『第八章 渋谷の番犬』
東京、夜の港の倉庫に一人でやってきたレイナ。
彼女に恨みのある不良集団が彼女の弟を誘拐し、おびき出す餌にしたのだ。
時間帯も深夜で港には人っ子一人いない。
レイナは倉庫のシャッターを押し開け中に入る。
「やっと来たか・・・。」
そこにはガラの悪すぎる不良集団と椅子に縛られガムテープで口を塞がれている弟の彰吾がいた。
「テメェ等、彰吾を離せ・・・!」
どすの効いた声で唸るレイナ。
とてつもなく怒っている。
「流石渋谷の番犬・・・、迫力が違う・・・。」
周りの不良たちがたじろぐ。
だがただ一人、リーダー格の男だけは威勢を放っていた。
「その貫禄・・・、なまってなくてよかったぜ!」
前に出てきたのは他の連中より一回り大きく、頬に傷がある金髪の男だった。
「クズキ・・・!」
「テメェから受けたあの屈辱、一時たりとも忘れたことはねぇ!」
傷を押さえてレイナを睨む。
「テメェにやられたあの時から、俺の人生は壊れた!弱者のレッテルを張られ、誰からも見放された!恨んだぜ・・・俺から根こそぎ奪っていった渋谷の番犬、テメェをなぁ‼」
憎しみに満ちた顔で怒鳴る。
確かにレイナは以前クズキをぶっ飛ばしている。
だがそれはクズキと集団が寄ってたかっておばあさんをカツアゲしていたからぶっ飛ばしただけだ。
レイナは正しい事をした。
だがその時にやられた屈辱が忘れられず、クズキはレイナに復讐しようとこの誘拐騒動を巻き起こしたのだ。
彰吾は涙目でレイナに助けを求めている。
「さぁ渋谷の番犬、テメェはもう袋の鼠だ!お前等!やっちまえ‼」
「ウオオオオオ‼」
男集団が一斉にレイナに襲い掛かった。
しかしレイナは一歩も動こうとしなかった。
「待ってな彰吾。今姉ちゃんが助けてやる!」
両手を上げると、なんと彼女の手にバチバチと稲妻が走る。
「は?」
レイナは両手を地面に当てると雷は周囲に弾け飛び、集団を一網打尽に感電させた。
「ギャァァァァァ‼」
黒焦げになってバタバタと落ちる不良たち。
(まさか、この力に助けられるとはな・・・。)
稲妻が走る自分の手を見る。
「噂通りの化け物か・・・。」
すると自力で口のガムテープを引っぺがした彰吾がクズキに叫んだ。
「姉ちゃんを化け物呼ばわりするな‼」
「彰吾⁉」
「確かに姉ちゃんは変な力を持ってるけど、それを振りかざしたりはしてない!・・・むしろそのせいで友達が出来なかったんだぞ・・・!」
彰吾は泣き始めた。
そう、レイナは何故か生まれつき雷を操れるという異常能力があった。
初めは両親も驚いたが快く受け入れ育てられた。
しかし周りの同年代はそんな彼女を恐れ、哀れみ、下げずんだ。
いじめも受け、そしてグレてしまった。
同時期に両親も事故で亡くしてしまい、弟と二人で生きてきた。
弟のために真っ当に生きようと不良から足を洗い、真面目に生きていたのだ。
しかし不良時代に恨みを買った輩が後を絶たず、絡まれるたびに返り討ちにしてきた。
威嚇の意も込めて昔着ていた番長服を着ていたが、それでも連中は後を絶たなかった。
そうして次第に『渋谷の番犬』と呼ばれるようになったのだった。
「全部、お前らが悪いんだ!お前らが姉ちゃんに寄ってたかって来るから、俺達は平和に暮らせないんだ!姉ちゃん!こんな奴等ぶっ飛ばしちゃえ‼」
彰吾が叫ぶとクズキは彰吾を椅子ごと蹴飛ばし痛めつけた。
「彰吾‼」
駆け寄ろうとしたレイナに物陰に隠れていた残党が飛び出し一斉に漁の網を被せた。
「うわっ⁉」
突然の攻撃でレイナは身動きが取れなくなる。
「このガキ!俺達に楯突くとはいい度胸じゃねぇか、よ!」
彰吾の頭を踏みつけるクズキ。
そして痛めつけられた彰吾は気を失ってしまった。
「彰吾‼」
レイナは網を退かそうとするも何重にも重ねられており中々抜け出せない。
「チッ、さっさと殺しとけばよかったぜ。おいお前等!渋谷の番犬はもう動けない!徹底的に恨みを晴らしてやれ!」
不良集団がレイナに掛かろうとする。
「こんのぉぉぉぉ‼」
四つん這いになるレイナは雷を放電させる。
「うわっ、こいつ近づけねぇ!」
すると金属のバットがレイナに投げつけられた。
ゴンと鈍い音が鳴りレイナは倒れる。
「往生際が悪いぜ。渋谷の番犬。」
クズキがレイナの髪を掴み上げた。
「俺から奪ったもん、今度はテメェから奪ってやる。ケヒャヒャヒャ!」
「・・・クソ・・・。」
頭から血を流すレイナが悔しそうに口を噛みしめる。
「・・・ボォォォォォ・・・!」
するとどこからか汽笛のような音が聞こえてきた。
「あ?何だ?」
クズキと不良集団が首を傾げていると、倉庫の壁を突き破って機関車が突っ込んできたのだ。
「な、何だぁぁぁ⁉」
「ぐわぁぁぁぁ⁉」
突然現れた漆黒の機関車に驚き集団は散らばって逃げた。
クズキもあまりの出来事にレイナから距離を取った。
機関車がレイナの近くで停車すると、客車から彼が降りてきた。
「何て様だよ。レイナ。」
機関車をバックに現れたのは黒いコートを身に纏う白黒髪の男、エクトだった。
機関車で突然現れたエクトは周りを見渡し、状況を把握する。
「ロア!彰吾を頼めるか?」
すると無人鉄機からロアの声が聞こえてきた。
『いけるよ!あの距離なら行動範囲内だから。』
そう言うと機関室から少女が出てきてタタタタタと走って彰吾を抱え、テテテテテと無人鉄機に戻っていった。
「・・・はっ!何をしているお前等!あのガキを逃がすんじゃねぇ!」
呆然としていたクズキが我に返り他の不良に指示を出す。
不良たちは一斉に無人鉄機に乗り込もうとすると、
『汚い足で入らないでほしいな。』
ロアがそう言うと客車の屋根から機関銃が無数に飛び出し、不良に向かって一斉掃射した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ⁉」
本物の銃機で攻撃された不良たちは見事に返り討ちにあい気絶していった。
それを見たレイナとクズキは唖然とした。
「ロア、離れてろ。」
『分かった。』
無人鉄機はバックしその場から離れていった。
「さて、俺の友達をいたぶってくれた礼、たっぷりさせてもらうぜ?」