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98.舐められ隊長と輩ムーブに戸惑う責任転嫁




 舗装された道と街並みが望める畦道で、俺たち訳ありパーティーは異常に気づいて足を止めた。遠くで三十人ばかりの衛兵が道を阻んでいる。


 ヤス君の探知でも届かないほど離れているが、目視でしっかり確認できる。


 板金鎧の衛兵たちの中で、一人だけ赤い腕章をつけ、兜に赤い羽根がついている者がいる。おそらくあれが隊長なのだろう。その隊長に何やら話しているのはチエだ。隣には身を小さくしたモンテさんの姿もある。


「なんとなくこういうことも想定してましたけど、どうします?」


「んー、どうしようかねぇ。デタラメ並べ立てられてるんだろうなー」


「本当のことを言えば良いだろ」


「チエが嘘を吐いてるだけならそれで良いだろうけどさ、宿場町の件もあるからね。衛兵も嘘だって分かってて賄賂交渉してるのかもよ」


 俺は腕組みして少し考える。このまま進んで衛兵たちと話した場合、サクちゃんの言った通りのことしかできないだろう。


 仮に取り調べるからと連行された場合、ヤス君の出発が遅れる恐れがある。それは俺の望むところではない。


 あんな術を見せられた以上、引き止められる訳がない。現状で最も強く、生存率が高いのはヤス君だ。それを自分でも分かっているから俺たちを誘わなかった。


 そんなヤス君を俺たちが心配するのは烏滸がましいというものだ。俺の中では既に気持ちよく送り出す心構えができている。だから決して出発の遅れを容認したくはない。


 相手方の目的は、ヤス君とサクちゃんが担いでいる麻袋の中身。理由は不明だが、チエは何としてでもルードに依頼を達成させたくないようだ。


 嫌がらせもしてるしな。動機は何なんだろ?


 考えたところで答えは出ない。今回の場合は直接本人に確認すれば良いだけだ。ドゴンたちのこともあるし、さっくりと解決してしまおう。


「サクちゃんの言う通り、このまま進んで衛兵たちに話す。だけど、もし取り調べるからついてこいと言われた場合は断固拒否する。色々と支障がでるからね」


「仮に嘘八百並べられて、俺たちが犯罪者扱いされてる場合はどうするんすか? あとは、取り調べが任意じゃない場合とかも」


「んー、もしそうなったときは《天眼芯》が欲しいんだけど、もらえるかな?」


「いいっすけど、どうするんすか?」


 俺は考えを話した。何のことはない。俺一人が犠牲になるというだけ。


「なるほど。俺たちは《箱庭》に隠れるんすね?」


「うん。今は午後二時だから、連行された場合は六時間以上は拘束されると思う。衛兵は完全にグルだよ。そうじゃなきゃチエの目論見は達成できないからね」


「ユーゴが取り調べを受けてる間に、僕たちがサラマンダーをルードに渡すのは分かるんだけどさ、その後はどうするの? 下手したら牢に入れられるでしょ?」


「ヤス君に《犠芯転移》で迎えに来てもらう。そこで俺も《箱庭》に入って、衛兵の詰め所から短距離転移を利用して脱出する」


 その後はドゴンたちのところに行って、ウェズリーの街を出る。


「ワブ族の集落なら、ドゴンたちを受け入れてもらえると思うんだよね。今まではローガたちがいたから良かったけど、防衛力は低くなってるだろうしさ」


「本当に色々と思いつくよな。どうなってるんだその頭は」


「賊ではありましたけど、族長でもありましたからね。集落に残った人たちから酷いこと言われても守ってたって考えると切ないっすわー」


「襲撃がたまたま守ることに繋がってただけでしょ。そこまで深く考えてたら僕らについてきたりしてなかったはずだよ。それで、肝心のチエはどうする気?」


「あー、顔からして根性悪そうだから《箱庭》に閉じ込めちゃおうかと」


 三人が唖然とした顔を向けるが、俺は知らん顔して畦道を歩いた。そして衛兵たちが待ち構える場所から十メートルほどのところまで足を進めて立ち止まった。


「止まれ!」


 隊長がタイミングのズレた静止の言葉を叫んだ。女性の声だ。


「いや止まってるけども」


 思わず言い返したところ「確かに」という囁きが衛兵隊のあちこちから上がった。全員女性だと覚る。人族かと思っていたが、女性ならおそらくドワーフだろう。


「え、ええーい、黙らっしゃい!」


 隊長は俺を指差して声を張り上げた。すると「黙らっしゃいはないでしょ」という囁きが風にのって聞こえてきた。


 微かな失笑と嘲笑らしきものも混ざり込む。なんとなく衛兵たちから馬鹿にされている残念な隊長の予感がした。


 だが気の毒に思うよりも俺は不愉快な気持ちになった。かつて自分も浴びたことのある人を小馬鹿にしたような小さな笑い声。それがどうにも許せなかった。


「コラー! 隊長が話してるのに何だお前たちの態度はー!」


 俺が急に怒鳴り声を上げたことに驚いたのか、隊長含め、すべての衛兵たちがビクリと体を震わせて直立した。チエとモンテさんは挙動不審になる。


「それでー? これは何の騒ぎっすかー?」


 ヤス君が俺に便乗した。顎を上げて物凄く偉そうに言う。非常に感じが悪いが、この順応性と対応力には毎度驚かされる。輩になった意味は分からんけど。


 こうなると残る二人も乗っかってくるのがうちのパーティー。ちらりと見たが、サクちゃんは腕組みして仁王立ち。フィルは興味なさげに杖を弄んでいる。


 衛兵隊は俺たちの横柄な態度にたじろいだ様子だったが、隊長は職務を全うしようと必死なようで、細かく体と声を震わせながらも言葉を発した。


「き、貴様らが、あ、悪事を行ったという、通報を、こ、こちらの冒険者ギ、ギルド職員から受けた! 我々は、そそそれを問いただしに来た!」


「ビビってんすかー? 声裏返ってますよー?」


「おいおい、ヤスヒト、あんまりいじめてやるな。空威張りを褒めてやれ」


「感じ悪っ! どうしたの皆⁉ 輩にベクトル向いてからおかしいよ⁉」


「ですよね。サクやん今のは酷いっすよ? 輩ムーブに引っ張られすぎ」


「え……いや、え?」


 俺はヤス君の手のひら返しに震えた。なんて見事な責任転嫁。


 突然の注意にサクちゃんは困惑した様子を見せている。そりゃそうなるよね。と、思ったところでフィルが呆れたように肩を竦めた。


「ヤスヒト、サクヤで遊びすぎ。そういうの良くないと思うよ」


「そういうことか! ヤスヒト! お前!」


「ハハハハ、まぁまぁ。冗談っすよ」


 ヤス君が、食って掛かるサクちゃんを宥めつつ隊長に顔を向ける。


「それで悪事って? どういう内容っすか?」


 ヤス君に訊かれて、隊長はハッとしたような素振りを見せて答えた。


「じ、人身売買だっ!」


「それっていつの事件ですかね?」


 フィルの質問に最初に反応したのはチエだった。忌々しげに表情を歪めて舌打ちする。それを見たモンテさんがよりオドオドと戸惑った様子を見せる。


「い、いくつもある! どれも似たような手口だ! 直近は一昨日!」


 隊長が声を張り上げている間に、チエが衛兵に何かを呟いてその陰に姿を消した。モンテさんも衛兵に頭を下げて後を追う。一体どうするつもりなのだろう。


 興味あるな。放置しとくか。


「フ、ハハハ! どうした! 弁解はないのか!」


「俺たちがこの街に来たのは二日前なんですけど」


 沈黙。


 俺が返答するまで少し間が空いたことで、勢いを取り戻しつつあった隊長が硬直した。だが我に返ったような素振りを見せて、もう一度指を差し直す。


「それを証明できるか!」


「二日前に門兵を担当した方に聞いてください。入出記録も取ってましたんで」


「そ、そんなもの、どうとでも誤魔化せるだろう!」


「では入出記録を取る意味は? それと俺たちが誤魔化したという証拠は?」


 再びの沈黙。間もなく隊長がガクリと項垂れる。


「はぁ、誰か、門兵に確認してきてくれ」


 衛兵たちが相談し、二人駆けていった。これ以上の茶番は面倒なので、二日前の夕方に到着したところから、昨日の夜までの行動をすべて話した。


「証言が欲しければダンジョン前に常駐している衛兵に確認してください。入出記録はなかったですけど、朝夕と二回顔を合わせてますんで覚えているはずです」


「相分かった。誰か、ダンジョン前の衛兵に確認を取りに向かえ。それと、先ほど聞いた宿を知っているものはそちらにも話を聞きに行ってくれ」


 衛兵たちがまた相談し、今度は四人駆けていった。


「それで、今日は何をしておられたのか?」


「え、今日は関係なくないっすか?」


 衛兵たちがまた「確かに」と細かく頷きながら囁やきあう。そこにはやはり嘲笑が。もしかすると、ドワーフの女性たちの間で流行っているのかもしれない。


 もしくは隊長がいじり倒されているか。隊長の細かな震えを見る限り、後者のような気がする。というよりこれはもうイジメだ。イジメはいかんよ。


 ん? 話の通じる隊長と、それを馬鹿にする部下?


 心で呟いて閃いた。そうか、そういうことだったか。


 円滑に終わると思ったが、どうやら大失敗をしたようだと覚る。




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