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第4話 委員長登場

「平気ですか?」

「ん?」


 声の方へ目を向ける――なんとも懐かしい顔があった。

 女子生徒だ。

 長い黒髪をポニーテールにし、背筋を伸ばし、真っすぐ立っている。

 まつ毛は長く、まゆは真っすぐ、目には力強さが宿っていた。


 心配そうな顔で、再び口を開く。


「あの……大丈夫ですか? また、なにかされたんですね?」

「え? ――あ、げ、委員長」

「え? いま、『げ』って言いました?」

「い、言ってない、言ってない。……ひさしぶりだね、クラス委員長」

「その呼び方はやめてください。私には『久遠奏くおん・かなで』という名前があるのですから――それに、久しぶりもなにも……ゴールデンウィーク前にお会いしましたよね?」


 正義感が人間の形をとったような人物だ。

 身長は俺より少し小さいくらいだから、165センチ程度のはず。しかし、内から湧き出る自信か何かのせいで、俺にはもっと大きな存在に見えていた――と思っていたのだが、今の俺にとっては、良くも悪くも年相応の女子高生でしかなかった。


「エエ、ソウデシタ、久遠さん。数日振りデスネ」

「あの……どこかに頭、ぶつけました?」


 礼儀正しいようで失礼な発言も、やっぱり四年ぶりとなると懐かしい。


 この委員長は、俺のクラスの委員長ではなく、一学年全8クラスの各クラス委員長をまとめる委員長ギルドのマスターなのである。これが異世界なら町の顔の一人ってところ。もちろん高校でも、その正義感の高さから有名な人物でもある。


 繰り返すが、彼女は正義感の権化である。

 よって、俺のようにクラス内で茶化され、陰でいじめられている人間を放っておけないのだ。

 果てしない悪がはびこるように、光を与えようとする善がある。しかしどのどちらも、分量を間違えると問題になる。


 当時の俺は、その正義が苦手だった。

 静かにしておいてもらえば、被害は最低限で済むのに、変に介入してくるから、被害が増大するのだ。

 

 放っておいてほしいと思っていた――のだが、そこで気が付く。

 あれ。それって俺がさっきやった介入と同じなのか?

 さっき助けた相手は、もしかすると『放っておいてくれ』と思っていたのだろうか……いや、今回はたぶん助けてよかったと思うが。

 うーん。やっぱり行動には気をつけといけないようだ。


 委員長――もとい、久遠さんは俺のスラックスを見た。


「スラックスがやぶけるまで……なにかされたんですか? 私、今ここを通りかかったのですが……誰かが殴られたとか話を聞きました……まさか景山くんのことだったんでしょうか」

「いや――なんでもないよ、大丈夫」

「……。あなたはいつも、そうやって何かをかばうように黙秘をするのですね……現状を変えられないのであれば、他人に助けを求めるのは必然です。我慢をしていても、何も変化はしないと思いませんか?」

「でも、本当に問題はないし――」

「――それとも、わたしの行いが迷惑ですか?」

 

 うーん。この件は大げさにしたくないんだよな。

 一年のいじめられていた子の為にも。

 大事になると、色々と変な方向に進む。

 解決するにしても、静かに行わないと、変に刺激された奴らが騒ぐ。

 正義感というのは、時により、暴走をして多大な被害を生み出すし。


 よし。

 正直に言っておこう。

 これからの学校生活を考えても、そちらのほうが良いだろう。


「ああ、そうだな。迷惑、とまでは言わないけど、放っておいてほしいとは思うよ」

「……え? めい、わく?」


 思いもよらぬ言葉だったのだろう。

 日本刀のように鋭く整った顔が、ぽかんと、呆けたようになった。


「詳しくは言えないけど――俺は自分の力で身を守れるようになったんだ。だから委員長の助力は不要だ」

「わたし……不要、ですか。いらない、ですか?」

「いや、いらないとまでは、言ってないけど……」


 あれ……。

 なんだこれ。

 俺が悪いみたいな雰囲気出てないか?

 

 委員長もたった数秒で、自信が消え失せて、捨てられた犬みたいになってるんだけど……。


 口ごもっていると、委員長が言葉をつづけた。


「本当に、わたしのこと、いらないんですか……? わたし、いらない子ですか……?」

「い、いや、だから、いらないというわけじゃないんだけど――いると、それはそれで面倒なことになりそうだから……」

「わ、わたし面倒な子、ですか」


 シュン、と落ち込む委員長。 

 こんな態度を見たことは一度もなかった。

 こうして見てみると、委員長って、無理して胸を張って生きているタイプなのかな。

 思い返してみれば、いつだって声をかけてくれた委員長だけど、俺はいつも下を向いて、知らない振りをしていたんだっけ。こうしてまっとうに話をするのって、実は数回しかないんじゃないか?


 俺は彼女のことを見てきたようで、全然、視界にも入れてなかったのかも。

 そうだとすると、今までそんな態度の俺を助けてくれたことも感謝しかないし、否定はできないな……。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、委員長……じゃなくて、久遠さん。つまり、俺以外を助けてやってほしいということなんだ。俺のことは忘れてくれってことだ。久遠さんの言動に救われている人は、絶対に居ると思うからさ」

「わ、わたし必要ですか……?」

「うん。久遠さんみたいな人は必要だ。俺は、そう思う」


 そうして俺は、しっかりと久遠さんの目を見た。

 視線に意識を載せるように、力を込めて。


「あ、え……あの、はい……? 失礼ですけど……あなた、本当に景山くん、ですよね?」

「……? もちろん、そうだけど」

「そう、ですよね。すみません……なんだか、一瞬、別人のように思えて……眼鏡もないですし……そういえば、なんだか身長も大きく見えるような……そもそも、顔つきがとても力強くて……?」


 ぐいっと委員長が体を近づけてくる。


「あの……もっと見せてください、あなたの……体のなかの……なにか、光のような……」


 俺はその分、身を反らせて、距離を取る。

 美少女が顔を近づけてくることに耐えられなかった。


「し、身長はわからないけど、眼鏡は割れたんだ。殴られたときに……」

「え?」

「え?」

「今、『殴られた』って言いました? やっぱり暴力を受けたんですね?」

「げ」


 動揺して、口が滑った。


「今、『げ』と言いましたね?」

「言ってない言ってない――ま、じゃあ、そういうことで! また、そのうち! 委員長は委員長として、みんなを助けてくれ……! いままで本当にありがとう!」

「あ、ちょっと待ちなさい! ねえ、待って、景山くん……! そんなお別れみたいなことは言わないでくださいっ」


 待ってられるか。

 捕まったら、犯人を白状するまで詰問されるに決まってるんだ。


 ……とはいえ、あいつらの名前なんて知らないんだけどさ。

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