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27.武具店の事情と自由な信仰を話し光の祠で終える(2)




「それで? 今日は紹介に来てくれたのかい?」


「それもですけど、服が見たくて」


「え、服⁉ 服が置いてあるんですか⁉」


「何を驚いてるんだい。さっき言ったじゃないか、仕立てもやってるって。既製品でいいなら見ていきなよ。ただちょっと今は他のお客さんがいるからね。悪いけどフィルに案内してもらっておくれよ」


 はい、と返事をして、フィルの先導で広い店内を歩く。


 多くの武具が整然と陳列してあるが、少し進んだところで階段があった。そこを上ると、雰囲気が一変。あっという間に服屋に変わった。


「あ、俺次第ってそういうこと?」


 ふと思い出して訊ねると、フィルが苦笑して頷いた。


「うん、僕もここに来たついでに下着や手拭いを買いたかったからね。ユーゴの反応次第じゃ時間が掛かるんじゃないかと思ってさ」


「んー、否めないねぇ。ニ着しかないからねぇ」


 元の世界の衣服は目立つだろうということで、下着以外は焼却処分した。サクちゃんは思い入れがあるからと登山靴も残したが、今のところ異空収納に入れっぱなしになっている。着物には合わないから仕方がないのだが。


 渡り人組はリンドウさんのお古の着物と肌着、トランクス型の下着を二着ずつしか持っていない。そういうこともあって、俺はリンドウ邸にいた頃からずっと服が欲しかった。敢えて誰も口に出さなかっただけで、二人もきっとそうだと思う。


 店内にはありとあらゆる服が揃えられていた。靴や鞄、帽子に手拭いなどの小物も取り扱っていて、ここに来るだけでファッションや生活に関わる物が一通り揃ってしまいそうだと感じた。


 ちょっとしたコスプレイヤー御用達店なきらいがあるように見えてしまうのは俺が日本人だからということで置いておく。それにしても元の世界にあってもおかしくない服が結構あるのには驚く。ツナギなんかはほとんどそのまんまだ。


 まぁ、着物とスーツもそうなんだけども。


 今更か、と思いつつ店内を物色。フィルは既に選んだ下着と手拭いを手にして俺の後をついてくるだけになっている。


 早くしろよというげんなりした視線が向いているように感じたが無視。だが、唐突に恋人のショッピングに付き合わされたときの気持ちを思い出し、俺は焦った。そんな気持ちをフィルに味わわせてはいけない。


 だってこれはデートじゃないんだから!


 突如として噴き出した変な汗を袖で拭いながら、目をつけていた標準的な洋服上下を一着ずつとブーツを一足。トランクス型の下着と肌着を二着ずつ抱え、二階のカウンターに向かう。女性の店員さんに提示された金額は金貨一枚。


 よしピッタリ。


 そうなるように値札を見て選んだのだから、そりゃそうなって当然なのだが、間違ってたときに指摘する為にしっかりと計算する癖はつけている。


 これは日本にいたときにスーパーの店員に金額を間違えられて損した経験から身についたものだ。ヒューマンエラーはどこでも起きる。この世界も例外ではない。というよりこっちの方が多そう。レジもないし。


 俺は金貨一枚を支払い、商品を受け取ろうとした。だが、女性店員が少々お待ちくださいと言い、今しがた購入したばかりの俺の服から何かを剥がした。


「あれは盗難防止用の呪符だよ」


 フィルが横から小声で教えてくれた。そこで俺は自分がどれだけ抜けているのかを覚った。俺の頭の中には盗むという発想がまるでなかった。とんでもないお人好しのお馬鹿さんだ。明らかに経営者向きではない。


 考えてみれば、監視カメラもないし警備員もいないのだ。その上《異空収納》なる術まで存在する。何らかの対処法がなければ、こんな店を構えることなどできないだろう。警戒心のなさ、ここに極まる。


「俺って、馬鹿だったんだなぁ……」


「え、どうしたの急に。知ってるけど」


「昨日知り会ったばかりの相手に掛ける言葉じゃないよね」


 接客中で忙しそうなエノーラさんに簡単な別れの挨拶を済ませて店を出た後で、俺は自分の阿呆さ加減にうんざりしたことをフィルに話した。


「まったく馬鹿じゃないよ。それでよかったんだよ。行動する前に僕にどうなるのか訊くだけなら問題はないけど、もし試しに《異空収納》に入れてみようとか黙ってやっちゃってたら、それだけで牢獄行きだったからね」


「まぁ、そりゃ捕まるのは分かるけども。罪は重いの?」


「どんな刑罰を受けるかは知らないけど、牢に入るのは確かだね。でも、後遺症の方が酷いかも。あの呪符は侵食型で、店員以外が剥がしたり、店から持ち逃げしたり《異空収納》に入れた瞬間、その術者の魔力に反応して末端部から呪いに染まっていくんだって。数秒で指先から真っ黒に染まっていくらしいよ」


「真っ黒に染まるだけ? それなら強めの日焼けサロン気分なだけじゃない」


「そんなのあったら皮膚ガンまっしぐらだし、呪いなんだから黒くなるだけな訳ないでしょ。僕が聞いたのは魔力経路が呪いで埋まって術が使えなくなるってことだけ。ここからは推測だけど、この世界じゃ魔力も血液みたいに体を巡ってるから、その経路が詰まるってことは、破裂の危険があるってことじゃないかなって。そうならなくても、魔力は滞ると具合が悪くなるし、酷いと壊死するから、そういった症状に苦しむことになると思う」


「うわエグ。何それ、めちゃくちゃ怖いんだけど」


「安心しなよ、あの呪符はエノーラさんの店にしかないから」




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