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52.スパイキークラブ物語(1)



 翌日早朝。リンドウさん一家の住む神社に向かうなら、ついでに近くの依頼でも受けようということになり、朝食を済ませてすぐに冒険者ギルドへ。


 ところがはたと気づく。森の名前が分からない。先日何かがあったのか上機嫌のミチルさんにお願いして地図を確認。街から東にある街道南にある森を示す。


 そこで、あの森が祈りの森と呼ばれていることが発覚。悪心を持っている者が入ると迷い、祈って悔い改めると出てこれるとミチルさんから説明を受ける。


 リンドウ邸出身にも拘らず、ミチルさんは結界の存在を知らないようだった。考えてみれば、俺も結界の存在に気づいたヤス君が一緒でなければ、敢えて知らされることがなかったかもしれない。これは十分にあり得る話だ。


 ミチルさんも俺と同じく鈍感で気づけなかったのだと覚ると急に親近感が湧いたが、神聖な森で暮らしたという思い込みを壊すのは悪いので、実際はリンドウさん作の悪辣な結界が張ってあるという事実は黙っておくことにした。


 アイアン階級の自分たちでもできる依頼が祈りの森の近辺で出ていないかを訊くと、旅程の途中にある漁村の宿で変わった依頼が出されているという。


「ただ、報酬は結果次第なんですけどね」


 依頼内容は宿の名物料理の提案と調理。俺は一斉にパーティーメンバーからの視線を受ける。圧が凄い。これは責任重大案件と理解。


「頑張ります」


「うむ、良きに計らえ」


 何様だフィル。


「それと、こちらも」


 ミチルさんがギラリと目を光らせてもう一枚の依頼書を出す。


 ん? これノービスランクの依頼だぞ?


 同じ漁村の村長からの依頼で、害虫駆除というもの。対象はスパイキークラブ。こちらは一匹につき銅貨一枚とある。


「クラブってコレ?」


 俺は両手でピースサインを作り、顔の横で二本の指を開閉する。


「クラブって言うからにはそうじゃない?」


「はい、多分。私、こっちに来てから一年以上経つんですけど、食べてないんですよ。魚市場にもないし、すぐ近くに海もあるのに、ずっと不思議だったんです」


「害虫って書いてありますもんね。甲殻類だしそう思われても不思議はないか」


「ミチルさん、多分って言いましたけど、このスパイキークラブってやつ、もしかして見たことないんすか?」


 ヤス君の質問に、ミチルさんが申し訳無さそうに肩を落とす。


「すいません、ないんです。受諾した職員も知らないみたいで、少し不安ではあるんですが、網を鋏で切られるという話ですし、名前もそのままトゲトゲしたアレを連想させられたので、皆さんなら抵抗なく対処できるかな、と」


「うーん、受けても良いんじゃないか? 一匹駆除するごとに銅貨一枚で、網にも被害が出るってことは、それなりのサイズで数はそこまでじゃないだろうし」


「まぁ、ノルマもないみたいですし、やめても失敗扱いにならないんなら、受けた方がお得っすよね。アレだったらそのまま次の依頼にも活用できますし。料理はユーゴさん任せっすけど」


「それは良いんだけど、食材として使えるかは疑問だよね。毒があるかもしれないし、食用に適さない大きさかもしれないし」


 俺以外の全員がハッと驚いたような仕草を見せる。


「毒か。考えてみれば、漁村の村長が依頼を出すほどだ。掴んで籠に入れるくらいのレベルで考えてたが、そこそこ危険なのかもしれないな」


「毒は確認できると思うんで大丈夫として、食材として使うことを考えた場合、武器や魔法でグチャグチャにする訳にはいかないっすよね。それに保管も問題アリアリですよ。生け捕りだと嵩張るし、でも殺さないと《異空収納》に保管できないし」


「鋏と脚を落としちゃえば良いんじゃないかな?」


 一瞬静かになる。


「な、何? 僕、何かおかしいこと言った?」


「フィルって事も無げに残酷な提案するよね。それは調理後にやることだよ」


「ちょっと待ってよ! あんなことしてる君にだけは言われたくないよ! それに君の国は活造りとか踊り食いとか残酷極まりないことやってるじゃないか!」


「あんなことって何すか?」


「俺がたまに作るお魚料理のことだよ」


 サクちゃんが片眉を上げる。


「ん? 煮付けとか塩焼きは残酷じゃないだろう?」


「違うんだよ、ユーゴはその前がマッドなんだよ」


「ハハハ、マッドって何すかそれ。あ、残酷と言えば、柳川鍋美味いっすよ」


「いやぁ、私は無理でした。ドジョウがもう気の毒で」


「確かにあれはなぁ。ミチルさんの気持ちが分かる。酒で茹でるときの蓋の振動が生々しくて俺も苦手だった。まぁ、どうにかこうにか食ったけどな」


 会話が盛り上がったが、いつの間にか後ろで受付を待っていたミリーに「ちょっと早くしてよ!」と怒られた。


「あ、ごめんごめん。ミチルさん、手続きお願いします」


 二つの依頼を受注し、受注書を貰って早々に受付から離れたが、気が収まらなかったのだろう。ミリーがこちらを睨みつけて舌打ちし、トロアが仏頂面で鼻を鳴らした。オライアスだけは申し訳なさそうに、こちらにペコペコ頭を下げてきた。手を振ると嬉しそうに笑った。うん、やはりオライアスはかわいい。


「僕、まだ勧誘されてるんだよね。君たちといるのが面白くないんだろうな」


「内面四十路の元おっさんおばさんが溜め息吐くようなことじゃないよね」


「そうなんだけどね。何歳になっても敵意は辛いよ」


「いやーあれは嫉妬っすよ。ミリーちゃん、フィル君のこと大好きっすからね」


 ヤス君の発言に全員が硬直する。


「ヤス君それマジ?」


「マジっすよ。あれ、皆気づいてなかったんですか? ちなみにユーゴさんはトロア君に、サクやんはオライアス君に羨望の眼差しって感じの目を向けられてますよ。まーた俺だけ除け者って感じで悲しいっすわー」


 全然悲しくなさそうに笑うヤス君は、他人をよく見て知る男。既にミチルさんとジオさんの洞察の前例があるからだろう、誰も気の所為だとは言わなかった。



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