116.マーダードールベアーズアトラクション(2)
セカンドステージはボルダリング。カラフルなホールドが大量に付いているが、ダミーがあるようで、悪い手本を見せている小型のマーダードールベアは何度もホールドが抜けて落下しスタート地点に戻っている。
ボフン、トテトテという感じで可愛らしいが、それは飽くまでぬいぐるみだから。生き物ではそうはいかない。芝生が真っ赤になるだろう。
俺たちなら死にはしないだろうけど……。怪我は免れないな……。
「五十メートルはあるよな」
サクちゃんが壁を見上げて呟く。上に向かうにつれ、手前にせり出すような傾斜がついている。ゴール地点はその先にある。
「フィル、腕力は大丈夫か?」
「それだけだと無理だね。術でどうにかしてみるよ」
今回は落下する可能性を考慮し、初っ端をフィルに行かせた。下からどこにホールドがあるかサクちゃんと二人で教える。
ふと気づき、探知を使ってみたところ、抜けるホールドの判別ができた。やはり罠扱いになっていると解釈する。
サクちゃんに黙ってもらい、俺がホールドを指示。
「右の紫色! そうそれ! あっ——」
フィルの手が滑り、壁から離れて仰向けになる。
「フィル!」
サクちゃんと叫び声が重なる。俺はすぐに助けに向かおうとしたが、フィルは突風に押し返されて壁に戻った。命綱代わりに【風壁】を張っていたようだと覚る。
「あっ、危ねー……」
「マ、マジで心臓やられるよこれ……」
ごめーん! というフィルの声が上から降ってくる。いや、無事なら良いよ。
冷や汗たらたらの展開だったが、十分ほどかけてどうにかゴールした。
「よし、次は俺だな。見てて思ったが、やる方が気楽だな」
「ハハハ、それはそうかもね。でも油断しないでよ」
「しろって方が無理だろ。逆に気負いすぎんように気をつける」
二番手はサクちゃん。俺が探知で罠ホールドを教え、五分とかからずゴール。長い手足と身体能力の高さが存分に発揮されていた。
最後は俺とサブロ。最初のホールドを掴んだ時点から【浮遊】を発動し、サブロを抱っこした状態でゴール。
サクちゃんとフィルからズルいとなじられたが「サブロがいるのにどうしろってのさ」と言うと「それもそうか」と納得した。物分かり良いよね。助かる。
ラストステージは百メートル先まで続く一本のロープを綱渡り。ご丁寧に熊型の可愛らしい看板に距離の表示付き。
下は二十五メートル区切りで変化。最初はファーストステージ同様の泡立つ紫色の沼。五十メートル地点までは緑の芝生が広がる地面。
その先から七十五メートル地点までが槍の並んだ串刺し地帯で、そこからゴールまでは蠢くマグマのプールが待ち受ける。
ファーストステージから思っていたが、多大な命の危険を孕んだアトラクション。一体どこの誰が何の為にこんな悪趣味なものを作ったのか。
ん? 命の危険?
俺は顎に手を遣る。意図を考えれば辻褄が合う。
「思ったんだけどさ、ここって各能力値の鍛練になってない?」
「む、言われてみればそうだな。ファーストステージが脚力、セカンドステージが腕力と体力、ラストステージが巧力か」
「あー、本当だ。よく気づいたね、ユーゴ」
「なんとなくね。作ったのは間違いなくこの世界の神でしょ? 何かしらの意図があるんじゃないかと思ったら、そういう結果に結びついたんだよね。ほら、命懸けの鍛練ってさ、能力値の伸びが大きくない?」
二人とも首肯した。サクちゃんはドグマ組長との戦闘後、フィルはこのセカンドステージをクリアした時点でステボを確認し、能力値の上昇に目を見張ったと答えた。
「じゃあ、ここって神様が用意した鍛練場なんだね」
「だと俺は思う。下層に入る前ってところが、特に」
「そうだな。中層を楽に越えれるくらいの能力値になると、普通に鍛練してても伸びが悪くなってくるもんな」
「へー、そうなんだ。僕はまだ腕力と脚力は普通に伸びてるよ。君たちと違って、筋トレが甘いからなんだろうね。……で、誰から行く?」
俺が挙手し、サブロを抱っこした状態で綱に足を載せ、すぐに【浮遊】を使ってゴール。二人がクリアするのを座って待つ。
二番手はフィル。風術を上手く使ってバランスを取りながら着実に進む。
「ユーゴ!」
残り三十メートルほどになったとき、何を思ったのか、手を振って声を掛けてきた。その所為でバランスが崩れる。
「ちょ⁉ 何やってんの⁉」
焦って立ち上がり、救いに向かおうとしたが、フィルが綱の上で跳躍した。その直後、加速してゴール地点に飛んできた。「うわああ」と二人で絶叫する。
俺は慌ててフィルを受け止める。ゴール地点はアトラクションルームの出口と思しき両開きの扉があるだけのさして広くもない足場。あって二十五平米くらいだろう。
位置がずれていれば落下。勢いを止められなければ扉か壁に衝突。俺がいるからしたことなんだとは思うが、こんな場所で実験なんてしなくとも良いだろうに。
「危ないことするなー。【風壁】の裏から突っ込んだんだろ?」
「当たり。何枚か重ねてアクセル掛けた感じ。実は高い所が苦手でさ、もう足がガクガクしちゃってて、これは無理だと思って、一か八か」
フィルは青い顔をして腕の中で震えていた。高所恐怖症だったか。
「気遣いするなって言ってんのに、まだ我慢してんのか」
「仕方ないだろ。我慢しないとクリアできないんだから」
フィルは仏頂面で言う。地面に下ろすと、すぐに扉のある壁際に移動して腰を下ろした。壁を背もたれにしてげんなりしている。気づかなくてごめんな。
こりゃ、アトラクションルームを周回するのは無理……ん?
俺はまたも顎先に指を当てる。パーティーだと時間を食うが、俺とサブロだけなら物凄い速度で周回可能なのではないだろうか。
【浮遊】を使ってもペナルティーは発生していないし、もしこれでドロップアイテムまで出たら、パーティーを二つに分けるというのも手かもしれない。
「ユーゴ」
声を掛けられて顔を上げると、フィルが綱の方向を指差していた。サクちゃんがスタートしたのだと思い振り返ると、中間地点の綱に両手でぶら下がっていた。
「え、何してんの? ていうか、もうあんなとこにいんの?」
「全力疾走してジャンプしてぶら下がったんだよ。体操選手かって思った」
サクちゃんは鉄棒の逆上がりをするように綱の上に体を載せた。そこから器用にバランスを取ってまた綱の上に立った。
凄いな、と感嘆の息が漏れたのも束の間、サクちゃんが綱の上を走り出す。そして途中で跳躍し、そのままゴール地点に到達した。




