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15.短い間でもこうなるのは人柄が良いのが集うから(2)




 結論、ここの子供たちは天才。


 天才といえば一家の大黒柱であるリンドウさん。初日に砂浜で恥ずかしげもなく天才術師を自称した、俺たち渡り人三人衆の救世主だが、なんと術に関してほとんど何も教えてくれなかった。


 何故教えてくれないのかをヤス君の推測に頼ったところ、何か理由があるのだろうから深くは訊かずにおいた方が無難という意見が出たので、まぁヤス君が言うなら間違いないだろうと特に不満も抱えず過ごしてきた。そういうこともあり、俺とヤス君は《異空収納》しかまともに使えない。


 しかしながらこの術、実はもの凄く難しい術だそうで、半月ほど前、三人が三人とも突然使えるようになっている状況を目の当たりにしたリンドウ一家は何が起きたと言わんばかりに呆気にとられていた。


 それもそのはず、リンドウ一家では大人三人しか習得できていなかったのである。加えて、リンドウさんたちが習得したばかりの頃の容量と比べ、俺たちの《異空収納》の容量は倍以上あったのだ。


「いつから練習した? 習得に掛かった時間は?」


 焦ったような様子のスズランさんにそう訊かれたが、俺たちの答えは五分だった。答えた直後、リンドウさんとスズランさんが崩折れ、両手両膝を地面に着けて戦慄いたのには驚いた。


 難儀したという話は聞いていたが、割とすぐにできた為に話を盛られたと思っていたのだが「わしの苦労は何やってん……」という悲痛な呟きが聞こえたので、やはり相当に難しいのだとそのときに自覚した次第。


 さてその《異空収納》が使えた切っ掛けだが「ある程度魔力量が増えたし、何か適当に試してみようか?」という俺のしょうもない提案だった。そこにヤス君が無駄に勢いをつけて「いいっすね! やりましょう! サクやんも!」とサクちゃんを強引に巻き込んで乗っかり「使うなら、やっぱり《異空収納》だろ」と渋々な感じを出していたサクちゃんが意外にも新たな提案まで持ち込んだことで流れが完成。


 これはよい暇潰しになりそうだと、せーの、の掛け声で一斉に手に魔力を込めて念じたら即座にできてしまったという訳だ。何か出た! と小型の円形ブラックホールのようなものを前に三人で大騒ぎしたのはいい思い出。


 習得する術の提案者であるサクちゃんが術を上手く維持できずに少し手間取ったが、俺とヤス君でコツがイメージであることを伝えたらすぐにできた。ちなみに俺は巨大冷蔵庫と真空パック、ヤス君はゲームのアイテムボックスとインベントリをイメージした。それを伝えた後にできたサクちゃんはコンテナと布団圧縮袋をイメージしたらしい。人それぞれだな、と思う。


 そういえばそのとき、サクちゃんは土で棒を作れるようにもなった。普段、武器習熟の為に鍛錬で使っている棒をイメージしたらできたという。俺とヤス君も真似してみたが、生成されたのは歪んだ細い氷柱で、手にしただけで折れてしまうほど脆かった。


 サクちゃんの作った棒は鉄のように硬いのに、どうしてなのかという話になったが、ヤス君の推測は「普段使ってる物をモデルにしてるからでしょ」というものだった。それならヤス君は弓矢をイメージしてみたらどうかと提案したのだが「弦を作るのは無理っぽいですし、矢を氷で作るくらいなら普通に遠距離術を放つ練習した方がいいと思うんすよね」という正論を返された。確かに。


 他にも色々とあったが、散文的に思い出される内容を整列させることは難しいしきりもないので、そろそろ現在に思考を切り替えることにする。


 話し合った結果、俺たち渡り人三人衆は冒険者になることを決めた。理由は元の世界に帰る為、というのは建前で、ヤス君が初日の夜に話したイノリ・ノミヤ説が気になったから。もしまだ生きているのだとしたら、お礼も言いたいし、どんな冒険をしたのかも聞いてみたいと、年甲斐もなく胸を躍らせている。


 マモリになる道も考えなかった訳ではないが、仮にそうした場合、ほぼここで俺の一生が完結してしまうという事実が受け入れ難かった。


 こうして異世界に転移するという奇跡に遭遇したのに、最初に訪れた地点だけで一生を過ごすのは酷く勿体ない気がした。


 ヤス君とサクちゃんも同じ気持ちだったようで、それなら三人でパーティーを組んで、大冒険をしようということになった訳である。


 ただヤス君が言うには、このままでは少々心許ないという。何が問題か訊いたところ、遠距離火力役が一人欲しいとのこと。自分だけでは足りないとヤス君が言うのならそうなのだろうと俺とサクちゃんは納得。


 それなら冒険者活動を開始した時点でパーティーメンバーの募集を行えばよいということで話は決まった。細かい条件についても話してくれたが、ヤス君が望む人材はリンドウさんのような風属性の術師だとか。


 次点は火術師だが、狭い場所だと危険の方が大きそうなので、できれば妥協はしたくないとのこと。当面は三人での活動になりそうだ。


 身体能力値が平均三十あれば、小型の魔物や野盗にはそう易々とは負けないとの情報を得ていたので、取り敢えずはそこを目指したのだが、その目標は半月前に達成してしまった。なので期限を一ヶ月と定め、その日が来たらリンドウ一家に冒険者になることを告げ、ここを出ていこうと決めていた。


 そして今日がその別れを切り出す日。


 俺は体術、ヤス君は弓術、サクちゃんは棒術を用いる戦闘鍛錬を続けてきた。組み手などは行わなかったが、体の扱い方は身についた。それぞれ肉体の鍛錬に関してはある程度の自信がついたと感じている。だが術に関しては不安が残る。


 俺とヤス君は自分たちの固有属性である水属性の術をいまだにまともに使えない。氷の球を生成し投げるのが関の山。放てればいいのだが上手くいかない。


 ヤス君は狙いが定まらず、投げる力も弱いので使い物にならないと早々に攻撃手段から外したが、俺の方はとにかく練習を続けた。結果、命中率が上がり威力もそこそこついた。いつかこの投球練習が役に立つことを祈っている。


 サクちゃんは独力で習得した武器作成という術に磨きを掛けている。元々の身体能力の差もあるが、接近戦では、俺とヤス君に勝ち目はないだろう。


 だが、飽くまでそれは接近戦に限った話。武器習熟の鍛錬時には弓術用の的も用意するのだが、ヤス君は五十メートル離れたところから矢を放っても的の中心を射抜く。威力が落ちてしまうとのことで、それ以上の射程距離はとらないが、十発射って九発は中心を射抜く精度はリンドウ一家含めても誰にも真似できない。しかも、矢を放つまでの感覚が狭いのがまた凄い。投げるのは駄目なのに不思議。


 ヤス君は俺たち三人の中で最も感覚が鋭敏で、明朗快活、頭も回る。遠距離アタッカー、参謀、斥候などの役割だと、俺とサクちゃんでは敵わないと思う。


 二人と比べると、自分が凄く小さく見えてしまう。俺は武器を使うことに抵抗があるので体術を選んだ。二人より優れているところは魔力量。あとは《氷球》の投擲ができることだけだ。《異空収納》の容量は最も大きいが、それでも大差がついている訳ではないので、今後が心配ではある。二人の足を引っ張らなければいいが。


 なにはともあれ、平均能力値は四十を超え、戦う力も初期の予定より高くつけることができてはいる。


 結界内での走り込み、筋力と体術のトレーニング。悔いが残らないように精一杯の思いを込めて午前中の鍛錬を終えた俺は、スミレさんの力を借りて水と風の術で身綺麗にした後、ヤス君とサクちゃんに目配せして頷き合った。そして、それぞれに分担された仕事をする為、一旦別れた。




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