『第十八章 託される想い』
老婆から衝撃の事実を知ったマイクは研究所を飛び出し機械国に向かっていた。
「親父・・・!何で!」
老婆から聞いた事実は、ライクは持病を持っており既に余命数か月と判明していた。
しかもかなり前から判明しており逆算するともういつ死んでもおかしくない。
「親父、端から死ぬつもりで機械国に行ったのか?くそ!」
両足のタイヤをフル回転させ、猛スピードで大地を駆けていくマイクだった。
機械国の中央に建つとてつもないタワー。
その麓にはエレベーターがあった。
機械兵が大勢警備しておりかなり厳重だった。
そこへ一体の機械兵がやってきた。
「ご苦労様です。そろそろ交代の時間ですので参りました。」
「あぁ、もうそんな時間か。少し飽きてきたとこだし、じゃぁ後は頼むわ。」
警備の一人が交代で入れ替わると、
「すみません。総帥に御用がありまして上へ向かわせてもらってもよろしいですか?」
「構わんが総帥は多忙な御方だ。要件が通るとは思えないがすぐに戻れよ?」
「了解です。」
一人の機械兵がエレベーターに乗り込んだ。
タワーの中をぐんぐん登っていくと室内で機械兵が外装を脱ぎ捨て始めた。
「ふう、機械兵の皮は老体に応えるな。」
なんとライクが機械兵に化けていたのだ。
「侵入は成功。後は奴と話を付けるだけだ。」
頂上に着きエレベーターから降りると目の前に大きな城が佇んでいた。
その時、城から無数の機械兵が現れ一斉に銃口を構える。
「流石にお前にはバレるか。マージン。」
続けて城から現れたのは仮面を被りマントを身に着けた機械?の男だった。
「久しいなライク。追放された科学者が今更何の用だ?」
どうやらマージンと言う男とライクは知り合いらしい。
「この城に機械でも治せる全治の薬があると聞いた。娘の命が危ないんだ。タダでとは言わない。その薬を譲ってほしい。」
するとマージンは、
「機械でも治せる全治の薬?」
機械兵に耳打ちされるとポンと手を叩いた。
「あぁ、アレの事か。確かに全治の薬はある。だがな。少なくともお前なんかに渡すと思ったか?」
マージンが手をあげると周りの機械兵は一斉に銃口をライクに向けた。
「私とお前の関係は分かってるだろう?」
「・・・あぁ。俺とお前は同じ研究所のライバルであり、仲間だった。だがお前は俺の研究成果に嫉妬し、挙句の果てに・・・!」
その瞬間、マージンは突如としてライクの前に飛び掛かり口元を押さえ倒した。
「確かに私はお前の研究に嫉妬した。どんなに成果を見せようとこの国のトップはお前ばかりを贔屓し、私の成果を見向きもしなかった。私はそれに耐えられなかった。だから思いついたんだ。私を認めない奴は全ていなくなればいいと。」
ライクは掴まれた手をこじ開ける。
「それでお前はトップの暗殺を企てた。それだけじゃ飽き足らず、お前はトップから私に対する信頼をズタズタに引き裂き俺を孤立させた。」
「あぁ。私の出まかせでお前に裏切られたと信じ込んだ奴らはお前から研究員の資格を剥奪。そしてお前を追放した。・・・お前を追放した前のトップは本当に愚かだ。認めもしなかった私の言葉を鵜吞みにし、お前を遠ざけ、挙句の果てに私に殺された。全く滑稽な話だ。」
するとライクはポケットから注射器を取り出し、自身の身体に突き刺す。
するととんでもない馬力でマージンを蹴り飛ばした。
「その年でこれ程の馬力を出すとは。ドーピングか。」
ライクは鞄から幾つもの筒状の機械を取り出し、全てを自身に突き刺していく。
「俺はどのみち長くない・・・。だったら、出し惜しみなしで薬を奪い取る!」
塔の頂上で激しい爆音が聞こえた。
「っ!あそこか!」
ハイウェイを疾走するマイクはギアを上げ、大きく跳躍する。
そのまま塔の麓の施設を飛び越え塔を疾走していった。
「な、何だ今の奴は?」
機械兵は突然のロボットに呆然だった。
(親父・・・!)
機械兵が一斉に発砲する。
だがライクの身体は弾を全て弾いた。
「どうなってるんだ⁉この人間の身体は⁉」
ライクの身体は幾つものケーブルがむき出しになった人機一体のような巨大な肉体だった。
「うおぉぉぉ‼」
巨大な剛腕で機械兵を次々なぎ倒していくライク。
「己の肉体を機械で改造したか。だが、アレは長く持たない。ただでさえ病で弱ってるのにそこへ更に負荷をかけている。直に肉体が耐えられず崩壊するな。・・・だが。」
依然に機械兵はライクにぶっ飛ばされ続けている。
それを見かねたのかマージンは指を鳴らした。
その時、マージンの背後から人影が飛び出しライクに剣をぶつける。
「っ⁉」
寸前で受け止めはじき返すとその人影がスタイリッシュなアーマーを来たマイクにそっくりな黒いアンドロイドだった。
「お前も作ってたか。」
「手駒は多いに越したことはないからな。」
黒いアンドロイドは拳銃と一体になった剣を構える。
「殺れ。クライム!」
黒いアンドロイド、クライムはまるで忍びのように俊敏に動き回りライクを翻弄させていく。
(ライクは長く持たない。自滅するその時まで時間稼ぎをさせてもらう。)
俊敏すぎる動きでなかなか捉えられなず時間だけが過ぎていく。
「くそ!時間が無いってのに!」
その時、ライクは血を吐き出し膝をついた。
(もう、限界か・・・!)
クライムの太刀筋が振り下ろされる。
だがそこへ、
「うおらぁぁぁぁ‼」
回転するタイヤの蹴りがクライムを蹴り飛ばした。
「親父!」
「マイク⁉」
マイクの肩からガトリング砲が発射され周りの機械兵を退ける。
「何で病気の事黙ってたんだよ!それにその身体・・・!」
肩を貸そうとするマイク。
だがそこへクライムが襲い掛かってきた。
「チッ!邪魔すんな!俺のパチモンが!」
何度も振り払うもしつこく剣を向けてくる。
「親父!薬は手に入ったのか?」
「いやまだだ。だがこの城にあるのは確か・・・ゴフッ⁉」
「親父⁉」
クライムを押し退けライクに肩を貸すも彼はマイクを突き放した。
「親父・・・?」
「すまないマイク。病気の事をずっと隠していて。お前やリーフに要らない心配を駆けたくなかったんだ。それに・・・、こんな身体になっちまって、俺はどのみち助からない。だから、俺の研究を、受け継いでくれねぇか?」
「何言ってんだよ親父・・・?それじゃまるで・・・!」
遺言。
それは間違いなかった。
「あの黒い奴はかなりヤバい。下手したら俺達まとめてスクラップだ!この城に薬があることは分かったんだ!研究も目途が見えた!だからマイク、後の事は頼んだぜ!」
そう笑顔を見せた。
「親父・・・。」
「リーフと、仲良くな・・・。」
ボソッと呟き、ライクはクライムに掴みかかった。
マイク自身もこのままでは全滅してしまう事は分っていた。
クライムを押さえてくれてる間に逃げろ。
ライクの背中はそう語っていた。
「・・・くっ!」
全治の薬は一旦諦め、マイクは塔を飛び降りた。
「随分お優しんだな。以前のお前は他人に対してそっけなかったのによ。」
「アイツは俺の息子だ。息子たちには長生きしてほしいに決まってんだろ!それが、父親ってもんさ。」
するとライクの背中から筒状の何かが飛び出した。
中にはタイマーが組み込まれておりカウントが減っていっている。
「っ⁉まさか貴様・・・⁉」
「落ちぶれた俺達だ。アイツ等のために、一矢報いてやろうじゃねぇか‼マージン‼」
「下がれ!クライ・・・‼」
(あばよ。俺の愛しいガキども・・・。)
カウントがゼロになり、塔の頂上で大規模な大爆発が起こった。
市民の機械たちは何事かと塔を見る。
そして、マイクはハイウェイの上で爆発した塔を見上げていた。
「っ!親父ぃぃぃぃ!!!」
機械の身体から発せられる魂の叫びが寄闇に響き渡ったのだった。




