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109.鍛練する理由となんとなく出来た新術(2)




 当て推量、といえばモンテさん。チエに弱みを握られているのではないか、と俺は何の根拠もなしに言ったが、家族が人質にされていた。そしてそれは、モンテさんだけではなく、他の職員たちもだった。


 首謀者は冒険者ギルドマスターの黒いローブの男兼ハンを名乗る男。本名は不明。口を割らせる前に自害してしまったが、職員たちの証言により、この男が誘拐犯でラグナス帝国の工作員であることが判然とした。半月に一度【影転移】で職員と人質にとった家族とを面会させていたらしい。


 元々は単なる職員として潜入していたそうだが、非常に狡猾(こうかつ)な手口でギルドマスターの座に就いたという。職員と家族ぐるみで仲良くなって【影転移】の移動許可を取り誘拐。


 家族を誘拐された職員は言いなりになるしかなく、同僚の家族の誘拐に協力。その繰り返しで職員全員を手中に収め、最後は手駒にした職員を使ってギルドマスターを引退に追い込み、自分がその後釜に座ったのだとか。


 指名手配されているにも拘わらず、堂々と顔を出したので大したことのない奴だと思っていたのだが、それは俺の思い違いで、普段はほとんど表に顔を出さない慎重で注意深い男だったという。


 つまり、あの男が受付に顔を出すのは物凄く珍しい事だったという訳だ。ルードに業を煮やしたチエが、ギルドマスター権限でどうにかさせようと強引に引っ張り出し、そこにたまたま目撃者のヤス君とフィルが立ち会ったというのが真実らしい。


 ここまでくると、もはや偶然とは言い難い。すべてはルードの手の平の上の話のような気がしている。もしかすると、これも予言の一部なのかもしれない。


 それはさておき、最初に家族を人質にとられ、同僚を売ったのはモンテさんだったそうだ。そのモンテさんと、俺が精神感応でリンクした猫人の女性は事件の日に亡くなっていた。


 モンテさんは靴で滅多打(めったう)ちにされて撲殺(ぼくさつ)。猫人の女性はモンテさんの耳を食えと命令されたのを拒否したところ、やはり撲殺されたという。ヤス君が暗い表情で話したのは、この二人のことだった。


 遺体の惨状を目の当たりにして、もっと早くに動けていればと悔やんだが、俺はその後、複雑な心境に陥った。


 というのも生き残った冒険者ギルド職員がすべて国家反逆罪を言い渡されたからだ。


 折角救い出したというのに、情状酌量を加えても死罪は免れないだろうとのこと。仕方ないとはいえ、えげつない処置だと思う。


 工作員に転移術で人質をとられれば、囚われる先は他国になる可能性が高い。そうなれば国も迂闊(うかつ)に手を出せず、訴えたところで救うのは難しい。


 被害者の道は家族を見捨てるか反逆罪に問われるかの二つ。進むも戻るも地獄。もはやその時点で詰みなのだ。


 諦める。忘れる。生き甲斐を捨てる。それが自分を救うための手段になる。そんなものを誰が受け入れられるというのか。


 同僚を売ってまで家族を見捨てず耐え忍んできた結果が撲殺や死罪。囚われている家族も、面会がなくなった時点で酷い扱いを受けるのは想像に難くない。仮に帰ってきたとしても、魔物化の呪いが施されているだろう。


 救いがない。だが、これほどの惨劇もラグナス帝国の布石に過ぎない。ウェズリーの街の状況を見て確信した。魔物化の任意暴走が発生したタイミングで、ラグナス帝国はクリス王国を滅ぼしにくる。


 不安だ……。


 俺たちが手を出す前の方が問題だったことは確かだが、ウェズリーの街の上層部は現在混乱中。職員が一斉に国家反逆罪を言い渡されたことで冒険者ギルドは閉鎖。その上、役所の要職や領主館の使用人、秘書などが一斉に雲隠れしたことでイワンコフさんが四苦八苦している。


 よくも今まで大丈夫だったなと思うほどに人員管理が杜撰ずさん。どこもかしこも工作員だらけだったことが判明。思わず「おい国境だぞ」と呟いてしまったほど。


 ギルドマスターが指名手配されていることに気づかなかったのも、その情報が伝わらないように領主館の工作員の手で隠されていたからだとか。


 人相書の存在すら知らなかったのには呆れた。


 明らかに内政向きではないイワンコフさんは信用できる部下を早々に手に入れる必要があると思った次第。


 エドワードさんが如何いかに優秀なのかがよく分かった。イワンコフさんはもっとピッチリしないと駄目だ。


 現在は復旧作業を行っている真っ只中なのだが、その作業に携わる人員として白羽の矢が立ったのがエリーゼたち戦乙女隊。


 こちらも隊員の半数以上がチエと繋がりがあったことが発覚し、現在王都からの処分待ちとなっているどうしようもない隊なのだが、身の潔白が証明された隊員は人柄も良く真面目な為、猫の手も借りたいイワンコフさんが助力を願ったそうだ。


「アタクシは領主館で秘書をやることになりましたの」


「アタイは冒険者ギルドのマスターだってよ」


「私、冒険者ギルドの、サブマスター」


「私は正規兵として雇ってもらえることになった」


 チエの立てこもり事件の翌日、イワンコフさんのところで話していたとき、同席していたエリーゼたちからそう報告された。嬉しそうに照れ笑いしていたので、俺は「そうか、おめでとう」と祝いはしたが、素直に喜べはしなかった。人選的には間違っていないと思うが、大丈夫なのかは(はなは)だ疑問。


 俺の予想では戦争が始まるまで半月を切っている。そして国境付近にあるウェズリーの街は前線だ。帝国兵の進撃だけでなく、魔物化の任意暴走がこの街でも行われる可能性まで出てきている。


 模擬戦をした訳ではないので明言はできないが、エリーゼたちはさして強くないと思う。そんな彼女たちが前線にいるのだと思うと気が気じゃなくなる。


 まだ知り合ったばかりだが、生きていて欲しい。失った後に訪れる感情に苛まれたくないという自分勝手な思いが暴れている。


 実感は乏しいが、ノッゾさんにも、イゴールさんにも、ミルリナさんにも、俺は生きていて欲しかった。


 まだどこかで生きている気がするから感じていないのか、それとも感じるほどには親しくなかったからなのかは分からないが、現状、喪失感と無力感は覚えていない。だが、もう遠慮願いたい。元の世界で十分に味わったのだから。


 そういう訳で、どうにか誰も死なせない力を得たいと考え、この三日の間、鍛練と並行して新術の開発に(いそ)しんできたのだが、思いが強いと形に繋がるのが早いとヤス君が言っていた通りで、なんと三つも習得できてしまった。


 俺の思いは、危機に素早く駆けつける為の『機動力』。そして以前から考えていた『火力』の二つ。


 結果、できた術が【浮遊】。これはそのまま念動力を使って体を宙に浮かせる術で、そのままでも空中を動けるのだが、風術を推進力に使うことで高速移動が可能。そしてこの際に利用する風術を発展させたのが【竜巻】。


 一昨日カナン大平原に移動し、推進力に利用している風を攻撃に転じることができないかと空に浮かんだ状態で試したのだが、かなりの広範囲を巻き込む竜巻を起こしてしまった。アワワワと慌てふためいてすぐに解除したので被害はなかったが、見学に来ていたドゴン一味は泡を食っていた。


 そういえば、ドゴン一味は予定通りカナン大平原東のワブ族の集落で暮らすことになった。元々の人柄は悪くないので、すんなりと受け入れられていた。あとは(だま)されないように頑張って集落を守ってもらいたいと思う。


 それはそうとして【竜巻】は失敗だった。広範囲攻撃術として利用できるのでまったく使えないという訳ではないが、どう考えても使いどころが乏しい。


 欲しいのはダンジョンなどでも使えるような単体で高威力のものだったのだが、どうにもイメージが湧かない。それでなんとなく光と風と水の三属性を合わせてみたところ、例の感覚が訪れた。


 そのときに抱いていたイメージは雲だった。水属性で生じさせた細かな水を、光属性の熱で気化させ、風属性で気圧を下げていくことで凝結(ぎょうけつ)させる。


 極小の氷粒の集合体。その中を走る稲妻。そのエネルギーだけを火力として用いたい。そんな願い。


 【浮遊】と【竜巻】のときにもあった、カチリと()まった感覚。


 手の中に稲妻を(まと)う小さな黄金色の球が現れていた。



 

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