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114.ダンジョンはゲーム感覚で入る場所ではない(2)




 ということで、俺たちは従魔の勾玉を求めてダンジョンに向かった。


 転移先は四十階層のA地点。主のいる階層だけ転移先が二箇所ある。B地点は階層主を倒した後に入る階段部屋に隣接している転移部屋。


 そこから主の部屋に戻ることはできないので、各階層に用意されているのと同じ、中間地点にある転移部屋に移動するという説明をフィルから受けた。


「てことは、マーダードールベアを倒した後は、B地点から一回外に出て、またA地点に転移して、階層主の部屋まで向かってって感じ?」


「僕もそれを訊いたんだけど、奥に進まないで、入った場所から出ればすぐに再戦できるらしいよ。扉を閉めた瞬間に階層主が復活してるんだって」


「なんというか、聞けば聞くほどゲームだよな。ダンジョンがなければ、そんな風には思わんかったんだろうが」


「何を今更。ステボがある時点で、俺たちからすると十分ゲームでしょ」


 A地点から転移後、談笑しながら階層主の部屋に向かう。


 今回はサクちゃんが率先して【光球】を使い、探知も練習がてら行うと言うので任せた。お陰で俺は【冷涼薄霧】だけで済んだが、ふと疑問が湧く。


「そういやフィルって探知使ってるところ見たことない気がするんだけど?」


「それは、ヤスヒトが任せろって言ってくれてたからね。一応、使えはするよ。半径三十メートルくらいまでならカバーできる。けど、罠までは無理。魔物とか人の気配を察知するので精一杯かな」


「俺も罠は無理だ」


 え⁉ 何そのカミングアウト⁉


「サクちゃん⁉ それ先に言おうよ⁉」


 慌てて探知を発動。目の前の床にスイッチらしきものがあるのを捉える。だが時既に遅し。先頭を歩いていたサクちゃんがしっかりと踏んでしまった。


「サクちゃんストップ!」


 俺の大声でサクちゃんが動きをピタリと止める。


「な、何だ? もしかしてやらかしたか? なんか足元が凹んだんだが」


 サクちゃんが引きった横顔を俺に向ける。罠は発動していない。おそらく足を退けた途端に何らかの攻撃が始まる。


 俺は罠の探知はできるが、ヤス君と違って罠の種類までは分からない。当然、解除もできない。


「ど、どうすりゃいい?」


 俺は瞑目して溜め息を吐く。


「フィルよ、俺は今必死に記憶を辿っているところなんだが、床のスイッチで即時発動しない罠って何があったか覚えてるか?」


「地雷、だね」


 血の気が引く。フィルもサクちゃんも顔が真っ青になっている。


 取り敢えず俺とフィルは距離をとる。サブロも抱っこして一緒に。


「お、おい⁉ なんで離れる⁉」


「そんなの、巻き込まれない為に決まってるじゃないか。小規模の爆発だけど、近くにいたら僕たちまで怪我をするかもしれないんだからね」


「サクちゃん、君には選択肢が二つある。一つは足を上げて爆発のダメージを受け、回復術に頼る。一つは飛び退いて爆発のダメージを受け、回復術に頼る」


「どっちも変わんねーじゃねーかバカヤロー! なんとかしてくれ!」


 叫び声に引きつけられたのか探知に三つの反応が出た。通路の奥から何かが近づいてくる。フィルも探知を発動していたようで、臨戦態勢をとる。


「サクちゃん、何かが近づいてる!」


「分かってる! くそっ! こんなときに!」


「魔物は僕が引き受けるから、ユーゴはサクヤをなんとかしてあげて!」


 そう言ってフィルが駆け出し、サクちゃんの横を通り過ぎて湾曲わんきょくした通路の先に姿を消す。「あ、おい」という俺の声は華麗に無視された。


 俺は理解してなさそうなサブロを抱えたまま、眉間に指を当てかぶりを振る。


「サクちゃん、フィルは上手いこと言って逃げてしまったようだよ」


「いや、酷いこと言うなよ。魔物を引きつけてくれてるんだから」


「そうは言うがね、もう探知にはフィルの反応しか残っていないんだよ。既に魔物は片付けたようだね」


「何? そうなのか?」


 俺は首肯し、フィルの様子を見てくると伝える。だが即座に却下された。


「何でだっ⁉」


「そんなもん、お前も逃げるからに決まってんじゃねーか! バカヤロー!」


「罠を踏んだのはサクちゃんの不注意だろ! 回復術使えるんだから、そこはもう我慢しちゃいなよ! 俺もフィルも治すの手伝うから!」


「怪我はいいよ、もう諦める! でも装備品は勘弁してくれ! 生地が吹っ飛んだら直せない! ブーツもまた買いに行かなきゃならんし!」


「何言ってんの⁉ 普通逆だから⁉ 体大事にしようよ⁉」


 なら助けてくれ! と叫び返され、俺はそろそろ良いかな、と最初から思いついていた方法を試すことにした。十分に灸は据えられただろう。


「サクちゃん、探知を甘く見るとそういうことになるんだよ。反省したみたいだから、もう足を退けていいよ。爆発しないから。すぐにこっちまで避難してね」


「は? 爆発しない? いや、ちょっと待て、退けた途端に爆発するとかいう落ちじゃないだろうな⁉ 俺はだまされんぞ!」


「サクちゃんの体を【障壁】でコーティングして、足元のスイッチを念動力で押してるから。爆発までの時間を稼げるし、ダメージも最小限に抑えられるはず。時間が勿体もったいないから早くして」


 説明を終えると、サクちゃんは申し訳なさそうな表情をして「すまん」と謝罪した。それから意を決したように俺の方へと駆けてきた。


 サクちゃんが隣に並んだところで耳を塞ぎ念動力を解除。小規模の爆発が発生し、ダンジョン内に大袈裟な爆発音を反響させる。


 その音が鳴り止まないうちに、奥からフィルが戻ってきた。


「すぐに回復……あれ? 無傷?」


「フィルよ、薄情者であることを露呈したな」


「すまん、ユーゴ。助かった。フィルも悪かったな」


 戸惑うフィルの肩を二人で軽く叩き、ゆっくりと歩いて奥に進む。


「ちょっ、待ってよ!」


 その後、フィルはどうやってサクちゃんを無傷で救い出せたのかを訊いてきたが、ただ答えるのでは面白くないのでクイズにした。フィルの面白珍回答を楽しみながら、俺たちはマーダードールベアの待つ部屋へと向かった。




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