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104.気分が優れない話の後は美味しい食事で誤魔化す(2)




 あ、そうか。だからルードも。


 俺は唐突な閃きに、思わず短く息を吸った。


「何だ? どうしたんだ?」


「ルードが嫌がらせを受けていた件で気づいたことがあったんです。もしかすると、階級が高い冒険者はチエから不当な扱いを受けて街を出たかもしれません」


 冒険者の中には一騎当千の力を発揮する者がいる。その分かりやすい目安が階級。階級の高い冒険者をウェズリーの街から遠ざけるように仕向けることで、防衛力を落としているのでは、と思う。地味だが、割と効果がある気がする。


 だって俺なら絶対にそんな冒険者ギルドに行きたくないもの。


「アルネスの街と違って、呪いを施せる術者がいなければ冒険者は邪魔でしかないです。かといって直接戦えば返り討ちにされる危惧がありますし、何より目立ちます。それで嫌がらせで遠ざける方を選んだのではないかと。じわじわと悪評が立って、街を訪れる冒険者が減っていくのは間違いないでしょうし」


「むぅ、半年もあれば十分に嫌悪感は抱かせられるか。まだなんとも言えんが、確かに人の流出は起きとるんだ。僅かだがな。しかし、今の話を聞いて少し気が安らいだわ。魔物化の呪いを使える術者はまだおらんと見て良さそうだな」


「いえいえ、とんでもない。仮に呪いが使えるようになった術者がいたとしても、わざわざ敵地に送り込むような真似はしないと思いますよ。アルネスの街にいた呪いの開発者は既に失った訳ですし、そこは慎重になるでしょう」


 帝国民がどれだけいるかは知らないが、一万や十万ではないだろう。その中で一人や二人しか呪いを施す術を習得していない場合、その習得者は非常に稀有な存在になる。もし俺がそういった駒を手にしたら、自国内で、魔物化する者の生産に携わらせる。その方が明らかに利が大きいのだから。


「確かに、敵国の女や子供をさらって、呪いを施して返しとれば、軍を動かすよりは遥かに安く済むな。自国でも浮浪者なんかを掻き集めとりそうだ」


「チエを捕縛できれば尋問することも可能なんでしょうが、おそらく既に姿を隠していると思われます。いや、チエに限ったことではなく工作員がすべて雲隠れしていると考えた方が良いかもですね」


「そうだろうな。だが、それで構わん。下手に捕縛すれば、撹乱されるのが目に見えとる。捕まえただけでも疑心暗鬼にさせられるに違いない」


 殺すしかなかろう。とイワンコフさんは溜め息を吐く。俺もそうなった。


「まぁ、それはさておき、一番の問題は、根を断たない限りそれが繰り返されるということです。ラグナス帝国を攻め滅ぼすことを考えないと、先に滅亡するのはクリス王国になることは間違いないでしょうね。さて、それじゃあ話したいことも終えましたんで食事にしましょう。気持ちを新たに明るくいきましょう!」


 俺の切り替えの速さに唖然とする部屋の面々に苦笑しつつ、俺は机の上にあるティーカップとソーサーを端に寄せる。


 レノアを手招きして呼び、それらを片付けてもらい《異空収納》から布巾を取り出し机を拭いて、真っ白なテーブルクロスを取り出して敷く。それから部屋に椅子を四つとテーブルも用意する。


「女子四人はこっちね」


「え! アタイたちも食えんの⁉」


「イザベラ、はしたない!」


 エリーゼが小声で注意する。イザベラは「あっ、ヤベ」と慌てて口を覆った後で、苦笑いして頭を掻く。隣でニーナが上を向き、額に手を当て「あちゃあ」と棒読みで言い、片付けを済ませたレノアが上品にクスクスと笑う。微笑ましい光景だ。


 俺は食器とカトラリーを人数分用意し、箸と箸置きも一応準備する。


「なんちゅう手際だ。あっという間に店じゃないか」


「アハハ、口に合わない場合は言ってください。別の物を出しますので」


 俺はムーカウのカツ重を人数分出した。本当は豚カツを作りたかったのだが、今のところ最も豚に近いワイルドスタンプはやはり獣の臭みが強く、望んだものにならなかった。それで、牛肉に限りなく近い味のムーカウの肉を利用した疑似ビーフカツを試してみたところ、これが美味かった。


 刻んだ玉ねぎを砂糖、酒、味醂と合わせた出汁醤油で煮込み、適度な大きさに切り分けたカツを並べ入れて、刻んだ三つ葉を散らし卵でとじる。


 ソースがあれば千切りキャベツのソースカツ重にもできるのだが、やはりカツ重は肉が何であっても卵とじで食べたい派。お重の中に敷き詰めた白米の上に、とろっとろの卵とじに半分ほど包まれたカツを載せてある。


「見たことがない料理だが、見た瞬間から美味そうだな」


「どうぞ、召し上がってください」


 そう言った途端に全員が合掌して「いただきます」と言ったので驚いた。イノリノミヤ神教の信徒でもやる人をあまり見ないのだが、こういった場合は礼儀として行うのかもしれないと解釈する。


 イワンコフさんはフォークでカツを刺し、口に運んだ直後に目をカッと見開いて震えた。そして腹の底から「うまーい!」と叫んだ。


「う、うめぇー! 止まんねー!」


「ライス、苦手だけど、これは、美味しい……!」


「ユーゴさん、大変美味しいですわー」


「りょ、料理までできるんだな。隙がないな、ユーゴは」


 女子はレノアとイザベラが箸を使っていてまた驚いた。イザベラに至っては掻き込み方が日本人を思わせる。食いっぷりが良くて気持ち良かった。


「ああやって食べるのが最も美味しいんですよ」


 俺がサブロ用に小皿に取り分けながら、イザベラを手で示して伝えると、イワンコフさんはイザベラの様子を見てから箸を手に辿々しくもカツ重を掻き込んだ。どうやら食べ方の効果のほどに気づいたらしく、頬張る度に頷いた。


 皆が食べ終えた後、おかわりを出したいところではあったが、時刻は午後四時と半端。時間が経てば満腹中枢も働き出すだろうということで、デザートにプリンを出して終わりにした。


 それも大喜びされたので、幸せ愉快犯の俺もまた、本懐を遂げた気持ちで食事会の幕を下ろすことができた。




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