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23.食事会の後は同居人との会話で明るい未来予想(2)




 厨房は色んな匂いが混ざって食事に支障がありそうだったので、残りの切り身を執事に収納してもらって、全員で食事室に戻った。


「では」


 エドワードさん、ヤス君、サクちゃん、そして執事とメイドたちの分まで一応作った。全員が食卓に着き、エドワードさんの一言に合わせて料理を口に運ぶ。


「う、美味い」


「んー、ちゃんと食べれる味っす」


「あれがこうなるか」


 エドワードさんと執事とメイドたちは驚愕。ヤス君とサクちゃんは驚いてはいるけど、そこまでじゃないといった感じ。


「凄い、これは凄いぞ。ユーゴ、想像以上だ。まさかディーバラがここまで美味く化けるとは思わなかった」


 エドワードさんの歓喜の言葉を、俺は両手の臭いを嗅ぎながら聞く。


「この臭いの酷さ、廃棄部分の多さ、身が柔らかいので調理の難しさ、それに言うほど美味しくもできてませんし、問題は多くありますよ」


「いや、そんなことはない。こいつは相当な厄介者だったんだ。量はとれるが、この臭いだ。当然売り物にはならんので、どうにかするしかないんだが、とった漁師ですら飯にしなかった。それで海に廃棄されるようになったが、魔物が増えて漁獲量が減った。陸に捨てるのは、言わずもがな、だな」


 火術で焼却するにも悪臭が立ち上り、専用施設を設けても働き手が続かない。家畜や従魔の餌にすることも考えたらしいが、いくら従魔とて好みはあるらしく、何でも食うのはゴブリンくらいなものだとか。そして陸に捨てるのは言わずもがなというのは、このゴブリンを大繁殖させてしまう危険性があるということだろう。


 ディーバラ、なんて怖ろしい魚なんだ。


「とにかくだ、これがこのような水準で食えるようになるのは本当に助かる。ただ、な。少し気になるんだが、ヤスヒトとサクヤはこんなに美味くなったのに偉く反応が薄いな。それが俺には不思議なんだが」


「いや、そりゃそうっすよ、ユーゴさんの料理はこんなもんじゃないって知ってますからね」


「これは料理というより実験だと思うので。ユーゴからしてもその感覚だと思いますよ。多分、今頃新しい発想でも出てるんじゃないですかね?」


「買いかぶり過ぎだけど、まぁ、そうだね。臭いのは皮目の方の肉だから、漁でとってすぐ異空収納に保管して、加工所で切り身に解体したあとで、すり身にしちゃうのが一番だと思う。廃棄部分の処理はミンチにして沖の方で分散するように撒き餌として使って魔物を散らしたり、むしろ嫌がる魔物がいるなら田畑の魔物避けに使ったりとかもできるんじゃないかな。多分、皮目の方の脂肪の臭気が酷いから絞って抽出した油を何かに付着させたりすれば効果が望めるんじゃないかと」


「ま、待て待て、待ってくれ! すまんがユーゴ、今の話を、もっと詳しく聞かせてもらいたい。あと、食材次第では、もっと美味いものが食えるというのなら、悪いが、何でも構わんから料理を作ってみてくれないか? メイドに見せてやって欲しいんだ。効率の良い調理法などもあれば教えてやって欲しい」


 俺は了承し、再び厨房に入った。そして適当な食材を出してもらい、それらを使ってすき焼き風の煮込みを作り、白米と一緒に出した。


 うん、味は上出来。


 エドワードさんはおかわりを五回も行い、ヤス君とサクちゃんもおかわりを三回してがっついた。食事が終わる頃には、特例で一緒に食べていた執事とメイドたちも恍惚とした満足げな表情を浮かべていた。


 その後、執務室でエドワードさんからの質問に答えつつヤス君とサクちゃん交えて談笑。食事会に誘ったのに、こんなことになって申し訳なかったと謝礼金を出されたが、丁重にお断りした。俺は料理人ではないし、素材は領主館の高級な物を使わせてもらったのだから、それで十分。


「欲のない奴だ」


 エドワードさんはそう言って笑ったが、なんとなく嬉しそうに見えた。俺たち三人の印象が少しでもよくなったのなら、俺も頑張った甲斐があるというものだ。


 損して得とれ。今後はこのアルネスの街を拠点として生きていくのだから、領主様との関係は良好に保っておきたい。そういう打算は、部屋に帰った後で同居人のフィルに話した際に、あっという間に見抜かれた。


「ふふっ、なんていうか、ユーゴの性格が少し分かった」


「ハハハ、まだ会って半日も経ってないのに何言ってんの?」


 俺たちは苦笑しながら談笑を続けた。


 フィルは前世ではアメリカ人女性で、アシュリー・クーパーという名だった。性同一性障害持ちでバイセクシャルの属性過多だったとカミングアウト。性的指向は引き継いでいるらしいが、気づいたら男性としてこの世界に転生していたので図らずも性同一性障害は克服したことになる。ちなみに死因は不明とのこと。


「風邪気味だと思って病院で診察を受けたんだけど、薬局で貰った薬を飲んで寝たらこっちに転生してたんだよ」


「じゃあ、貰った風邪薬が死因で決まりじゃない」


「それは早計だよ。確かに僕が死んだ原因はその薬の可能性が高いけど、それが風邪薬だったかは分からないでしょ? 診察した医師のミスなのか、薬を渡した薬剤師のミスなのか、単に体に合わなかったのかもしれないし、そもそも薬が関係あるのかも分からないんだよ」


「おー、確かに。自然死もあるのか。手渡された薬が違ってたら、風邪薬が死因ではなくなって別の薬が死因になるし、ややこしいね。それで死因不明かぁ。でもあれだね、これって事件性が可能性に出てくると、また気分が変わってくるね。犯人がいたのかとか、動機とか考えちゃってモヤモヤする」


「僕は殺人であったとしても、今の自分の状況に満足してるから気にならないけどね。でも、昔の環境に置かれたままだったら相当恨んでたかもしれない」


 唐突に、フィルがハーフエルフに対しての見解を述べた。それによると、ハーフエルフは神の不手際の救済措置で、急拵えの魂の器とのこと。


「えーっと、それはつまり、神様がフィルを間違って死なせちゃったから生き返らせたいけど、それは無理だから別世界に転生させて、お詫びに少し優遇したいから外見も中身もよいハーフエルフに転生させたってこと?」


「中身は僕だからよいのかは分からないけど、まぁそういうこと。寿命も長いし能力も高いそうだから、なんとなくそんな気がするんだよ。神に会ったことはないから本当のところは分からないけどさ」


「意外と他にも結構いるかもよ?」


「ないね。僕は人生の大半をエルフの里で過ごしたけど、僕の他にハーフエルフって存在を見たことがないし、勿論、ラグナス帝国でも見たことがなかった。長老からも、人とエルフの間に子ができることはほぼないとも言われてね。そうじゃなきゃこんな結論に至ってないよ」


 ハーフエルフは、性奴隷となった、或いは強姦されたエルフが急に身籠ることで誕生するパターンが主で、フィルは前者だったという。


「僕の母親の主人、つまり父に当たる人物は人を人とも思わないクソ野郎でね、聞いても楽しくない話だから省くけど、随分と酷い目に遭わされたんだ。でも、そのクソ野郎の兄が凄くいい人で、いつも庇ってくれて、僕がある程度一人で動けるようになった頃に、隙を見て僕と母を逃してくれたんだよ」


 その恩ある伯父はラグナス帝国にいるというが、会って礼をしたいと思っても、成長の遅い身では一人で国境を越えて伯父に会いに行くのは難しく、歯痒い思いをしているという。


「クリス王国と違ってさ、ラグナス帝国は強い亜人差別と奴隷制度があるから、特に厄介なんだよ。エルフでも相当警戒が必要なのに、僕なんてハーフエルフだから、気づかれたらそれだけで一巻の終わりって感じ」


「それに関しては俺たちも同じ状況なんだよなぁ。もし渡り人だって話が広まったら、命を狙われる危険があるからさ」


「知ってる。大帝の最期でしょ? 読んだけど、カニバリズムで不老不死なんて発想がおかしいよ。ザラス大帝は食べたものと同じ力を得るスキルを所持していたって書いてあったけどさ、仮にそうだとしても、ホウライもクンルンも不老不死ではないからね」


「俺はザラスの側近に、ザラスのことを馬鹿にしてる愉快犯がいたんじゃないかと思ってるんだ。適当に嘘吐いて『うわぁ、こいつ本当に人肉食いやがったよ、ケケケ』って陰で笑ってたんだろうなって」


「その発想はなかった。ちょっと怖いよ」


 目に見えてフィルに引かれたので、俺は咳払いで茶を濁す。


 冗談だったのに。


「それはそうとさ、純愛の果てに生まれてきたハーフエルフがいないって本当? 少し考えちゃって」


「んー、エルフと人の恋愛に関してはなくはないと思うけど……」


 フィルいわく、種族の壁を越えて愛し合う二人はいたし、今でも存在しているが、子供を授かったという話は一切聞いたことがないそうだ。


 訊いておいて何だが、実はそこまで興味がなかった。ハーフエルフが稀な存在だという話は既に聞いていたし、別に疑っていた訳でもない。ただ単に引かれたことを何とかしたいと思って適当に喋っただけだ。


 その間に次の話題を考えるつもりだったが、思いの外早く終わってしまったので、どうしたものかと思いながら、話の接穂に前世の年齢についても訊いてみた。


「僕の死んだときの歳? 今と同じ二十歳だよ?」


「なんですと⁉」


 現在は前世と合わせて四十歳ということ。奇しくも俺と同じ。こっちに来たときに若返ったことを伝えると「君は僕以上に稀な存在だね」と笑われた。


 見た目年齢は十歳だが、ヤス君とサクちゃんよりも親近感が湧いた。生まれた場所も環境も違うが、同年代であるという部分は大きいのかもしれない。


「ところで、ユーゴたちはなんで冒険者になろうと思ったの? 神職に就いた方が安全だったのに、敢えて危険な方を選ぶって、変わってるよ」


「いや実は一緒にこっちに来た仲間がちょっと面白い推論を出してね、それを確認しに行く大冒険をしてみたくなった訳だよ。というか、危険ってのはフィルにも言えることなんじゃないの?」


「まぁ、そうなんだけど、それでも僕は伯父さんにお礼を言いたいって思ってるんだよね。もう助けられてから十五年以上経っちゃってるし、伯父さんは五十代くらいになってるのかな? 歳が分からないから、何とも言えないんだけど」


「なるほどねぇ。時間の流れ方が違うって、そういう弊害も出てくるのか。じゃあ、冒険者になった理由も?」


「そうだね。伯父さんくらいしか理由はないね。あとは、強いて言えばだけど、エルフの森に引き取られて、愛されて育ったっていう自覚はあるんだけどさ、やっぱり偏見もそれなりにあってね、だから里を出て自立した感じかな」


 フィルはそういった目的も相俟って、物心ついた頃から術を鍛えてきたとのこと。俺はそれを聞いてすぐさま師事を願った。フィルは快く引き受けてくれたが、所持属性は光と風。水はなかった。


 俺が項垂れると、フィルが苦笑してまぁまぁと言う。


「確かに所持している属性は違うけどさ、それでも教えられることはあると思うから。それに、光はこの街の教会で取れるし」


「え⁉ そうなの⁉」


「う、うん。僕もそこで取ったし。もし欲しいなら、明日一緒に行く?」


 俺は一も二もなく「行く!」と叫んで頷いた。フィルがまた引いていたが、知ったことではない。俺は新たな属性、しかも光を得られる歓喜に打ち震えていた。


 これまでどれだけ暗い場所で体をぶつけてきたことか。どれだけ足の小指が衝突事故を起こしてきたことか。うぐぁ! と呻いて床に倒れ伏し、悶絶してきた過去が蘇る。明かりがあれば、もうそんな心配はない。


 未来は明るい。


 そうと決まれば、あとは寝るだけ。俺は異空収納から浴衣を取り出して素早く着替え、早々に寝床に入った。


「フィル、明日は早いぞ。おやすみ」


「君って結構現金だよね。おやすみ」


 呆れたように肩を竦めて寝床に入ったフィルだったが、五分ほどで静かな寝息が聞こえてきた。俺はというと興奮して寝れなかった。でも仮に起きれなかったとしても、この小さな同居人なら叩き起こしてくれそうだと思った。


 フィルの寝顔を見ていると、金髪の眼鏡を掛けた若く可愛らしい女性に見えた。多分、前世の姿なのだと思う。


 そういう錯視が起きるほど、俺たちは相性が合うのかもしれない、などといい加減なことを思っているうちに、段々と眠気が襲ってきた。


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