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8.狂喜乱舞する尻尾とお風呂で大騒ぎ(1)




「な、なんじゃあこりゃあ……」


 夕食の時間、食卓に並べられた料理を見たリンドウが開口一番に発したのはそんな言葉だった。目を剥いて、立ち上ってくる匂いを鼻を鳴らして嗅ぎ、ゴクリと喉を鳴らす。


 渡り人の二人を含め他の皆も似たような様子。変わらないのはスズランだけかと思ったが、凛とした表情をよく見ると、口の端から細くよだれが垂れていた。見ていてなんだか気の毒になった。とても我慢強い人なのだと思う。


 昼間と席の並びは同じだが、変わったことが一つある。距離感。サイネが凄く近づいていて、もう寄り添っているような状態。顔を見ると、にへらっと笑う。美味しそうなのです、との言葉も頂けた。とても可愛い。


 食卓に並んでいるのは、大根おろしを添えた出汁巻き卵と青菜のお浸し、甘辛あんかけ揚げ出し豆腐、出汁を使った豆腐とねぎの味噌汁、昼間の浅漬を軽く塩抜きして味を整えたものと、ワイルドスタンプの生姜焼き。


 トリミング後の肉を薄くスライスし、酒で洗い、大量のショウガ汁と、砂糖、醤油、酒の合わせ調味料に玉ねぎのスライスと一緒に漬け込んで焼いた。


 皿の上にキャベツの千切りを載せ、それを枕に肉を五枚。肉の上に千切りにしたショウガを少量載せて、彩りにトマトを添えてある。


 調理中に試食したが、まぁ、食べれなくはないか、という感じ。普通、と言われるくらいにはなったと思う。臭みはやはり気になるが、昼間の角煮よりは断然食べやすいだろう。


「それでは皆さん手を合わせてください!」


 え、なに?


 リンドウが突然そんなことを言ったので戸惑う。これは昼食時にはなかったくだりだ。毎回変わるとしたら慣れるのに時間が掛かりそうだ。


「合掌! いただきます!」


 そこからのリンドウは早かった。箸を持ち、出汁巻き卵を掴み、口へと放り込む。それから僅かに硬直した後で、白米を掻き込む。次はおかず、その次が飯というローテーション。とにかく勢いが凄い。そして、そんな状態になっているのはリンドウだけではなかった。


「うまっ、うまいぞっ、うまっ!」


「お、美味しいのです!」


「うおお、美味しいのじゃあ!」


「美味いっす! カガミさん、これマジ美味いっす!」


「いや本当に美味しいです。凄いな」


 スズランとマモリ見習いの二人以外から絶賛される。マモリ見習いの二人は、調理中に試食してもらったときの感動した様子を見ているので気にならないが、スズランはどうなのか。


 確認すると、一番忙しなく箸が動いていた。顔はリスが頬袋に餌を溜め込んだような状態になっており、どうやら美味いと言う時間も勿体ないと思うほど気に入ってくれた様子。そして尻尾が暴れている。他の面子の尻尾にもそれなりの動きはあるが、比較にならない暴れっぷりに驚き、俺はしばらく凝視してしまった。


 カタセ君とマツバラさんも満足してくれたようで何よりだ。でも俺が一番嬉しかったのはサツキの反応だ。サツキは舌がないので味覚も乏しいらしいが、まったく感じない訳ではないらしく、特に俺が作ったものは強く美味しさを感じたらしいので、料理を提供した身としては感無量といったところ。


 うん、まだまだだけど、及第点かな。


 ひっそり感動しながら食べていると、おかわりの声が上がった。それで急遽、追加でおかずを作ることになった。


 肉はトリミング済みのものがないし、あっても漬け込む時間がなくて無理。豆腐もないので、お浸しと出汁巻き卵だけで許してもらった。


 出汁は大量に作ってスミレの異空収納に保管してあるので、卵さえあれば、出汁巻き卵をいつでも作ることができる。焼き方のコツさえ掴めば、スミレとサツキにも作れるようになるだろう。


 夕食後、食卓の周囲には仰向けになる者が続出した。ぽっこりお腹のサイネが俺の膝に頭を載せている。頭を撫でずにいられないほどに可愛らしい。軽く指の腹で掻くように撫でているのだが、心地よいのかずっと満足そうに微笑んでいる。


「ふぅ、もう食べれないのです。ユーゴは凄いのです」


「げぷ、同感なのじゃ」


 マツバラさんの膝にはウイナの頭が載っている。どうやらマツバラさんはウイナの方に懐かれたようだ。俺と同じように優しく撫でている。とても微笑ましい。


 カタセ君はマモリ見習いの二人と一緒に食器を片付けている。俺が動こうとしたら、手振りで止められた。苦笑しつつ戯けた敬礼で、ごめんお願いと心で伝えると、笑顔で頷いてくれた。


「いやー、美味かった。久々にめっちゃ食うた。おかしいやろ、あの卵も肉も。ほんであれ、とろぉっとしたタレ掛かった揚げ豆腐。どれもこれも食うたことないぞ。冗談なしになんぼでも飯入ったわ。味噌汁一つとっても全然違うやんか」


「うむ、食べる前から違ったからな。口が欲していた」


「ほんまそれな。匂いで白米いける感じやったからな。それで、あー、ユーゴ。悪いけど、明日も作ってくれんか?」


 多分そうなると思っていたし、俺もどうせなら美味いものが食べたいので快く了承した。俺の返答を聞いたリンドウ、ウイナ、サイネが喜びの声を上げたが、スズランは「うむ、それはいいな」と一言発しただけで澄ました顔をしていた。だが、尻尾が狂喜乱舞していたので、一番喜んでいたのはスズランなのだろうと思う。


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