101.レノアイザベラニーナエリーゼ(1)
一時間後――。
四十分ほど前に衛兵詰所の一室に入れられた俺とサブロは、エリーゼとその部下三人と談笑していた。
ふっくらした体格で、肩まで掛かる金髪巻毛のレノア。長身で逞しく赤髪ポニーテールのイザベラ。小柄で華奢な銀髪ショートのニーナ。
副長を取り押さえたのはこの三人。エリーゼとは幼馴染みらしく、親同士が懇意にしている為、かなり小さな頃から仲良くしているのだとか。
俺たちがいるのは取り調べに使う小部屋ではなく応接室。衛兵詰所に豪華な調度品がある立派な応接室があるのはどうかと思うのだが、戦乙女隊の滞在が決定した十数年前に建て替えられて設備が整えられたのだとか。
長椅子に三人が腰掛け、机を挟んで俺とエリーゼが並んで座っている。サブロはこの女子たちが気に入ったようで、ちょこちょこと場所を変えて甘えている。
女子たちもサブロに抵抗はないようで、むしろ時間を経るごとに愛嬌にやられているように見える。中々の甘え上手。サブロは大物になるかもしれない。と、思う。
大物と言えば、罪を怖れることなく俺を侮辱した副長は、エリーゼから報告を受けたウェズリーの正規兵から取り調べを受けている。
進展があれば連絡があるとのことだが、何もないということは黙秘を続けているということだろう。
副長以外で拘束されたのは、証拠隠滅を図った隊員。俺の予想通り、正規兵が確認に向かったところ、その事実が明らかとなり拘束された。その隊員たちも取り調べ中だが、副長同様、今のところ進展はない。
女子たちから聞いたが、戦乙女隊の隊員の三分の二は副長派で、残る隊長派と無派閥の数名は陰湿な嫌がらせやイジメを受けていたとのこと。
元々そういうきらいはあったそうだが、隊長であるエリーゼのことまであからさまに馬鹿にするようになりだしたのは、この二、三ヶ月ほど前からだという。
「副長は気位が高くてよ、隊長選抜試験でエリーゼにちょちょいとやられてから対抗心燃やしまくってたんだ。会議なんかでも、もう噛みつく噛みつく」
「そこが貴族社会のみっともないところですのよね。自分よりも爵位の低い家の者が隊長というのが納得できなかったのですわ」
「嫉妬、醜い。副長、弱いから、徒党組んで、嫌がらせするしか、ない」
「え? 副長って弱いの?」
「ああ、この中の誰にも勝てんよ。隊長選抜試験は文武で分かれているが、私はどちらも次点だったんだ。文はレノア、武はイザベラが一番。ニーナは総合で次点。副長は下から数えた方が早い。副長はニーナが務めるべきだったんだ」
エリーゼは総合で一番の成績を収めたことで隊長となることが決定したが、副長は投票制になっているのだとか。これはかつて、どうしようもない性悪娘が二人優秀な成績を収め、隊長と副長に就いてしまった惨事から取られた対策だとか。
「なるほどねー。そのときは、人柄が良くて慕われるような人に能力が足りなかった訳だ」
「そういうことだ。私の聞いた話だと、隊員への暴言暴力は日常茶飯事。無理やり売春を行わせたり、わざと魔物に襲わせて食われるのを見て楽しんでいたそうだ」
「うえ、性悪娘って表現じゃ済まんだろそれ。変態じゃないか」
「そ。言っちまえばクズだな。それが露見して大問題になってよ、人間性に問題がある馬鹿を二人上に立たせるってことが問題視されたんだ」
「それで副長は能力ではなく人柄を優先することになったのですわ。投票制はうってつけの選出方法と言えますわよね」
「人気、投票、みたいな、もの。私、六票だった。一票は、自分」
「金を使った不正も大いにあり得そうなもんだけど、その辺どうなの?」
女子たちが眉根を寄せて首肯する。
「ある、としか言えんな。当たり前のように行われているよ」
「貴族らしいっちゃらしいけどよ、そういうときは正々堂々やって欲しいよな」
「禁止されてはいるのですけれどもね。それもまた力には違いないのですわ」
副長は金と脅しで票集めしたらしい。まぁ、分かっていたけれども。
癒着についての思い当たる節、というエリーゼの発言について聞いてみたところ、副長派の金回りが良くなっていたことが挙げられた。
ウェズリーにいる間は衛兵としての給料しかもらえないにも拘わらず、それを使い切っても届かないような生活をしていたそうだ。そういうところは無警戒なのだな、と呆れる。
「副長投票後はしばらく質素だったから、実家から与えられた金は票集めで使い切っていたはずなんだ。それに我々の巡回経路には冒険者ギルドも含まれる」
「あれま、副長はもっと賢いと思ってたけど、そうでもなかったんだね」
「それでも、確たる証拠は、掴ませなかった。その点は、優秀」
「怪しいと思っても中からじゃ分かんねーこともあるよ。興味もねーし」
「アタクシは冒険者として依頼を受けているものだとばかり思ってましたわ」
なるほどね。それはそうとして、まだかな……。
俺については、ウェズリーの領主に一任されることになった。というか、それを提案したのは俺。
どうせならこの機会を利用して魔物化騒ぎの情報を伝えておくのが良いのではと判断し、エリーゼに頼んでみたところ「それは名案だ」とすんなりと要望が通った。
という訳で、現在はイワンコフさんの訪問を待っているところだ。
「もうそろそろ来られても良い頃だと思うのですけれど」
「レノアそれ何回目だよ。ジジイだから動くのが遅えんだろ」
「イザベラ、それ、不敬罪、だよ。それに、領主様は、まだ四十歳」
女子が四人も揃えば、かしましい。ずっとわいわいやっている。そしてエリーゼはちょくちょく俺とのことでからかわれている。
春が来ただのお似合いだの好き勝手に言われ「やめて。そういうんじゃないから」と焦った様子で否定するエリーゼは可愛らしいが、俺の顔には多分、隠居した爺さんが縁側から庭を眺めているときのような、とことん落ち着いた微笑みが浮かんでいると思う。
どうでもいいやなぁ。




