか――。
*
ディスペル。
それは解呪とよばれる魔法である。
ゲームなんかだと名前をよく聞く魔法だったので、異世界でその魔法を知ったときは、純粋なヒーラー魔法なのだと思っていた。
しかし、呪いをとくというのは、なかなかに難しいらしく、それは聖女と呼ばれるユニークジョブだけが使用できる魔法だった。
もちろん、勇者はチートジョブなので、聖女だろうがなんだろうが、魔法を奪うことができるで、悩むことなく、聖女に教えてもらったのだ。
敵を殺すわけにはいかない。
しかし、殺さねば、止まらない。
足を止める? 無理だろう。専用の捕縛道具ならまだしも、あの力であれば、縄で縛っても抜けられる。人数が多ければなおさら。
魔法を使うしかないんだけど……発動するのか?
しかし、悩んでいる暇はない。
ふたたび肉壁の向こう側に消えた委員長の声が不穏になってきた。
「ひいいいいい、ああああっ」
なんて声が聞こえてはくる。
一体、なにをされているのか……。
まあいいか……どうせろくなことじゃないだろう。
それに、バーサーカー忍者たちが、陣形を整え、委員長の周囲に集まってくれるほうがディスペルをかけやすい。
俺は、かつての仲間であった、うるさい聖女の顔を思い浮かべながら、子供のころの宝物を手に取るような気持ちで、七小節を口にした。
「逆行せし願い 悪行の契り 影に光を 届かぬ闇よ 天より堕ちる 始祖の姿よ 我は真実を見る――〈ディスペル〉!!」
くる――体の中心から、何かを吸い捉えるような感覚。
これは委員長たちの言う、丹田と同じ感覚なのだろうか。
無尽蔵にわきあがっていく勇者としての魔力が、聖女直伝の詠唱に引き出されていき、形を変え、作用する――。
ブゥンと音が鳴り、俺の周囲に魔法陣が浮かんだ。
それは、魔力を発現させるための回路だ。
「きたきた……!」
後は、対象者へ魔法が届けばよいが――しかし……それだけだった。
なにも発動しない。
魔法陣も浮かんでいるだけで、光らない。
本来ならここから、浮かんだ魔法陣が、それぞれの属性の色に発光するのだ。
ディスペルは光属性なので、真っ白い光が対象を包み込むのだが……、発光しかけて、消えた。
まるで、ガス欠を起こした車のように、止まった。
「やっぱり、異世界とは発現手順が違うのか……」
こちらで目が覚めたときも、まっさきにファイアを使ってみたが、ライターぐらいの火しかでなかった。
郷に入っては郷に従えとでもいわんばかりに、異世界と地球のルールは似ているようで、違うみたいだ。
「……ミナイデエ?」
目の前のバーサーカー忍者たちは、うつろな目で俺をとらえている。
魔法発動時の魔法陣が、彼らの意識をこちらに向けてしまったようだ。
今まさに飛び掛かってこようとしている。
だが、これ以上、やつらにダメージを与えたら、死なないにしても、日常生活に戻れないかもしれない。
「まずい……腕力の解決しか思いつかない……」
どうする?
魔法以外に解決策はないのか? しかし、発動しないのでは仕方がない。
ではやはり、力で抑えつける? いや、人数が多すぎる。
委員長の丹田とやらは復活せず、弥一郎は倒れて起きない。
「なにか……なにかないのか……命を奪ってまで止めるわけには……」
俺は必死に頭を動かして――視界の端にソレをとらえた。
前にも書いているはずですが、魔法とスキル理論が、微妙に違っていたら、すみません。
矛盾を教えてもらえたら書き換えます。
次か次と言いましたが、次の次の次ぐらいが章の終わりです(支離滅裂




