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17.スミレさんが女子会好きなのは多分本当(1)




「この街の領主をやっている。エドワード・マクレーンだ」


「この冒険者ギルドのマスターをやっているジオ・マクレーンだ。リンドウさんから話は聞いている。まぁ、掛けてくれ」


 ジオさんに手で示され、俺たち三人は緊張しながら並んで長椅子に腰掛ける。尻が軽く沈んで驚く。この世界に来て初めて座る柔らかいソファーだ。


 普段なら「柔らかっ」と何の面白味もない感想の声を思わず上げていてもおかしくないが、なんとそれが出てこない。そんな自分への驚きの方が大きいくらいだから、別にTPOを弁えたとかそういった殊勝な心掛けがあった訳ではないのは確か。多分、体が強張りすぎていてそんな小さな驚きなど霞んでしまっているということだろう。言ってしまえば受動的行為。こちらが弁えたのではなく、あちらに弁えさせられているという状況だ。


 とはいえそれは、飽くまで俺が勝手に萎縮しているというだけの話。ヤス君とサクちゃんも俺と思いは同じなようで、顔色が悪く、非常に居心地の悪い思いをしているのが分かる。せめて目の前のエドワードさんとジオさんの外見が威圧的でさえなければ、もう少し落ち着けていたと思う。


 エドワードさんとジオさんは共に半熊人。エドワードさんが赤毛、ジオさんが黒毛で二人とも身長が二メートルはある。筋骨隆々とした体躯でやや毛深く、獣耳がないので事前に聞いていなければ熊人との混血だとは分からなかっただろう。


 ジオさんは街で見掛けた冒険者的な風貌で、気さくな感じが滲み出ているので、まだ親しみやすそうに見えなくもないのだが、問題はエドワードさんの方。


 高貴な服のフィット感が凄い。似合うという意味と、密着しているという意味の両方で凄いのだ。そのパツンパツンの威圧感といったらない。目の前で破けてしまうのではないかとヒヤヒヤする。精悍な顔立ちも相俟って威厳が目に見えるようで、俺たちが萎縮する原因の大半はおそらくこの人の所為だと思う。


「では私はこれで」


「ああ、後はこちらでやっておく。ご苦労だった」


「リンドウさんによろしく言っといてくれ。ジオがまた飲みに行きましょうって言ってたってな!」


 スミレさんが一礼して部屋を出ていく。それを俺たち三人は軽く頭を下げて見送る。口と喉が乾いて感謝の言葉も上手く出せないし、表情筋も言うことを聞かないので、スミレさんから見た俺はとても不気味だっただろう。軽い笑顔を向けたつもりだったが、去り際に気の毒そうに微笑まれたので多分そうなのだと思う。


 正直、まだ諸々しっかりと把握できていない。


 何故、俺は、いや、俺たちはこんな状況に置かれているのか。


 一時間前、俺たちは無事リンドウさんが呼んだ辻馬車を見つけ、御者と顔見知りのスミレさんがいたお陰で難無く乗車、カラカラパカパカいう音を聞きながら体を細かく揺らされていた。


 道中、賊や魔物の襲撃が起こるのではと密かに警戒していたのだが、そういったことが起こることもなく、俺たちを乗せた辻馬車は、アルネスの街を覆う巨大な防壁が見えるところまですんなりと到達した。


「うーわ、でっか」


「いやー、これぞ異世界って感じっすわー」


「凄いな……」


 感嘆の声を上げたり息を漏らしたりとそれぞれが反応したが、話がおかしくなったのはこの辺りからだった。俺たちはアルネスの街の門で辻馬車を降りると思っていた。そしてリンドウ邸のある森の方へと進んでいく辻馬車と、それに乗ったスミレさんとの別れを惜しみながら手を振って見送るはずだった。


 その後の計画も立てていた。街に着いたら俺たち三人で協力し、冒険者ギルドを探して登録を済ませ、どうにか宿を確保する。


 簡単で漠然としたものだが、詰めようがないので仕方がない。その場で何とか対処していく他ないという覚悟だけはしっかり持っていた。


 ところが辻馬車は止まらなかった。門兵も御者と挨拶を交わすように軽く手を上げただけで、何のチェックもせずに門を通らせた。流石におかしいと思いスミレさんに訊いたところ、俺たちが冒険者になる道を選択する可能性を考慮し、リンドウさんからアルネスの街側に話が通してあったことを明かされた。


「えーっと、すいません。ちょっとよく分からないんですが、街側に話を通すって、どういうことでしょうか?」


「この街の領主に話を通してあるということです。冒険者ギルドのマスターにも通してあるとのことなので、皆さんは何も心配することはありませんよ」


 スミレさんは微笑んでそう言ってのけたが、俺たち三人は目が点になった。


 通した内容は、俺たちをアルネスの街の冒険者として登録させること。その際、俺たちが渡り人であることが周知されないように配慮すること。冒険者ギルドの運営する新米冒険者専用寮に住まわせること。そして俺たちを気に掛けること。


「それって、いつから通してあった話なんですか?」


「皆さんが来られた日の翌日なので、約一月前ですね」


「一月前⁉」


 俺たち三人は驚きの声を揃えた。結構な大きさの声が車内に響いたが、スミレさんはまるで表情を変えずに「はい」と首肯した。俺たちがこういう反応をすることが織り込み済みであったと言わんばかりに。


「りょ、寮の部屋とか、押さえてあったってことっすか?」


「はい。リンドウ様には造作もないことです」


「一月部屋を押さえるのが、造作もない?」


「ええ。リンドウ様はこの街の領主と同じく公爵位を持っておられる上、このクリス王国の元筆頭術師の地位にも就いておられました。また王都クリストミラーでは守護神や英雄とも呼ばれておいでですので、何かと融通が利くのですよ」


 俺たちはここでも思い違いを改めさせられた。魔素溜まりの処理がなかったこの一ヶ月というもの、リンドウさんは日がな一日ごろごろと過ごしていた。たまに俺たちの鍛錬の様子を見に来て労ったり、魔物を間引きに行ったりはしていたが、そこまで力のある人だとは思っていなかった。


 頻繁に欠伸をしたり横になって尻を掻いたりしている姿を見ていたし、俺たちに術を教えることもなかったので、天才術師というのも怪しく思っていたのだが、スミレさんによると、それも俺たちが萎縮しないようにとの配慮だったという。



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