『第四章 青年の逆襲』
「無人鉄機?」
エクトは息を飲んだ。
時空を超えるなんてありえない話だと思っていたが、現に目の前にこの世界には存在しない技術で作られた機関車。
実際にそれに乗っている。
工作の得意なエクトでも見たことのない物ばかりだった。
そして極めつけは、目の前に立つ少女。
そして彼女はこう言った。
自分は機関車のコアだと。
「この機関車、無人鉄機はこの世界とは別の世界で作られた。そして無人鉄機は・・・僕自身でもある。
「どういう事だ?」
「この機関車は、僕の身体でもあるんだ。」
「・・・・・・・???」
話を聞いたエクトはもの凄く難しい顔をして理解に苦しんでいる。
「ごめん。よくわかんないよね・・・。わかりやすく言うと、僕自身はこの機関車の心臓で身体はこの車体ってことだよ。」
彼女の言いたいことは辛うじて理解できた。
後の部分は異世界の知識という事で頭を整理した。
「俺には判らない異世界の知識が使われているって事だな・・・。」
「そう捉えてくれていい。」
少女は火室の扉を開けた。
「本来の機関車だったらここで石炭を燃やして動力にしてるんだけど、その代わりに僕が列車に乗ってるだけで動くようになってるんだ。」
エクトは何もない火室の中を覗いて頷く。
「工作好きには中々そそる仕組みのようだけど・・・今はそれどころじゃないからな。」
そう、現在のエクトの目的は悪行に走る王国軍への復讐。
機関車についての好奇心は一旦捨てる。
「それで、どうやってその王国軍に復讐するの?」
その言葉を聞いたエクトはハッと気づく。
感情に任せて復讐と言っただけだったから特に作戦と言った作戦が何もなかった。
「そうだ・・・、奴らに成す術もなく逃げてきたんだったぜ・・・。」
エクトは頭をかく。
「なぁ、何か武器とかないか?この列車。」
「武器・・・、防衛用でなら車体事態にいろんな銃火器が搭載されてるけど・・・来て。」
案内されるまま車内を移動すると様々な銃火器が積み込まれた車両にやってきた。
「何だこれ・・・どれも見たことのない武器ばかりだ・・・。」
積まれた箱の中にはボロボロになった拳銃が幾つも入っていた。
「気が付いたらこの車両に沢山積まれてたんだ。僕は既に武器が搭載されてるからこんな小っちゃい物は必要なかったんだけど・・・。」
だがエクトはジャンクとなった大量の銃を手に取ると薄っすらと笑った。
「初めて見る物ばかりだ・・・。それにパーツも腐るほどある!これは使えるかもしれない・・・!」
制作魂が燃えたエクトは道具を集め、早速作業に取り掛かった。
分解して構成を知り様々なパーツをつけては外しを繰り返していく。
(初めて見る物なのに何となく解る!これなら‼)
身体の痛みも忘れ作業に熱中した。
「・・・・・。」
熱中して武器を作るエクトを他所に少女は車両から出ていった。
数時間後、空がほんのり明るくなる頃。
机に伏していたエクトが目を覚ます。
「・・・ん?ヤベッ、寝落ちしちまった。」
作業台の上にはリボルバーが付いた近未来的なデザインの銃機が一丁置いてあった。
どうやら夜通しで作り続け武器が完成した直後に寝てしまったみたいだ。
「我ながらいいデザインかも・・・。」
手作りの銃を手に取り惚れ惚れしてるとあることに気づく。
身体の痛みが無くなっていたのだ。
おまけに傷も完治していた。
「え?どうなって・・・?」
するとドアが開き、まだ布を羽織った少女が顔を出した。
「あ、起きた?」
手にはポーションの空き瓶を持っていた。
「もしかして・・・お前が?」
「うん。怪我したままじゃ心配だったからこの世界のポーションの作り方をインストールして作った。そして寝てる間に振りかけたの。」
言われると服から薬品の匂いがする。
「そっか、ありがとな。」
「来て。」
袖を掴まれ、後方の車両に案内されると、クラシックなデザインの食堂車に連れてこられた。
テーブルには少ないが料理が並んでいる。
「・・・お前が作ったのか?」
「データにあった料理をキッチンで再現しただけ。でも味は保証できる。座って。」
半場無理やりに席に座らさせる。
少女も向かいの席に座った。
「食べてみて。」
「じゃぁ、いただきます・・・。」
スプーンで食事を一口食べる。
すると、
「っ‼美味しい・・・!」
「よかっt・・・!」
気づくとエクトの頬に涙が流れていた。
「ど、どうしたの⁉」
「あ、ごめん。妹が作った料理と、味が似てて・・・。」
そう言いながら涙を拭う。
(シア・・・必ずお前の仇は取るからな!)
車内にあった数少ない布をかき集めて黒い服とマントを作った。
「服も作れるんだ。器用だね。」
「ガキの頃から何かしら作ってたからな。こういうのは得意なんだ。」
早速出来た服を着るエクト。
腰のベルトに手作りの銃を付ければダークな雰囲気に仕上がった。
(黒いな・・・布がこの色しかなかっただけで決して中二病とかじゃないからな・・・。)
鏡で着心地を確認していると、ふと少女に目が移る。
少女は羨ましそうに指をくわえてエクトをじっと見つめていた。
確かに彼女もずっとシーツを巻いていた格好だったため、もう一着作ることにした。
「お、いいの見っけ!」
そして完成したのはオーバーオールの短パンに黒タイツが際立った衣装に仕上がった。
(我ながら己の才能が怖いぜ・・・。)
服を着て嬉しそうな少女を見て満足気なエクト。
武器も手に入りいよいよ行動を起こす。
「良し、そろそろ行くか。」
そういい出口に向かうエクト。
すると少女に服を引っ張られ止められた。
「待って。仕掛けるなら暗い夜の方がいい。それに傷は治っても血や体力はまだ万全じゃない。だから・・・。」
言われてみれば身体の調子がイマイチなことに気づいた。
彼女のいう事は最もだ。
「・・・そうだな、悪い。ちょっと焦ってたみたいだ。大人しく夜まで身を潜めるか。」
ソファに腰を降ろしたエクトはふと考えた。
「なぁ、お前も手伝ってくれると言ってくれたのは良いんだが・・・本当にいいのか?」
手伝ってくれるのは嬉しいが冷静に考えるとこれはエクト個人の問題。
出会って間もない少女に人殺しを手伝わせるのもどうかと思い始めたのだった。
「問題ないと思う。僕は生まれて間もないし、そもそも逃げてきた身だからね。逃げてる時に人間の命を幾つか奪っちゃってるから・・・。」
少女は少し暗い表情をしてしまい、少し気まずい空気になってしまった。
「・・・ごめん、何か嫌な事思い出させて・・・。」
「ううん、君がそう思う事のも分かるよ。でも大丈夫だから。君が僕のために思い悩む必要はないよ。」
少し笑ってエクトに言った。
エクトはこの時、彼女の笑顔を見て複雑な気持ちになった。
その日の夜。
王国軍の拠点では帝国への戦争に終わりを付けようと各兵士、慌ただしく動き回っていた。
「いよいよ帝国領土の奪還作戦開始ですね。」
団長室に集まる各隊の隊長。
「以上が作戦になります。では各自準備を、解散!」
作戦説明を終え、各自自分の隊へ戻って行った。
「フリム、お前に少し話がある。」
団長のリルドが説明を終えたフリムを呼び止め別室へ連れてくる。
「この報告書を見ろ。」
バサッと数枚に束ねられた報告書を投げ出した。
フリムは目を通すと気になる文章が目に止まった。
「『付近の洞窟から蒸気と熱の反応を感じた』?団長、これは一体?」
「さぁな、この辺りの辺境に火山はないし溶岩路も存在は確認されてない。本来ならこの程度の報告なんて気にも留めなかったが、少し気になってな。まぁこの戦争なんて俺らの圧勝だ。向こうに全力を注ぐ必要もあるまい。だからお前にはこっちを調べてもらいたいんだよ。」
勝ちを確信し、フリムを戦場ではなく探索に向かわせようと言うのだ。
正直フリムはその命令に意を判したかったが隊長の命令では断ることもできない。
「・・・承知いたしました。」
フリムが剣を持ってテントから出ようとした。
その時だった。テントの一つが突然爆発したのだ。
「な、何事だ⁉」
驚いたリルドとフリムはテントから飛び出る。
そこにはテントの幾つかが激しく燃えている光景が広がっていたのだ。
「何事だ⁉帝国軍の敵襲か⁉」
「い、いえ!帝国に一切の動きはありません!」
「何だと⁉」
何が起こったのか分からずリルドは火を消すよう兵士に指示を出すが火の勢いは異様なまでに強く鎮火する様子がない。
「どうなっているんだこの炎は!」
するとフリムが国王軍以外の気配を感じ取った。
「団長!誰か来ます!」
二人は剣を構え警戒すると目の前の炎の中から黒いマントを羽織った一人の青年が現れた。
「き、貴様は!」
「・・・よう。」
その青年はエクトだった。
彼に手にはこの世界にない武器、拳銃を握りしめていた。
そして彼から放たれるプレッシャーは国王軍の団長ですら恐怖するレベルだった。
「ひぃ⁉」
思わず腰を抜かすリルド。
「これはどういうことだ、青年・・・。」
「言っただろ。いずれ再びお前らの前に立ってやるって。そして・・・、」
ドンッとフリムとリルドの足元に威嚇の発砲をする。
「その時がお前らの最期だってな。」
その憎悪に満ちた目で二人を睨んだ。
リルドは団長でありながら完全に怯えていた。
だがフリムは違った。
「団長、貴方だけでもお逃げください。ここは私にお任せを。」
「そ、そうか!ハハハ、じゃぁ任せるぞフリム!俺が逃げ切れるまで足止めしとけよ!」
そう言い残しリルドはその場から逃げていった。
入れ替わりでフリムの部下が合流する。
「フリム隊長!これは・・・、な⁉貴様は⁉」
合流したのは以前エクトを追いかけたあの部下共だった。
「奴を包囲しろ!この火事は奴の仕業で間違いない!今度こそ息の根を止めろ!」
フリムの指示で兵士がエクトを囲むようにして剣を構える。
「掛かれ!」
そして一斉に切りかかった。
「・・・覚悟を決めるか。」
ボソッとつぶやくとエクトは切りかかる兵士の攻撃を華麗に避ける。
「くそ!ちょこまかと!」
そして兵士の眉間に銃口が向けられると同時にエクトは引き金を引いた。
ドンッ‼と大きな音と共に兵士が倒れた。
眉間には風穴が空いている。
「な、こ、こいつ!やりやがった!」
果敢に攻める兵士たちだが見たことのない武器で戦うエクトに対応しきれず次々と倒されていった。
(・・・奴の使っている武器、あれは何だ?音がすると同時に部下が倒れていく。)
フリムもエクトの扱う銃に困惑していたが先に部下をエクトにぶつけたことである程度理解が出来た。
(いい実験材になってくれた。あの武器についてある程度知れた!)
フリムは剣を抜いた。
「・・・ふぅ。」
エクトの立つ周りには全て脳天を撃ち抜かれた兵士でいっぱいだった。
(・・・殺した、この手で人を殺したんだ。だけど・・・不思議と罪悪感がない。)
返り血で赤くなった自身の手を見た。
(そうだ、俺は崖から落ちた時、一度死んだ。死ぬはずだったんだ。でもあの子が、彼女が助けてくれたから俺は生き永らえた。いや、生き返ったって言った方がいいのかな?俺はもう農民のエクトじゃない・・・俺は・・・。)
そこにフリムの斬撃がエクトを襲う。
ギリギリ銃で剣を受け止める。
「大将のお出ましか?」
「っ!」
弾かれる金属音と共に互いに距離を取った。
「我ら王国軍にたてついたこと、その身をもって後悔するがいい。」
「そっちから手を出しておいて何言ってやがる?お前らのその傲慢な行いこそ、自身の身を滅ぼすという事を教えてやる!」
「ほざけ!」
フリムは瞬く間に距離を詰め剣を振るう。
エクトも避けたりいなしたりしながら数発発砲する。
だがフリムは剣を振り回し、エクトの銃弾を全て弾いた。
「貴様の攻撃は既に見切っている!」
(こいつ、部下を囮にして学習したな?)
辺りが燃える中、息もつかせぬ攻防が繰り広げられる。
「今度こそ貴様の首を絶つ!『ワイルドスラッシュ』‼」
魔力を帯びた剣筋がエクトの首を捕らえる。
(入った!)
だが、
「無駄だ・・・。」
その剣技を銃で完全に受け止めたのだった。
「な、私の剣技がこんな鉄の塊に、止められた⁉」
エクトの銃はこの世界にない異世界の異物。
今いる世界の常識など通用しないものがある。
「言ったはずだ、俺が再びお前らの前に現れたら・・・、」
ドンッと発砲し、フリムの剣を打ち砕く。
「その時はお前らの最期だとな!」
体勢を崩したフリムにすかさず銃口を向け、胸元を貫いたのだった。