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108.鍛練する理由となんとなく出来た新術(1)




 事件から三日が過ぎた。秋一期十八日。洞窟内なので天候はいつも晴れ。


 俺はウェズリーの坑道付近にある廃墟で、サブロと一緒に鍛練をしている。チエによる冒険者ギルド立てこもり事件のあった日に、ドゴンたちが身を隠していた場所だ。


 何故(なぜ)こんな場所で鍛練しているかというと、ウェズリーの街に従魔と一緒に鍛練できる場所がなかったからだ。何処(どこ)か良い場所はないかと探したところ、ここを思いつき、イワンコフさんに許可を取って利用させてもらうことになった次第。


 サブロはかなり成長した。まだ魔物の討伐には参加していないので魂格(こんかく)は一だが、たった二日で平均値が四十ほどにまで伸びた。


 成長の早さに驚かされたが、へばる(たび)に餌と回復術を与えてのスパルタだったので、そうなっても不思議はないかなとも思う。要はやり過ぎてしまったという訳だ。


 そのことについては反省しているが、サブロに俺を嫌った様子は見えない。ランニング中に俺の肩にしがみついていられることを喜んでいるようなので、これで良かったのかなとも思う。


 俺も毛髪の安全確保に成功したし万々歳だ。


 もっとも、能力値が倍以上ある俺が本気で動けば途中で振り落としてしまうので、そこは調整しているのだが、それを明かすとサブロが無理をしそうなのでまだ秘密にしている。焦らずじっくり強くなってもらえばと願っている。


 強くなったといえば、俺もそう。能力値は飛躍的に上昇していて驚いた。魂格が二十五。魔力は四千二百。能力値は補正値込みで平均値が百七十を超えていた。


 この急成長はチエとの戦いで命の危険があったことが影響しているのではと思う。事件前と事件後では、発揮できる力の感覚が違うことがはっきりと自覚できたので、おそらく無関係ではないだろう。


 (ある)いは、強者が相手の実戦は能力値の伸びが大きいのかもしれない。いずれにしろ危険と隣り合わせなので検証する気はない。ただ頭の片隅に置いておくだけにしようと考えている。


 ちなみに、例のごとく平均算出に含めていない魅力値は百二十ある。エリーゼたち戦乙女隊のアプローチはこの所為だったのではと疑念を抱いているのは蛇足。


 一夫多妻が許されているとはいったものの、ハーレム願望がないので弱る。元の世界に帰れないと分かったら考えるのも良いかもしれないが閑話休題。


 ヤス君は予定通り、事件の日の晩にウェズリーを出た。チエが自爆した後の、言葉にするのも(おぞ)ましい状態になった【箱庭】の後片付けをしてからだったので、かなり遅い時間になったが、先延さきのばしにはしなかった。


「じゃあ行ってきます」


 暗闇の中、SFアニメに出てきそうな大型バイクのような物にまたがって言うヤス君には驚いた。【魔力モーター】の外側は戦車以外も発想次第で作り変えられるらしく、色々と融通が利くらしい。


 今度はボートを作って試す予定だとか。そのうち飛行機なんかも作るのではないかと予想している。【魔力モーター】恐るべし。


 だが、腑に落ちないところもある。ゴーグルと土術で作ったヘルメットを装着して走り出すのは格好良かったが【魔力モーター】で光源まで扱えるのはズルいと思った。魔道具のランタンを解体して術で紐付けしたとか意味が分からない。


 おまけにそれを念動力で宙に浮かせて一緒に移動するって何だそれ。光源は光術の専売特許だと思っていたのに、お株を奪われてしまった。ダンジョンでの俺の役割が更に減ったように思う。そりゃコーキも賢人って予言を残すわな。


 予言といえば、ルードが姿を消した。「後で話す」と言っておきながら、事件が終わって冒険者ギルドから出るといなくなっていた。俺たちもその日は忙しかったので探すことに時間は割けなかったが、それから一度も姿を見ていない。


「人見知りで緊張しぃだから、ほとぼりが冷めるまで姿を隠したんじゃない? 渦中にいた訳だし、色々と事情訊かれちゃうでしょ?」


 事件の日の夕食時にフィルがそんな推測をしたが、半分程度しか納得できなかった。どちらかと言えばヤス君の言った「役目を終えたから帰ったんじゃないっすか?」という言葉の方が的を射ているように思う。


 ヤス君がどういう意図で言ったのかは不明だが、俺がそう思うに至った根拠の一つに半月斧を残していったことが含まれる。どれだけ急いでいようが武器を忘れて帰るというのは考えにくい。


 宿の場所は伝えてあるので、大事な物なら取りに来るはず。なのに一向に姿を現さない。つまり最初からこれを託すのも目的だったのではないかと勘繰っている訳だ。


 そしてその半月斧はサクちゃんが預かっている。理由は「これを扱えるのは俺だけだろ」とサクちゃんが言い出したから。借り物なのに最初から使う気満々なのはどうかと思うが、誰も反対しなかった。


「遺失物で届け出ないと怒られるよ?」


 そう言って茶化したが、俺と同様、ルードから託されたように感じていたらしく「多分、俺の武器だろこれ」と半月斧に()()れ。魔物の骨と金属を組み合わせて作られており、見た目も派手で業物(わざもの)な雰囲気があるのでちょっと羨ましい。


 今は苦心しながらそれを用いた鍛練を行っているようで、ヤス君の賢人化に続いて、サクちゃんも武人化まっしぐらだなと思う。


 ルードについての話は謎が多かった。取り調べ中の冒険者ギルド職員から得た情報をイワンコフさんから聞いたが、一年ほど前にふらっと現れて冒険者登録し、半年と()たずにゴールド冒険者になった地元の青年ということしか分からなかったそうだ。


 詳しく調べようと、ルードの名で冒険者ギルドの記録魔道具に検索をかけたが引っ掛からなかったらしい。おそらく偽名だったのだろうとのこと。


「書類は調べてないんですか?」


「あの連中がそんな物をしっかりと取っておくと思うか?」


 溜め息を吐くイワンコフさんを思い出す。俺も馬鹿な質問をしたものだと思う。工作員と言いなりの職員しかいない冒険者ギルドが、真面目に業務をこなす訳がない。クリス王国の不利に働くことしかしないだろう。(ある)いはそれらの書類もラグナス帝国に流しているかもしれない。


 ドゴン一味のギルドカードも作ってなかったしな。酷いもんだ。


 何にせよ、ルードは誰ともつるまずダンジョン下層も数日で単独攻略してしまった凄腕冒険者だったらしい。そしてチエが職員になってからは、ほとんどチエの受付についていたのだとか。


 ルードが()えて目の敵にされるように振る舞っていたという俺の考えも、当たらずとも遠からずといったところなのかもしれない。


 一体、何者だったんだろうな。


 ルードのことを考えるとモヤモヤする。そもそも出会いがおかしい。そんな優秀な冒険者が、サラマンダーと闇竜のサブロを間違えるとは思えない。


「サブロ、お前、もしかしてルードのこと何か知ってたりしないよな?」


 片手で腕立て伏せをしつつ、俺の目の前で右前足と左後ろ足を上げ、プルプル震えながら体幹トレーニングらしき行動をとっているサブロに訊く。するとサブロはすっと視線を逸らした。


「ピ、ピギー?」


 チラリとこちらを見てからこめかみに指を当てて小首を捻る。目を細めて見ていると、いたたまれなくなったのか駆け出した。


 やはり何かを知っているようだ。どうやらサブロも俺たちと接触するように仕組まれていたらしい。


 まぁ、害はないようだし別に良いんだけれどもね。


 敵ではないようなので、思惑については考えないことにした。考えたところで分からないことは考えない。当て推量をしたところで時間の無駄になるだけだ。


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