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99.自嘲の言葉を呟くと間髪入れずに首肯する友人(1)




 俺は隊長に歩み寄った。隊長は焦ったように鞘から長剣を抜き放ったが《陰盾》に飲み込ませた。そのまま手を握って、俺の頼れる仲間の所へ引っ張っていく。


「な、何を――」


「大丈夫、手荒な真似はしません。状況が分かったので」


 衛兵隊が一斉に槍の穂先を俺たちに向ける。だが構えただけ。隊長を助けには動かない。若干の動揺は見て取れるが、慕っている反応とは言い難い。


 その様子を目にして、やっぱりか、と思う。おそらくこの衛兵隊は隊長以外は腐敗している。そして掌握しているのは副長。チエが繋がっているのはそこだ。


 そして俺が喋った証拠は今頃確認を取りにいった衛兵たちによってすべて消されている。チエを追い詰めたつもりが演技に引っ掛かってしまったようだ。


「皆、ちょっとまずった。俺の予想だと、今話した内容は全部消されてる」


「え⁉ なんで⁉」


「あー、そういうことっすか。話したからそれを消しに向かえる訳っすね」


「確かに、やりそうな顔してたな。こそこそ話してたし」


「ど、どういうことだろうか?」


 隊長が俺たちの会話に介入してきた。


「隊長さん、俺はユーゴと言います。すいませんが声がくぐもって聞き取りづらいのと、顔を覚えられないので兜を脱いでもらっていいですか?」


「わ、分かった。外しながらですまないが、私は、エリーゼという」


 隊長が兜を急いで外し、頭を振って手櫛で長い黒髪を整える。声は凛々しさがあるが、顔立ちは柔和で繊細な印象。どう見てもドワーフじゃない。


「エリーゼさん、ドワーフじゃないんですか?」


「私は人族だ。あと、敬語も敬称もいらない。歳が変わらないと思うから」


「分かった。よし、それじゃあエリーゼに質問だ。副長の見分け方は?」


「よ、鎧の装飾だ。左肩に花の彫金細工が施されている者がそうだ」


 衛兵隊の方を見る。確かに一人だけ鎧の左肩が厚めで、彫金細工が入っている者がいた。


 エリーゼに訊いたところ、衛兵隊は全員人族の女性。王都から派遣された戦乙女隊という女性のみで編成された騎士隊だという話だった。


「騎士隊ってことは王国軍の所属でしょ? なんだってウェズリーに?」


「それは……戦乙女隊が単なるお飾りとしか見られていないからだ。隊員のほとんどが貴族の娘で、縁談が整うまでの預かり所だと思われているから……」


 戦乙女隊は二つに分けて編成されており、王都に滞在する隊とウェズリーに滞在する隊がいるとのこと。


 一年毎に滞在先が交換される仕組みで、王都にいる間は騎士隊の訓練と社交界に出席する以外は家に軟禁されているような状態だとか。


「交換滞在先がウェズリーなのは、見聞を広めさせるとか箔がつくという建前はあるが、実際は訪れるまでの道中が長期旅行になるからなんだ。言ってしまえば、娘に息抜きさせる為だよ。長期滞在もドワーフ相手なら色恋沙汰にもならないだろうという親の謀略。戦乙女隊は皆それを理解している。お遊びなんだよ」


 真面目に騎士を目指している者もいるのに、とエリーゼは肩を落とす。


 馬鹿みたいな話だが、戦乙女隊の移動時には五十人からなる護衛騎士隊が迎えに来るらしい。


 ウェズリーでの任務も国境警備などの危険なものは与えられず、衛兵として治安の良い場所を巡回するのみなのだとか。


「それも六人一組で朝昼晩の三回を交代でやっているだけだ。一度の巡回は三十分もあれば済むし、何かあっても構えるだけで手を出さないよう命令を受けている。彼女たちが槍を構えたまま動かないのはそれが理由だよ」


 え⁉ 嘘だろ⁉ 清廉潔白なエリーゼが煙たがられてるからじゃないの⁉


 推測を誤った。少し嫌な汗が流れたが、チエと繋がっている以上、全員ではなくとも腐敗は確実にあるはずだ。むしろその命令を利用していると考えれば良い。


 落ち着け、俺。今日は間違えてばかりだが、焦るな、俺。


「隊長さんドンマイっす。けど、事情が分かると納得できる部分が増えましたね。貴族の娘が根性悪に感化されて結託したってとこっすね」


「元々、腐敗貴族の娘で根性がねじ曲がっていたとも考えられるぞ」


「それを上手いこと利用しているとしたらチエは相当だよ? もはや悪女だよ」


 エリーゼが要領を得ないようだったので、三人に説明を任せて、俺は衛兵隊に向かって声を掛けた。勿論、対象は副長。まずは名前から訊いてみた。


 だが返ってきたのは沈黙。どうやら答える気はないらしい。証拠を消しに行った衛兵たちが戻るまで、余計なことを話さないつもりなのだろう。


 そういう指示をチエがしていったと考えるのが妥当か。なんとも用心深いことで。




 

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