97.スキンヘッドドゴンべチーン
坑道付近にはほとんど人気がない。いたとしても鉱夫か遠くに見える田畑の手入れをする農民くらいなもの。
だがそれでも、いや、だからこそ、二十人もの堅気らしくない男が全員土下座をしているのはやはり目立つ。
大岩や廃墟となった建造物、またその周囲を囲う石壁などもあるので、隠れていることは間違いないのだが、それでも人目は気にしてしまう。
なので、邪魔にならない場所に移動して、足を崩して車座になってもらった。これなら遅い昼休憩に見えなくもないだろう。いや、賊の悪巧みにしか見えんか。
戦っているときよりも動悸がしたが、他にやりようもないので仕方なく状況を受け入れた。見た目が怖い連中なので、早々文句を言いに来る者はいないだろう。
大金槌使いの巨漢が胡座を掻いて座り、俺に向かい深々と頭を下げた。
「俺はドゴンといいやす。旦那にやられたときゃあ、これで年貢の納め時だと思いやしたが、こうして治してくださって、感謝してもしきれやせん。本当にありがとうございやした!」
ドゴンがまた頭を下げると、全員頭を下げて「ありがとうございやした!」と大声で言う。
声は揃っていないが、とにかく声量が凄い。野球部員かと思うくらい熱意も感じられる。ほとんどが泣いていることもあって感謝は十分に伝わった。
「ああ、うん、気にしなくていい。ただ、ちょっと静かにね。もうちょっとでいいから、声を落とそう。近所迷惑になっちゃうからね」
「くっ、旦那はなんて心配りのあるお人なんだ。おい! お前ら! ちゃんと聞いたか! ご近所さん方の迷惑にならねぇように静かにするんだぞ!」
地鳴りが起きたのかと思うような大声でドゴンが言う。すると「はい! 静かにします!」と全員が大声で返答した。
俺は思わずドゴンに歩み寄って平手で頭を叩いていた。ドゴンは綺麗に剃り上げられたスキンヘッドに手を当て「え……」と困惑したような顔で俺を見上げた。
「静かにしろって言ってるだろ! わざとやってるんじゃないか⁉」
「め、滅相もねぇ! すいやせんでした!」
頭を下げるが、また声がでかい。多分、言っても分からない類の人なのだと思って諦めることにした。
フィルが頬を膨らませて顔を背けている。肩が震えているので、笑いを堪えているのが一目瞭然だ。こっちは笑い事じゃないんだぞ。
「それで、何か話してくれるんっすか?」
俺が溜め息を溢している間にヤス君が訊いてくれた。流石。
「へい。俺たちが知ってることは少ねぇんですが、それは全部お話しやす」
ドゴンが話し始めた。まずは、自分が生まれたときのことから始まった。ドゴンは半狸人なのだが、耳も尻尾も持たずに生まれてきたそうだ。
だが、腹は生まれたときから狸人も驚くほどに立派で、叩いたときにドゴンと良い音が鳴ったから両親が大喜びしてそれが名前の由来になったのだとか。
「知らーん!」
べチーンとドゴンの頭を平手で叩く。二回目だが躊躇は一切ない。ドゴンはまた頭に手を当て「え……」と戸惑いを隠せないような顔で俺を見上げた。
「日が暮れる! なんで誕生秘話から入る! 早送りして!」
「ユーゴ、早送りじゃ分からんだろ。ドゴン、もう少し話を先に進めてくれ」
「先に、ですかい? それじゃあ半月後に寝返りを打ったんですけど」
「半月⁉ 半年じゃなくて⁉」
「ああ、すいやせん、半年でした。へへへ」
フィルがブフォッと噴き出して笑いだす。いや笑い事じゃないぞ本当に。
「なんか、時間稼ぎされてるような気がしてくるんすけど」
「いや、それは考えすぎでしょ。元の世界でもいたよ、こんな人」
何かを話すときに、前置きがやたらと長い人はいる。旅行に行ったときの話を訊いたのに、旅行に行くことになった経緯の方を念入りに話すような。
声を大にして言いたい。聞きたいのはそこじゃない!
面白ければ良いが、話が下手な奴ほどそういうことをする。なんで自分の話に酔っている奴に付き合ってやらねばならんのか。お前にそんなに興味はないぞ。
でもドゴンは、まぁ、いつかは聞いてもいいかな。
だが今は急いでいる。このままじゃ埒が明かないので、質疑応答に切り替えた。すると驚くほど円滑に情報を引き出せた。最初からこうしていれば良かった。
ドゴン一味は柄が悪いが賊ではなく傭兵稼業を行う一団だった。ラグナス帝国東部では鉄槌のドゴンとして名が知られているとのこと。普段は帝国の東側でシンドゥー王国との小競り合いや賊の討伐に駆り出されているのだとか。
「それがなんでウェズリーに?」
「ヘマやらかしちまったんでさぁ」
ドゴンは半狸人であることを意図せず隠していた。見た目は大柄な人でしかないので、普通に仕事ができていたのだが、雇い主から酒に誘われたときに何気なく素性を明かしたところ、酷い差別的な罵倒を受けたという。
「『騙していたのか⁉』なんてどやしつけられやしてね。俺らがいた東部の方じゃ、大した差別もなかったんで気にもしちゃいなかったんですけど、雇い主があんまりボロクソに言うもんで、頭にきてぶん殴っちまったんでさぁ」
「拳でだよね?」
「いや、こいつで」
ドゴンが脇に置いてある大金槌を手で叩く。ご愁傷様です。
「それで、お尋ね者にされちまったんで、こっちに来たって訳でさぁ」
「シンドゥー王国の方が近いんじゃないっすか?」
「あっちでも名前が知られるくらいにゃ暴れてやすからね。安心して暮らせやせんと思いやして。そいでクリス王国に入ったんですが、傭兵の仕事がなくて」
ラグナス帝国では冒険者というものが存在せず、傭兵ギルドが似たような役割を担っているらしい。ただ、雇い主との伝手ができた時点でお抱えになることが多く、傭兵ギルドで仕事を受けるのは数回程度なのだとか。
雇い主との関係ができてからは、指示された内容をこなすだけで特に何も考えずに生きてきた為、世の中のことをほとんど知らなかったとドゴンは言う。
「冒険者ギルドなんてもんがあるって知ってりゃあ、あちこち歩き回らなくて済んだんですがね。うちの連中が気づかなかったら、まだドサ回りしてやしたね」
「うんうん、冒険者ギルドに登録したんだね。じゃあ話を進めて」
ドゴンが「へい」と言って首肯する。
「チエって受付の嬢ちゃんが登録からやってくれたんですがね、こっちの話を親身になって聞いてくれて、専属担当ってのになってくれたんでさぁ。そりゃなんだって聞いたら、こっちで探さなくっても、仕事の依頼を用意してくれるってんで、こいつぁ楽だと思いやしてね。この半年ほど、ずっと世話になってるんでさぁ」
「ちょっと待った。半年? それで合ってる?」
「あ、いや半月でした。へへへ」
「どうでもいいよ!」
フィルが駆け寄ってきてドゴンの頭を平手で叩く。今度は軽めだったからか、ドゴンはツルツルの頭をニコニコしながら撫でている。
あれ? 今のは俺が悪くないか? なんでドゴンが叩かれるんだ?
「まぁいいや。それで? 俺たちの襲撃はチエから言われたの?」
ドゴンがきょとんとする。
「ええ、依頼でさぁ」
ドゴンは《異空収納》を使えないらしく、受注書は他の男が持っていた。それを見せられた俺たちは絶句した。規定違反も何も、受諾されてもいない。ただ受注用紙に適当に文字が書いてあるだけの真っ赤な偽物だった。
「ドゴン、ちなみに今の冒険者階級は?」
「階級? 何ですかい、そりゃあ?」
俺は冒険者カードを出してドゴンに見せる。
「こういうカードを見たことは?」
「いや、ありやせんね」
一味全員にも確認したが、誰一人として持っていなかった。よくよく話を訊いてみると、身分証明に使っていたのは傭兵ギルドのカードとステボ。冒険者ギルドにはカードはないと登録時にチエから言われたという。
「ちなみに、これまで受けた依頼の内容と数は?」
「全員で受けたのはこれが初めてなんで、俺一人の話になりやすが、数は四件だったか。罪人を捕まえて届けたり、乱暴者をとっちめたりって感じでさぁ」
報酬についても訊いたが、金貨二十枚から。皆が皆そんな感じだった。話を聞き終えると、ヤス君が痛そうな場面を目にしたときのような表情をする。
「これ、最低な行為だと思うんすけど。この人たちどうなるんすか?」
「数件の重犯罪行為だからね。極刑は免れないと思う」
フィルの言葉に、ドゴンたちがざわつく。
「どういうことですかい?」
「冒険者ギルドでは罪人捕縛の依頼は滅多に出ない。衛兵がいるからな。出た場合も、捕縛した者を連れて一度冒険者ギルドで預かり、そこから衛兵に引き渡す仕組みになってる。それに報酬が金貨二十枚というのはあり得ん」
「ドゴンたちは捕まえた罪人を直接誰かに引き渡した訳だろ? もしそれが罪人じゃなかったとしたら? 受け渡す相手が奴隷商や人買いだったら? おかしいとは思わなかったの?」
「そんな⁉ じゃあ、俺たちゃあ、チエに騙されてたってことですかい⁉」
「言われたことだけやってきたツケが回ってるねこれは」
フィルがドゴンに憐れなものを見るような目を向けて言う。だがそれだけではないような気がして訊ねてみたところ、認識の違いがあると分かった。ラグナス帝国では似たような仕事を受けていたので、何ら疑いを抱かなかったという。
「それも騙されてそうっすけどね」
「無頓着なんだろうな。今のこいつらの顔を見てると分かる。本気で青褪めてるからな。真っ当な仕事をして金をもらっていると思っていたんだろう」
「倫理とか道徳とかは備えてるんだろうけど、その質と判断能力はお粗末だね」
「まぁ、チエが犯人なのは明らかになったし、冒険者ギルドに行こうか。あ、多分だけど、ドゴンたちはもう罪を擦り付けられてると思うから、この辺りに隠れてた方がいいよ。後でまたこっちに来るから、下手に動かないでね」
落胆するドゴンたちを置いて、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
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