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65.エドワード・マクレーンという男(1)




 数日が過ぎ、秋一期二日。


 晴れ渡る空、先日に続き残暑が厳しい一日になりそうだと思いながら、俺はイノリノミヤ神社までの早朝ジョギングを行っている。だが、ただ軽く走るだけというのも勿体ないので、最近のことを振り返って整理することにした。


 ザザ村の一件が終了した後、俺たちはエノーラさんに装備品の修理と染色依頼を出しに行った。俺は濃緑色、ヤス君は濃紺。サクちゃんは黒のままだが「あとは赤色が入ったら戦隊ものだよね」という俺の剣呑な言葉に反応して紫にしようかと本気で頭を抱えていた。取り敢えずは三連星を回避できたので良しとする。


 そんな馬鹿をやった後日、アルネスの街でエドワードさんと会談した。そこで、新村長ビルさんによって、口に出すのがはばかられる改名が成された海辺の開拓村が今後どうなるかについて話を訊いた。


 というのも、エドワードさんの手紙の内容がどうにも信じられなかったからだ。いくらなんでも領主にそこまでの権限はないのでは、という疑問を抱いていた俺たちは真っ先にそこをつついてみた。


「うむ、まぁ別にお前たちになら話しても構わんか。実はな――」


 勿体ぶることもなく普段と変わらない調子で淡々と話すエドワードさん。だが俺たちは最初のカミングアウトで既に大きな衝撃を受けてしまい、開拓村のこれからがどうなるかなど、どうでもよくなってしまった。


 エドワードさんの元の名はエドワード・クリス。『関係ない』という理由で王位継承を放棄したクリス王国第七王子だったのである。それが明かされてからは村のことは脇に置き、エドワードさんへの質疑応答の運びになった。


「どうしてアルネスの街の領主をやってるんですか?」


「ああ、俺はこの街を拠点に活動していた元冒険者でな。とある事情から、世話になっていた先代領主に後を継いでくれと頼まれたんだ」


「その先代領主というのは?」


「ガイラル・マクレーン卿。俺の母の兄、つまり伯父であり、ジオの父だ。そして俺の義父でもある。少し複雑だが、そういうことだ」


 エドワードさんによると、先王崩御以前に、とある事情とやらでガイラルさんから養子に来てくれと頼まれていたという。エドワードさんも実父である先王より伯父のガイラルさんを慕っていた為、力になれるのならばとそれを受け入れたとのこと。先王も『好きにしろ』と認め、臣籍降下による賜姓王族となった。


「じゃあ継承放棄のときの理由が『関係ない』っていうのは、既にマクレーン家に入ってて領主をやってたからってことですか?」


「正確には『既に王国繁栄の為に働く場を得た俺には関係のない話だ』と言ったんだがな。そうか。『関係ない』だけで噂となっているか」


 エドワードさんは落胆した様子を見せた。が、それは冗談だったようで「まぁ、本心はそれだけではなかったがな」と苦笑して話を続けた。


 関係ないと言った理由は、熊人である母が寵姫の中でも冷遇されていたことも関係していたそうだ。使用人が熊人の母に対し差別的な目を向けているようにも見えたことも理由の一つだとか。先王とも年に数回顔を合わせるくらいで、まともに話したこともなく、他の王子たちとは明らかに関わり方が違ったという。


「それゆえ俺は、父をよく知らんのだ。冷たくされたということはないし、毛嫌いされていた訳でもなかった。ただ、決して可愛がられはしなかった。俺も自分からは近づこうとしなかったし、互いに遠くから見ているだけの関係だったな。あとは王城そのものの雰囲気か。母だけでなく、俺も不愉快な目を向けられたことが何度もあった。ゆえに無関係でいた方が良い気がしていたところはある。確実にな」


 十二歳になったとき、従兄弟のジオさんに誘われ冒険者として活動することを決めた。その頃にマクレーン公爵家預かりの身としてアルネスの街に移り、二十歳でゴールド階級冒険者となり街で名を馳せた。


 だが、昇級の喜びも束の間、ジオさんがとんでもない馬鹿をやらかし、次期領主の道を途絶えさせてしまった。


「ちなみに、ギルマス何したんすか?」


「その頃のジオはとにかく馬鹿でな。泥酔して喧嘩騒ぎはしょっちゅうだったんだが、ゴールド階級に上がったことで有頂天になったんだろうな。当時の冒険者ギルドマスターに喧嘩を吹っ掛けて、完膚なきまでに打ち負かしてしまったんだ」


「らしいと言えばらしいですけど、それに何か問題が?」


「大ありだ。その頃の冒険者ギルドは現在のような領内運営ではなく、王国政府が職員を選出派遣し直接運営していたからな。差別的な貴族が多く、腐敗していた。今回の開拓村のような状態だったと思ってもらえばいい」


 エドワードさんとジオさんは素性を隠し、平民冒険者として活動していたそうで、日頃から当たり前のように身分差別と人種差別を受けていたという。


 その鬱憤をギルマス相手にすっかり晴らしたジオさんだったが、待っていたのは王国政府からの糾弾。そして職員たちからの偽証の嵐だった。


「でも、それは身分明かしちゃえば問題ないんじゃないですか?」


「そう思うだろう? ジオもそうしてしまった。結果、マクレーン公爵家に矛先が向けられた。それでガイラル殿から助けを求められてな、仕方なく俺も素性を明かし、擁護することでどうにか方はついたが、浅はかな行動をとったジオが次期領主に就くことだけは、ガイラル殿含め誰からも認められなかった」


「ああ、それでエドワードさんが領主に」


 エドワードさんが首肯した。ジオさんの迂闊な行動により、マクレーン公爵家は降爵、領地替えされる可能性まで出てきていた。ガイラルさんとジオさんが頼れるのは、もうエドワードさんしか残されていなかった。


 エドワードさんは二人の懇願を受け入れ、冒険者を引退し国王に直訴。マクレーン家の養子に入り、臣籍降下を果たし賜姓王族となった。そしてアルネスの領主として後を継ぐことになったという。


「領主となった後は、差別を撤廃することに努めてきた。このクリス王国の成り立ちに反する選民思想を持つ五月蝿い貴族共の腐敗を徹底的に糾弾し、宰相と王妃の助力を得て、すべてではないが、王国政府の膿を出すことに成功した。その際に得た知己が皆優秀でな、もう分かったと思うが、俺の元の身分、現在の地位と知己の力で、証拠さえ揃えれば今回の件もそれなりに融通が利くという訳だな」


「ジオさんがギルマスになったのって、どういう経緯っすか?」


「それはなぁ……今思い出しても腹立たしいのだが、あいつは時期領主の重責から解放されたと大喜びだったんだ。『これでずっとゴールド階級冒険者として気ままに暮らしていける』などと抜かしやがってな」


 エドワードさんが額に青筋を浮かべて笑む。


「俺はゴールド階級に昇級したなりに引退させられた上、尻拭いまでさせられているのだからな、いい気分はしないよな? 俺はおかしくないよな?」


「まったくおかしくございません」


 俺たちは全員で声を揃える。服がはち切れんばかりで怖かった。


「ジオの自由奔放な振る舞いに少し灸を据えてやろうかと思ったが、灸ではなく冒険者ギルドマスターに据えてやるのはどうかと思いついたのだ」


 エドワードさんは王都クリストミラーへ赴き、冒険者ギルドへの派遣職員選出に待ったを掛けた。職員の大半が処分され、機能していなかったにも拘らずだ。


「あー、そこで領内運営に切り替えたんですね」


「そういうことだ。その話を王国政府に認めさせるのはまったく難しくはなかった。あちらも先のことで処分者が大勢出て人手不足だったからな」


 話が決まってすぐに、エドワードさんはジオさんを冒険者から引退させた。これには「遂に放蕩息子に引導を渡せた!」とガイラルさんも大いに喜んだらしい。


「ジオはぶーたれていたが、決して無責任でも無能でもないからな。丸投げして放っておいても、冒険者ギルドは今の形に仕上がっていた。この街の発展は、間違いなくあいつのお陰だよ。さて、昔話はそろそろいいか?」


 ここまで思い出したところで、俺は折返し地点であるイノリノミヤ神社に到達した。




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