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110.それなりに派手なのに影が薄い




 ヤス君が出発して四日目。パーティー合流まで折返し地点を過ぎた。


 俺は新術を試したくてフィルとサクちゃんを伴ってダンジョンを訪れている。


 階層は四十一。下層階の入口だ。


「ヤスヒトがいないのに、なんだか悪い気はするんだけどね」


「確かに、抜け駆けしているような気にはなるな」


「そういう割には、声を掛けたら二つ返事で引き受けてくれたよね」


 まぁ、暇だったから。という力ない声が揃う。「ピギー……」とサブロも項垂れる。流石に三日も室内トレーニングが続くときついらしい。


 俺は初日にフィルにサブロを預け、カナン大平原までの空の旅を楽しんでいたのでそうでもないが、やはりマンネリ化というものは苦痛なのだと皆を見て思った。


 【光球】と【冷涼薄霧】を使い、薄ら赤い光を放つ洞窟内を歩く。ウェズリーのダンジョンは下層に進むごとに熱を持つらしく【冷涼薄霧】が大活躍している。


「ヤスヒトがいないと、探知が心許(こころもと)なくて恐いよな」


「一応、俺が使ってるけど、罠の解除とかはできないから、そこは恐いよね」


「罠を見つけたら、遠距離攻撃術をぶつけて発動させちゃえば良いよ。ヤスヒトも面倒なときはそうしてたじゃない?」


「毒ガス噴出とか、気体系以外はね。俺の探知だと距離もそんなに取れないから」


「それでも俺よりは断然マシだ。反応あるか?」


 俺は探知に何の反応もないことを伝える。まだ四十階層から降りたばかり。どこの階層でもそうだが、階段付近にはあまり魔物はいない。


 流石に下層ともなると、冒険者の数も少ない。上層は他のパーティーとすれ違う頻度が高く、中層は全滅したパーティーの跡を目にする頻度が高かった。


 ダンジョンは魔物も人も死んでいれば飲み込んでしまう。遺留品だけが遺される。それも他のパーティーが持っていってしまうので、後には何も残らない。


 俺たちはそんな墓荒らしみたいな真似をしたことは一度もないが、フィルによれば、冒険者の間では礼儀みたいなものなのだとか。


「なんで盗賊の真似事が礼儀だって言われてる訳?」


「思いを継ぐって意味があるんだよ」


「甲子園の砂みたいだな」


 軽い会話を挟みつつ歩くが、やはりヤス君がいたときと違い適度な緊張感がある。探知役ってこんなにしんどいのかと思ったが、よくよく考えてみたら俺だけ術を三つも行使している。


 【光球】くらいは受け持とうよサクちゃん……。


 心で呟いてじっと見ていたら、気づいたサクちゃんが「あ、悪い」と苦笑しながら【光球】を出した。目は口ほどに物を言うが発動した。そんなスキルはないのだがね。


 十分くらい進んだところの三叉路で探知に反応があった。左側には三体、右側には五体いる。それを伝えると、サクちゃんから数が多い方が良いだろうという提案があった。


「なんか、サクちゃん戦闘狂みたいな発言するようになったよね」


「ああ、それは認める。最近フラストレーションを溜め込んでるしな」


「半月斧は扱えるようになったの?」


「それを試したいんだ」


 サクちゃんが【異空収納】から半月斧を取り出す。長羽織によく合っている。見た目は完全に武人だ。コーキの予言も中々に鋭く言い表しているな、と思う。


 こうして見ると、フィルも貴人という表現がしっくりくる。ヤス君の賢人もぴったりだ。俺の英雄って一番微妙だろう。そもそも英雄って特徴捉えづらい表現だよな。


 コーキよ、俺には特徴がなかったってことか?


「ユーゴ、どうした?」


「あ、うん、いや、何でもない」


 少しばかり凹みながら右の通路に進む。曲がり角の先に反応があるので、物陰から覗き見て様子を窺う。と、二メートルほどある犬のようなトカゲが群れでくつろいでいた。


 ドーベルマンのようにすらりとした体躯に、つるりとしたトカゲの頭と尻尾。皮が滑らかで艷やか。なんだか高級感があるな、と思う。


「ドーベルリザードだ!」


 フィルが小さく驚きの声を上げる。


 うん? ドーベルリザード?


「なんでそんな興奮してるんだ?」


「珍しいの?」


「それは分からないけど、皮が高値で取り引きされるんだよ! 一頭で金貨十枚は確実だと思うよ!」


 堅いのに伸縮性と柔軟性があり、用途が幅広いのだとか。でも一メートルほどしかなかったデモディアが金貨十枚だったんだよな、と比較して首を捻る。


「下層階の魔物だからって、そんなに素材が高いって訳でもないんだね」


「一頭で金貨十枚なら十分だろ」


「多分、ユーゴはデモディアのことが言いたいんだろうけど、あれは珍しい上に臓物に至るまで捨てるところがないんだよ。肉も高級品扱いだし、アイアン階級にはデモディアだけを狙うのもいるくらいだよ」


 へー。と感心。本当に知識豊富だよなと思う。


 というか心を読むなよ。あ、思い出した!


 ドーベルリザードという名称に聞き覚えがあるのはどうしてなのかと思い返してみたら、俺の装備品に使われている魔物だった。


 え、俺の装備ってこいつらからできてるの?


 思わず装備品とドーベルリザードを交互に見る。連中の皮が俺を守ってくれていたのかと思うと、なんだか倒すのが申し訳なくなった。


 こいつらが俺の命を守ってくれてたのか。そうか、ありがとう。


 俺がそんな気持ちでドーベルリザードを見ている間に、サクちゃんが半月斧を振りかぶり飛び掛かっていった。


 無言で奇襲。いや不意打ちは当然だけれども、もはや通り魔じゃないか。


 半月斧が振り下ろされ、一頭目のドーベルリザードの首にするりと入る。そのまま方向を変えての打ち上げ。二頭目の首を通過する。


 そこでサクちゃんが大きく後方に跳躍して俺たちのところに戻る。その頃にはドーベルリザードが一斉に反応していた。が、こちらに顔を向けた瞬間、二頭のドーベルリザードの首が落ち、遅れて胴体が横倒れになる。


「何その斬れ味⁉ 斬られたことにも気づいてない感じじゃん⁉」


「俺も驚いてる! 豆腐切ってるみたいだった!」


「ドーベルリザードの皮って堅いはずなんだけど⁉」


 三頭のドーベルリザードは、俺たちに近い位置にいた二頭が突然息絶えたので困惑した様子を見せた。そして俺たちは半月斧の斬れ味の鋭さに困惑していた。


「サクちゃん、それ怖いから近づけないで⁉」


「僕も怖い⁉ ちょっとぶつかっただけで腕とか取れちゃうんじゃない⁉」


「ええい、戦闘中だぞバカたれども!」


 サクちゃんが駆け出した。俺は少し遅れて追従する。


「左のは俺がやるよ!」


「分かった!」


 どうにか声掛けが間に合った。サクちゃんが飛び掛かってきた右の一頭を足先から滑り込むようにして躱し、半月斧を通り過ぎ様に横薙ぎに振る。


 それを横目で見つつ、俺は襲い掛かってきたドーベルリザードに向かい両手の平の間から新術【迅雷ジンライ】を放ちつつバックステップ。黄色い残光の帯を引いて【迅雷】が(ほとばし)りドーベルリザードに直撃する。


 ジジジジッと音が鳴り、ドーベルリザードは体表に細かな火花と稲妻を走らせて痙攣。光の明滅が終わると煙を上げて地に倒れ伏した。


 う、うわー、恐ろしいなこの術……。


 観察も程々に残り一頭に目を遣ると、サクちゃんが半月斧の柄で突進攻撃を弾いているところだった。俺はそれを見ながら【障壁】を体の周囲に纏う。


 その後【浮遊】で僅かに体を浮かし、風術推進で高速突進を仕掛け、攻撃を仕切り直しに着地したばかりのドーベルリザードの顔面に【砕破】を打ち込んだ。


 軽快な破裂音を発して、ドーベルリザードの頭が半壊。軽く血飛沫が飛んだが【障壁】が受けてくれているので問題はない。


 腕を振り抜くと同時に術を解除。慣性で流れる体を着地と同時に足でブレーキをかけて止める。加速が凄くてちょっと怖かった。


 額の冷や汗を袖で拭いながら、ふぅっと息を吐く。


「な、何だ今の⁉ 【疾駆】じゃないよな⁉」


「ユーゴ⁉ 今もの凄い速かったよ⁉」


 肩で振り落とされまいと必死になっていたサブロも「ピッピギピー⁉」とおったまげーみたいに鳴く。どこで覚えるんだそんなの。


 俺は驚く二人に向かって肩を竦める。


「新術だよ。俺はヤス君の言ってたイメージが掴めなくて、転移が使える気がしなかったから、高速移動に切り替えたんだ。そしたら今の術が出来た」


「それ、俺にも使えるか?」


「風属性を推進力に使ってるから、難しいかな」


 サクちゃんが肩を落としたのとは対照的に、フィルが目を輝かせる。


「風属性ってことは僕にも習得のチャンスはあるってことだね⁉」


 俺は【浮遊】で体を浮かし、素早く移動しながらドーベルリザードの死骸を【異空収納】に収めていく。二人が呆気にとられた様子になる。


「見ての通り、俺は無属性術で体を浮かしてるから念動力を使えないと習得は無理だね。でもフィルなら他に方法があるんじゃないの?」


「風術で空を飛ぶのはコントロールが難しくて事故が多いんだよ……。というか、なんでそんなに平然と空中浮遊できてるのさ⁉ おかしいだろ⁉」


「どうやるんだ⁉ 俺も飛びたい!」


 フィルが地団駄を踏み、サクちゃんが息を吹き返す。なんだかこういうのも恒例こうれい行事みたいになってきたな、と思う。


 結局この日は四十一階層の転移装置までで終了し、二人に術のコツを教える羽目になった。


 おかしいな。俺は【迅雷】の威力を試すはずだったんだけどな。


 ダンジョンを出るまで、遭遇した魔物相手に何度か使ったのだが、二人の【迅雷】への反応が余りに薄くて、少し残念な一日だった。




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