43.初絡まれテンプレ戦とダンジョン特急探検隊(1)
俺たちが宿場町に着いたのは午後一時半を過ぎた頃だった。門兵のドニーに軽く片手を上げて挨拶する。ドニーは笑顔で迎えてくれた。
「ああ、皆さん、おかえりなさい。闇属性は取得できましたか?」
「うん。だけど酷い目に遭いましたよ。沼からウナギみたいな魔物が出てね」
「え、沼から? まさかポイズナプリーが出たんですか?」
名前を言われても、俺たち渡り人組は元よりフィルですら知らないので、サクちゃんに異空収納から魔物の頭を出してもらう。
「これは……確かにポイズナプリーですね。報告ありがとうございます。それにしても、皆さんは運が良かったですね」
「え、どういうことですか?」
詳しく訊くと、このポイズナプリーなる魔物は繁殖期以外は姿を見せないという。自ら現れたということは、その繁殖期に入った証拠で、特に繁殖場所の沼は危険が増すとのこと。
不定期で訪れる繁殖期、有毒、仲間が攻撃されると群れを成して襲ってくるなど、ポイズナプリーはかなり厄介な性質を持つ魔物で、毎年多くの被害者を出しているとか。
「繁殖期が始まった際は、間引きが終わるまでブロンズ階級以下の立ち入りを禁止にしているんです。それまでは闇属性の取得ができなくなりますから」
「あー、そういうことかー」
「しかし、よく無事でしたね? 気配を隠すのも上手い魔物ですから、シルバー階級の冒険者でも怪我をすることがあるくらいですよ? まして、死骸の頭を持ち帰ってくるなんて」
「全身あるぞ。出すか?」
「だ、駄目ですよ! ここでは出さないでください!」
「冗談だよ」
笑いつつ、慌てるドニーに手を振って、俺たちは宿場町の中へ入る。
西部劇で見るような町並みで、それなりに人の数が多い。そしてそのほとんどが冒険者。装備品を身に着けたあらゆる種族の男女が往来している。
取り敢えず、食事をとりたいので店を探す。途中、娼婦らしき女性たちが客引きをしているのを見つけた俺は、すかさずフィルと手を繋ぐ。フィルは驚いた顔で俺を見たが、すぐに理解してくれたようで、非常に悪い顔をした。
「ねぇ、お兄ちゃん、僕お昼ごはんは一番高いのが食べたいなぁ」
「フィル、家にはそんなお金はないんだよ」
「何してんだお前ら」
「兄弟を装って娼婦を避けようって考えっすね。そんなことしなくったって、相手にしなきゃいいだけじゃないっすか。あんなの」
ヤス君は呆れたように言ったが、いざ娼婦の前を通った際に熱烈な誘惑を受けてタジタジになった。俺はフィルと兄弟の振りをして難を逃れたが、サクちゃんとヤス君は断り方に困ったようで、通り過ぎるのに少し時間が掛かった。
「あー、疲れた。ああいうの断るのって難しいもんだな」
「【魅惑無効】ついてるんじゃないの?」
「フィル君、それ一切関係ないっすよ。無視するのが申し訳ないとか思った自分が馬鹿でした。あんなにグイグイくると思ってなかったっす」
「フィル、食事処が見つかるまで手を繋いでような」
「お昼ご飯奢ってね」
その後、無事食事処を見つけたが、中に入った時点で柄が悪い感じがした。薄暗い店内にいる客たちから一斉に視線を向けられる。アルネスの街では感じたことのない雰囲気で、フィルが少し怯えているのが分かった。
「別の場所にする?」
「そうした方がよさそうだな。大したことはなさそうだが」
サクちゃんと小声で遣り取りしていると、カウンター席にいた冒険者風の若い男が立ち上がり、人を小馬鹿にしたような嫌らしい笑みを浮かべて近づいてきた。
「飯食いに来たんだろ? 座れよ」
「いえ、別の店に――」
「おいおいおいおい、駄目駄目、何言ってんだよ。入ったなりに出て行くってのはおかしいだろ? そんなに不味そうに見えるのか、この店が?」
店内の客が笑いだす。明らかな嘲笑。テーブル席にいた男たちが立ち上がり近づいてくる。人数は三人。全員、絡んできた男と同じく人族で冒険者風。
「初絡まれっすね」
「そうだね。これがヤス君が言ってたテンプレ展開ってやつか」
「まだそうと決まった訳じゃないだろう。いい奴かもしれんぞ」
「何をヒソヒソやってんだコラ! 出てくってんなら、止めやしねぇよ。その代わりに退場料置いてきな。その前に入場料もだ。それとおい、お前はその上に羽織ってる服も寄越せ。痛い目みたくなかったらな」
「断る」
サクちゃんがにべもない態度で一言。男は一瞬ぽかんとしたが、すぐにゲラゲラと腹を抱えて笑いだした。客もそれに合わせて笑う。
「面白ぇこと言ってんじゃねぇよ。ここがどこかも分からねぇ新米がよぉ。俺ぁシルバー階級だぜ? そんで、この店にいるのは全員ブロンズ階級だ。その軽そうな頭じゃそれがどういう意味かも分からねぇか?」
「階級と能力は関係ないんすけどね。そんな基本的なことも分かってねーのが、またテンプレ展開っすね」
「あぁ? 訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇぞ。ああ、そうかそうか、分かった。田舎者だな。なら仕方ねぇな。教えてやるよ。俺たちゃドグマ組傘下の者だ」
誰だよ。
男が自信満々に言ってのけたが、困ったことに俺たち渡り人組はそのドグマ組とやらが何なのか分からない。唯一知っていそうなフィルに視線を向けるが、不安そうな顔でかぶりを振られる。
「フィル、知らないのか? それとも知ってて手を出すなってことか?」
「し、知らないってこと」
「ん、おい、そこのガキはエルフだな。そいつは置いていけ」
「なんで?」
「慰み者にどぅぶふっ!」
腹が立ったので顔面をぶん殴ってやった。思い切り殴ったので、床に叩きつける感じになった。馬鹿の頭が床にめり込み、床板が割れて辺りに埃が舞う。
笑い声が一瞬で止まり、静寂が訪れる。軽く視線を移すと、近寄ってきていた三人が目を見開き、息を飲んでいた。虎の威を借る狐、の威を借る鼠らしい反応。
そして俺の心の中では、こんな思いがほとばしっていた。
こういうの漫画で見たことある!
いくつになっても男の子な自分を隠しつつフィルに視線を向ける。
「フィル、ヤス君と一緒に衛兵さん呼んできてくれる?」
「う、うん、分かった」
「はーい、行ってきまーす」
二人が出て行くと、客が全員立ち上がった。十四人。全員が武器を手にし、敵意を剥き出しにしている。もう客じゃない。ゴロツキだな。
「ドグマ組舐めてんじゃねぇぞコラァ」
「クソガキが、アルネスの街で暮らしていけると思うなよ」
「覚悟しとけ、楽には死なせてやらねぇからな」
罵声と恫喝が飛んでくるが無視。いつの間にこんなに胆力がついたのか、自分でも不思議に思う。何が原因なのか気になって過去を振り返ってみる。
エドワードさんのパツパツな威圧感。
ミチルさんの突如武神化する狂気。
リンドウさんの涙脆さと底知れぬ力。
なるほどそうか。
こいつらが怖くも何ともない理由はあの人たちがいるからか。
俺は思わず軽く噴き出す。身内の方が万倍は怖い事実に笑うしかなかった。




