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39.ビンゴの祝福(1)




 本日は曇天なり。


 連日晴天続きだったので、たまには太陽に隠れてもらうのも悪くはない。


 暑さも幾分か和らいでいるように感じられる。湿気はあるが、日本の夏に比べれば大したことはない。


 そんな朝のこと、俺たちはレノーラさんの武具店で購入した装備を身に着け、宿場町へ向かう準備を整えていた。


 俺は革鎧一式の西洋ファンタジー風。ヤス君はゴーグルとツナギの現代サバイバル風。


 サクちゃんは足首まで届く長羽織と前垂れが付いた作務衣のスペースオペラ風。


 レイさん特製の温度調節の呪符が縫いつけてあるとかで、見た目ほど暑くなく、季節問わずに使えるのもありがたい。もっとも、魔力は微量に使われるのだが、任意で止めることも可能なので問題はない。


 しかし、どれもこれも映画やアニメで見たことがありそうなコスプレめいた格好だ。俺とヤス君はありふれた感じなのでまだ許されそうだがサクちゃんは危ない。当人もなんだか気まずそうだ。武器も棒だし、光ったらアウトだと思う。


 そんなバラエティに富んだ三人組だが、全員の装備が黒色を基調にしたものなので妙に一体感がある。それがなんとも恥ずかしく感じた俺は、黒にした理由を二人に訊いてみた。答えがズレれば一体感の羞恥も薄らぐと思ったからだ。


 するとヤス君が「どうせならせーので言いませんか?」と持ち掛けてきた。


 面白そうだと思った俺は快諾し、サクちゃんも「別にいいぞ」と受け入れた。


 そしていざ理由発表を行った際、せーの、の掛け声の後に出たのは「汚れが目立たないから」というものだった。


 この瞬間、俺たちが貧乏性の集いだと発覚。奇遇だね、と喜びがあるような話ならよいがパーティーメンバーの大半の感覚が主婦という事実に俺だけでなく二人もそれぞれ慄いた模様。


 加えて、一言一句、タイミングまで同じの丸かぶり回答になったことで、とんでもない一体感を味わい俺たちは赤面。顔を覆って恥じらいに目も眩む思いをした訳だが、側で見ていたフィルが「合唱か!」とツッコんだときには全員が一瞬で立ち直り、笑顔で頷き合ってフィルを拍手喝采した。


 ただ、フィルに三連星という言葉を掛けられたときは「そういうのやめろよ」と真面目に注意してしまった。


 この世界に作品のファンがいたらどうするつもりなのか。怒られるならまだしも受け入れられた上で誰がどの枠か決められたりしたら仲違いの一因になること必至だ。できればオル○ガは避けたい。


 という訳で、この旅が終了し次第、俺はまたエノーラさんに染色をお願いしようと思っている。


 少し時間が経過し――。


「いいよ、乗ってきな」


 アルネスダンジョンの宿場町まで徒歩で向かう予定だったが、街の門で、通りがかった小人の行商人ビンゴさんの幌馬車に同乗させてもらうことになった。


 荷台には荷物が大量に積んであるが、二人は乗れる。一人が御者の隣に座れるので計三人は乗れる。


 つまり、一人は馬車の横を並走するか、縁に掴まり、荷台後部の外側に設けられた狭い足場に中腰で立った状態で乗る必要があるということだ。


「ここは、背の低いフィルが縁に掴まるべきではないかと思うんだけども」


「いや、僕は握力ないから確実に落っこちる自信があるね。それに、ビンゴさんと会えたのは僕が冒険者ギルドで依頼を受けることを提案したからだと思うんだ」


「確かに一理あるっすね。依頼も受けれましたし、時間のズレでこうして馬車に乗れることになったのは大きいと思います。ただ、声を掛けて交渉したのは俺っすから、そこは考慮して欲しいっすね」


 ぐぬぬぬ。


 俺は窮地に追い込まれ、サクちゃんに顔を向ける。サクちゃんは勝ち誇った顔をして口を開いた。


「ブロンズの依頼を受けれたのは、俺がいたからだろ?」


 俺は両手両膝を地面につけて絶望のポーズを取った。


 運の数値がステボにあれば俺は最下位だったに違いない。何故なら俺がトイレにいる間に俺を抜いた三人で勝手に冒険者ギルドに行き断りもなしに依頼を受けていたからだ。


 そのときは別にいいよという感じだったが、現在はこの仕打ち。「ついでに冒険者ギルドで依頼を受けよう」とフィルが言ったとき「トイレに行くから待ってて」などと言わなければこんなことにはなっていなかった。


 だが決まってしまったものは仕方がない。


 さてどうしたものかと俺は気持ちを切り替える。馬車の速度に合わせて走るのはキツいが中腰で固定されるのもまたキツい。


 ここはビンゴさんに訊くのが早い。どちらが楽か訊いてみた。


「知らん、人による」


 何でもいいから早くしてくれと言われ、俺は素直に「はい」と応じて頭を下げ、馬車の後部で掴まり立ちの準備をした。


 積み荷は食料品で、宿場町まで運ぶらしい。そこでダンジョン産の鉱物資源や魔石、魔物の素材を買い取り、アルネスの街の冒険者ギルドで売るのだとか。


 御者台の隣にヤス君が座り、フィルとサクちゃんが荷台に上がり窮屈そうに座る。


 そして俺は恐怖による動悸を感じながら掴まり立ちを開始する。どのくらいの振動があるのだろう。腰を痛めないか非常に心配だ。


 馬車が動き出す。徐々に速度が上がって行き、振動も大きくなってくる。


 うおー! くるぞくるぞー!


 ん? んん?


 しばらく待ったが、ジョギングに毛の生えたような速さが維持されている。それ以上の加速はなく、揺れも予想よりは小さかった。


 緊張して損したなと思いながら、俺は馬車から飛び降りた。地に足が着いた瞬間からジョギング開始。馬車の横を通り過ぎ、御者台の側を並走する。


「あれ? ユーゴさん降りたんすか?」


「思いの外ゆっくりだったからね。疲れたら戻るよ」


「遅いのは人が乗った分だけ重くなったからだ。俺の都合で決めた急な重量変更で馬に無理させちゃ悪いだろ。馬にヘソ曲げられたら困るのはこっちだからな」


 ビンゴさんは御者だが鞭を振るわない。足を組んで荷台に置かれた手近な荷箱に深々と背を預け、半分寝ているような姿勢でいる。


 馬車が動き出す前に急かすようなことを言うから忙しない人なのかと思っていたが、どうやらそれは俺の勘違いだったようだ。


 時折、顔を隠すように被っている麦わら帽子がずり落ちそうになるのを手で押さえ、丁度良い位置を探して被り直している。


 その仕草が非常にのんびりとしているように思える。動き自体は素早いのだが、危なげがないというか、ゆとりがあるように感じる。


 口調はぶっきらぼうでやや早口。態度も大きい。だが不快感はない。それどころか、むしろこっちまでのんびりした気持ちにさせられる。


 小人って、皆こんな感じなのか?


 このオーバーオールの似合うちょっと毛深い小さな巻毛のおじさんは、不思議な力を持っているのかもしれない。なんとなくそう思った。




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