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32.神樹も花咲く絶世の笑顔(2)




 それから半月――。


 カキ氷屋は連日大盛況。


 思いの外、皆の魔力の伸びが大きかった。


 二日後には俺とフィル、一週間後にはヤス君が魔力枯渇に陥ることもなくなり、一日二百食完売が当たり前で、五十食の追加販売も決行した。


「んー、美味しい」


 そう言って満足気に体を震わすのは冒険者ギルド職員のミチルさん。リピーターになってくれた一人だ。そんな彼女が、面白い情報をくれた。


「そういえば、類似品を販売する人たちも出てるみたいですよ。けど、口当たりも味もまるで違うって、ここのカキ氷が逆に評判になってるみたいです」


「ああ、それなら俺も見てきたぞ。あれはこの店のカキ氷を宣伝しているようなもんだな」


 野太い声で言いながら、領主のエドワードさんが顔を出した。彼もまた見掛けによらず甘党らしく、リピーターになってくれている。


 いつも律儀に列に並んで待つのだが、領主は忙しいからという理由をこちらでつけて、先に渡すようにしている。


 アワアワしてしまったミチルさんのように、他のお客さんが萎縮するからだ。


 いるだけで営業妨害。刮目せよ、これがこの街の領主の力だ。


 エドワードさんもそれを分かっているようで、下手に遠慮はせず「すまんな」の一言で済ませて前に出る。誰も文句は言わない。むしろ、どうぞどうぞという感じで、エドワードさんへの尊敬と緊張が見て取れる。


「あの店のカキ氷は、普通より少しキメが細かいというだけだ。舌触りも、味も、接客も、こことは雲泥の差がある。それで同じ価格だからな。話にならん」


「いや、別に張り合ったりしてる訳じゃないんで」


「価格で勝負されなくて良かったっすよ。そっちに流れたお客さんにお腹でも壊されたら面倒っすもん。俺らの所為にされちゃったりとか?」


 ヤス君、君は天才か?


 ヤス君はこういうところが抜け目ない。俺には思いもよらない受け答えだ。そして、それを言う相手がエドワードさんというのが打算的。


 当然、海千山千相手に立ち回ってきたであろうエドワードさんがヤス君の意図に気づかない訳もなく、悪い顔をしてニヤッと笑い鼻を鳴らした。


「それは俺が許さんから安心しろ。お前たちは食堂の基準にしたいほど衛生面に気配りがある。何も心配がない」


「へへへ、言質いただきましたぜ。またご贔屓にっす」


 代官と越後屋かよ。いや領主とカキ氷屋だよ。より格差が出たな。


「エドワードさんは、いつも通り二つでいいですかね?」


「ああ、悪いが頼む。見ての通り図体がデカいのでな」


「了解です。はい、お待たせしましたー」


「早いな!」


 エドワードさんから銀貨一枚を受け取り、既に仕上がっていたカキ氷を渡す。最前列にいたカップルのお客さんに出すはずだったものだ。それを両手に持ってエドワードさんが立ち去り、少し離れたカウンター席に着く。


 元の世界だったら、たったこれだけのことでもニュースで取り上げられて批判されるんだろうなと思いつつ、代金を受け取りカップルにカキ氷を渡す。


 カキ氷屋との癒着。最前列のカップルからカキ氷を奪い取る極悪領主。とか見出しにつけて報道されたりしそうだ。馬鹿馬鹿しい。それはそうとして……。


「んー、とても甘党には見えないんだよなぁ」


「お洒落な紳士的ガチムチレスラーって感じっすからね。激辛料理とか、巨大な骨付き肉が似合うイメージっすよ」


「でも半熊人だからね。似合ってると思うよ」


 フィルの言葉を聞いて、俺とヤス君がハッとする。


「うっわ、そうだわ」


「一瞬でサーモンとハチミツのイメージに変わったっす」


 どうして気づかなかったのだろうか? 何故かは分からないが肩が落ちた。


 ミチルさんとエドワードさんが食堂から出ていくと、入れ代わりにまた見知った顔が現れる。この店が大繁盛する切っ掛けを作ってくれた兎人の女性冒険者クロエさんだ。階級はシルバーで、ノービスの俺たちからすると大先輩になる。


「よっ、今日も来たよ」


 そう言って、こちらに向かって手を振る。俺は苦笑しながら歩み寄る。


「よく飽きませんね?」


「ここのカキ氷に飽きる奴なんていないと思うけどね」


 互いに苦笑する。クロエさんは白髪で肌が褐色、身長が女性にしてはやや高めで、耳を含めると俺たち渡り人組を超える。


 熟練冒険者らしい鋭い目つきで、いつも革の胸当てを着用しており、素人目にもなんとなく良いものだと分かる槍を手にしている。


 勿論、危険がないように穂先に鞘が被せてあるし、そういった武器管理がされてさえいれば、武装して街を歩くことも認められているので何も問題はない。


「クロエさんは、あんまりカキ氷ってイメージじゃないんですけどね」


「あー、それは相棒にも言われたよ。けどユーゴに言われても腹立たしくないね。上品なイメージとか言ってくれるんだろ?」


「ええ、ヤス君もフィルもそう言ってましたよ。クールビューティーだって」


「アハハッ、お世辞でも嬉しいね。実際、カキ氷が似合いそうなのは相棒の方なんだけどね、あの馬鹿、誘っても来やしないんだよ。『カキ氷なんてガキの食うもんだ』なんて言ってね。失礼な奴だよ」


「そういうイメージを払拭できるように頑張りますよ」


 会話しているうちに、クロエさんが最前列になった。


 ヤス君が代金と引き換えにカキ氷を渡す。


「クロエさん、ちょっとオマケしときました」


 ヤス君がこっそりそんなことを耳打ちする。だがヤス君は間違えた。


 クロエさんの耳は頭の上だよヤス君。


 それでもクロエさんにはちゃんと聞こえていたようで、一瞬、驚いたような表情にはなったものの、感謝の言葉と苦笑をヤス君に返して食堂を出ていった。


「間違えました」


「うん、見てた。屈んだから頬にキスでもするのかと思って焦ったよ」


「うわー、そうかー。そういう勘違いされちゃったかもしんないっすね!」


「誤解は解けてるんだから大丈夫でしょ。ユーゴ、そろそろ氷切れそう」


「え、もう? 早いな」


 フィルの削り速度が相当上がったので、カキ氷の生産速度もまた上がる。その結果、時間効率が跳ね上がり、最近では昼過ぎには完売している。


 氷を作る速度は俺の方が上なので、ある程度魔力が減少するまで俺が担当している。その間、ヤス君には氷の維持を任せている。手が空けば接客や器の回収、洗浄、補充などを交代しつつ行っている。


「接客代わりま――あ!」


「よう」


 食堂の出入口から、リンドウさんが顔を出した。




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