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元いじめられっ子の俺、異世界から帰還する  作者: 斎藤ニコ
第三章 久遠奏

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第27話 景山くんも、そうなのね……?

 確かめなければならないことがある。

 委員長のことだ。


 なにか特別なことがあったわけではないけども、発言が、どこかひっかかる。


 つまり……、委員長も異世界からの帰還者なんてことは……。


「まさか、な」


 そんなことが、あるわけがない。

 異世界転生が、こんなに身近にあってたまるか。

 

 それでも――確かめたかった理由は、一つだけなのだろう。


 同じ境遇の知り合いが、欲しかったのかもしれない。

 それは、俺だけではなく、人間の本能みたいなものなのだろうか。


     *


「委員長、ちょっといいか?」


 委員長を捕まえたのは、放課後の帰り道だった。

 俺の思い込みかもしれないが、向こうも待っていたような気がする。


「どうしたの、景山くん。珍しいじゃない、あなたから話しかけてくれるだなんて」


 見慣れた通学路。

 振り返る委員長が一人。

 いつもとはどこか、雰囲気が違う。


 少なくとも何か、委員長――いや、久遠奏は、何かを隠している。

 俺の直感がそうささやいていた。


「いや、ちょっと、聞きたいことがあってさ」

「わたしに? それこそ珍しいね。歩きながらでいいの?」

「あー、いや、喫茶店とか行くか?」


 お金、あったっけか。


「聞かれたくない話なら、公園でもいいけど」

「じゃあ、そうするか――いや、別に聞かれたくない話ではないけどな」

「そうなの? 聞かれたくない話だから、放課後に話しかけてくれたんだと思ったんだけど」


 言いつつも、委員長に強烈な違和感を覚える。

 なんか……冷たくないか?


 委員長って、いつも、弱いものを守る! って感じのテンションだった。

 だから、数日前までは確実に弱者でいじめられる側だった俺のことを、毎日のように気にかけてくれた。


 それが、今は、どうしたことだろうか。

 なんだか、どこか突き放すような物言いに感じる。


 俺は頭をかいてから、

「まあ、じゃあ……とりあえず、近場の公園のベンチで。缶コーヒーぐらいならおごるから」

 と、委員長を先導するように歩き始めた。


     *


 近くの公園は、高校近くの住宅街にありながらも、木々が多く、遮蔽物も多い。そのわりには、遊歩道のようなものが四方に伸びているだけで、遊具がないので、子供はいない。話をするにはぴったりだった。


 先にベンチに座っている委員長へ、購入してきた缶コーヒーを二本、差し出す。

 あったかいのと、つめたいの。


「委員長はホットがよさそうだから、あったかいの買ってきたけど」

「ええ、ありがとう。あたたかいのをもらうね」

「んじゃ、俺は冷たいのを」


 言いながら、委員長の隣に座った。多少、離れて。


 会話はないので、黙ってプルタブを押し開ける。ぷしゅっと音がなる。

 委員長も同じようにあける。ぷしゅっと音が鳴る。


 なんだか空気が重い。

 今までの院長のやさしさはどこにいってしまったんだろうってぐらいに、距離感がわからなかった。

 

 俺は、適当に、

「空が青い。いい天気だ」

 などと、呟く。


 そのとき、委員長は、我慢できなかったように、早口言った。


「もう、誤魔化すのはやめて。まさか、景山くんも、そうだったなんて知らなかった――いえ、いままで気が付かなかった……それだけ、あなたの偽装がうまかったのね」


 俺は横を見た。

 委員長は、こちらをまっすぐ見ていた。

 ポニーテールが風に揺れている。

 なんだか、視線が鋭い。


 ああ……、と気が付く。これは、命のやり取りをしっている目だ。

 なら、まさか、本当に?

 委員長も……?


 俺は恐る恐る口を開いた。


「まさか、やっぱり……委員長もなのか? あっちの世界で戦っていたってことか?」


 委員長は、俺の言葉に目を見開いた。


「やっぱり……景山君も、そうなのね……? 毎日、戦いに身を投じているってことね。こちらの世界のあなたは、誰にも話せず、一般人として生活してるのね」

「ああ、そうだ……委員長も、そうだったのか……本当に……」


 俺は、驚きから、若干、放心状態になる。

 たった四日間におきた、四年間もの戦いを思い出す。

 少ない仲間が死亡したあとは、ずっと一人で戦っていた。


 委員長は、俺の目を覗き込むように、顔を近づけてきた。


「その目。やっぱり、戦うものの目だわ。不思議。数日前までは、ただ、いじめられている男の子だったのに」

「ああ、それは――」


 そういえば、委員長は、いつこっちに帰ってきたのだろうか。

 もしかして、あちらの世界とこちらの世界の時間の流れの違いが、帰還するタイミングに影響していたのだろうか。


 俺が考えていると、ふっと離れた委員長が、不思議そうに言った。


「でも、わたし、あっちの世界では景山君のこと、知らなかった。見たことも、聞いたこともなかったけれど……」

「ああ、多分、俺が一人で戦っていたからだと思う」

「え、一人……? うそでしょ?」


 委員長が驚いたように、口をおさえる。


 その反応も当たり前か。

 異世界とはいえ、それは現実だ。殴られれば痛いし、切られれば血はでるし、心臓をえぐられれば、もちろん死ぬ。

 回復魔法はあるが、蘇生魔法はない。

 回復魔法はあるが、四肢を復活させるようなものではない。

 回復魔法があっても、だから、パーティーメンバーと共に、慎重に魔王城を目指すのがセオリーだ。


 俺は異常だった。

 ゆえに、魔王を倒せたのだと思う。

 勇者のくせに、まるで暗殺者のように攻略していったのだ。


 なにから説明をすればいいかわからず、俺は端的に説明した。


「もともと俺がおりたった地は、過疎地で、なにもなかったんだ。そんなところで出来た少ない仲間も、結局、全員死んだから。特別な武器も防具もなにもなかったから、とにかく一人で鍛えたんだ。もう仲間を失うのはイヤだったし」

「……そうなのね。ごめんなさい。つらいことを思い出させてしまって」


 委員長は、下を向く。


 いけない。委員長にも、色々と悪影響があってはならない。

 せっかく帰還したのだから、もっと明るい話をしたかった。


「いや、気にしないでくれ。いまはもう、気にしてないんだ。こうして普通の生活も手に入れたし」

「普通……じゃあ、もう戦っていないのね? それもそうよね。一人じゃ危険だわ」

「……? ああ、そうだな。戦いは必要なくなったから」


 ちょっと、委員長の言っている意味がわからなかったが、話を合わせる。

 なんだか、そのいいっぷりだと、今も戦っているようだった。


 委員長は、何度か頷いた。そして立ち上がり、数歩歩くと、俺のほうへ向き直る。


「でも、もう一人じゃないわ、景山くん。わたしが、みんなに話して、あなたを受け入れてもらえるようにするから」

「受け入れる? 俺を?」


 なにに?


 委員長は、俺を落ち着かせるように、言葉を重ねた。


「心配しないで。大丈夫だから。きっと、さとのみんなも歓迎してくれるわ」

「里? って……?」


 村とか城とかパーティーメンバーとかじゃなくて、里?

 里ってなに。


 委員長は、しっかりと頷いた。

 そして俺に手を差し出す。

 まるで、道を指し示す女神のように。


「あ、そうね。言ってなかった。わたしたちの里の名前は四桜しおうというの。これでも、現存してる忍者の里のなかでは、大きいほうなのよ?」

「は? 忍者?」

 

 え? 聞き間違いか?

 いま、委員長は『忍者』って言ったのか?

 忍者って、あの忍者?


 俺の態度に、委員長が焦る。


「あ、ごめんなさい。景山くんって、そういうのにこだわるタイプ?」

「そういうのって……?」

「女の忍者はくの一名乗れ、ってそういうことでしょ? でも今の時代に、そういうのってはやらないとおもうな。男でも女でも忍者は忍者だし。そりゃ、衣装に差はあるけどね……そもそもなんで、くの一の衣装ってあんなに布面積少ないのかしら。あと、色仕掛けの練習相手がオジさんばかりで、セクハラよね」


 ぶつぶつと委員長が愚痴を口にする。無意識なのか、腕を組んでいた。その過程で、委員長の胸がむちゅっと上にあがる。かなりのボリューム感がある。

 そういえば、クラスの男子が言っていたっけ。「委員長って隠れ巨乳なんだぞ」、って。

 こうしてみると、まじで、隠れていたらしい――じゃなくて!


 ちょっと冷静になろう。

 いや、冷静にならなくてもいい。

 明らかにしゃべりすぎている委員長を、早いところ止めて、話を戻した方がいい。


「委員長、ごめん。訂正したい」

「どうしたの、いきなり。やっぱりほかの里だと心配? でも、現代忍者同士、助け合っていかないと、色々と不便でしょ? 戦わなくても、索敵役だってあるわけだし」

「いや、そうじゃないんだ」

「そうじゃない?」

「なんて伝わるのか、わからないんだけど……」

「なんなの、景山くん」


 多少、いらだったような委員長へ、俺は言った。


「俺、忍者じゃない」

「……?」

「だから、あの、色々としゃべっているところ悪いんだけど、俺、忍者じゃないです」


 委員長は少しだけ考えたあと、わずかに顔をひきつらせて、それでもなんとか微笑んで見せた。


「え、いや、またまた。だって、景山くんの目、戦うものの目だったわ。それも、私たち寄りの。影の中で戦うもののオーラが出てた……」

「ああ、それはたぶん、勇者とか、そういう感じの……そっちよりのスキル多くとってたし……」


 さらっとすごいことを暴露してしまったが、委員長は気になどしていなかった。

 それよりも、宇宙人を見つけたような顔で、俺を見ている。


「え? 勇者? 勇者って、あのゲームの? ちょ、ちょっと待って、じゃあ、景山くん、ずっと、ゲームの話、してたの? ゲームしすぎて、オーラでちゃったの!?」


 委員長の目が怖い。

 それに、ゲームでもないんだけども、話がややこしくなるので、あわせておくか。


「委員長って、忍者なのか? すごいな。この世界に、忍者っているんだな。初めて知ったよ」


 異世界の場合、アサシンという枠組みの中に、忍者っぽい集団が居た。アジア系の人間がアサシンになると、忍者クラスになるっぽい。

 俺も、結構、技を盗ませもらったんだよな。勇者って、適正さえあれば、全スキル・魔法を習得できるチートジョブだったから。


 なんて、昔を懐かしく思っていると。

 委員長は、いきなり、ひざをついて、頭を抱え始めた。


「や、やってしまった……村のおきてを破ってしまった……ど、どうしよう……ころされる、けされる、くの一の衣装の面積削られてセクハラされる……あわわわわ」


 セクハラされるなら命はとられてないんじゃ……とツッコムことが許されない程度には、委員長は青ざめていた。


 これってもしかして、『里の秘密をばらしてはならない』とか、そういうやつか……。

 なんだか、話が面倒臭い方向に進んできたぞ。


 よし、ここは冗談ということにして、帰ろう。

 それがお互いに良いだろう。

 俺の異世界転生の話だって、誰も信じてくれないだろうし。

 普通の人間は、忍者だのなんだの言われて、信じるわけがないわけで。


 俺は立ちあがり、パンっと手を打った。


「いやあ! 委員長も演技がうまいなぁ! 忍者なんているわけないだろ、そんなの」

「え?」

「漫画でを読んだのか? それとも、ラノベ? まあいいや、委員長も、人が悪いんだからなあ!」

「あ、そ、そう!」


 委員長が、ありえない速度で立ち上がる。

 忍者みたいな動きだったが、俺は気が付かないふりをした。


「そうなの! 忍者なんているわけないじゃない! 全部、冗談、冗談、あははは、ふざけてごめんね?」

「だよなあ! あははは! 別にいいんだよ! 気にしないでくれ!」


 二人で公園で笑い合う。

 変な空気が流れる。

 よし、いまだ。逃げろ。


「じゃあ、俺、帰るわ! また明日!」


 シュタッと手をあげて、俺はバッグをかついで、帰路につく――ことを許されず、俺は委員緒に腕をつかまれた。


「すっごい信頼できない! あなた、本当は、忍者の話、信じてるでしょう!?」

「信じてない! 信じてないから!」


 逃げようとするが、委員長の力は強かった。

 筋力というより、抑えるツボを知っている感じで、簡単にはふりほどけない。


「景山くん、嘘が下手なのよ! ぜったいに、信じてる! わたしがくの一だって信じてる目してる!」

「そんな話信じるわけがないだろ!? 誰が、そんなバカげた話を信じるっていうんだ!? 忍者なんて、この世界にいるわけないだろうが! 嘘もいい加減にしろ!」


 俺が叫ぶと、委員長はむきになった。

 なにかが、逆鱗に触れたらしい。


「う、嘘じゃないわよ! 嘘なんてつかない! わたしはいつだって、ちゃんと生きてるんだからっ! だから、なにをしても、地獄には落ちないんだからっ」


 よくわからないことを叫びながら、俺の腕から手を放した委員長は、その場でくるりと回転――ふわりと、季節外れの桜の花びらが舞った気がした。


 錯覚が収まると、目の前には、あいかわらず委員長が立っていた。

 

 ポニーテール。

 まっすぐな眉。

 ただし、先ほどと違うのは、その服装が、ありえないぐらいセクシーな、赤基調のくの一衣装になっているということ。


「ほら! 誰がどう見ても、くの一じゃないの! わたし、嘘なんてつかないんですからね!」

「いや、だから、あの……」


 なんで、そんなものを俺に見せたんだ。もう、これで、俺も関係者になってしまったじゃないか……。


 ようするに、これはあれだ。


 またなにか、面倒なことに巻き込まれたってことなんだ。

 

 追伸。くの一の衣装、面積少なすぎないだろうか。

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