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67.ドグマ組長のお見舞いに行こう(1)



 先日、用意が整ったとの連絡が入り、俺たちはエドワードさんと共に二頭立ての立派な馬車でドグマ組長の静養しているという場所へと向かった。


 途中で寄る場所があるというからどこかと思ったが、繁華街の手前だった。そこではサイガさんとヒューガさんが待っていた。数人の護衛と思しき男たちが周囲を警戒しているのが分かる。早くも物々しい雰囲気となってきた。


 エドワードさんが席を立ったので、俺たちも腰を上げたが「ユーゴ以外はここで待て」という指示が出た。俺はヤス君とサクちゃんの顔を見たが、特に不満がある様子も見せず、二人共また座席に腰を下ろした。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 二人にそう声を掛け、俺はエドワードさんに追従する形で馬車から降りたが、サイガさんの前に立った途端にエドワードさんが深々と頭を下げたのでギョッとした。が、領主が頭を下げているのに棒立ちはまずいと思い、俺も慌てて頭を下げた。


「サイガさん、お久し振りです。今日はよろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いしまーす」


 よく分からないまま後追い挨拶。戸惑いが大きく、若干、野球の試合開始前のようになってしまったが、後の祭り。しまったと思いながら顔を上げると、サイガさんがしかめっ面で呆れたように深い溜め息を吐いた。やばい怒られる。


「おいエディ、街中で領主が俺みたいな者に頭を下げるのは感心しねぇぞ。領民どころかユーゴも呆気に取られちまってんだろうが。堂々としてろ馬鹿たれが」


 エドワードさんは「はい、失礼します」ともう一度軽く頭を下げてからヒューガさんに向き直った。俺はホッと安堵の息を吐く。良かった、怒られなかった。


「久し振りだな。二人共出て組の方は大丈夫か?」


「心配は無用です。あちらと違って、下は真っ当に育っていますんでね。旦那の方こそ、仕事を放り出して大丈夫ですか?」


「なに、これも仕事のうちだ。護衛の件、よろしく頼む」


 ヒューガさんが「つつがなく」と頭を下げる。


 話が途切れたようなので、俺は二人に向かい話し掛けた。


「サイガさん、ヒューガさんお久し振りです。今日はどうしてお二人が?」


「何でぇ、ユーゴ、エディから何も聞かされてねぇのか?」


 俺が「はい」と答えると、エドワードさんが口を開いた。


「俺もそう暇ではありませんので。馬車の中でも話せると思いまして」


「まぁ、旦那の仰る通りかと。ユーゴさん、取り敢えずは馬車でということで」


 ヒューガさんに促され、俺は「分かりました」と返事をして馬車へ戻った。


 エドワードさん、ヒューガさんと乗り込んだところまでは何もなかったが、サイガさんが乗ったところで小さな異変が起きた。


 サイガさんがサクちゃんを見て動きを止め、表情を驚きに染めたのだ。


「こいつあ驚いた。お前ぇがサクヤだな」


 サクちゃんが戸惑った様子で「はい」と答える。サイガさんは目をしばたかせた後で、こめかみを挟むように目を覆いかぶりを振った。


「何てこった。息子がいるってなぁ本当だったか」


 サイガさんは、座席に腰を下ろすと、語り始めた。


 だが、俺は冒頭を真面目に聞いていられなかった。いくら二頭立ての馬車で広いとはいえ、エドワードさんとサイガさんは筋骨隆々として大柄だ。間に挟まれた細身のヒューガさんが気の毒で見ておれず、しばらく話に集中できなかった。


 ただ肝心な部分についてはしっかりと聞くことができた。


 サイガさんは昔、ドグマ組長と共に冒険者パーティーを組んでいたことがあったらしい。それもエドワードさんとヒューガさんが生まれる以前の話だそうで、二人も初めて聞く話なのか興味深げに聞いていた。


「今から三十五年前の話だ。あいつはふらっとこの街に現れてな。その時俺ぁ十八だった。冒険者ギルドも今とはまったく違ったからな、揉めやがったんだ。それで俺が仲裁に入ったのが付き合いの始まりだった」


 揉めた原因はステボだった。ドグマ組長は既に他の冒険者ギルドで登録を済ませていたらしいが、初めて見る顔だということで、職員から確認の為にステボを出すように言われていたそうだ。


「お役所仕事っつうか、融通が利かねぇもんだから、列ができ始めててな、どこぞの貴族の娘で融通の利かねぇ受付嬢だったんだ。今いるミチルちゃんて娘は愛想も良いし気立ても良いし、話が分かるってんで、そりゃもう比べものにならん」


 サイガさんが満足げに褒め称えているが、おそらくミチルさんの変貌を遂げた姿を見たことがないのだと思う。俺は勿論のこと誰一人首肯せず、まるで嵐が過ぎ去るのを待っているかのように、ただ暗い顔で視線を落としていた。


「こいつは俺の知り合いだからさっさと受付を済ませてくれって助け舟を出して、後がつっかえてるって顎で示してやったら、渋々ではあったがその場は収まった。人助けっつうより迷惑だったからそうしただけだったんだが、ドグマの野郎が追っ掛けて来やがってな、頭を下げて『俺を使ってくれ』なんて言いやがった」


 義理堅い野郎だ、とサイガさんはドグマ組長に興味を抱いた。それで一緒にダンジョンに行くことにしたのだが、そこで思いもよらないことが起きた。


「俺ぁ、猫人だが一匹狼でな。たまに野良共とつるむことはあったが、大体一人で依頼をこなしてた。自慢じゃねぇが、誰かとつるんでも足を引っ張られて、尻拭いしてやる方が多かった。そのくれぇには強かったからな。ところが、だ。ドグマの野郎は俺を震わせた。あんなに馬鹿強ぇ男を見たのは初めてだった」


 その後に話された戦闘スタイルを聞いて俺は驚いた。サクちゃんとほとんど同じだったのだ。ヤス君とサクちゃんも俺を間に挟んで顔を見合わせていたので、やはり驚いていたのだと思う。


 サイガさんは、俺たちの落ち着きが戻るまで待ってくれていたようだが、俺が視線を向けると、頃合いと見たのかまた口を開き、当時のドグマ組長とサクちゃんが似ていると言った。


「もっとも、そっくりって訳じゃねぇ。面構えはまったくと言って構わねぇほど似てねぇ。だが、なんだろうな、見た瞬間に、面影があるように感じた。野郎が床に伏せる前の姿が目に浮かんじまうほどにな」


 サイガさんは懷かしむような顔で言った。




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