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63.そこで略すと危ないけど皆喜んでるからいいか(1)



 ザザ村に戻り、ヤス君サクちゃんと合流した俺は、スパイキークラブの捕獲と村人への指導を手伝った。


 ヤス君によると、先日ビルさんが熱意を持って訴えてくれたのと率先して参加を表明して呼び掛けてくれたお陰で、村人たちも最初から協力的だったそうで、午前中はトラブルもなく、指導は円滑に進んだとのこと。


「ただ、一つ問題があるんすよ」


 昨夜から村長とその取り巻きの姿が見えないという。


「行方をくらましたと見るべきだろうな」


「すいません。私も村人への周知にばかり気を取られて……」


「いえ、ビルさんの所為じゃありませんよ。俺が考えておくべきでした」


 申し訳なさそうに頭を下げるビルさんに言い、今できることについて話す。


「姿が見えないってことは、今頃はどこかで対応を考えていると思います。それが済めば、間違いなく何らかの行動に出てくるでしょう。現状、ビルさんがこの村のリーダーとして認められているように見えますんで、何が起きてもいいように周知を行ってください。まさか武力行使ってことはないとは思いますが、念の為その辺りまで伝えておいてもらった方が良いと思います。知り合いが運営する警備派遣会社も紹介できますんで、後は集会で話し合って詰めていきましょう」


 ビルさんは「分かりました!」と力強く頷き、近くにいた見るからに士気の高い村人三人に声を掛けて、俺たちの側を離れた。


「ユーゴ、村長はどう出ると思う?」


「分からないけど、すんなり引き下がりはしないだろうね」


「大方、助けを求めに行ったってところでしょうけど、厄介な話になりそうっすね。俺も今朝聞いて驚いたんすけど、ここはアルネス領じゃないらしいんすよ」


「は? 違うの?」


「俺も驚いたが、違うらしい。王国政府直轄地だそうだ」


 寝耳に水。それは考えていなかった。エドワードさんが手を出してない時点でそういう可能性があると気づくべきだった。少し早まった気がする。


「それさー、反逆罪とかに問われるやつじゃない?」


「まぁ、よく分からんが、代官を追い出したならそうなるだろうな」


「そこっすよね。自分から逃げ出しておいて、村人が反乱を起こしたなんて喚かれてそうっす。王国政府側も権威の失墜がどうのこうのって村長の悪事の揉み消しやら何やら理不尽なことやってきそうっすよね」


「やっぱそうなるよねー。これエドワードさんに凄く申し訳ないことしちゃったかも。俺の浅慮の所為で、今頃、執務室で溜め息吐いて頭抱えてるかも」


「どうしてだ?」


 サクちゃんが片眉を上げて訊く。俺が言うより先にヤス君が答えた。


「村長が反乱鎮圧の要請をするとしたら、アルネスの街しかないっすから。エドワードさんは立場的にその要請を受けなきゃまずいでしょ。王国公爵っすから」


「この村の状況を知っていたとしてもか?」


「知ってるから困るってことだよ。村長の悪事を公にして村人の肩を持てば、実はエドワードさんが反乱の首謀者だとか騒ぎ立てる馬鹿が出てくるよ。俺がまずったなーと思ったのはこの村が王国政府の直轄地だってこと。エドワードさんがこの村を自領にしたいが為にやったなんて言われたら目も当てられないよ」


「俺がエドワードさんだったら、引き伸ばしが精一杯ってとこっすかね。要請は受けるけど、衛兵の準備がどうのこうのって理由をつけて時間稼ぎします」


「まぁ、エドワードさんに関してはそんなに心配はしてないんだけど、王国政府がどう出るかってことがね。国王が今九歳だし、スミレさんから聞いた話じゃアホの子でしょう? 馬鹿に唆されて、おかしな王命出したりしなきゃいいけど」


 それ四年前の話だからな。と、サクちゃんが気休めを言うが、俺はまったく安心できなかった。ヤス君の方もそうだったようで、軽く鼻で笑っていた。


 取り敢えず、心配したところで何かが変わるという訳でもないので、ある程度スパイキークラブの捕獲が済んだところで、村人たちに集会所へ集まってもらい、スパイキークラブの対処方法についての話し合いをしてもらった。


 村人たちによれば、これまでは見掛けたら刺激せずにその場を離れるという方法が取られていたらしい。追い払う、或いは駆除する際は自己責任とのお達しが村長からあった為、率先して行う者がいなかったとのこと。


 また対処の為に冒険者に依頼が出されているという情報があったことも、自発的な行動に移れなかった原因として上げられた。


 そして一番の理由は、用途がないこと。人は金にもならないただ危険な害虫のために自分の命を賭けたりはしない。ということで、俺は塩茹でしたスパイキークラブを集会所に集まった村人たちに振る舞っていた。


 最初は怪訝な表情を浮かべていた村人たちだったが、ビルさんとアニーが大喜びで食べている姿を見て、一人、また一人と口にし大絶賛。全員が食べ終える頃にはスパイキークラブは生活を支える食材として認知され、一躍脚光を浴びていた。


「うんめぇー! こりゃ売れるぞ!」


「スパイキークラブが出てる期間は村を漁場にすんべ!」


「魔石もあるんやろー、尚ええな!」


「いんやー、ビルさんのお陰だなこりゃ!」


 ビルさんコールが始まり、この村のリーダーとして認められる様子を見て、俺たち渡り人組は取り敢えずの小さなハイタッチを交わした。


「あとは村長がどういった行動に出てくるか、だな」


「とはいっても、今日明日の話じゃないっすからね」


「うん、俺たちはもう帰るし、たまに様子を見に来なきゃいけないね」


「浅はかなことする馬鹿なら助かるんっすけどね。あれ? 何か来ますね」


「へ? 何かって何? 探知してたの?」


 一抹の不安を抱えたまま、解散の挨拶まで進んだのだが、そこにまさかの来訪者が現れた。集会所の扉が乱暴に開け放たれ、その音で出入口に視線が集中する。


 そこには高級感のある服に身を包んだ、よく肥えた小柄な男性が立っていた。


「貴様らっ! これは何の騒ぎだっ!」


 その中年と思しき男は、シュールレアリスム画家のような口髭を摘み撫でながら、目を三角にして怒鳴った。場が静寂に包まれる。


 ふと、村長、と誰かが囁いた。


 村長⁉


「ハ、ハハ、馬鹿でしたね」


 ヤス君が引き攣った半笑いで呟く。俺は驚きのあまり絶句してしまった。


 いや、油断は禁物だ。そんな奴はいないだろう。


 まさか昨日の今日で王都にまで話が届く訳がない。転移術で届けたとしても話がまとまる訳がない。エドワードさんとの交渉もこれほど早く済むとは思えない。


 となれば奥の手がある。そう見るべきだ。




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