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『第六章 異世界渡り』

快晴な空の上を空飛ぶ機関車が走っていた。

人目につきづらい高度で走っているため、騒ぎにはならないはずだ。

エクトは機関室の窓から外を眺めているとロアの声が聞こえてきた。

『エクト、どこかにしっかり捕まって。これから次元の狭間に入るから。』

「え?」

訳が分からずだったが言われた通りエクトはしっかり捕まると無人鉄機は速度を上げて走り出した。

すると車輪が光出し、前方の空が裂けたのだ。

「何だあれ⁉」

『あれは次元の扉だよ。さぁ、飛び込むよ!』

無人鉄機は汽笛を鳴らし、次元の扉に入って行った。

そして扉はゆっくりと閉じた。


 次元の扉をくぐった無人鉄機は黒い背景に緑色の線と輪が混在する不思議な空間を走っていた。

「何だここは?」

そこにロアが火室から出てきた。

「ここは世界と世界の間、次元の狭間。この空間を走れるのは無人鉄機だけなんだ。」

そう説明しながら出てきたロアにエクトはあることが不安になる。

「え、お前出てきていいの⁉その、操縦とかは・・・?」

「大丈夫だよ。火室に入るのは主には発進する時や激しい操縦をするときだけ。だから僕が火室に入ってなくても車内にいれば無人鉄機を操縦できるから安心して?」

相変わらず規格外な少女だった。

二人は客車に戻りソファに腰を降ろした。

「世界を渡るなんて未だに実感が出来ないけど、結構ワクワクするな。ロア、今向かってる世界ってどんなところなんだ?」

「分かんない。」

エクトはズルッとこけた。

「分かんないのかよ!」

「だって行く先は完全にランダムだしどんな世界かは着いてからじゃなきゃ分からないの。あ、でもシステムをアップデート出来たら行きたい世界を選択できるかもしれない!」

エクトは頭を抱えた。

王国の復讐が最終目的であるが行きたい世界に行為で行けないとは誤算だった。

自分の世界に戻ってこられるかは完全に運しだいだ。

「まぁ急いでないからいいけど・・・。」

しばらく無人鉄機や次元の狭間の事をロアからいろいろ聞いて時間を潰すこと二日。

エクトは作業場でまた何やら作っていた。

「エクト、それは?」

エクトがいじっていたのは客車内に既に搭載されていた大砲だった。

「ん?この大砲の構造把握を兼ねてメンテナンスをな。にしても凄いなこの技術。砲口からして火薬の球を打ち出すのかと思ったら魔力の塊を打ち出すようになってるのか。面白れぇ、仕組みめっちゃ知りたい!」

好奇心を押さえられず目がギラギラ輝くエクトにロアがポフッと背中に寄り掛かった。

「ロア?どうした?」

「・・・特に意味はないけど、エクトとこうしていたいなって思った。」

意味のない行動のようだが何だか安心するので彼女をそのままにして作業を続けた。

それから更に数日が経ち、とうとう次の世界への扉に差し掛かった。

「ん、エクト!次の世界が見えてきたよ!」

二人は食堂車で昼食を食べていた。

急いで食事を済ませ窓から顔を覗かせると前方に薄っすらとだが空間に光が見えた。

ロアが言うにはアレが異世界の入口のようだ。

「いよいよか。どんな世界か楽しみだ!」

無人鉄機は光に向かって全速前進していった。


 空に空間の裂け目が現れ、その中から無人鉄機が走り出てきた。

「眩し!」

「ずっと薄暗い次元の狭間にいたからね。」

エクトはゆっくり目を開けると、そこは高い高層ビルや大きな道路が地上にびっしりと建ち並んだ見たことのない世界だった。

「ここが・・・異世界・・・?」

遠くには他の建物よりも大きなタワーが一段と目立っていた。

「デッケェ・・・!何だあれ!」

「ちょっと待ってて・・・。」

ロアが目の前にホログラムのような画面を開きピッピッと操作する。

「あった。あの建物は『東京スカイツリー』って言うんだって。この世界では結構重要な役割を担っている建物だってさ。」

初めての景色、初めての異世界。

エクトは復讐を忘れてまるで子供のように目を輝かせていたのだった。


 ロアがインストールした情報によるとこの世界は現実主義という概念らしく、無人鉄機のように空を走る機関車は存在しないためなるべく騒ぎを起こさぬようにしなければならない。

そういう事で無人鉄機は人気のない山に着陸させた。

線路が無くても走れるためその辺の問題もなかった。

客車から降りたエクトは山の上から見下ろす異世界の景色に興味津々だった。

だがあくまで目的は自国への復讐。

その辺りもしっかり頭に留めておく。

「ん?どうしたロア?出てこないのか?」

ロアは扉の陰に隠れており何故かそれ以上出てこようとはしなかった。

「僕・・・無人鉄機から離れられないんだ。」

「え?」

ロアが言うには機関車のコアである彼女は車両から一定の距離から離れられないとの事だった。

「そんな、じゃぁ一緒に異世界を見て回ることは出来ないのか?」

「うん。できない・・・ごめんね、最初に言っとくべきだった。でも、寂しくはないよ?ここの留守番もしなきゃいけないし・・・!」

そう言う彼女だがやはりどこか寂しそうな感じをしていた。

そんな彼女を見てエクトは、

(・・・アイツが外に出られるよう無人鉄機を改造とかできないかな?)

しかしまだ全てを理解していない無人鉄機をいじるのは恐ろしいのでこの問題は保留にした。


 とりあえずエクトは山を下り、街に出た。

周りは人で溢れておりどこを見るも人、人、人。

「何つー数の人だ・・・。」

市場で売り込みをしていた時よりも人が多く、エクトは完全に人酔いしていた。

すると一人の子供がエクトを指さしていた。

「ママー!あのお兄ちゃんの恰好何か変!」

母親は子供を注意して申し訳なさそうに頭を下げて離れていった。

確かにエクトの服は黒い大きなマントを羽織っており人一倍目立っていた。

かといって替えの服もこの世界の通貨も持ってない。

「とりあえず人気の薄い場所に行くか。」

エクトは人気のない場所を探して歩いていると、

『エクト?』

「うおっ⁉」

突然ロアの声が聞こえて驚いた。

「何だ⁉どこから声が⁉」

『エクト、右ポケットの中。』

言われるまま右ポケットに手を入れると板状の機械端末が入っていた。

「何だこれ?」

『これはこの世界で言う『スマホ』って言う通信端末だよ。まぁ形だけ似せた別物だけど。』

いつの間にか作ってエクトの服に仕込んでいたみたいだ。

(いつ作ったんだよ・・・。)

『エクト、君の恰好はこの世界の人達には目立っちゃう。だから暗くなるまで無人鉄機で時間を潰そう。戻ってきて。』

ロアの言う事も一理あるため渋々ではあったがエクトは無人鉄機に戻った。


 その日の夜、エクトはマントではなく黒いコートを着て外に出てきた。

「コートって意外と難しいんだな。作るのにスゲェ時間かかった。」

「あっという間に夜になったね。エクト、君にとってこの世界は未知の世界だから気を付けてね?」

心配そうな顔でロアはエクトに言う。

「あぁ、頃合いを見て早めに帰ってくるよ。」

そう言いエクトは夜の世界へ向かった。

この世界では夜でも昼のように明るく、またもやエクトは人酔いに会ってしまい路地裏に避難してきた。

「やっぱキッツイ・・・。」

すると後ろから何やら声を掛けられた。

「おい兄ちゃん!結構いい身なりじゃねぇか!」

振り向くとガラの悪そうな不良集団がいた。

「兄ちゃん、痛い目見たくなかったら金目の物を置いていきな。」

この世界の事を知らないエクトでも理解できた。

この連中は世の中のクズどもだと。

「悪いがそういうものは持ち合わせていない。他を当たってくれ。」

「あぁ?嘘つけ!そんな高そうなコート来てる奴が無一文な訳ねぇだろ!」

「これは手作りだ。マジで金は持ってない。」

「手作りとか!それこそ嘘だろ!ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと金を出せ!」

全く聞く耳を持たない不良にエクトは腹を立てた。

「埒が明かない。お前らに構うほどこっちは暇じゃないんだよ。」

「こいつ・・・!もういい、だったら力ずくで奪ってやる!お前等やっちまえ‼」

「ウォォォォ‼」

しびれを切らして殴り掛かる不良にエクトはため息をつく。

「人間、どの世界でもこんな人種はいるんだな・・・。」

コートの裏から拳銃を取り出し地面に発砲した。

発砲された弾から煙が噴き出し一瞬で辺りを煙で包んだ。

「ゴホッゴホッ!何だこれ⁉」

煙が晴れる頃にはエクトの姿はどこにもなかった。

「アイツ、どこ行った⁉」

「クソが‼探せ‼」

悔しがる不良共をビルの上から見下ろすエクト。

「・・・嫌な事思い出すぜ。」

ビルの上を飛び移って移動していると、下の公園が何やら騒がしかった。

「何だ?」

よく見てみるといかつい服装の女集団がわらわらと集まっていた。

「今日こそは決着つけさせてもらうぞ!渋谷の番犬!」

女集団の先には一人の長い金髪の女性が立っていた。

集団の黒服とは違って彼女は白コートだった。

だがその可憐な見た目とは裏腹に力強そうな佇まい。

まさに番長だ。

「テメェ等こそ、どれだけ喧嘩を吹っ掛け続ければ気が済むんだ?いい加減鬱陶しんだよ。何度も言うがここはあたしのテリトリーだ!何人たりともここは譲らねぇ!」

拳をポキポキ鳴らし威嚇する。

反対のレディース集団は、

「ハッ!お前さえ倒せればテリトリーなんか要らねぇ!私達は渋谷の番犬を倒したという称号さえ手に入れればな!アンタ等、やっちまいな!」

「「ウォォォォ‼」」

リーダーの合図により一斉に掛かった。

「おいおい、一人相手に大勢で掛かるのか?いくら何でも・・・。」

ビルの上で様子を見ていたエクトは金髪女性を助けようとした時、彼女から違和感を感じ取った。

「ん?これは・・・?」

レディース集団が女性に襲い掛かるが女性は難なく集団を蹴散らしていき、そして無傷のまま全員を倒しきったのだった。

「これで終わりか?」

手をパンパンと払いリーダーの方を見る。

「舐めるなよ。私はそいつらのようにはいかないぞ!」

リーダーとの一騎打ち。

リーダーが殴り掛かると、

「悪いがお前らに構ってるほど、こっちは暇じゃないんだよ。」

攻撃をかわしカウンターで腹を思いっきり殴りつけた。

「ぐぼぁ⁉」

カウンターを食らったリーダーは腹を押さえその場に倒れた。

「―ったく、無駄な時間使わせやがって!」

女性は噴水の側に置いてあったビニール袋を持って走って行った。

その一部始終を見ていたエクトは女性の事が気になっていた。

「・・・・・。」


 番長の金髪女性は暗い夜道を走っていた。

「待ってろよ・・・。」

すると突き当りで警察官とバッタリ鉢合わせてしまった。

「うわっと⁉あれ?高校生?」

「ゲッ!サツかよ・・・!」

「ちょっと君、今何時だと思ってるの?見た所まだ学生さんみたいだけど。」

「い、今帰ってる途中なんだよ!」

「それでも一人は危険だろう?親御さんに電話するから番号を教えて?」

「余計な事すんじゃねぇよ!こっちは急いでんだよ!」

女性は警官を振り払ってその場から離れようとする。

「あ、コラ!待ちなさい!」

警官が慌てて追うとすると突然地面に三発の銃弾が撃ち込まれた。

「うわっ⁉何だ⁉」

「っ⁉」

弾から煙が噴き出し視界が完全に閉ざされる。

「何も見えない!」

「ケホッ、何なんだ⁉」

「こっちだ。来い!」

女性はエクトに腕を掴まれその場から離れた。

「・・・あれ?どこ行った?」

煙が晴れる頃には女性の姿はなかった。


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