85.カナン大平原を越えよう(12)
ローガ一味を発見したのは翌日の昼だった。カナン大平原の中央目印だというオベリスクを思わせる石柱。その黒く滑らかな石碑らしきものを越えてしばらくしたところで、ローガ一味は車座になって食事をとっていた。
発見したのはヤス君。隠れる場所も何もないので、探知で気づいてからは比較的背の高い草むらを、ほふく前進で移動しながら近づいた。《箱庭》で移動する方が良いのだが、仮に使えない場合どうするのかという訓練も兼ねていたので敢えて使わなかった。
残り五十メートルほどまで近づけたが、ローガ一味が周囲を警戒しだした。どうやら探知を使っている者がいた模様。
「へー、優秀っすね。もう気づかれました」
「あ、やっぱそうなんだ。何人いるか分かる?」
「二十四人っすね。《箱庭》が寿司詰め状態になりますよ」
「積み重ねれば大丈夫だろ」
すっ、とサクちゃんに視線が集中する。
「最近、サクちゃんのサイコパス値高いよね」
「僕もそれは思う。しみじみ思う」
「サクやん、人は布団や座布団じゃないんすからね」
「フハッ、やめろ。子どもを諭すように言うな。情操教育いらん」
緊張感がないまま接敵。臨戦態勢を整えた敵が数人こちらに向かって駆けてくる。ヤス君が《箱庭》の出入口を出したので「それじゃお願いね」と声を掛けて俺はその中に入った。皆の返事が出入口が閉じるまで聞こえたのが少し面白かった。
ヤス君との打ち合わせでは、敵は上から降ってくるはずなので、部屋の中央付近に《過冷却水球》を設置していく。
間もなく、手足をばたつかせ叫び声を上げながら一人目が降ってきた。《過冷却水球》に直撃。何個かぶつけて体育座りさせて拘束し、口も塞いで移動。
そうこうしているうちに二人目が降ってきたので、また同じようにする。武器の曲刀も手放されているので、一応凍りつかせて逆方向に寄せる。
驚いたのが、二人目が心詠唱で石礫を放ってきたこと。こういうこともあるのか、と思いつつしっかり意識を刈り取らせてもらった。これからは全員そうしよう。
部屋の隅から順に一人、二人ときっちり並べていく。その整頓作業が完了した頃に三人、四人と降ってくるので段々楽しくなってくる。
なんとなく、反対側の隅には一人分の余裕を作っておこうと思う。最後に長い棒を嵌めたら全消しだな。とか馬鹿なことを考える。
実際は、ぎゅうぎゅう詰めが可愛そうだからそうしているだけで、他意はない。十五人目をカッチリ嵌め込んだところで、敵が落ちてくる間隔が狭まった。
落ちものゲームのレベルアップみたいだな。
なかなか楽しませてくれるじゃないか。と、心でニヤけていると、夢で見た赤毛の男が仰向けに降ってきた。あ、ローガだ。と思ったとき、ローガはこちらに視線を向けた。そして目があった瞬間、なんと俺に手を向けて火球を放ってきた。
「《陰盾》!」
別に詠唱する必要はないのだが、こっそり考えていた名前を口に出したかった。吸収する方の異空盾。飛んできた火球をバチッと防ぎ消滅させる。
ローガは落下しながら驚愕の表情を浮かべたが、器用にも体を素早く回転させて床に四つん這いで着地した。俺は驚嘆した。なんて凄まじい身体能力だ。
《過冷却水球》を踏み抜いていなかったら、もっと驚いていただろう。
「手前ぇ、なんだ今の、お、おお、おわああああ」
ローガが俺を睨みつけて喋っている間に、その両手足はしっかりと凍りついていた。四つん這いで着地なんかするからじたばたすることになる。
気の毒だが、その状態では体育座りの氷結拘束は難しいので放置した。床に這いつくばって起き上がってを繰り返してもらうことにする。火球の仕返しだ。
ローガに火球を何度か撃たれたが、今度は排出する方の異空盾である《陽盾》で掻き消した。二発同時の場合は《陰盾》と《陽盾》を同時に扱い掻き消す。面倒なので意識を刈り取りたいのだが、下手に近づくとヘマをしそうなので、我慢した。
こっちで失敗して追い詰められても、二十四人すべてが落ちてくるまで頼れる仲間は入ってこない。ヤス君に確認が必要かと問われたときに、必要ないと俺が言ったからだ。だが甘く見ていたと少し後悔。ヒヤリハットを一年分書けそうだ。
ぬあああ、ストレス溜まるー! 動きは間抜けなのにー!
いい加減、ローガがぎゃあぎゃあうるさいので口を塞いだ。鼻も半分塞がったが、それは暴れるからだ。こっちは位置の調整をしている。責任はない。
そのまま酸欠で意識を失ってくれると楽なんだけどなー。
そんなことを心で呟きつつ、二十人目をこなしているとき、ローガの周囲にピンポン玉サイズの炎の球が大量に出現した。気づいた時点で飛んでくる。
「あっつ!」
初撃と、途中で幾つか食らった。どうにか小手で防ぐことはできたが肝が冷えた。軽く殴られた程度の衝撃なので、一発食らうくらいなら問題ない。ただ、分かっただけで十発は飛んできた。こんなものを捌きながらあと四人はきつい。
うわー、これは失敗したかも。先にローガの意識を奪った方がいいかな?
思案中に、二十一人目が降ってくる。《過冷却水球》を置いたが、ローガがまた細かい火球を連射して、作った側から破壊していく。
あちこちで水が飛散して凍りつく。大小様々な氷礫が床の上を跳ねて滑る。
「ああーもう! 鬱陶しいー!」
生成速度も連射速度もローガの方が上。数は十六発。やっと確認できた。撃ち尽くすと再度補填するまでは発射できないようなのと、撃ち始めると方向を転換するのが難しいようで、初撃を躱すとかなりデタラメな方向に飛ぶ。
幸運だったのは、二十一人目を倒したのがローガの火球連射だったこと。《過冷却水球》を壊されて焦ったが、降ってきた仲間に火球を連続で直撃させて、すっ転ばせてくれたのだ。それをやらかしたとき、ローガは硬直し目を点にしていた。
思わず含み笑い。やべぇ、めっちゃ睨んできた。
非常に面倒臭いローガの攻撃を躱したり防いだりしながら、二十一人目と二十二人目を拘束。二十二人目は風術を放ってきた。《風刃》だ。早いし薄いし見えづらいのでこちらも厄介。《氷塊》を《念動力》で飛ばして顎に当て、なんとか意識を刈り取る。
ホッと僅かに息を漏らしたとき、ローガが仲間に火球を撃ち始めた。
「氷は溶けないぞー」
忠告してやったが、目が小馬鹿にしたように歪んだ。笑っている、ということは、氷を溶かすのが目的ではなく目を覚まさせようとしてるのだと覚る。




