『第七章 交流』
警官から逃げてきたエクトと女性は少し離れた路地裏にやってきた。
「ここまで来れば大丈夫だろう。」
「お、お前は・・・?」
「ただの通りすがりだ。何か絡まれてたから助けたんだが、余計だったか?」
「いや、助かった。ありがとな・・・。」
お礼を言う女性はエクトの服装を見る。
「どした?」
「あ、いや。あまり見たことない服装だなと思って・・・。」
当然だ。
エクトは異世界の人間なのだから。
「じゃぁ俺はこれで・・・。」
「ま、待て!」
早々に立ち去ろうとすると女性に呼び止められる。
「助けてもらったんだ!何か例をさせてくれ!」
「別に要らねぇよ。」
「いいや!このままじゃあたしの気が済まねぇ!来い!」
かなり強引に連れていかれたエクトは少し寂れた住宅街にあるボロい家の前に来た。
「そういや名前聞いてなかったな。あたしは荒木レイナだ。よろしくな。」
「・・・エクトだ。」
「エクト?珍しい名前だな。」
もう一度言う。
エクトは異世界人である。
「ここがあたしの家だ。上がってくれ。」
「お、おう。」
ドアを開けると中から小さな男の子が出迎えた。
「姉ちゃんお帰り!」
「おう!ただいま!」
バフっと抱き合う二人。
男の子は後ろのエクトに気づく。
「兄ちゃん誰?」
「こいつはエクト。あたしの恩人だ。」
エクトは軽く手を振った。
男の子はじ~っとエクトを見ると、
「兄ちゃん、姉ちゃんの彼氏か?」
突然の質問にレイナが顔を赤くして怒った。
「テメェ彰吾‼何言ってやがる‼」
「ワハハハ‼」
仲のいい兄弟だ。
二人を見ていたエクトは妹のシアを思い出し、少し寂しい気持ちになった。
無理やりレイナの家に連れてこられたエクトはその弟の彰吾と三人で彼女の手料理をご馳走になっていた。
「美味い・・・!」
「だろ?姉ちゃんの料理は一番美味いんだ!」
「おだてても何も出ねぇぞ?」
いかつい見た目の彼女だが意外と家庭的だった。
一通り料理を堪能したエクトは無人鉄機で留守番しているロアを思い出す。
「レイナ。余った料理を持ち帰ってもいいか?家で待ってる奴がいるんだ。」
「そうなのか?いいぜ。あたしが無理やり連れてきちまったからな。」
エクトはタッパーを貰いレイナの料理を詰める。
ふと腰を上げるとコートの裏からエクトの拳銃が転がり落ちた。
「兄ちゃん何それ!めっちゃカッケェ!」
彰吾は拳銃を手に持った。
「え?あ!待て!引き金は引くな!」
そう言うエクトだが彰吾は誤って引き金を引いてしまった。
拳銃から弾が発砲され天井に穴が開く。
発砲音に驚いたレイナと彰吾は固まっていた。
エクトも頭を抱えている。
「・・・おいエクト、今の・・・何だ?」
「彰吾、返してくれ。」
彰吾は驚いた表情のままそそくさと返した。
「エクト・・・その銃、まさか本物?」
「あぁ、そうだよ。うっかり弾を入れっぱなしにしてたみたいだ。気を付けねぇと。」
エクトはリボルバーを外し弾を抜き取る。
それを見てレイナは銃がマジで本物だと確信した。
「何でそんな物持ってるんだよ・・・?」
説明が難しい。
手作りであることまでは説明できるが異世界から来たなんて言っても信じてもらえないだろう。
「あぁ、護身用だ。この辺何かと物騒だから。」
「そ、そうなのか?まぁ威嚇射撃なら十分な威力だな・・・。」
まだ全て納得している訳ではなさそうだがとりあえず分かってくれたみたいだった。
しばらくレイナの家で過ごしたエクト。
時間はすっかり深夜だ。
彰吾も寝落ちしている。
「そろそろ帰るか。」
「送ってくか?」
「いやいいよ。この辺からだと割と近いから。」
そして家から出る二人。
「今日は助けてくれてありがとな。」
「俺こそ。夕飯ご馳走してくれただけじゃなく土産まで貰って。」
「・・・なぁエクト。明日、朝から時間空いてるか?」
「特にこれと言った予定はねぇけど・・・?」
「じゃぁ明日一日付き合ってくれねぇか?買い出しがあるんだけど少し量が多いんだ。」
「荷物持ちか。いいぜ。じゃぁ明日お前の家に集合でいいか?」
「おう、それでいいぜ!それじゃ、おやすみな。」
「あぁ、おやすみ。」
レイナはエクトを見送り、エクトは山の方に帰って行った。
見送りを終えたレイナは家に戻ろうとするとふと思った。
「・・・あれ?あっちは確か山しかなかったはず。人が住める所なんてあったか?」
山に停車している無人鉄機に戻ってきたエクトはロアにレイナから貰った料理を食べさせていた。
「美味しい!」
「だろ?」
ロアはまんまお子様のように食べていた。
エクトは窓から夜空の月を見上げる。
「・・・どうしたの?」
モグモグと頬を膨らませているロアが聞いた。
「いや、今日出会ったレイナと彰吾を見てたら・・・妹の事を思い出してな・・・。」
レイナは何だがいろんな連中と敵対しているらしく、二人の身が大丈夫かどうにも心配だった。
「あ、そうだ。俺、明日一日汽車を空けるからまた留守番してもらう事になっちまうけど。」
「大丈夫。何かあれば無人鉄機で飛んでくから。」
それはそれで騒ぎになりそう。
極力気を付けようと思うエクトだった。
翌日、エクトはレイナの家にやってきた。
ノックしようとすると丁度レイナが出てくる。
「うわっ⁉エクト⁉」
「よっ。」
出てきたレイナは昨晩の番長の恰好ではなく、いかにも女性らしい服装だった。
「昨日の服じゃないのか?」
「あんなので店に言ったらいろいろと面倒なんだ。買い物に行くときはこの格好だ。」
少し顔を赤らめて言った。
(姉ちゃん、普段はあんな服着ないくせに。)
後ろの物陰で彰吾がニヤニヤ笑っていた。
エクトとレイナの二人は大きなデパートにやってきた。
当然エクトはデパートを知らないため驚いた表情をしていた。
「何だこれ・・・。こんなデッケェ建物が市場なのか?」
「変な事言う奴だな。デパートも知らないとか、どんだけ田舎から上京してきたんだ?」
二人がデパートに入ると明るい室内と大勢の人でエクトは目を回していた。
「おいおい、大丈夫か?」
とりあえずエクトは気持ちを落ち着かせ、レイナの買い物に付き合った。
食材は勿論、ちょっと奮発して服など見て買い、店舗でお茶などもした。
傍から見たらこれはデートだ。
「フフフ!」
「何だよ、急に笑って。」
「いや、こんな楽しい時間は初めてでさ。ほら、普段のあたしはレディースだろ?だからそんなあたしを怖がって友達という友達もできなかった。」
少し寂しそうな顔をするレイナ。
「それに、あたしにはアレが・・・。」
「ん?」
「・・・何でもない。」
そして二人がデパートを出てきたのはもう夕暮れだった。
「ヤッべ、買いすぎたかも・・・。」
二人の手に大量の袋がかかっていた。
「悪い、お前といるのが楽しくてついつい買いすぎちまった。」
エクトは何か考え事をしていた。
「・・・アレが使えるかも。」
「アレ?」
エクトはコートの裏から小さなバッグを取り出した。
「昨日の夜に作っといて正解ったぜ。」
バッグを開けると次々と買った袋を中へ放り込んでいった。
「え、えっ⁉」
小さいバッグにあれだけあった買い物が全て収まったのだ。
「これで良し。」
「良しじゃねぇよ!何だそのバッグ⁉あんだけあった物が何でそんな小さいバッグに全部入る!物理的におかしいだろ‼」
わめくレイナだがエクトも自分で作っておきながら原理は理解していなかった。
「ま、まぁ何だ?これはこういうもんだって割り切っとこう。」
「お前・・・本当に何なんだよ・・・。」
まるで四〇元ポケットのようなバッグに全て荷物を入れ身軽のままレイナの家に帰ると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
「おい、何の冗談だ・・・?」
レイナの家が跡形もなく壊されていたのだ。
「彰吾‼」
レイナは家があった場所に走る。
外から見たエクトはこれは人為的に壊されたという事に気づく。
(武器を用いての殴打。複数の足跡。サイズからして男だな・・・。)
「エクト・・・。」
呼ばれてレイナの側に向かうと、レイナは一枚の置手紙を持っていた。
内容は『弟を預かった。返してほしくば一人で外れの倉庫に来い。』との事だった。
手紙には変な虎のマークも書かれてる。
「あいつ等・・・!」
手紙を握りしめわなわなと震える。
「どうやらレイナに恨みのある連中が彰吾を囮にしてお前をおびき寄せようとしてるみたいだな。」
「・・・済まないエクト。今日は返ってくれ。」
レイナは落ちていた番長服を取ってその場で着替えた。
「一人で行く気か?」
「これはあたしの問題だ。関係ないエクトを巻き込みたくない。」
レイナは支度を整える。
「荷物はその辺に置いてってくれ。・・・今日はありがとな。お前と過ごした時間、楽しかったぜ。」
そう言い、レイナは走り去っていった。
「・・・・・馬鹿か。関係ないわけないだろ。」
エクトは通信端末を取り出し、ロアに連絡を取る。
「ロア、発進の準備をしてくれ。ひと暴れするぞ!」