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100.自嘲の言葉を呟くと間髪入れずに首肯する友人(2)




 ただ、証拠隠滅や買収工作を行ったところで、どうしようもないことはある。それを理解する頭があるのは間違いない。


 あの開拓村の腐敗貴族にできていなかったことが、この衛兵たちにはできていることからもそれは確か。


 無謀に権力を振りかざすやり方ではなく、じわじわと手足の自由を奪うように力を削いでいく。この衛兵たちのやり方はそういうものだ。


 不利益を被る証拠を隠すことに全力を尽くしている。権力がないからこその悪知恵が磨かれている。


 そこに罪悪感があるかは分からない。だがはっきりと言えるのは、その悪事が招く身の破滅への恐怖はしっかりと抱いているということだ。


 それだけに、引き際は弁えているよな、多分。


 こういう手合を崩すのは楽。要は、長い物には巻かれろと思わせれば良い。


 元々、そうやって生きてきたのだろうから、損得勘定はお手の物なはず。


 つまり、我らがピチピチ公爵の権力を行使して、秤に掛けさせればこっちのものだということ。


 チエが悪事を隠しおおせる方に乗って現状維持を選ぶか、それとも嘘か本当か分からない公爵の客分と称する冒険者の言うことを信じるか。


 俺の予想では、副長はチエを切る方を選ぶ。トカゲの尻尾切りに使って、自分たちは知らぬ存ぜぬを貫き通すくらいの腹黒さはあると見た。


 そうじゃなきゃ命知らずの馬鹿だ。さてどうなるか。これは見ものだ。


「あー、無視するのは別に構わないけども、俺たちはアルネスの街から来た、領主エドワード・マクレーンの客分だ。衛兵隊から礼を失した扱いを受けたと抗議することもできるということを理解しておくように」


 衛兵隊がざわつく。だが、副長は馬鹿だったようだ。「嘘を吐け!」と叫んでしまった。俺の予想は外れた。これは穏便にはいかない。


「言うに事欠いて、領主の客分だと! 笑わせるな、この痴れ者が! 貴様のような平民風情が、アルネスの街の領主と懇意にできる訳がなかろうが!」


「あらら、極刑確定っすね。副長さんご愁傷様っす」


「言葉を選ぶべきだったよね。目撃者がこんなに大勢いるのにさ」


「は? な、何を?」


「俺たちは客分だと言っただろ。ユーゴ、証明する物はないが、どうする?」


「そうだね。証が立つまで牢にでも入れてもらおうかな。そこでゆっくり待つよ。今日知らせが向かえば、十日くらいでエドワードさんから手紙が届くでしょ。領主の客分への無礼は極刑。牢になんて入れば無礼千万。証が立った時点で、副長はおろか、衛兵隊は全員極刑。その家族にまで累が及ぶだろうけどね」


 衛兵隊のざわつきが大きくなる。困惑を超えて混乱や怯えが表れる。俺たちのあっけらかんとした様子に信憑性が感じられたのだろう。


 副長は引くに引けない様子で、周囲に「騙されるな、デタラメだ!」と必死になって声を荒げているが、残念なことに本当なんだよな。


「エリーゼ、話は訊いた?」


 振り返って訊くと、エリーゼが「はい」と答えて跪いた。


「知らなかったとはいえ、大変なご無礼を」


「ああ、そういうのはいいよ。敬語も敬称もいらない。それで、俺たちはどうなるのかな? 証がないから、やっぱり牢に入れられるのかね?」


「いえ、隊長権限で解放しま、いや、解放する」


「隊長! 騙されてはいけません! こいつらは悪党ですよ!」


「黙らっしゃい! 衛兵隊! 副長を捕縛しなさい!」


 衛兵隊の中から「はっ!」という少なくも力強い声が上がり、三人が機敏に動いて副長を取り押さえた。他はまごつくばかりで副長を助ける者は一人もいない。


「隊長⁉ 正気ですか⁉ 証のない者を捕らえても我々に咎はないんですよ⁉」


「え⁉ そうなの⁉」


 驚いて訊く俺に、エリーゼが「そうだ」と首肯する。


「証を持っていない場合は、その者に責任があることになっているから、衛兵としての責務を全うするのなら『領主の客分』という言葉を出された時点で虚偽を疑い捕縛するというのが正しい行動だ。捕縛して罪に問われることはない」


「あれ? ユーゴさん知っててやったんじゃなかったんすか? 最初から捕まる予定みたいな話してたから、俺はてっきり知ってるもんだと思ってましたけど」


 きょとんとした顔のヤス君に問われ、俺は脂汗が浮くのを感じた。


 言われてみればそうだ。それを脅しに使う輩がいるから、権力者を装うのが重罪にされている。


 捕らえた後に証が立って極刑にされるなんて仕組みだと、衛兵は罪を恐れて詐欺師を捕まえられなくなる。誰だって貧乏くじは引きたくない。


「俺って、馬鹿だったんだな」


「うん、知ってる」


 フィルが間髪入れずに首肯してからエリーゼに顔を向ける。


「でもそれならどうしてエリーゼは捕縛しなかったの?」


「諸君の話に、思い当たる節があったからだ。もし戦乙女隊が人身売買に関わっていたとすれば由々しき事態。あのチエとかいう冒険者ギルド職員との癒着の方が事案としては大きい。それにユーゴは、私を笑う隊員たちを一喝し、手を握って引き寄せてくれた。そして話を聞いて導いてくれた。とても悪人とは思えない」


 エリーゼが手を擦りながら、恥じらうような上目遣いで俺を見る。


「と、殿方に手を引かれるというのは、悪くないものだな」


 え、なにこれ?


「ユーゴさん、早くも二人目の嫁さんですか。節操ないっすね」


 エリーゼが「え?」と目を見開いて呟き、眉を下げて笑む。


「そ、そうか、ユーゴは既に結婚していたのか……」


「いや違う。してない。それに何かおかしい。ヤス君がややこしくしてる」


「まぁ、解放ってことだから、僕たちは冒険者ギルドに向かうよ」


「詐称したのはユーゴだけだしな。どう考えても、エリーゼに協力してやらんと駄目だろ。ユーゴの所為で咎められることにでもなったら気の毒だ」


 おい、詐称はしてないぞ。証がないだけだぞ。


 だがその人聞きの悪い間違い一点を除けばサクちゃんの言うことはもっとも。全員解放した場合、他の隊員が息を吹き返し、エリーゼの失策だと責め立てる恐れがある。取り敢えずの言い訳を作るには、推定詐欺師の俺が同行するべきだろう。


 それでも三人は逃亡ではなく解放扱いになったので結果としては上々。ルードにサラマンダーは届けられるので憂いはない。


 一応、ヤス君から《天眼芯》を受け取り「戻らなかったら深夜に迎えに来てね」とお願いしておいた。《天眼芯》はズボンのポケット。牢に入ったら出す予定。


 できれば脱走せずに済ませたいが、はてさてどうなることやら……。


 そんなことを考えながら、俺はエリーゼについていった。





 百頁達成しました。


 途中で止めずに続けられたのは読んでくださる皆さんのお陰です。ありがとうございます。


 ブクマ、評価いただけると嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。

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