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36.逆転の発想と熟練冒険者との出会い(3)




 溜め息を吐くと、二人がこちらに顔を向けて苦笑した。


「ユーゴさん《念動力》の練習はもういいでしょ。疲れが残りますよ」


「本当、真面目だよな。難しい顔してずっとやって。何もそう根を詰める必要もないだろ。十分過ぎるほど収穫はあったんだから、今日はもうお開きにしよう」


「うん、そのつもり。ただ、訓練の仕上げにこういうのも面白いかなと」


 俺は完成した新型水球を《念動力》で弾いた。飛散した水が、見る間に凍りついていく。


「過冷却現象っていうのをイメージしてやってみた。《過冷却水球》です」


「凍って、えぇ……?」


 ヤス君が理解不能だと言いたげに眉根を寄せる。サクちゃんは氷の散った地面と、俺とヤス君を交互に見る。


「どうした? 何かおかしいのか?」


「おかしいっす。めちゃくちゃおかしい」


 サクちゃんが片眉を上げて首を捻る。だから何が? と言いたげな表情だったので、説明することにした。


「カキ氷屋やってるときにね、ローコスト化できないかと思って、氷を作るのと水を凍らせるのとだと、どっちが魔力効率が良いのかを試したことがあったんだ」


「まぁ、儲けは大きい方が良いからな。それで結果は?」


「いやそれがっすね、水を凍らせる方が魔力消費量多いし、時間もやたら掛かるしで話にもなんなかったんすよ。これめっちゃ魔力食ってるんじゃないすか?」


「多いけど、そこまでじゃないね。慣れてないのもあると思うんだけど」


 もう一度作ってみる。さっきより時間も魔力も掛からずに生成できた。


「やっぱり、術として完成したからか消費量が減ってるね。体感だけど《水球》より少し多いかなってくらい」


「意味分からんっす……」


「ふふふ、逆転の発想だよ。水を凍らせるのが難しいなら、凍る水を作ればいい。これは鬱陶しいと思うよ」


「難しい顔してると思ったら、俺らが馬鹿話してる間に新術作ってたのかよ」


「思いつきでね。それで悪いんだけどさ、もう一回模擬戦やってもらえない?」


 サクちゃんからOKが出たので再び模擬戦の場へ。審判のヤス君を中央にして、離れて向かい合い一礼。楽しみで鼓動の速度が上がる。


「じゃあ、どうぞ。はい、始めてください」


 気の抜けた開始の合図で、サクちゃんが棒を生成しながら距離を詰めてくる。


 俺は《過冷却水球》を作る準備をしつつ警戒。


 一定の距離を保つことに努める。が、棒の生成が完了したサクちゃんが、脚力にものをいわせて突っ込んできた。間合いが迫る。


 はやっ! 俺はどうにか反応できた。後方に飛び退きつつ、サクちゃんの足元に当たるようにピンポン玉サイズの《過冷却水球》を設置する。


 やばいやばい間に合わーん!


 一個目を作り終えると同時に二個目の生成も始める。


 焦る。次は手の平サイズにしたかったが生成速度が遅くて無理。作りかけで位置と高さをずらして配置し《念動力》で留める。


 サクちゃんは、その両方を脚に受けた。


 それを確認しながら、サクちゃんの着地するであろう位置に三個目をと思ったが無理。まったく間に合わない。生成速度が全然足りない。


「うぉ、冷てぇっ!」


 着地後、サクちゃんが叫ぶように言った。着衣の氷結を確認することに気を取られている隙に、足元付近に《過冷却水球》を生成し落下させる。


「うわ、また!」


 サクちゃんが忌々しそうに俺を睨んで距離を詰めてくるが、明らかに動きが鈍くなっている。どうも凍りついた着衣が邪魔をしているようだ。


 よし、これならいける!


 サクちゃんの直接攻撃の範囲に入らないように距離を取り、手の平サイズの《過冷却水球》を置くタイミングを見計らう。進行方向を見定めて、なるべく死角になる位置に置いて衝突を狙いたい。


 そう考えていた矢先に突っ込んできてくれた。


 後方に飛び退きつつ《過冷却水球》を設置。着地位置を目算で測ってもう一つ設置。生成に掛かる時間とサイズの兼ね合いが分かってきた。


 でも、まだまだ遅いから要練習だな。


「冷てぇー!」


 そう叫んだ後で、サクちゃんは尻餅をついた。設置した術がすべて命中。太腿から下が、まばらに氷結していた。


 俺が素早く距離を詰めると、サクちゃんが両手を上げて降参のポーズを取った。俺は術を解除し、サクちゃんの脚から氷結を消す。


 立ち上がり、作務衣に付いた砂埃を払いながらサクちゃんが口を開く。


「参った。これはヤバイ」


「いやー、やっと一勝できたよ。どんな感じだった?」


「置かれたのは分かったし見えてもいたんだけどな、そのときにはもう体が止められん状態だったから、諦めて受けたんだが、思った以上に冷たいし硬いし、転んだ瞬間に詰んだと思ったな」


「いやー、お兄さんたち面白い試合するねー」


 拍手をしながら近づいてくる冒険者風の男が一人。どことなくやさぐれた印象だったので、絡まれるのかと思って身構えると、両手を上げて苦笑された。


「いやいや、絡もうなんて思っちゃいねぇよ。俺はノッゾってんだ。階級はブロンズ。長いこと冒険者パーティのリーダーやってる」


 名乗られたので、俺たちもそれぞれ軽い会釈をしつつ階級と名乗りを返す。


「は? アイアンとノービス?」


 ノッゾさんが目を丸くしたが、俺たちが、どうしたんだ、と顔を見合わせていると「ゴホン」と大袈裟に咳払いして誤魔化し、頭を掻きながら言った。


「すまん。ブロンズ以上は確実にあると思ってたんでな」


 おかしいな、目が曇っちまったのかな。と、首を捻ってぶつぶつと呟く。


「あのー、それで用件は?」


「ああ、すまねぇ! 結論から言うと、勧誘だ」


 深く訊こうとした訳でもないのに、ノッゾさんが理由を話し始めた。


 俺は、それ結論から言う意味あるか? と思ったが黙って耳を傾けた。


 ノッゾさんのパーティーは、ここ数年の間ずっとダンジョン中層で足踏み状態だったそうだ。それが最近ようやくダンジョン下層に進めるようになったらしい。


「で、あとちょっとでシルバーに上がれるってとこまできてるし、実際、上がれるんだが、もう歳だし流石に三人だとキツいって話になってな」


 ノッゾさんは幼馴染みで村を出て、そのまま現在に至るまで一度もパーティの拡充を行わなかったのだという。


 ついに身の上話まで始まっちゃったよと思いながら、俺は理由を訊く。


「どうしてです?」


「いやそれがな、新米の頃に騙されちまってな。一緒にダンジョンに入った奴らに後ろからぶん殴られて、気づいたら身ぐるみ剥がされて置き去りにされてたんだよ。それも中層だぜ? あんときゃ本気で死ぬかと思ったぜ」


 苦々しい思い出を口の中で噛み砕いたような渋面で、ノッゾさんは語った。


 命からがら上層に帰還し、善意ある他の冒険者に助けられたはいいが、金も装備も失ってしまった。どうにか裁きを受けさせたいと、自分たちを騙した冒険者を探してみたところ、同様の行為で既に登録を取り消された元冒険者だという情報を得た。だがその詐欺師たちは既に街から姿を消していたという。


「恥ずかしい話だが、三人が三人とも、しばらく人間不信みたいになっちまってな。まぁ、意固地になったところもあるんだが、若かったし、実際なんとかなっちまってたのもある。それで、メンバーを補充するって言い出せなくなってな」


「いつの間にか、禁句みたいになっちゃってたんすね」


「ああ、弱ったもんだよ。俺が腹を決めて言ったら、あいつら『やっと言ったか』なんて言いやがってよ。思ってたんなら言ってくれればいいじゃねぇかよなぁ」


「仲が良いんですね」


 ノッゾさんが照れ笑いして片手を振る。


「よせよ。腐れ縁だ腐れ縁。ただまぁ、苦楽は共にした奴らではあるな。うん。おう、そんで、ユーゴとサクヤはどうだ? 入ってくれるか?」


「すいませんが、こっちは既に四人パーティの目処が立っているので」


 やっと終わったかと失礼な気持ちでいる俺に、ノッゾさんは苦笑で応える。


「あちゃー、そうか。なら仕方ねぇ。すまねぇな、時間取らせた」


「いえ、また機会があれば」


「おう、そんときゃ頼むぜ。あ、それとな、ヤスヒトだったか?」


「え、あ、はい」


「あのな、ヤスヒトを誘わなかったのは、こっちにゃもう弓使いがいるからってだけだぜ。別にこの二人がヤスヒトより使えそうだとか思った訳じゃねぇからな。三人とも、仲良くしろよ。じゃあな」


 ノッゾさんは無理強いせず、笑顔で「お互い頑張ろうや」と言って、訓練場の出入口の方へと歩いていった。


「ノッゾさん、最初の模擬戦から見てたんだね。気を遣って、声を掛けるタイミングを計ってたのかな?」


「有り得ますね。見た目が薄汚れたちょい悪オヤジでしたけど、めちゃくちゃ良い人でしたからね。苦労人感が滲み出てましたし」


「最後のフォローは、俺たちに昔の自分たちの姿を重ねたからだろうな。なんかいいよな、ああいう感じ」


 初めての物騒な騒動に発展するかと思いきや、良い先輩冒険者からのこざっぱりとしたパーティー勧誘を受けただけだった。


 非常に好感の持てる人だったので、最後までふざけていた俺は、失礼なことを考えて大変すいませんでしたと、ノッゾさんの背中に心の中で謝罪した。





 お読みいただきありがとうございます。楽しんでいただけたなら幸いです。


 ブクマ、評価していただけると嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

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