29.属性スタンディングオベーション
フィルから昼食に誘われ、冒険者ギルドに併設された大衆食堂に入る。そこでばったりヤス君とサクちゃんの二人と出くわした。
ヤス君は寝坊、サクちゃんは早起きしたので先に冒険者ギルドの訓練場でトレーニングしていたとのこと。
前日に打ち合わせていたらしく、ヤス君も遅れてトレーニングに参加し、洗い場で体を拭いてから昼食をとりに訪れたという。
「洗い場って、まさか見られてないよね?」
「ハハハ、登録後一日で冒険終了っすか? 大丈夫っすよ」
「俺らは背中だしな。壁を背にすれば問題ないんだよ。この中だとユーゴが一番危ないだろ。着物もはだけやすいし」
「まぁ、それは後にして、彼が俺と相部屋になったフィル。俺たちの約一ヶ月先輩の冒険者。術師としてパーティーに入ってもらえることになったよ。ヤス君の言ってた風属性の後衛火力枠」
「え、マジっすか⁉ トントン拍子じゃないっすか⁉」
「流石だな。仕事が早い」
フィルが丁寧にお辞儀をする。
「はじめまして、フィルです。よろしくお願いします」
「あ、ヤスヒト・カタセです。これからよろしくお願いします!」
「サクヤ・マツバラです。よろしくお願いします」
その後、俺がヤス君とサクちゃんの簡単な紹介をしつつ、四人で目立たない隅っこの食卓に移動。取り敢えず何か食べようということでフィルにおすすめを訊いて店員を呼び注文。どのくらいで持ってくるんだろうと話している間に料理が運ばれてきた。「早すぎだろ」とサクちゃんが呟く。全員首肯。
頼んだのはステーキセット。この店の定番メニューだとか。
人参のグラッセらしきものと茹でたブロッコリーが添えられた、厚めの牛っぽい何かの肉。そこにポトフのような具沢山な野菜のスープとおかわり自由なパンが付いてくる。
自由と謳いながら、おかわりしすぎると煙たがられて仕舞いには店主に殴られるとの噂があるとフィルが言った。俺とヤス君が爆笑。まだおかわりをしたことがないらしいので真偽のほどは定かではないが、早いし美味いし腹も膨れるので皆大体これを食べるとか。
「でも毎日この味じゃ飽きない?」
「ソースを変えられるから割と大丈夫。寮暮らしの新米冒険者は、ほとんど毎食こればっかりだね」
しかし何の肉なのか。
フィルに訊くと、ムーカウという牛に似た魔物だという。
闇属性所持者のみが扱える従魔術で家畜化しているのだとか。
そのムーカウ肉のステーキセットを食べながら、俺は二人に何をしてきたか話した。
最初に話したのはヨナ婆さんの薬屋。こちらの反応はさほどでもなかったが、次に話したエノーラさんの武具店には二人とも大きな興味を示した。
「下着は欲しいっすね」
「確かに。いくらすぐ洗って干せるからって手持ちの二枚だけじゃきついよな」
「劣化はどうしようもないっすもんね。あ、服はどんなのがありました?」
「色々あったよ」
質疑応答。
ヤス君はツナギ、サクちゃんは作務衣が欲しかったらしく、似た物が置いてあったことを伝えると喜んでいた。
次は属性。サクちゃんは光属性の取得に興味を示したが、ヤス君は闇属性を得るつもりだという。
「へぇ、意外。ヤス君は光にすると思ってたよ。なんで闇にするの?」
「回復術使えないのは痛くないか?」
「んー、それも考えなかった訳じゃないっすけど、多様性があった方が良いと思うんすよ。戦闘スタイルは自然とそれが生まれてたんで気にしなかったですけど」
「俺が前衛、ヤスヒトが後衛、ユーゴは……どこでもできるな。確かに、打ち合わせもなく見事にバラけたよな」
顎に手を遣って、神妙な顔をするサクちゃんを見て、ヤス君が苦笑する。
「俺は超助かりましたけどね。前衛なんて絶対無理だし、ユーゴさんみたいな動きも無理。能動的に後衛を選んでも許された上に、文句も言われませんからね」
「言えないよ。弓の的中精度とか諸々凄いからね。俺の立ち位置が一番器用貧乏臭くて、これで大丈夫なのか不安になることがあるよ」
「話を聞く限りだと一番どこのパーティでも入れそうだけどね」
フィルの言葉に、サクちゃんとヤス君が「だな」「そっすね」と同意する。
出てけってこと?
俺は増大した不安を打ち消すように、軽く咳払いして口を開く。
「でも、ヤス君は後衛だから視野も広くなるし、やっぱり回復支援が最適じゃないかと思うんだけど?」
サクちゃんが俺に賛同して首肯する。ヤス君は肩を竦めて戯けてみせた。
「二人が自前で回復できるなら別にいらないかなって。闇術ってリンドウさんみたいに転移もできますし、戦闘外での支援に徹しようと思ったんすよ。俺戦うの苦手だし、後衛の割に火力もないんで」
「なるほどな。確かにできることは多い方がいいもんな」
「てか、闇属性ってどこで取れるんすかね?」
ヤス君の質問に答えられるのはこの場に一人しかいない。自然とフィルに視線が集まる。
二人とのまともな会話が初めてのフィルは急にお鉢が回って緊張したようで、若干そわそわしている。
「見苦しいぞフィル。知らないなら知らないでいいから、可愛い子ぶってモジモジするのはやめなさい」
「う、うるさいな。知ってるよ。今から言うんだよ」
「ユーゴさん、なんかフィル君にだけ厳しくないっすか?」
「ああ、俺も思った」
困惑気味の二人にフィルが元アメリカ人の転生者であり、俺たち同様訳ありなこと。迂闊に種族名は出せないことと、あちらとこちらで生活した年数をトータルすると俺と歳が同じであることを説明する。
ちなみに説明したのはそれだけ。他は不要なことだと思ったので避けた。
とはいえ決してフィルのプライバシーを守ろうとした訳ではない。
ただ面倒臭かっただけだ。
説明後は予想通り、二人とも目を見開いて驚いていた。
「へー、そうなんすね」
「二度目の人生か。しかも、あー、その、何だ、恵まれた混血なんて、小説の主人公みたいだな」
「それ俺も思いました。マジでちょっと羨ましいっすもん。美形だし。あ、すいません話の腰折っちゃって。取得場所の話、お願いします」
フィルは二人の反応がお気に召したのか嬉し恥ずかしといった様子で頷いた。
「う、うん。え、ええっと、光はイノリノミヤ神社でしょ、闇はアルネスのダンジョン近くにある毒沼のほとり、水は海の洞窟の中で、風はちょっと遠いけど、東にあるカナン大平原で暮らす遊牧民の集落で取れるって聞いてる」
「ハハハ、分かっちゃいたけど聞いても分からない場所ばっかりだね。行くとしたら完全にフィル頼みになっちゃうけどお願いね。それで、あとは何だっけ?」
「火と土だな」
「その二属性は、ウェズリー山っていう火山にあるドワーフの国で両方取れるって話。エルフとドワーフは種族的に関係がアレだし、火属性取得はエルフにとって禁忌とされてたから詳しくは知らないけど」
「エルフって火属性を取ると何かまずいんすか?」
フィルが小首を捻って腕組みし、難問に挑んでいるかのような顔をする。
「んー、僕はそうなったエルフを見たことないんだけど、里から永久追放されるみたいだよ。あと、種族適性崩壊に依る変異が起きて、肉体と精神に深刻な影響が出るとかいうのは本で読んだ」
「あれじゃないか? 俺たちも固有属性持ちで外せないって言われただろ?」
「ホウライは水、クンルンは土を無理に外すと死ぬってやつだね。でも、エルフの固有属性は風じゃないの?」
「エルフは森の民だから、土を固有属性に持って生まれてくる場合もあるよ。外すときは対立属性が自動的に取得されるから、死ぬことはないし土と風の交換もできるんだ。だから固有属性は関係ないと思う。多分、種族的に火属性を受け入れるようにはできてないんだろうね」
どうやら、種族によって体が受けつけない属性があるようだ。ハーフエルフはどうなのか訊いたが、分からないし取るつもりもないとフィルは答えた。
「仮に取れたとしても、里に出入りできなくなるのは嫌だからね。お世話になった人もいるし」
「そんな人いたの?」
「いるわっ! 今でもいるわ! いたって過去形もおかしいだろ!」
テーブルを叩いて立ち上がったフィルを見て三人で笑う。
「ツッコミ早いっすね。しかも細かいし的確」
「リアクションが完璧だな。ちゃんと話を聞いてないとできないぞ」
「これでまだ子供なんだから末恐ろしいよね」
「僕は二十歳だっ!」
ヤス君が徐ろに拍手しながら立ち上がる。俺とサクちゃんも顔を見合わせながら頷き合い、それに続く。
俺たちのテーブルでフィルを喝采するスタンディングオベーションが巻き起こり、他の客からの注目が集まる。
フィルは真っ赤になってむくれたが、すぐに小さく噴き出して笑い出した。
「ねぇ、日本人ってさぁ、皆君たちみたいに馬鹿なの?」
「いや、そんなことはないと思う。俺も二人に乗せられただけで、こんなことをしたのは生まれて初めてだからな」
サクちゃんが蛋白に言い早々に席についたので、全員静かに座り食事に戻る。
まるで今のが夢であったかのように。
「あ、そうだ。土だけなら隣町の炭鉱でも取得できるみたいだよ」
「土かぁ。ユーゴさんはあと一つ何取るつもりっすか?」
「風で決定してるね」
「じゃあ、俺はユーゴさんが取らない土と闇にしますわ」
「なら、俺は二人が取れない火だな」
それぞれ取得する属性が決まったところで、最初はどこに行くかという話にベクトルが向いた。
光属性はアルネスの街で取得できるので、ヤス君以外は二属性持ちになる。
「闇属性の祠って近い?」
「歩いて四半日もあれば着くね。少しはダンジョンに入る時間も取れると思う」
「細かいようだけど、四半日の認識は六時間でいい?」
フィルから、それでいいよ、との返答があったので誤解なく擦り合わせ終了。比較的近場にあるということもあり、ヤス君の闇属性取得がてらダンジョンにも挑戦しようという話でまとまった。




