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45.初絡まれテンプレ戦とダンジョン特急探検隊(3)




 翌日早朝、ドニーが宿まで報告に来た。俺がぶん殴った奴の荷物から、遺失物の届け出が出されていた物がいくつも見つかったとのこと。その中には、宿場町に来る途中に見た馬車のものもあったそうだ。持ち主や遺族からの報奨金が出るとのことだったが、皆で話し合った結果受け取るのを断った。


 それから俺たちはダンジョンに向かった。三十分ほどで到着したが、側に衛兵の詰め所があったり、転移装置があったりと思っていたよりしっかりと環境整備されていた。ダンジョン出入口付近に立つ衛兵に軽く会釈し、ざっと説明を受けて中に入る。岩の洞窟と見紛う外観どおり、ゴツゴツとした岩壁と暗闇に迎えられる。


「なーんか、やるせないっすね」


「ああ、あの馬車のことな。もっと早く来てたら、とか思うよな」


「いや、あの、ちょっと集中しない?」


「フィル、集中しようにもこれはちょっと……」


 俺たちはやりたい放題やっていた。暗いのは危ないという理由で、俺とフィルとサクちゃんの三人で《光球》を量産して進み、淀んだ空気は気持ち悪いという理由でフィルが頻繁に風を吹き抜けさせる。


 見晴らしがとにかく良く、隠れた魔物も風に反応して飛び出してくる。しかも見つけた直後にはヤス君が射殺してしまうので、集中しろと言われても難しい。


 一、二階はフィルの言っていたデビラビという小さい角の生えた兎と、デビラットというやたらと耳の大きい鼠に似たものしか出なかった。俺とサクちゃんは《光球》を二つずつ浮かべての照明係。収納も必要ないだろうとのことでしていないので、ただ歩いているだけ。


 三階層に進んでもラジアントという蟻の魔物とラジバットという蝙蝠の魔物が増えただけで、こちらもやはりヤス君とフィルが一撃で絶命させてしまう。


「なぁ、これ俺たちいるか?」


「そうだねー。これは準備しすぎた感が否めないねー。でもその分、見合ったところまで早く進めそうだし、それまでの我慢じゃない? ところでフィル、今更だけど本当にいいの? 収納しなくて」


「ダンジョンは生物を吸収するから大丈夫らしいよ。実際に見た訳じゃないから本当かどうかは知らないけど」


「じゃあ大丈夫でいいんじゃないすか? 朝方変な話聞かされた所為で気が入らないっすわ。あー暇っすねー。ステボでも見ます?」


 ダンジョンに入ってから三十分。皆が飽きてしまうという事態に陥り、ヤス君の提案に乗る。全員がステボを他者閲覧可能状態にして見せ合う。


「あ、フィル魂格上がってんじゃん。十三か。補正値は十パーセントくらいか。うわ結構大きいね」


「何気に俺らも上がってるんすね。五の横並びっすよ」


「いや、俺何もしてないんだよね」


「俺も。ん? おい変なの出てるぞ。何だ【無病息災】って」


 渡り人三人に新しいスキルが追加されていた。スキル効果は一切の病気に罹らないとのこと。魂格五になることが取得条件だった模様。


「こらまた凄いスキルだね。筋肉痛って病気かな?」


「あー、どうっすかね? 怪我じゃないすか? でも確かに、どこまで病気として扱われるかは興味がありますね」


「水虫とかにならないのはありがたいよな」


「履くのはほとんどブーツだもんねー。いーなー。そのスキル羨ましいなー」


 談笑しつつ、四階、五階と降りて行く。出てくる魔物の種類は増えるが、大差はない。大蜘蛛と大ミミズが増えただけ。大ミミズはフィル、大蜘蛛はヤス君が担当。俺とサクちゃんは相変わらずただ照らして歩く人に徹する。


 各階層に転移装置があるとのことなので、切りよく五階で探す。今のところ、宝箱とも罠とも遭遇していない。十代前半と思しき冒険者たちとすれ違うだけ。


 一度、別の若いパーティーが大蜘蛛と戦闘しているところに鉢合わせたが、一匹倒すのに三人がかりでとんでもなく手こずっていた。全長一メートルを超える大蜘蛛との熱い戦い。まるで少年漫画のような展開に俺たちのパーティー全員で陰ながら握り拳を作って応援。


 どうやら大蜘蛛はそれなりに強いらしい。名前も忘れたけど。


「フィル、ヤス君、悪いんだけど、次は俺に戦わせてもらっていい?」


「あ、じゃあ俺もその次」


 サクちゃんが挙手して続いた。二人から快く返事がもらえたので、俺は次に大蜘蛛と遭遇するのを楽しみにして歩いていたのだが、そこで扉を発見。開けてみると小部屋で、中央に円筒状の転移装置があった。


「一回出てトイレ休憩にします?」


 ヤス君の提案にフィルが賛成。俺とサクちゃんはフラストレーションを溜め込んでいたので反対したが、一度転移装置の感覚も味わっておきたいという言葉で「それもそうだ」と二人同時に納得。転移装置に階層登録がてら、一旦外へと出ることにした。


 転移装置を稼働させたが、風景が変わらない。稼働は終了しているのだが、成功したのかどうなのか分からない。首を傾げつつ扉を開けるとちゃんと外。


 転移装置の小部屋は内装がほぼ同じな為、扉を開けるまで風景が大きく変わることはないようだと覚る。


「転移酔いみたいなのはなかったね」


「エレベーターの方が気持ち悪いかもっすね」


「いつ転移したのかまったく分からんかったんだが」


「俺も。はいはい、早くトイレ休憩済ませて戻ろう。今日中に十層は越えたいからねー。俺とサクちゃんは大蜘蛛と戦いたいからねー」


 俺が手を叩いて呼び掛けるとフィルとヤス君が「はーい」と手を上げて返事をし、トイレの方へと向かった。が、その後を追う者の姿がある。


 男女合わせて四人。俺が気づいたってことは、ヤス君は確実に気づいている。サクちゃんへ目を向けると頷いた。


「四人だったな。どうする?」


「多分、放っておいても大丈夫な気がするけど、念の為追いかけようか」


 慌てず急がずゆっくりと進んだ後に見たのは、取り押さえられた若い男二人と、取り押さえている冒険者らしき中年の男女。側にはフィルとヤス君。


「何これ? どういう状況?」


「あ、ユーゴ。えーっと、僕らが変なのに追われてることに気づいて、彼らが捕まえてくれたんだよ」


 フィルが二人を紹介してくれた。ノッゾさんのパーティーメンバーのイゴールさんとミルリナさん。イゴールさんは大柄な男性で、ミルリナさんは細身で背の高い女性。多分、二人とも人族。礼を言うと、苦笑された。


「俺たちが手を貸す必要もなかったみたいだな」


「本当に。余計なお世話だったね」


 二人は躊躇なく若い男二人の腕を捻り上げて折り、手を払って立ち上がる。


「後は自分たちでやんな」


 ミルリナさんが手をひらひらしながら歩き去る。イゴールさんは俺たちをぐるっと見てから満足げに頷いて「いいパーティーだな。頑張れよ」と笑ってミルリナさんの後をのしのし追った。背中に背負った大盾がまたでかい。


「なるほど確かに、ノッゾさんのパーティーメンバーらしい雰囲気だな」


「いやー、強かったっすよ。取り押さえるまで一瞬でした」


「へー、それは見たかったな。それで、こいつらどうしよっか?」


「衛兵に突き出す前に、雇い主とかいるなら知っておきたいね」


 フィルがそういうものだから仕方なく腕を折られた若者二人に動機や目的を訊くが、予想通り何一つ答えない。


 俺としてはもう衛兵にお任せしたかったのだが、三人の劇団化が止められない。サクちゃんが怖い刑事役、ヤス君が優しい刑事役、フィルが情報を挟む書記役。


 絶対楽しんでるだけだと思いつつ観劇していると、ヤス君が恩赦をちらつかせたところで若者二人が急にベラベラ喋り始めた。


 その内容は、ドニーが俺たちを騙しているというものだった。ドニーは裏でドグマ組と繋がっていて、俺たちを消そうとしているらしい。


「な、何だって⁉」


 思わず全員が身を乗り出す事態になった。皆、役に集中しすぎておかしくなってそうなので俺が謎の取調官として途中参加する。


「えー、あのね、君、そういうのいいから、本当のこと言いなさい」


「ほ、本当だ」


「嘘はよくないですねー。この場でクイッとやるよ? ん?」


 一人の首に手をあてがうと、悲鳴を上げて嘘だと白状した。ドグマ組のハンとかいう若頭が雇い主だとか。訊くこと訊いたので、とっとと衛兵に突き出した。


 恩赦がどうのこうの喚いていたが、ヤス君は知らん顔した。まぁ、ちらつかせただけで確約はしてなかったけども。いやらしい手法だとは思う。でも考えてみれば、相手の方がもっといやらしい嘘吐いた訳だから聞かなくていいのか。


「ドグマ組のハンね。誰か覚えておいてね」


「人任せは良くないっすよ。けど危なかったっす。疑心暗鬼になるとこっすよ」


「やり方が汚いんだよな。俺はしっかり覚えたぞ、ドグマ組と若頭のハン」


「僕もドキッとしちゃったよ。ユーゴがいなかったら完全に騙されてたね」


「君らは役に入り込み過ぎるからそうなっただけ。俺はずーっと蚊帳の外から観客として、文字通り客観的に見てたからね。嘘臭くてしょうがなかったよ」


 それから俺たちはまたダンジョンに潜り、昼食前には十階層、午後一時から午後六時まで数回の休憩を挟みつつ進行し、一日で三十五階層まで踏破した。


 十層目でホブゴブリン、二十層目でラフトロル、三十層目でブラックオーガとボスらしき魔物が現れはしたが、ブラックオーガでようやくちょっと戦った感が出たかなといったところ。


 ちなみに五階層の大蜘蛛はパンチ一発で頭が潰れ、返り血ならぬ返り体液を被り酷い目に遭った。


 サクちゃんがそれを見て考えを変えたのは仕方がないことだと思う。捨て駒になった気分だが、俺でもそうする。誰だってそうする。


 中層に入ってからは睡眠攻撃を行うメアシープや麻痺攻撃を行うパララウルフなどという状態異常を扱う魔物が出現しだしたのだが、これも敵ではなかった。


 俺たち渡り人が持つ【無病息災】は、突発的な睡魔や麻痺などを病気と認定してもらえるらしい。ヤス君によると、細菌などの生物が関わったものは病気と判定される可能性があるとのことだった。


 つまりメアシープは眠りを誘発する細菌、パララウルフは麻痺を発生させる細菌を撒き散らしているということだ。


 試しにイビルバイパーという巨大な蛇の魔物を倒し、牙で皮膚を刺してみたらしっかり毒を受けた感じがした。


 ステボには状態異常表示がされない仕様な為、体感で判断する他ないが、患部が腫れて熱や痛みも伴ったので間違いないだろう。


 ヨナさんの解毒薬で回復したが、毒は細菌性のものではなく、物質なので病気とは判断されなかったということのようだ。検証数は少ないが今のところそういう認識でいる。


「転移装置も見つかったし、そろそろ上がりにしませんか? 途中で何回か休憩してるとはいえ、流石に疲れましたわ」


「異議なし。ところで受けた依頼って何だったっけ?」


「イビルバイパーの……あれ? おいダンジョン初日で終わったぞ」


「わ、ホントだ! すっかり忘れてたけど、もう十匹は倒して収納したよ!」


「ならもう帰るか。明日、ビンゴさんが手紙持ってくって言ってたし、そのまま俺たちも乗せてってもらおう」


 そう提案したが、四十層までは終わらせたいという意見がヤス君とフィルから上がったので、明日の早朝からそれをこなすことで話は決まった。


 今晩、何事もなければいいが。


 なんとなく嫌な予感がして、この日の晩は寝付きが悪かった。




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