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74.カナン大平原を越えよう(1)




 地平線というのを目にしたのは初めてだった。


 穏やかな日差しの中、風が滞ることなく吹き抜けていく。揺れる淡い緑の草原と濃緑の灌木の枝葉。広大なカナン大平原を前にして、俺たちは息を飲んでいた。


「僕、初めて来たけど凄いね」


「ここまで雄大な自然って感動しますよね」


「絶景だよな。夕陽とか夜空とか見てみたくなる」


「サクちゃん、それだ。今日は皆でそれを見ながらご飯を食べよう」


 俺たち渡り人組と転生者フィルのパーティーは、徒歩で火山洞窟の街ウェズリーに向かっている。


 発端は数日前のドグマ組長魔物化事件。あの一件で、任意での魔物化が行えることがはっきりしてしまったことが、この旅の理由だ。


 あの日、俺とサクちゃんがデモノイドと戦っている裏で、ヤス君とフィルは不審な黒いローブを着た男を見つけていた。


 その男はヤス君たちを目にした途端に走って逃げ出した為、フィルと二人で追い掛けたそうだが、行き止まりに追い詰めたところで転移術を使われてしまったとのこと。


 要するに、釣り。俺たちは戦力の分散を目的とした敵の策にまんまと引っ掛かってしまった訳だ。だが、俺とサクちゃんは大きな怪我をすることもなく勝利したので、敵の思惑を潰したと言っても良いだろう。


 それに転移されたところでハンの手の者であることは既に分かっていた。なので特に焦りもなく、俺たちはエドワードさんの指揮のもと、その日のうちに行われた衛兵隊によるドグマ組の一斉捕縛に参加した。


 ハンと、ドグマ組長の魔物化に関係していると思しき黒いローブを着た男の捕縛こそ叶わなかったものの、急襲作戦が功を奏し、ほぼすべての構成員の捕縛に成功。


 それと同時に、ハンの経営する店舗の営業取消しをエドワードさんが領主権限で断行。アルネスの街にあるハンの資金源を潰すことにも成功した。


 そして国家反逆罪の咎でハンが指名手配され、ミヅキさんの証言を基に人相書きが描かれたのだが、それを見たサイガさんは「こりゃ誰だ」と一言。


 サイガさんの証言でも描かれたが、それを見たミヅキさんとヒューガさんは「自分の知るハンではない」とかぶりを振ってしまう。


 ではヒューガさんの証言で描かれたハンはどうだったかというと、なんとヤス君とフィルが見た黒いローブの男だった。


 ハンの顔を見たことのある者たちにその人相書きを見せたところ、やはり意見が分かれた。しかし、違うというものは誰一人として現れなかった為、その三人がハンを名乗っていたということが判然とした。


 では本物のハンはどれなのか、ということなのだが、おそらくはミヅキさんの証言で描かれたハンが本物なのだろうということで話がついた。というのも、共に孤児院で過ごした者たちからの証言とも合致したからだ。


 結局は三人共指名手配することになるのだから、本物探しをする必要もないだろうと思っていたのだが、ややこしいことに翌日遊びに来たリンドウさんが、たまたま預かっていた人相書きを見て「何でギーの人相書きがあんねや⁉」とサイガさんの証言で描かれたものを手にして驚愕。思わぬところで話が繋がってしまった。


 リンドウさんには取り敢えず落ち着いてもらい、説明はエドワードさんに任せたのでその後のことは知らないが、ギーが関わっていることが判然とした今、おそらくは神職の協力も得られることになるだろうと安易に考えている。


 ちなみにその日はシラセの二人と見習い二人も来ていたので、ミヅキさんとフィルも交えて楽しく過ごした。


 シラセの二人はフィルとも随分と打ち解けて、三人でお菓子を食べているところを見ていると心が和んだ。サツキ君は相変わらずヤス君とオセロを楽しみ、ミヅキさんはスミレさんとのお喋りに興じていた。


 最初は塞ぎ込んでいたミヅキさんも、スミレさんのお陰で少しだけ元気になった。同じ種族な上に義理堅い性格もよく似ている二人は姉妹のようだった。辛い経験をした者同士、分かり合い、また分かち合える部分があったのかもしれない。


 そういえば、ミヅキさんはドグマ組長の形見になる魔石も受け取ったらしい。サクちゃんから伝えられたが、今後はミヅキさんと共に孤児院を運営するとか。「そのまま一緒に暮らせば?」と冷やかしたら「そうなるかもな」とのこと。二人とも頬を染めて、満更でもない様子だった。


 捕縛者の取り調べにはサイガ組とヒューガ組が関わった。餅は餅屋というエドワードさんの判断で両組には法的措置が取られることはないと確約された上での厳しい取り調べ、というかもはや拷問が行われた。


 無茶苦茶に思えるが、国家反逆罪に問える者は拷問極刑が適用される為、拷問と極刑の間に取り調べを挟むというだけのことらしい。


 それを聞いて余計に無茶苦茶に思えたのだが、ハンの組織に属していたものは全員がその罪に問える為、まったく問題にならないとのこと。


 異世界基準として受け入れるしかなかったが、俺は少し気の毒に思った。


「同じ組織に属するとはいえ、ハンに敵愾心を持つ派閥とか、何も知らされていない末端もいたよね、絶対。それを一緒くたにして国家反逆罪っていうのは……」


「ああ、そうだよな。余りに乱暴が過ぎる。どう考えても罪が重すぎるだろ」


「二人とも分かってないっすね。証拠がなきゃ罪があっても裁けないんすよ。宿場町で絡んできた、高が傘下で末端の馬鹿共でさえ、とんでもない量の罪を隠してたじゃないすか。賄賂で衛兵まで抱き込んで。被害者の側に立って考えてみてください。エドワードさんもそれを分かってるから一斉処刑を断行したんすよ」


「その発想はなかった」


 俺とサクちゃんは声を揃えて首肯した。




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