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『第十三章 魔王のけじめ』

王城に向かって走行する無人鉄機。

『アスタロト、大丈夫かな?あの勇者、何か凄く危ない感じがしたんだけど・・・。』

「なぁに、アイツなら大丈夫さ。確かにあの勇者は強い。けど、魔王のアイツが何の策もなしに挑むと思うか?」

『・・・思わない。彼は頭が切れそうだし、何とかなりそう。勘だけど。』

「自爆はやるなと釘を刺した。だからアイツが勝つことを信じて俺達は俺達のやることをやるぞ!」

『分かった!』

無人鉄機はそのまま街の空を走って行った。


 上空で魔王と勇者の剣が激しく火花を散らす。

アスタロトの背後に設置された魔法陣から幾つも魔法弾を放ち手数勝負で勇者を追い込む。

冷静になったことで無駄な動きが無くなり先ほどよりも優勢に戦えていた。

「おかしい!俺がこんな奴に押されるなんて!」

「エクトのおかげで頭が冷えてな。お前の動きは全て見切れている!」

鋭い一撃が勇者を捉えた。

互いに剣が弾け飛び丸腰となる。

「剣が無くては本来の力は発揮されまい。」

「・・・それはどうかな?」

勇者は自身の身体に魔力を掛ける。

「聖剣がなくとも、拳で戦える!貴様のような貧弱な男にはこれで十分だ!」

腰を低くして構える勇者。

だがアスタロトも負けていない。

「貧弱かどうかは私に勝ってからいいたまえ。」

魔法書から二つのガントレットを呼び出し装着する。

そして二人の戦いは肉弾戦へと突入した。

「貴様の国は滅んだ!なのに何故まだ我ら人類に抗う!貴様はもう終わったというのに!」

「あぁそうさ!貴様等のような愚かな人類に我らは敗北した!だがそれは奇襲を仕掛けられたからだ!言い訳かもしれんが万全の状態であれば勝負は分からなかった!」

凄まじい殴り合いが飛び交う中、互いの主張が交差する。

「私は民を導く立場として理解していた!人類の在り方を!全てを受け入れ共に寄り添い暮らす平和な国を作りたかった!だが貴様等他国の人間は身勝手に欲を満たし、魔族を悪に決めつけ手を出した!相手を理解しようとせずにな!」

強烈な拳がぶつかり力の押し合いとなる。

「私は許さない。仲間を無惨に殺した報い、受けてもらうぞ!」

「ほざくな!」

勇者は距離を取り強力な魔法を発動させる。

「勇者の持つ『裁きの光』で今度こそ貴様を葬ってやる!魔族は大人しく地獄へ落ちろ!」

魔法陣から強烈な光がアスタロトに向かって放たれた。

でも、

「一方的な正義は、正義ではない‼」

背後の魔法陣が右腕に集約され、拳に力が溢れ出す。

「ホーリージャッジメント‼」

「ヘルゴア‼」

勇者の光の光線。

アスタロトの闇の業炎がぶつかり合う。

「滅びろ!魔王!」

「滅びるのは、貴様らの身勝手な正義だぁぁぁぁ‼」

アスタロトはそのまま黒炎と共に突っ込み勇者の光を押し退ける。

「オオオォォォォ‼」

光線が相殺しがら空きの勇者の目の前に出る。

そのままアスタロトは剣を召喚し勇者を切り裂いたのだった。

「馬鹿な・・・勇者の俺が魔王に負けるだと?ありえない、魔王は勇者に倒される運命なのに!」

傷を押さえながらわめく勇者。

「魔王とて全てが悪とは限らない。同時に、お前たちの正義も全て正しいとは限らない。」

魔法書を開き、とあるページの封印を解いた。

すると勇者の足元に魔法陣が現れる。

「な、これは⁉」

「そう、転移の魔法陣だ。この魔法でお前を元の世界へと送り返す。」

勇者は急に青ざめた表情になった。

「い、嫌だ!戻りたくない!元の世界じゃ俺はまたアイツ等にいじめを・・・!やめろ、やめてくれ!」

「事情は知らん。ここはお前のいるべき世界ではない。潔く元の世界で生きていくことだな。」

アスタロトの合図で強い光に飲まれた勇者。

「やめてくれぇぇぇぇぇ‼」

断末魔を最後に勇者は光と共にその場から姿を消したのだった。

「・・・ふぅ。これでいいか?皆・・・。」

勇者との決着はついた。

残すは元凶の国王デバッハだ。

「それほど時間は経ってないが、彼らは大丈夫だろうか?」

アスタロトは王宮へ飛行していった。


 王宮の上空では漆黒の機関車、無人鉄機が停車している。

アスタロトは王宮に入り大きな扉を大きく開ける。

「おうアスタロト!そっちの決着はついたのか?」

ポケットに手を入れて立つエクトの足元にはボコボコにされた大臣とロープでグルグル巻きにされ倒れているデバッハがいた。

「要らない心配だったか・・・。」

アスタロトは倒れるデバッハの前に立つ。

「き、貴様!魔王か⁉勇者はどうした⁉」

「奴なら元の世界に送り返した。おかげで一度きりの魔法を消費してしまったがね。」

(まじか!魔王はそんなことも出来るのか!)

エクトが内心驚いているとデバッハがわめきだした。

「貴様ぁぁ!俺様を誰だと思っている!俺様はアストラム王国の国王だぞ!」

そんな彼にアスタロトは冷徹な目で見下す。

「あぁ、知っているとも。私は貴様の愚かな欲望のせいで滅ぼされた国の統治者だったからな。」

その言葉を聞いたデバッハは急に青ざめる。

「な、なんだと⁉あの国の魔王はとっくに死んでいるはず!なのに何故⁉」

「貴様が仕向けた勇者に殺された仲間が一時的な封印で守ってくれたんだ。彼女たちの無念、貴様にも晴らさせてもらうぞ!」

魔法書から剣を召喚しデバッハに突き付ける。

「ヒィィィ⁉」

剣をデバッハに突き刺そうとした時、

「待て。アスタロト。」

エクトに止められた。

「本気で殺すつもりか?」

「・・・どういう意味だい、エクト?」

「お前からは命を奪う覚悟を感じない。そんな生半可な覚悟でよく国を相手に復讐しようと考えたものだ。」

エクトの言葉に黙り込むアスタロト。

そう、アスタロトは生まれて一度も人の命を殺めた事はない。

利益の有無関係なく殺傷を嫌うアスタロトはこれまで血を流さない方法で幾つもの問題を解決してきた。

しかし今回は度が違う。

ましてや一方的に攻められ仲間も命を奪われては殺傷を嫌うアスタロトも黙ってはいない。

「でも殺したことはないんだろ?」

「・・・あぁ、君の言う通りだ。この国に魔獣の大軍を仕掛けたのも兵力をそちらに向けるための誘導だ。勇者との戦闘は避けられないと分かってたから一度きりの大魔術を使ってまで決着をつけた。でもこの男だけは、仲間の命を奪わせたこいつだけはどうしても許せない!」

再び剣を振り上げるアスタロトの腕をエクトは掴み無理やり止める。

「どうしてもお前がけじめをつけたいってなら貸してやる。」

そう言いエクトは自身の拳銃を差し出した。

「これならけじめを付けられる。お前に人を殺める覚悟があればだがな。」

アスタロトは拳銃を受け取る。

「・・・君がそこまで言うなら、私も今度こそ覚悟を決めよう。」

そしてデバッハに銃口を向けた。

デバッハは惨めもがき続ける。

「王とは民を導く者。よくに溺れたなんの覚悟もない者が、その椅子に座るな‼」

引き金を引きデバッハを撃ち抜いた。

だが彼が死ぬことはなく代わりに撃たれた所を押さえてとてつもなく苦しみ始めた。

「ガァァァァァ⁉」

「な、何だ⁉」

たじろぐアスタロトにエクトが説明した。

「今撃ち込んだ弾は激痛の弾だ。撃ち込まれたら半永久的に苦しみ続ける。俺の自身作さ。」

「こんなものを手作りとは・・・。君だけは敵に回したくないな。」


 その後、国王や国の主力の勇者が打倒されたことでアストラム王国は亡国となり、民も別の国へ移住していった。

強欲に溺れすぎたデバッハと大臣の後始末はアスタロトが知人の魔王に預けることにしたようだ。

その魔王は人間をいろんな実験台に利用しているらしい。

勿論死刑が確定したような悪人のみを使ってだが。

「この世界の魔族はスゲェまともなのに人間があんなとは・・・。同じ人間として恥ずかしいぜ。」

そうして一人の魔王による復讐は無事に果たせたのだった。


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