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元いじめられっ子の俺、異世界から帰還する  作者: 斎藤ニコ
第三章 久遠奏

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第32話 ぼでーがーど

 それは、首領のじいさんの声だった。


「ちょっと! まてえええええい!」


 何度かの静止の声に、俺も、弥一郎も、ぴたりと止まる。

 俺は大きく振りかぶったまま、急停止。

 弥一郎は、手で印を結び、最後の締めをしようとするような所で、止まる。


 俺のブレザーを大事そうに抱えている委員長は、ぽかーんと祖父を眺めている。その様子から考えるに、本来、こういう風に怒鳴るタイプじゃないのかもしれない。


 俺は弥一郎のほうへ意識をさきつつも、じいさんに話しかけた。


「場所が違うってことか? どこかに道場とか、戦える場所があるなら、移動するけど」


 弥一郎が反応した。


「ふんっ。ガキが、なにを抜かす。お前など後数秒で倒れていたわ――」


 そこにじいさんの声がかぶさった。


「ばかもんがあ! どう考えても、このお方は、やばいだろうがあああああ! 対峙してわからんとは、見損なったぞ! 弥一郎!」


 俺のほうを指さして、唾をとばしながら、叫ぶ。


「ひいっ」と委員長がのけぞる。

「なっ?!」と弥一郎は、思わず直立し、怪訝な顔である。


「も、もうしわけございません!」と、あろうことか、組のトップである首領が俺に向かって、頭を軽くさげ、地面を見ながら話をする。ついでに膝までついている。完全に負けた側の対応だ。


 わからせようとは思ったけど、じいさんのほうではない。

 それに。


「まだ、戦ってすらないんだけど……」


 じいさんは、首を振る。


「あなた様の背中が膨らむのが見えました。幻視でしょうが、それほどまでに力が込められていた……人間ではない……人間業とは思えない……カナデの術もきかないところからも察するにあなたは……」

「あ、いや」


 やばい。毎度のごとく、まずい。

 亀の甲より年の功などというが、首領と呼ばれるだけあって、目が肥えているらしい。

 まさか、異世界転生なんて、ばれないだろうし、勇者だなんて結論になるとは思えないが、近似の推測をされると面倒だ――。


 じいさんは目をぎゅっとつむった。


「あなた様は、闇に生きる伝説の暗殺者ヒットマンでは……?」

「ヒットマン……」


 俺はつぶやいた。ヒットマン。なんどか口の中で、転がす。ヒットマン、ヒットマン……無意味に、天井を見てみた。

 

 わぁ、そうきたかあ……。

 アサシンとか、喧嘩屋とか、なんか色々あると思ったけど、ヒットマンかあ……。

 そうか、だって、ここ『組』だもんなあ!


 これはもう確定した。あれだ。

 この一族、みんなこういう感じだ……話、通じない感じだ……。


「首領が頭を下げた……」


 周囲の空気に恐れが混じる。

 どうも、首領の言葉が絶対っぽい。


「ひ、ひっとまん……」と委員長が語彙力さがったかんじに、呟く。

「まさか……こいつが……?」と弥一郎言うと、俺がけった畳が破れていることに気が付いた。「な、なんだこれは……それほどの力が、こんなガキに……?」


 たしかに、盗賊系・暗殺系スキルはかなり持っているし、発現レベルは下がっているものの、蛇型の拘束道具を出すスネークバイトもつかえる。

 地球上で分類されるなら、たしかに暗殺者といえなくもない、スキルツリーではある。

 でも、ヒットマンではない。

 それは違う。

 

「あの、なんていうか、違うとも言えないんだけど、違うと言っておきたいんだが……」


 否定はしておきたい。

 

 でも、もう遅かった。

 じいさんはいきなり、土下座をした。

 俺が踏み破った畳の跡の上だ。

 まるで、それが力の象徴であるかのように。あがめるように。


「この、鉄山てつざん、人生最初で最後のお願いがございます! 伝説のヒットマン殿!」

「まずその呼び方は、やめてくれ」

「ヒットマン殿!」

「『伝説』を外してほしかったわけじゃないんだ……名前を呼んでくれればいいだけで……」

「……、……っ」


 じいさんは、顔を少しだけ上げた。どこを見るかと思えば、委員長を見た。


 視線を感じただろう委員長は、ふしぎそうに首をかしげたが、「あ」と思い至ったらしい。

 俺も理解した。

 どうも、じいさんは、俺の名前がわからなかったらしい。

 そりゃそうか。ついさっきまで、下に見ていたんだから、覚える気もなかっただろうよ。


 委員長は助け船を出すべく、小さく呟くように、俺の名を言う。


「かげやま、くん。かげやま、くんだよ」

 

 じいさんは、まゆをしかめる。


「……からあげ、くん?」


 うまそうだな、おい。


 委員長は、もどかしそうに、口のうごきを強調する。


「か、げ、や、ま」


 じいさんは、首をかしげた。


「あげ、だま……?」


 離れたよ。

 まだ、からあげくんのほうが近かったよ。


 委員長は、じれったそうに声をあげる。


「かげやまくん!」

「ああ! ああ! かげやまどの! 景山ヒットマン殿か!」


 見守っているつもりだったが、口をはさんだ。

 さっきから、名前に対するハラスメントがすごい。


「そういう呼び方はやめてほしい。長いし、いいにくいだろうし、いいことがなにもない」

「失礼した……では……短く呼ぶことにいたす……」


 首をかしげる、祖父を助けようと、委員長が横から口をはさんだ。


「『カゲヤマン』とかどう!? カゲヤマとヒットマンを足して!」

「おお! 我が孫のネーミングセンスはよい!」


 よくないわ。

 伝説級にださいわ。

 

 俺は話を終わらせるように、手をひらひらと振って見せた。


「頼むから、普通に呼んでくれ。景山でいいから……呼び捨てでいい。敬語も使わなくていいよ、そっちのほうが人生の先輩だろう、じいさん。俺もとりあえず無礼講でいかせてもらう。話が終わったとは思っていないからな」


 自身を「鉄山」と名乗った首領は、俺の言葉に何度か頷いたあと、下げていた頭をあげると、勢いよく立ち上がり――いや空中に体を浮かし、空中で胡坐を組み、そのまま畳の上に着地した。

 忍者みたいで、少し安心した。自分がどこにいるのか見失うところだった。


 じいさんは、鼻から大きく息を吐くと、ゆっくりと話はじめた。


「ありがたい。では、この鉄山、カナデの友人であろう、景山殿に、頼みたいことが一つあるのだ――」


 そうして、ここで一戦交えて、弥一郎にわからせるつもりだった俺は、首領から別の戦いを提示されたのだった。


「――孫を……カナデを、数日内に、鍛え直してやってはもらえないだろうか。そのついででも、よいから、ボデーガードもしてほしいのだ……どうだろうか……?」


少しでもくすっとされたら、評価やブクマしていただけると、作者冥利につきます


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