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96.飛び出したのはサラマンダーと襲撃者でした(2)




 そのうち俺の探知にも反応が出た。二十メートルくらい離れた場所の岩陰や壁の後ろに、合計二十二人の反応があった。五人ずつ四箇所。二人は最奥。


 この配置、取り囲もうとしてるな。


 俺はふと思いつき足を止めた。それに合わせて全員が立ち止まる。


「どうした? この位置で止まるのはどうかと思うぞ?」


「んーちょっとね。気になったから訊いてみようかと。ねぇ、ヤス君、昨日の戦車の話なんだけどさ、あの砲身って小型化してたりするんじゃない?」


 俺がそう質問すると、ヤス君はニヤッと笑った。そして十秒ほど掛けて、右手の側に黒いマスケット銃のような物を生成する。装飾までして、こだわってるな。


「よく分かりましたね? 言ってなかったのに」


「ヤス君なら絶対考えてるだろうなーと思って。案の定って感じだったね。俺の予想だと、ヤス君は超長距離の単発高火力を狙って開発してくんじゃないかなと思ってる。《張力念動》は連射向きじゃなさそうだし」


「正解っす。言ってしまえばスリングショットっすからね。単発じゃなきゃ威力が出ません。連射は《氷柱舞》とか、他の術攻撃に頼ることにしました。中長距離は対応できるようになったんで、あとは接近戦と超長距離かなって」


「またまたー、戦車で短距離もいけるでしょ」


「あれは結構怖いんすよ」


 苦笑して言いながら、ヤス君がマスケット銃を構えた。


「何をする気だ? まだ敵か味方も判断してないぞ」


「威嚇で岩を吹っ飛ばすんすよ」


 ヤス君はそう言い終えて間もなく引き金を引いた。銃撃とは思えない軽い音が聞こえてすぐ、前方から激しい衝撃音が響いた。


 薄く土煙が立つ。大岩の表面が抉れたように砕けていた。


「誰か知らないっすけどー、ニ発目いきますよー?」


 ヤス君が大声を上げると、岩の後ろから柄の悪そうな男たちが出てきた。怖気づいた様子で両手を上げている。だが、姿を見せたのはその五人だけ。


「これだけか?」


「サクやんもちょっとは探知の練習した方がいいっすよ。あの壁の裏っす」


「探知は苦手なんだよな。まぁ、次は任せろ」


 サクちゃんが手槍を作って投擲する。普段なら壁に刺さって終わりだが、突き刺さった直後に白く光って燃え上がった。周囲の壁が赤くなって融解していく。


「よし、上手くいったな!」


「いや、なんて術作ってんすか……。怖すぎでしょ……」


「あれって危ないもんじゃないよね? 人体に悪影響とか出ないよね?」


「熱伝導率の高い金属に衝撃に反応する火術を混ぜてあるだけだ。ユーゴが言ってた逆転の発想だ。焼いてから打つのが鍛冶だが、打ったら焼けるんだ」


 いや、意味が分からんよ。


「火力は凄いけど、魔物相手には使えないね。素材が駄目になっちゃう」


「ぐっ、そうだが、今は効果的だろ。おい! いるのは分かってるぞ!」


 フィルの見解に狼狽えたサクちゃんが隠れた連中に八つ当たりする。すると壁の後ろから五人、やはり両手を上げて出てきた。戦意は喪失している模様。


「残りは十二人だけど、一応、あの十人も拘束しとこっか?」


「うん、その方が良いと思う」


 フィルが賛同すると、残る二人も首肯した。俺は「じゃあ行ってくる」と片手を振って、単身で十人の側へ駆け寄り、その足元に《過冷却水球》を落としていった。


 大きさも生成速度も上がったので、一個当てれば足がしっかり拘束される。バランスが取れなくなって倒れたところに追加で当てる。


 二つ当てれば十分だろ。


 怯えたような声を上げて、もたもたと逃げようとする十人。それを眺めて、何をしているんだか、と呆れたところで左右に残る十人が動き出した。


 挟撃か。そりゃそうだよね。そうなるよね。


 サブロは俺の肩にどうにかしがみついている。それはもう必死に。これ以上の無理をさせるのは酷なので、俺はゆっくりと歩いて後退した。


 左から男が一人飛び掛かってきた。大袈裟な動作で長剣を振り下ろしてきたので《陰盾》で受けて《陽盾》で腕に返してやった。


 自分で振るった剣で両腕が切断された男は悲鳴を上げてうずくまった。返り血が《障壁》に遮られる。便利。


 右から飛び掛かってきた男は、俺が何をするでもなく吹っ飛んだ。マスケット銃の銃弾を受けたのだと察した。


 すぐに三人目と四人目が左右から短剣で襲ってきたが、一人は両足が切断されて転倒し、一人は短棒が頭に直撃して倒れた。


 五人目はスキンヘッドの巨漢。現れるなり大金槌を横薙ぎに振ってきた。俺は跳躍して避け、先端部を《陰盾》で受けて《陽盾》で相手の太腿に返した。


 気分の悪くなる音を聞きつつ、俺は皆の元へと戻った。


「攻撃が止んだね。多分、舐めて掛かってたんだろね」


「奥の二人が逃げようとしてる感じっすね。どうします?」


「捕まえた方がいいだろ」


「そうだよね。逃がす意味が分からない」


「別にいいと思うよ。だってあれ、モンテさんとチエだし」


 フィルとサクちゃんが「え⁉」と一言。ヤス君は気づいていた様子。


「やっぱそれしかないっすよねー。告げ口したとしか思えませんもん」


「俺たちがルードに協力するってところまでしっかり話しておいたからね。でもモンテさんが告げ口する程に牛耳ってるとは思わなかったな」


「いや、呑気にしてないで捕まえんといかんだろ」


「そうだよ。説明させなきゃ。それに二人だって決まった訳でもないでしょ」


 俺とヤス君は顔を見合わせて肩を竦める。それから二人で怪我をして呻く五人の側に向かって歩いた。無傷の五人は、距離を取ってこちらを警戒している。


 ヤス君は俺がやろうとしていることを理解しているようで、マスケット銃で敵を牽制してくれている。


 俺は最初に襲い掛かってきた男の腕を一つ拾い、怯えて逃げようとするその男の肩を掴んで止めて、腕同士の切断面を合わせる。


「治すぞ。動くなよ」


 回復術を使い、くっつけてやると、涙を流して喜んだ。もう片方の手は自分で切断面を合わせさせ、両腕を完治させる。それが済むなり、土下座で感謝された。


「これから全員の怪我を治すから、よかったら知ってることを話してくれ。ただ、別に言いたくなかったら言わなくてもいいぞ。言ったら自分の身が危険とか、そういう場合は無理に言わなくていいからな。安全を一番に考えてくれ」


 一人ずつ怪我を治していく。男たちは全員、何が起きているのか分からない様子だった。


 だが大金槌の巨漢が「感謝しやす!」と泣きながら俺に土下座をするのを見ると、無傷だった五人まで武器を捨てて土下座した。



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