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元いじめられっ子の俺、異世界から帰還する  作者: 斎藤ニコ
第三章 久遠奏

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第29話 (再更新)どう考えても、忍者の里ではない。

 公園で、委員長を引きはがしたのち、忍者の里へ向かうことになった。

 道中も色々とあったが、そこは割愛させてもらおう。いや、話したくもないし、思い出したくもないので、割愛ではなく省略だ。


 とにかく、制服姿に戻った委員長に、黙ってついていくことにした。

 忍者の里というぐらいだから、高校の近場にあるとは思わなかったが、バスや電車を乗り継いで向かうのは、山や川や村ではなく、繁華街だった。


     *


 委員長は黙って歩き続ける。ポニーテールが右に左に揺れる。

 道を歩きながら、近場の電柱を見ると、『印燃町いんねんちょう』とあった。町内には大きな駅がある、栄えた町だ。


 過去に何度も来ている地域ではある。


 駅は大きく、路線が複数通っている。ビジネス街があり、繁華街でもある。

 商業ビル、家電量販店に、ゲームセンターに、カラオケに、ラーメン屋に、本屋に、飲み屋、いかがわしい店――とにかく、すべてがそろっているのだ。 

 

 だが、忍者の里まで揃っているとは思えない。 

 ここはコンクリートジャングルであって、忍びが隠れて暮らすような場所ではない。

 

 黙ってついていこうと決めていたが、さすがに委員長の背中に問う。


「なあ、委員長。ずいぶん歩いたけど、こんなところに、本当に忍者の里があるのか?」


 委員長は立ち止まることなく、軽く振り返る。顎から口元のラインが見えた。


「ええ、そうよ。もう少しでつくから、逃げないでね?」

「逃げるつもりはないけどな……」


 さっきまでの委員長を知っている身としては、調子が狂う。

 なんでくノ一になるとポンコツになって、委員長になるとクールになるんだ。世間をだますなら、普通は逆だろうが。


 まあいい。

 よそはよそ、うちはうち。


 とにかく、委員長の言う四桜とかいう忍者の里に顔をだして、事情を説明して、帰ろう。

「俺は何も見てませんし、何も言いません。ただの一般人です」と宣言して、物理的に行われるらしい記憶消去の忍術すら回避して、無事に帰路につこう。

 委員長は怒られるだろうし、折檻とやらを受けるだろうが、自業自得なので耐えてもらおう。

 俺は巻き込まれた側なんだし、怒られることもなければ、顰蹙を買うこともないだろう。


 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか、高級住宅地に入っていた。

 道が広くなり、塀が長く続いている。

 洋館もあれば、日本庭園付の家屋もある。マンションはなく、すべて一軒家だ。こんな場所、あったんだな。


 委員長は話に付き合ってくれる気はなさそうなので、俺は周囲を観察する。


「おー?」

 

 デカい家が多いが、今、目の前にある家は特にやばい。

 そもそも家ではなく、屋敷というべきなのだろう。

 道にそって、ずっと塀が続いており、全容は見えない。屋根の部分だけが見えるが、武家屋敷みたいだった。

 道場とかありそうだ。

 反対側の豪邸を数件通り過ぎても、塀はまだ途切れない。

 

 遠くに、屋根付きの門が見えてきた。

 そこには、屈強そうな強面の男性が二人、立っていた。派手な開襟シャツに金のネックレスに白いスラックス。

 独特なセンスの服装だ。真似できない、ではなく、真似をしたくない。

 

 すぐに理解した。


 なるほど。ここはあれだな。

 暴力でことを解決しようとする、野蛮なやつらの住処というわけか。

 ようするに、ヤ〇ザ。

 住宅街にこんな奴らが住んでいるんじゃあ、周囲の人間も気が気じゃないだろうなあ――と考えていたら、委員長は、立ち止まり、振り返った。


 それは、屈強な男が二人立っている門の前だった。

 大きな木の板が、門扉の横にかかっており、そこには『四桜組しおうぐみ』と達筆で書いてあった。

 

 猛烈にいやな予感がした。


 委員長はクールに言った。


「到着したわよ、景山くん。ここが里よ」

「……おい。冗談はやめろ」

「……? 冗談じゃないわよ。四桜って書いてあるでしょ?」

「里じゃねえだろ! 組って書いてあるだろうが!」


 俺が看板を指さして、小さく怒鳴ると、男たちがすごい怖い顔をした。俺の方が強いのはわかっていても、顔面の圧力っていうのは、地球だろうが異世界だろうが、強力だ。

 

 委員長が首をかしげる。


「里も組も似たようなものでしょ? 結構、細かいことを気にするのね」

「細かくないだろ! 雲泥の差だろうがっ」


 なんだ? 俺がおかしいのか? 本当に調子が狂うぞ、真面目委員長とポンコツくノ一のギャップが大きすぎる。


 ぎゃあぎゃあと騒いでいたら、屈強な男が、こちらをじろりと睨んできた。

 俺は素直に黙っておく。

 それから、静かに頭をさげて、言葉を発した。それは、委員長に向けられていたようだ。


「お嬢、おかえりなさいませ」

 隣の大男もそれに続いて「おかえりなさいませ!」と威勢のよい声を上げた。


 お嬢ってなんだ、お嬢って。

 俺の心のツッコミは当然、届くことはない。

 

 委員長は、微笑み、小さく頷いた。


「ええ、ただいま。今日はなにもなかった?」


 男の一人が頷く。


「へい。目立ったことはなにも」


 そうご苦労様、と委員長が言うと、男たちは再び、直立不動となる。

 

「あと、この方は客人ですから、通してください。検査も不要ですよ」


 委員長は、なんだか、冷たい目をしていた。初めて見る、視線。

 くノ一やクラス委員長とも、別人の第三人格だろうか。どれが本物の久遠奏なんだ?


 示された俺を見て、威勢のいい男が驚いた顔をした。


「おお! まさか、こいつが、さっき連絡のあったハグレ忍者のガキですかい?」


 余裕があったはずの委員長の動きが止まる。


「……え、ええ。そうであるような、そうではないような――とにかく、おじい様……首領に会わせます……」


 ぴくぴくと目の端が引きつっているのを見ると、なるほど、委員長はやっぱりへっぽこが本性らしい。ちょっと安心している俺がいた。


 それにしても、平気だろうか。

 勘違い報告を、四方八方にしているようだが。

 この件は、どうやって収拾をつけるというのか。


 大きな門をくぐるのかと思ったら、そうではなかった。

 委員長は、男たちが立つ大きな扉の横についている小さな通用門を開くと、俺へ言う。

 耳元で、俺にだけ聞こえる声量で。

 

「ど、どうぞ、ハグレ忍者さん……おじい様に会いましょう……ね? とにかく中に入って。おねがい……! いまだけ、忍者ってことで……! おっぱい揉んでもいいのよ? ほーら、でっかいぞー? でっかいよー? ……ダメか……」

「悲しくなるから、色恋の術は、やめてくれ。あと、あわよくばかかれ、みたいなことを続けるなら、帰るからな」

「か、かけてないわよ? ぜーんぜん! 色恋の術なんて!」


 言い訳がましく、委員長は足早に進んだ。

 すると、飛び石に躓いてしまう。


「きゃっ」


 忍者らしからぬ、大げさなこけっぷりだ。顔面からいってないだろうな?


 起き上がらない委員長。


「おい、大丈夫か……?」


 さすがに心配になり、近づくと、なぜか、スカートがめちゃくちゃに捲れていた。

 あと、多分だけど、早着替えで、エグい感じの下着に着替えている。

 なぜか、ワイシャツも胸まではだけてるし。


 委員長は、倒れたまま、こちらをちらりと見た。


「いやーん、たてないよぉ(はあと)」

「おい……」

「……だめか」

「こいつ、まじかよ……」


 なにごともなかったように、委員長は立ち上がった。 


「じゃあ、いきましょうか」

「クールぶるな」

「別に?」

「スカートまくれて、尻丸出しだからな?」

「え!? きゃっ、うそ!?」

「嘘だよ」


 委員長は、目を細めた。


「最底」

「色恋の術連発のほうが、最底だろうが」

「まあいいわ。ついてきて」


 そうして委員長は何事もなかったように、スタスタと歩いていく。どうも、この屋敷では、第三人格モードが主流らしい。


 逃げることは余裕でできるのだが、委員長が必死すぎるので、静かにうなずいておいた。


「……もう少し付き合うか」


 ため息とともに、頷く。


 それにしても……ここ、絶対に里じゃなくて、組だよね……?

 

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