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91.それで自分の背中が見えたら大したもんだ




 鍛冶屋で装備品を修理に出し、冒険者ギルドに赴いて受付で冒険者カードを提示。


 シルバー階級への昇級を果たした俺たちは、初日に話し掛けたドワーフに教えてもらった美味いと評判の食堂へと足を運んだ。


 時刻は午前十一時とまだ早いが、再びダンジョンに入ることを考えれば、腹ごなしするくらいの余裕は欲しいので、前倒しで昼食をとることにしたという訳だ。


 ちなみに提案したのは俺。正直に言えば、サクちゃんの装備が駄目になった時点でダンジョンはやめておいた方が良い気がしていた。


 修理から戻るのは翌日の昼過ぎとのことなので、それまではおとなしくしておいた方が無難だと思う。


 この街の武具店で武器や防具を新調するという手もあるのだが、やはりエノーラさんに見繕ってもらうべきではと考えてしまう。


 不義理に感じる必要はないのだろうが、どうにもそういうことを気にしてしまうのだ。


 装備品を修理に出したことで、フィル以外は全員装いが変わっている。


 俺は装備を外しただけなので洋服、ヤス君は防御性能のない普通のツナギ。


 サクちゃんも普通の作務衣に着替え、履き物も着衣に合わせて草履に履き替えた。


 道を歩くときは大抵ヤス君が先頭でサクちゃんが最後尾。横並びになるのは人通りが少ないときだけ。


 訳ありの身なので、普段から警戒を怠らない癖が染み付いている。目立たないであろう場所を選ぶのも、もはや当たり前になっていた。


 食堂の隅にある四人掛けのテーブル席に着き、メニューがないので店員を呼んでお勧めを注文する。


 若い女性だったが、違和感があった。視線がおかしい。


 いや、その女性店員だけでなく、まばらにいる他の客たちからもだ。周囲から、まるで珍しいものを見るかのような目を向けられていることに気づく。


「なんか、結構、見られるね」


「昨日はそうでもなかったんすけど。サクやんが注目を集めてますね」


「うん、間違いないな。見られてるのは俺だ」


「和服だから? 装備品の方も和服なのにね。どうしてなのかな?」


 まさか、と思い行動を振り返る。鍛冶屋で着替えたとき、ヤス君とサクちゃんは人目に肌を晒していなかったろうか。


 俺は見ていなかったので、二人に小声で確認する。と、人のいない場所で壁を背にして着替えていたとの返答があった。


「流石にそんなヘマはしないっすよ」


「でも言われるまで気づかなかったな。隠すことが習慣化されてきているってことか。指摘されなかったら危なかったかもしれん。気をつけるようにしよう」


「じゃあ、この視線は、やっぱ和服が珍しいからってことなのかな」


「何か服が変なことになってるとか? あれ?」


 フィルが立ち上がり、サクちゃんの背後に回る。


「わ、これだ!」


「え、なんすか? おわっ⁉」


 ヤス君が隣の席からサクちゃんの背を覗いて驚く。二人の反応に「な、何だ⁉ 何があった⁉」とサクちゃんが怯えたような素振りを見せる。


 自分の背中を見ようと焦った様子で左右に首を回すが、それで背中が見えたら大したもんだ。


 俺も席を立ってサクちゃんの背後に回る。


「ん? うわー、何これ可愛いー」


 背中に黒いトカゲっぽいものが引っ付いていた。体表に赤い筋が四本入ったその生き物は、俺の顔を確認するように、潤んだ大きな黒目でじっと見つめてくる。


「これ、多分サラマンダーだよ」


「サッ、サラマンダー⁉ 何だそれ⁉ 頼む、取ってくれ!」


「んー、取って大丈夫っすかね? なんか懐いてる感じじゃないすか?」


「どこでくっついたのかな? いやー、これは可愛いなー」


 サラマンダーはヤス君とフィルの方をちらりと見た後で、また俺の方をじっと見て、首を傾げて「ピギ?」と鳴いた。余りの可愛さに悶絶しそうになる。


 怖がらせないように、手のひらをそっと近づけると飛び乗ってきた。


「おーよしよし、良い子だねー」


 サラマンダーの頭から背中を指で優しく撫でると、目を細めて「ピィ」と鳴いてコテンと寝そべった。名前は熱そうなのに、体がひんやりしている。


「取れたか⁉ 取れたのか⁉」


 サクちゃんが首を竦めて訊ねてきたので、俺の手のひらの上で心地良さそうにしているサラマンダーを見せる。するとサクちゃんはホッと息を吐いた。


「ああ、なんだ。トカゲか。良かった。アレみたいなもんかと思った」


「んー、ヤスヒトはどう思う? 僕はあまり得意じゃないんだけど」


「俺は生き物全般苦手っすからね。虫、両生類、爬虫類系は特に嫌っす」


「えー? こんなに可愛いのにー?」


 そういう遣り取りをしている間に料理が運ばれてきた。どこからどう見ても唐揚げ定食。


 運んできた女性店員に何の肉かを訊くと鶏との返答があった。「鶏⁉」と渡り人組が声を揃える。その後、即座に密集。顔を寄せて小声で話す。


「この世界に来て初めての普通の動物の肉じゃないか?」


「魚肉を除けばね。だけどそれも、見たことない魚だったからね」


「鶏肉の唐揚げを懐かしく思う日が来るとは思ってなかったっす」


「これチキンなの? ナゲットとは違うんだよね?」


 話もそこそこに着席し、俺はサラマンダーをテーブルに置いて、水球で手を洗ってから食事を始める。箸とフォークが置いてあるが、迷わず箸を手に取り唐揚げを掴んでかぶりつく。


 ジュワッと肉汁が溢れ、漬け込まれていたであろう醤油とショウガ、ニンニクの香りが鼻腔を抜ける。とても柔らかいが、噛みごたえは死んでない。


 咀嚼して味を楽しんだら、白米を口に投入。米の甘みと唐揚げの美味さが絡み合い、思わず「これだよ、これ」と言ってしまう。


 口いっぱいに頬張る幸せ。全員「うん」とか「あー」とか言いながら食べている。分かる。頬張るよね。


 ふと見ると、サラマンダーが俺をじっと見ていた。口元にはよだれ。


 食べさせて大丈夫かな?


 唐揚げをフォークで細かく切り、衣を外した肉の部分だけをサラマンダーの顔の前に置く。


 すると嬉しそうに「ピギィ」と鳴いて手で掴み、ムシャムシャと食べ始めた。が、不意に動きを止めて、また俺の方を見る。


 サラマンダーは震えていた。顔が美味さに感動しているように見えた。追加で米と添え野菜の欠片も置いてみたら、肉片と交互に食べ始めた。


 喉が詰まると良くないので、小皿に水を入れて置くと、水を加えてのローテーションが始まった。


「なんて可愛いんだ……!」


「既に懐いてる感じっすね」


「本当にどこでくっついたんだろうな? ダンジョンか?」


「サラマンダーなんていたかなぁ?


 食事を与えつつ、俺も箸を進めたが、サラマンダーが「ピギー」と鳴いて仰向けにひっくり返った。お腹がぽっこりしていて、満足げな表情を浮かべている。


「ん? 今、魔物って言った?」


「言った。サラマンダーは魔物だよ。視線が集まってる理由は間違いなくその所為だね。従魔の証も付けてないから、余計に不審がられてるんだと思う」


「従魔って闇術だろ? ヤスヒトが連れてきたのか?」


「そんな訳ないでしょ。無自覚に連れてきちゃう従魔術とか最悪じゃないすか」


 アルネスの街でも、このウェズリーの街でも、従魔を連れて歩いている冒険者はほとんど見たことがない。


 それが何故なのかを知らないだけでなく、従魔についての説明もしっかりと聞いたことがないという事実に気づく。


 光属性を取得した自分には不要な知識だと思っていたからだが、こうなると是非とも聞いておかねばならない。


「フィル、従魔って登録制なの?」


「そうだよ。冒険者ギルドで登録が必要。それと、従魔の証になる装飾品を付けないと駄目だね。基本は腕輪とか首輪。あとは焼印かな」


「焼印は駄目だろ」


 サクちゃんが顔をしかめて言った。その一言に全員が首肯する。


「無駄に苦しみを与えるのは良くないっすよねー。ああ、それはそうと、従魔の登録って誰でもできるんすか? 従魔術が使えなくても大丈夫とか」


「懐いていれば登録は可能だよ。ていうのもさ、従魔術を使えるかどうかなんて分からないからなんだ。簡単な芸をさせるとか試験を作ったりしたらしいんだけど、仕込んでパスしちゃう人もいてさ、意味ないって撤廃されたんだって。冒険者ギルドも判断に困ってるって聞いてる」


「んん? それじゃあ従魔術って何なの?」


 フィルが「んー」と腕組みして唸る。


「従魔術は謎が多くてね、闇術であることと、魔物を従わせる術だってことくらいしか分かってないんだよね。魔物の畜産業を生業にしている人なんかは取得してるんだけど、秘匿してるらしくてさ。まぁ、商売だから仕方ないんだろうけど」


「強制的に洗脳して言うことを聞かせるような術なのかな。フィルがマッドピエロ戦で掛かった《ラヴァーズマリオネット》みたいに」


「ずっとその状態っていうのは怖ろしいな。どんな魔物にでもそんな術が掛けられるとしたら脅威でしかないぞ。今回の魔物化騒ぎでも登場しそうだな」


「それもねー。はっきりしたことは言えないんだけど、術者より強い魔物は従えることができないとか、扱える数にも限りがあるとかって話なんだよ。確定情報ではないんだけど、一般的にはそう言われてるね」


 従魔術について分かったことは、よく分からないものだということだった。


 街であまり従魔を連れている人を見ないのは、小型の従魔以外は出歩かせて良い時間が限られているからなのだとか。


 従魔専用の厩舎などもあるらしく、そこでは騎獣にできるような大型の魔物が世話をされているそうだが、ただ懐いているだけのものが厩務員に怪我を負わせる事故も結構な頻度で起きているらしい。


 そういった場合は、危害を加えた従魔の主に罰則と被害の補償が課されるとのこと。


 だが、それを利用した似非厩務員の詐欺行為などもあり、従魔を持つことには、あまり良い印象は持たれていないそうだ。


「そのサラマンダーくらいなら大したことないんだろうけどさ、肉食系の騎獣は餌代とか厩舎代が馬鹿にならないらしいよ。安くても一月で金貨五十枚は飛ぶって聞いた。ギルマスも昔飼ってたことあったらしいけど『ありゃ金食い虫だ』って言ってたよ。懐かないし、仕方なく殺して素材にしたんだって」


「まぁ、お金はね。大型の肉食獣だと普通の動物でもそのくらいは掛かる気がしてたから、魔物だと当然みたいな印象持っちゃうよね」


 世知辛い話をしていると、ヤス君が口元を歪めて腕組みした。


「んー、なんか引っ掛かるんすけど、闇術の従魔術が魔物を洗脳して従える術って仮定すると、ただ懐いてる魔物を従魔として扱っている人たちはそれをしてないってことっすよね? そっちの方が従魔術って感じじゃないすか?」


「ああ、俺もそこが腑に落ちんかった。俺の勝手なイメージだが、従魔術というのは好意を持った魔物が擦り寄ってきて契約を結ぶものだと思っていた」


「俺もそう思ってたんすよ。そこのサラマンダーみたいに敵意を向けない魔物がいるってことは、そういうのもありそうだなって。どうなんすかね?」


「だーかーらー、そういうのを秘匿されてるって言ってるんだよ。実際に従魔を連れている人に訊くのが一番だと思うけど、よっぽど気心が知れてるとかじゃなきゃ話してくれないと思うよ? 契約とか聞いたこともないし」


 ほほう、なるほど、契約か。


 俺は仰向けで寝そべっているサラマンダーを手のひらに載せる。サラマンダーは首を捻り「ピギ?」と鳴いて俺を見つめた。少し手からはみ出るサイズ。


 それなりに重みもあるので、サクちゃんはよくもまぁ気づかなかったものだと思う。


「お前と従魔契約したいんだけど、どうすればいい?」


「ユーゴ、それはいくらなんでも……」


 サクちゃんに呆れられた。他の二人も苦笑している。俺もこんなことで上手くいくなんて思ってはいない。駄目で元々のつもりだ。


 だが、サラマンダーは少し考えたような素振りを見せた後で「ピギ!」と元気よく鳴いて頷いた。


 すると驚いたことに、俺の視界にサラマンダーのステボが表示された。


 そこには種族、年齢、性別、各種能力値、従魔契約をするか否かの選択肢と従魔契約についての説明が載せられていた。あまりのことに言葉を失う。


「なんか、頷いたように見えなかったか?」


「いやー、気の所為でしょー。さっきからあんな感じでしたよ」


「だよね、だよね。あーびっくりした。言葉が分かる訳ないもんね」


「えー、あー、ちょっといい? 皆には見えているかなこれが?」


 戸惑いを笑顔で隠し、目の前のステボを指差すが、怪訝な顔を向けられる。


「何も見えないっすけど、何かあったんすか?」


「いやあのね」


 顔を寄せて小声で説明すると、三人は呆気に取られた様子を見せた。だが俺は肝心なことをまだ話していなかった。それを続けて言葉にする。


「従魔契約すると、俺にもこの子の所持スキルが使えるようになるみたい」


「なっーー⁉」


 サクちゃんが驚きの声を上げたが、声の大きさに気づいたようで慌てて片手で口を覆う。それから周囲を素早く確認して、再び俺に顔を向けて小声で話した。


「それは、つまり、違う属性の術も使えるようになるってことか?」


「そうみたいだね。ちなみに、この子の属性は火と闇だから、覚えるスキルはその系統になると思う。それとね、サラマンダーじゃないよ、この子」


 三人の顔が引き攣る。フィルが半笑いで「じゃあ、何?」と訊く。俺は従魔契約の可否選択項目の可を押してから、頬を掻きつつ答えた。


「闇竜だって」




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