35.逆転の発想と熟練冒険者との出会い(2)
模擬戦終了後、訓練場の観覧席に三人で並んで座った。反省会をする予定だったが、二人が黙って他の冒険者の鍛錬する様子を眺め始めたので俺もそうした。
こうしてじっくりと他の冒険者のことを観察するのは初めてだった。
これまでそれをしなかったのは、単純に忙しかったから。というだけでなく、他者との比較が時期尚早だと考えていたから。
理解する力がなければ、比較は思い違いをするだけで終わる。あのくらい大したことない、俺でもできるという自惚れを生むことになるのを避けたかった。
それで空いた時間をすべて使って、ひたすら個人鍛錬を続けてきた訳だが、そんな俺が初めての見学で抱いた感想は、よく分からんというものだった。
やっぱり俺が分かってないだけなのか? それとも見たまんまなのか?
程度が低く見えた。熟練冒険者と思しき者たちの模擬戦を見ても、サクちゃんを超える強さを見せた者は誰一人としていなかった気がした。
多分、俺とヤス君でもほぼ全員に勝てると思うが、これが自惚れかもしれないから困る。彼らの模擬戦は手を抜いたものだったと考えることにした。
だが、そんなことはどうでもいい。強さよりもっと重要なことがある。
今が機会だと感じた俺は、常々思っていたことを口に出すことにした。
「ずっと思っていたことがあるんだけどもね」
「なんすか?」
「あ、待った。多分、俺も同じことを思ってる」
俺とサクちゃんは同じ方向を見ていた。だからサクちゃんには俺の言いたいことが推測できたのだろう。
「あれだろ。術が飛ばない」
サクちゃんが指差す。その方向には、的に向かって術を放つ若い冒険者たちの姿がある。彼らの放った術は、ちゃんと的に飛んでいく。
俺は腕組みして、への字口でうんと頷く。
「模擬戦ではっきりと分かったことがある。俺たちは誰も術を飛ばせない」
「投げてますからね」
「浮きもしないからな」
全員で術の練習を行っている冒険者たちを見つめる。杖を構えて詠唱し、顔の斜め前方に発生した火球や石塊を飛ばし、的に当てている。
「そもそも、俺たちって術についての知識がほとんどないんだよね」
「リンドウさんに訊くなって言われましたからね。自由にやれって」
「与えられたのは魔力を感じる練習だけだったからな」
試しに水の球を作ってみるのだが、作っている最中は宙に留まっていても、飛ばそうとすると落下する。
サクちゃんに至っては塊を作れもしない。土が真下にバラ撒かれるだけ。
「棒は作れるんだけどな」
サクちゃんの手に、モップの柄のような棒が作られていく。完成するまで五秒ほど掛かるが、十分に武器として使える長さと硬さがある。
「剣とかは?」
「刃物は無理だった。槍はいけるが、鉛筆というか錐みたいになるな」
「ふむ、突き刺す限定ね。斬るってことに抵抗があるからかな? 球体が作れないのはトラウマがあるとか?」
「それはないが、近くにある石を拾って投げた方が良いだろうとは思う。でも斬るのは確かに抵抗あるな。返り血で服が汚れるのは嫌だしな」
「そっちのイメージの方が強くて、無意識のうちに制限してるのかもっすね」
その後の話で、サクちゃんが棒を作る術を使う理由が判明。武器を買ったり直したりするお金を節約したいという思いがあるからだそうだ。
魔力も極力無駄にしたくないし、服もなるべく汚さず長く使いたいとのこと。
確かに、石を作るより手槍を作って投げた方がダメージはあるだろうし、回収する必要もないというのは大きい。成長すれば威力も上がるし言うことなしだ。
「浮けば撃てるんだろうけどな、浮かないから投げるしかない。取り敢えず、考えても分からんから、体を鍛えて投擲力を上げてみた」
「浮かす、か」
俺は足元にあった小石になんとなく魔力を繋いだ。そして手で拾い上げるようなイメージで持ち上げてみた。すると小石が目の前まで浮かんだ。
「ユーゴさん⁉」
「あれ⁉ 浮いたぞ⁉」
「待て、ちょっと待て、ユーゴそれどうやった⁉」
説明すると、すんなりと二人も習得した。
浮かすだけではなく、左右に動かしたり、投げたりも可能だった。
「なんか、撃つって感じじゃないっすね」
「そうだな。投げてる感じだな」
「浮かすというより、見えない手で受け取って持ち上げてる感覚だね。ちょっと攻撃に使えるか試してみるよ」
握り拳をイメージして自分の太腿を軽く殴ってみる。
「うん、普通に感じる。ただ魔力消費量にはまったく見合ってないね。全然痛くないし。攻撃より支えたり投げたりの補助向きって感じ」
「思ったんすけど《念動力》っすよねこれ」
「そうか、超能力か。術とか言われるより、そっちの方が釈然とするな」
「あっという間に全員できちゃうってことは、やっぱり馴染み深さとかが影響するんだろうね。子供の頃、スプーン曲げとかテレビでやってたの真似したなー」
二人とも何度も首肯してくれた。世代の違う二人から共感を得られたということは、超能力の真似事は男の子の通る道なのかもしれないと思う。
「俺なんて大学入ってもたまに手からビーム出す練習してましたからね」
「分かる。アニメの影響でな。今日辺り出るんじゃないかと思うことはあった」
二人が談笑している間、俺は手のひらサイズの水球を生成し《念動力》で目の前に留めていた。水球に一切の動きを与えないように固定して、徐々に水温を下げていくイメージを加える。十秒くらい、眉間が痛くなるくらい思いっ切り集中。
やがて、カチリと何かが嵌ったような感覚があった。俺がやりたいと考えていることが術に反映されたのだと覚る。不思議だが、完成したという実感があった。




