『第十七章 覚悟の証明』
それから数か月、マイクとライクは研究を続けていた。
ライクの娘リーフに外の世界を見せたい思いでマイクも積極的に研究を手伝う。
そしてそのかいあってか、ついに研究の完成が見えてきた。
「やったぞリーフ!マイク!これだ!これが俺の求めていた研究結果だ!」
それはフラスコ瓶に入った小さな種だった。
「なんの変哲もないただの種に見えるが?」
マイクは腕を組んで種を睨む。
「正直まだ完成ではないが希望が見えた!これを使えばこの世界の未来を救える!リーフを外の世界に連れていける!」
興奮するライクを一旦落ち着かせる。
「まだ未完成ってんなら、後は何が足りないんだ?」
「簡単に言うと肥料だ。植物は土や水だけでなく成長を支える肥料って奴も必要なんだ。だが今どき肥料を手に入れるのは不可能に等しい。」
「じゃぁダメじゃん。」
「だが諦めるのは早い。もしかしたら機械国に少なからず肥料が保管されてるかもしれない。あの街は大体の物が手に入るからな。俺が肥料を手に入れてる来るから二人は留守番しててくれ。」
「・・・分かった。リーフのためだ。気を付けてくれよ親父?」
「任せとけ!」
そして翌日、ライクは機械国へ出向いていった。
留守番の間、マイクは研究資料を漁っていると一冊のとある書物を見つけた。
「これは・・・?」
興味本位で見開いてみると、それはこの世界の過去についての伝記だった。
「世界の大樹?このデッケェ大樹の絵か。相当デカいな。機械国の中央タワーよりもデカいんじゃね?」
伝記によればこの大樹は世界を混沌から守り、生きとし生ける者に希望を与える神の大樹とも崇められているという。
「大昔にこんな樹があったのか。実在したかは知らんけど。」
本を閉じ研究室に戻る。
するとリーフが待っていた。
「おいリーフ、ちゃんと寝てなきゃダメだろ。」
「マイク、お父さんはこれを作って何をしようとしてるんだろうね。」
リーフは詳しい事は理解できてないみたいだ。
「なんかド派手な手品をするつもりらしいぜ?俺もよく知らないから完成したら二人で見ような。」
「うん!」
二人は指切りをしたのだった。
「しかし、こんな種で世界が変われるのか今だに信じられねぇな。親父は何を考えてるんだ?」
種の入ったフラスコを持ち覗き込むマイク。
その時、足元をネズミが走り回り思わず慌ててしまった。
「おわっ!びっくりした⁉」
しかしその拍子に持っていた種のフラスコを落としてしまった。
「あ、ヤベェ!」
急いで片付けようとした瞬間、種からうねうねと根が現れた。
「うわ⁉何だ⁉気持ち悪⁉」
絡みつこうとする根を振り払っていると側にいたリーフに巻き付き始めた。
「きゃぁぁ⁉」
「リーフ‼」
急いで解こうとするが次々と根がリーフに絡みつき、最終的には種がリーフの体内に潜り込んでしまった。
「この種、身体の中に⁉」
種が体内に入ったリーフの左腕がまるで樹木のように変貌。
「い、痛い!マイク助けて!」
「あ~どうすりゃいいんだ⁉」
完全にパニックになってる二人。
そこへ忘れ物を取りにライクが戻ってきた。
「すまん、忘れ物を取りに・・・ってリーフ⁉」
「親父!助けてくれ!」
事態に気付いたライクはデスクの上に会った鞄を開け、液体の入った注射器を取り出す。
もだえ苦しむリーフの腕に注射し、なんとか身体の樹木化は治まった。
しかし、リーフの左半身が木の幹のようになってしまった。
「一体何があったんだ?」
マイクは事情を説明すると、ライクは頭を抱えた。
「すまねぇ親父・・・、俺のせいでリーフが・・・。」
「いや、種を置きっぱなしにしてた俺の責任でもある。お前が気に病む必要はない。」
そう言われるが、やはりマイクは割り切れなかった。
リーフを部屋に寝かせ、散らばった容器を片付ける二人。
「・・・あの種は真空状態にしてないと栄養を求めてツタが伸びるんだ。栄養なら生き物でもなんでもいいんだ。」
「そうか・・・。だから機械の俺じゃなくリーフを・・・。」
容器を片付け終え、ライクは再び出かけようとする。
「ああなってしまった以上、種を取り出すのは不可能に近い。だがもしかしたら機械国にそれを治せるものがあるかもしれない。俺はそれを探しに行ってくる。」
「待ってくれ!俺も行く!リーフがああなったのは俺のせいだ!だから・・・!」
「マイク。お前の気持ちは分かる。だがリーフは自分の身体がああなって不安がってる。弟のお前が側にいてやってくれ。」
「親父・・・。」
「それに樹木化を治す薬の目途はあるんだ。俺の心配はいらん。だから、リーフを頼んだぞ。」
マイクの胸に拳を当て、研究室を後にした。
梯子を上り、廃墟から出るライク。
「さてと、最期の大仕事だ。」
鞄を持ち歩き出す。
すると、マイクが大急ぎで廃墟から出てきた。
「絶対戻って来てくれよ!親父ぃ‼」
マイクの声にライクは一瞬立ち止まったが振り返らず腕を上げた。
そしてライクはそのまま光が光行と溢れる街へ出発していった。
ライクが旅立った翌日。
マイクはリーフの世話を欠かさなかった。
身体の半分が樹木となった影響か、普段の食事が取れないことに気付き、畑用の石灰を水に溶かしてリーフに与えていた。
「マイク、お父さんは?」
「親父はリーフを治す薬を探しに行った。直に帰ってくると思うぜ。」
「そう、だね。」
身体が木になって苦しいはずなのにいつもの笑顔を見せるリーフに、マイクは作られてないはずの心が痛く感じた。
すると研究室のドアをノックする音が聞こえた。
「親父か?」
マイクが急いでドアを開けると、
「アイツ、また面妖な物を作ったね・・・。」
知らないお婆さんがマイクを見てそう言った。
「え?どちら様?」
「何だい。あたしの事話してなかったのかい。」
杖を持つ小さい老婆はライクの腐れ縁の仲だと説明した。
「若い頃はお互いやんちゃしたもんさ。」
「親父、友達いたんだ・・・。驚いたな。」
「あたしの方こそ、まさか息子を自分で作ってたとは驚きさね。」
ヒェッヒェッと笑う婆さん。
「それで?ライクの阿呆はどこに行ったんじゃ?」
「親父は・・・。」
マイクはこれまでの事を説明した。
「・・・娘がいた事は知ってたけど、そんなことになっていたとはね。」
「あぁ、だから親父はリーフを治す薬を探すため機械国に行ったんだ。心当たりがあるらしいし、信じて待ってるんだよ。」
すると婆さんの表情が一瞬曇った。
「・・・ん?奴は機械国に向かったのか?」
「そうだが?」
婆さんは頭を抱えため息をついた。
「あやつ、言っとらんかったんか・・・!」
「婆さん?」
「・・・よく聞け機械の若造。ライクは、二度と帰って来んかもしれんぞ?」
機械国の裏路地にあるマンホールから這い上がるライク。
「はぁ、はぁ、急がねぇと!」
人目を掻い潜り彼が目指すのは機械国の中央に天高く建つ大きな塔だった。
てっぺんには大きな城が建てられている。
「機械国の王、奴ならありとあらゆる物を創り出せると聞いた。だったら万病に効く薬もあるかもしれない。」
機械とて病には掛かる。
主にバグなどのウィルスプログラムの事だが彼らの作ったワクチンは人間にも効果があることは既に調べ済みだった。
「早く、俺の命が尽きる前に・・・!」




