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『第三章 謎の少女』

森の中に建つ王国軍の野営キャンプ地。

兵士が辺りの村から略奪してきた物を整理したり、武器の手入れをしたりしていた。

そして中で一段と目立つテントの中にて、剣を背後に置く中年の小太りの男。

この王国軍の団長『リルド』がワインの入ったグラスを片手に豪華な食事を堪能していた。

「ガハハハ!村の連中にしては中々いい物をため込んでいたな。これで当分武器の補充や食料の問題はない!帝国の領土はもはや我ら王国軍の物と言っても過言ではないなガハハハ!」

勝利を確信したかのように高らかに笑うリルド。

(女、子供も大量に捕らえることもできた。王都に戻ったら奴隷商などに売り払うか!)

悪人顔で笑っていると隊長のフリムがテントに入ってきて敬礼をした。

「お食事中失礼します!」

「おうフリムか。先ほど襲った村から何かいい物が見つかったか?」

「いえ、有益な物は全て奪っていたらしく目ぼしい物はありませんでした。しかし途中、その村の生き残りにその現場を目撃されてしまいました。」

リルドがガタッと席を立つ。

「何だと⁉しっかり始末をしたんだろうな‼」

焦って怒鳴るリルドにフリムは冷静に話を続ける。

「ご心配なく。直接手を下したわけではありませんがその男は崖に飛び降り落下死したと思われます。我らの行いが民に知られる心配はないかと。」

「そ、そうか。焦らせやがって・・・!」

ふぅっと席に座り直した。

「団長、帝国への強襲はいつになさいますか?」

フリムが話を変える。

「明日の早朝だ。こっちには余るほどの備蓄が集まった。例え人数はこちらが少なくても武器の多さがあればこの辺りに陣取っている帝国軍など一網打尽だろう。奴らが目覚める前に奇襲を仕掛け、あの領地を我が軍の物にする!我らの勝利は揺るがんさ、ガハハハハ‼」

ワイングラスを上げて大声で笑うリルド。

「我が王国軍の発展のために!」

フリムも多少笑みをこぼしていた。


 (・・・ん、・・・いちゃん、エクト兄ちゃん‼)

「っ‼シア⁉」

エクトが目を覚ますとそこには、身長と同じ位の長い黒髪で前髪で片目が隠れた裸の幼い少女がエクトを膝枕していたのだ。

「・・・君は?」

「・・・・・。」

少女は何も言わず首を傾げる。

エクトは身体を起こそうとするが全く動かなかった。

だがよく見ると腕に細い管のようなものが打ち込まれており、まるで点滴をしているような状態だった。

「これは・・・?」

管を辿って目線を動かすとその管は先ほど見つけた漆黒の機関車の客車から伸びていることに気づいた。これのおかげで意識を取り戻せたみたいだ。

「やっぱり見間違いじゃなかった。この鉄の機械は君のか?」

エクトは問うが少女は一切言葉を発さなかった。

(話せないのか?)

「何はともあれ、助けてくれてありがとうな。君のおかげで死なずに済んだみたいだ。」

少女はニッコリ笑うとエクトの頭を優しく撫でた。

(言葉は分かるのか・・・。けど何だろうこの感じ、凄く安心するというか・・・。)

エクトは妹のシアに慰められていた感覚を思い出して涙を流した。

「っ⁉」

少女はびっくりしてわたわたと焦った。

「あ、ごめん・・・。死んだ妹の事を思い出して・・・。」

涙を拭きエクトは何とか身体を起こす。

いつまでも幼い少女に膝枕されているのもどうかと思ったからだ。

「改めて助けてくれてありがt・・・。」

振り向くが少女は布を一枚も巻いていない姿だったのでバッと目線を逸らした。

「な、何か羽織る物はないのか?こう、俺が来てるみたいに・・・。」

少女はしばらくボーゼンとしてると立ち上がり、客車に入ろうとする。

「・・・ん?」

少女がこいこいと手招きした。

招かれるままエクトも車内に入ると、何の代り映えのない普通の客車内装だった。

少女とエクトはそのまま車内を通り、二車両目に入る。

するとその車両にはクローゼットのような家具が車内全体にずらりと並んでいた。だが中は全て空っぽである。

「何もない・・・。」

少女はそのまま通過しエクトも後を追う。

三両目に入るとそこは寝具が並んだ寝室だった。

「ベッド?どうなってんだこの機械の中・・・。」

少女は毛布を一枚取り出し身体に羽織る。

これでいい?という顔でエクトを見てた。

「あ、あぁ・・・。とりあえずは大丈夫だ。・・・なぁ、この機械は一体何なんだ?それに君は・・・?」

質問するエクトのポケットから軽く焦げたぬいぐるみが落ちた。

少女はそのぬいぐるみに目を移す。

「あ、これか?これは・・・、」

「知ってる。妹の形見でしょ?」

「っ⁉」

エクトは驚きを隠せなかった。

てっきり話せないのかと思ってたら突然喋ったのだから。

「お前・・・話せたのか?」

「今、この世界の言語をインストール出来た。話せなかったのは言語を理解できていなかったから。」

エクトにはよくわからない単語が多かったが一つ疑問があった。

「でも、さっきまで俺の言葉を理解してたんじゃ?」

「意味だけを先にインストールしてた。僕から話すのに発音を理解していなかっただけ。」

(何者なんだこいつ?それに、この世界?)

少女はエクトと距離を詰める。

「僕が何者なのか、気になってるね。」

「っ⁉」

エクトは更に驚く。

何故心を読まれたのか。

「・・・僕の事を知る前に、君はこれからどうしたいの?」

その質問にエクトは先ほどの出来事を思い出した。

王国軍の陰謀、悪行、権力を糧に何の罪もない人間から大切な物を平気で奪う。

そんな王国軍を許せるはずもなく徐々に怒りがこみ上げる。

「・・・俺は、村を!妹の命を奪った王国軍を許さない!奴らは国を守る騎士団でありながら国民を平気で虐殺していた!これ以上奴らの好きにさせない!今まで人々を苦しめてきた報いを与えてやりたい‼もうこれ以上、罪のない人に俺と同じ思いをさせたくない‼」

エクトの瞳には復讐の炎が燃えていた。

「・・・復讐、善良な心で復讐を望むんだね。悪くない。じゃぁ僕もその復讐を手伝うよ。」

「え?」

「君を見てると何故か、この人は放っておいちゃいけないって思えるんだ。だから、僕にもその復讐を手伝わせて。」

エクトは複雑な気持ちになる。

復讐の仲間になってくれる嬉しさともう一つ、出会ったばかりの小さな少女に自分個人の復讐を手伝わせても良いのかと。

「・・・迷ってるね。じゃぁさっきの話の続きをしよう。」

少女は来た道を戻るように二車両目のドアを開ける。

「来て。僕の事、知ってる範囲で教えるから。」

二人は来た道を戻り、先頭の機関室までやってきた。

そして少女はエクトの方に向き直る。

「僕は、機関車のコア。そしてこの漆黒の機関車の名は『無人鉄機』。時空を飛び越える力を持った、異世界の懸け橋。」

エクトとこの少女の出会いは後に大きな運命となるのだった。


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