『第十二章 魔王の復讐』
翌日、城に出向いたエクト。
「アスタロトー!何処だー?」
廃墟の城を彷徨うがアスタロトの姿が見当たらない。
「・・・まさか!」
エクトは急いで無人鉄機に戻った。
「あれ?アスタロトを探しに行ったんじゃないの?」
食パンをもきゅもきゅ食べてるロア。
「ロア、無人鉄機にカメラ機能とかないか?」
「カメラ機能?後方の車両に千里眼機能が付いたテレビが設置されてるけど?」
なんて都合のいいんだろう無人鉄機。
いやそんなことを考えてる場合じゃない。
エクトは急いでその車両に向かうと幾つものモニターが壁に埋め込まれた部屋に出た。
「ホントどうなってんだよ無人鉄機・・・。」
遅れて合流したロアに操作してもらうと昨晩の城内の映像が映し出された。
「カメラもなしにどうなってんだ?」
「千里眼って知ってる?」
「離れてても別の場所が見えるってやつか?」
「それと同じ原理だよ。」
説明されても物理法則が全く理解できないのでとりあえず考えるのを辞めた。
映像を捜査していると一つのモニターにアスタロトが映った。
「いた!アスタロトだ!」
夜の城を歩いているアスタロト。
手には何やら書物のような物を持っていた。
すると本を開き何かの呪文を唱えると目の前に巨大なイーグルが現れたのだ。
「鳥が出てきた⁉」
「・・・インストール完了。あれはこの世界の召喚魔法で鳥は魔獣みたいだね。手に持ってる本から呼び出したみたい。」
モニターを続けるとアスタロトはイーグルに乗り、城から飛び立つのが確認できた。
「アイツ・・・、どこに向かう気だ?」
「ちょっと待ってて。」
ロアがしばらくじっとする。
彼女の目には幾つもの文字が流れている。
「・・・インストール完了。今この世界の世界地図を読み込んだんだけど、彼が向かった先にはアストラム王国っていう国があるみたい。」
アストラム王国、アスタロトが目の敵にしている国だ。
そこに向かったってことは・・・、
「アスタロトの奴、一人で復讐しに行きやがった!」
エクトはギリッと歯を食いしばる。
いくら魔王でも国相手に一人で突っ込むのは自殺行為。
そう、彼は道連れ覚悟で一人で戦争を仕掛けに言ったのだ。
「ロア!無人鉄機を出せ!俺達もアストラム王国に向かう!」
「分かった!」
二人は車両から飛び出す。
途中ギターを持ってるレイナとすれ違った。
「どうした?そんなに慌てて?」
エクトはレイナに説明する。
「・・・アイツ、本気だったんだな。エクト、アスタロトは絶対に死なせないでくれ。アイツにはまだ伝えたいことがあるんだ。」
「?よくわからねぇけど分かった。でもお前は今回戦いに参加はしないんだったよな?」
「あぁ、あたしはあたしで別の用事があるからな。悪い。」
「気にするな。俺も国相手に復讐するんだ。その予行練習とでも考えるさ。お前はお前のやるべきことをやれ。こっちは任せろ!」
そう彼女の肩を叩いてエクトは前方車両に向かった。
「・・・絶対アイツの心を救ってやるさ。」
人が多く賑わう都市、アストラム王国。
強欲な国王が戦争で奪った財産でアストラム王国は世界一の国として君臨していた。
「ワハハハ!最高だ!」
美女を両手に玉座に座る小太りの男。
アスタロトが言っていた欲しい物は力ずくで手に入れる国王、デバッハ王だ。
今日も優雅に酒を飲んでいた。
「王よ。次の戦争はいつお始めに?」
大臣の男がデバッハに問う。
「そうだな。財産は腐るほどあるがまだまだ足りない。よーし、次は大陸を頂くとするか!ガハハハハ‼」
成功するたびに強欲度が増していく。
このままではいずれ世界まで手中に収めてしまいそうな勢いだった。
そんな好き勝手やっているデバッハを遠目で見るように石柱に寄り掛かる青年が一人。
彼の腰には鮮やかに輝く一本の剣が目立っていた。
彼こそが異世界から喚びだされた勇者だった。
「・・・・・。」
勇者はだんまりしたまま調子に乗るデバッハを遠目で見ていた。
するとそこに一人の兵士が飛び込んできた。
「ほ、報告です!東門より、大量の魔獣が出現!もの凄い大軍で真っ直ぐこちらに迫ってきています!」
「何だと⁉」
「ふん!魔獣ごとき、俺様の国の防衛設備には遠く及ばん!たかが魔獣。適当にあしらっとけ!」
奪った財産で国の防御を固めており、よほどの自身があるのかデバッハは軽い面倒事のようにシッシッと手を振った。
しかし、兵士は顔を青くして報告を続ける。
「そ、それが・・・。」
「何だ?言いたいことがあるならさっさと言え!」
「はい!実は、その魔獣が・・・大地を覆うほどの数がアストラム王国に迫っているんです!しかも、全包囲からなんです」
「・・・何―――⁉」
デバッハと大臣は驚愕する。
隙間のない数の魔獣が国を囲むように全包囲から迫ってきているというのだ。
本来ならそんな数はありえない程に。
「馬鹿な!全包囲からの魔獣など聞いたことが無い!何かの間違いでは⁉」
大臣が焦った表情で兵士を問い詰めるが、
「いえ、事実です!現に上空からも魔獣が数匹先行して乗り込まれてます!」
窓の外を見ると翼竜型の魔獣が無数空を飛んでいた。
そして国壁の外側には大地を覆うほどの数が真っ直ぐこちらに向かってきていた。
「何がどうなっている⁉早く守りを固めろ!」
「無理です!こうも数が多くては凌ぎきれません!」
デバッハ達が慌てふためいていると勇者が動き出した。
「俺が行く・・・。」
剣を手に取り部屋を後にしようとする。
「おぉ!そうだ、俺様達には勇者がいる!あんな魔獣など脅威にならん。全て蹴散らしてこい!勇者よ!」
デバッハの言葉には一切触れず、勇者は部屋を後にした。
「・・・来たか。」
魔獣の大軍の上に飛ぶイーグル。
その上に佇むアスタロト。
この魔獣たちはアスタロトが召喚した魔獣だった。
「勇者・・・。私の仲間を惨殺した男・・・!」
仲間が勇者に殺された時を思い出し、怒りの表情が満ちいた。
(敵討ちなんて所詮気晴らし。魔王である私に人類が良い感情を持っていないことは百も承知だった。だが、だからと言って滅ぼしていい理由にはならない。せめて、仲間の無念を晴らさせてもらうぞ!異界の勇者よ!)
アスタロトは魔法書から魔剣を取り出した。
そして国壁に立つ勇者と正面からぶつかったのだった。
魔獣の大軍が国門へ一斉に群がり、侵入を阻止しようと国の兵士が束になって戦っていた。
「くそ!援軍はまだか⁉」
「ダメです!どの方角からも魔獣が押し寄せて人員が足りません!このままでは国が蹂躙されてしまいます!」
大軍の数が多すぎてどこの個所も対応で手が離せず完全に詰み状態だった。
魔獣の一帯が兵士に爪を振り下ろした時、死を覚悟した。
「あぁ、裕福な暮らしもここまでか・・・。」
全てを諦めたその時、目の前の魔獣が突然爆散したのだ。
兵士は目をパチクリさせて放心状態になっていると、上空から汽笛の音が聞こえた。
上を見ると煙を出しながら空を走る漆黒の機関車が現れた。
「な、何だあれは⁉」
兵士たちが驚く中、機関車から無数の銃火機が飛び出し、魔獣の大軍に向けて銃弾の雨を浴びせた。
魔獣は次々と消滅していき、最終的に焼け野原が残ったのだった。
機関車は銃火機を収納しそのままアストラム王国に向かって走り去っていった。
「な、何だったんだ?」
アストラム王国上空ではイーグルに乗ったアスタロトと飛行魔法で飛ぶ勇者が剣を交えていた。
「死にぞこないの魔王が今更何の用だ?」
「決まっている。貴様に殺された仲間の無念を晴らすためだ!」
強烈な一撃が二人の距離を開ける。
「殺された仲間の無念を晴らす?お前等魔族がどれだけ世界に脅威を与えているか分からないのか?」
「知らんな。魔族が人類の脅威となっていたのは今から数千年も前の話のはずだ。現在はどの種族も手を取り合って平和に暮らしていた。それなのに・・・。」
アスタロトは剣を強く握りしめる。
「そちらから仕掛け、ただ魔族だからと言う理由で仲間や民を殺され黙っている訳がなかろう!」
怒りのオーラが身体から溢れ出る。
確かに先に手を出したのは人類だ。
しかし、勇者は何の悪びれることもなく鼻で笑う。
「ハン。馬鹿馬鹿しい。平和に暮らしていようが関係ない。魔族は滅ぼすべき対象だ。この世界に召喚された時はそれは喜んださ。この世界でなら俺の正義も貫けるんだからな!」
その瞬間にアスタロトに切りかかった。
「世界の頂点は人類だ!人間様に逆らう奴らは消えて当然なんだよ!」
「そんな理不尽な事、許してたまるか‼」
ヒートアップする魔王と勇者の戦い。
ただアスタロトは近接戦闘タイプではないため、徐々に勇者に押され始める。
「どうした!魔王がこの程度か!」
「くっ!」
ついには剣を弾き飛ばされてしまい、無防備になってしまった。
「魔族は人類に敗れた。大人しく地獄で仲間と苦しんでろ!」
聖剣がアスタロトに振り下ろされる。
魔法書で防ごうにも間に合わない。
その一瞬の間にアスタロトの脳内に仲間との思い出がフラッシュバックした。
(走馬灯。そうか、私はここまでか・・・。せめて、お前たちの墓参りをしておけばよかったな・・・。)
アスタロトは最終手段に出る。
(こうなったら私自身を爆弾にし、奴を道連れに・・・‼)
魔法書から核爆発の術式を体内に付与しようとした。
その時、
「馬鹿な事やってんじゃねぇーーーー‼」
無人鉄機の先頭に立つエクトが機関車と共に突進してきたのだ。
「エクト⁉」
エクトは拳銃を発砲し振り下ろされる聖剣を弾いた。
そしてそのまま無人鉄機が勇者と激突、勇者は激しく吹っ飛ばされた。
普通機関車に引かれるなど大問題だが、ここは異世界のためセーフ・・・だと願いたい。
「どうして君がここに?」
腕を押さえるアスタロトから魔法書を奪い取った。
「あ、何をする⁉それは私の武器だぞ!」
「うるせぇ!自爆しようとする奴にこんなん持たせられるか!」
「な、何故それを?」
ロアに備わっている他者の心を読み取る能力。
それを利用してアスタロトの考えを把握していたのだ。
「仇を討ちたいのは分かるがお前まで死んだらお前を守った仲間が浮かばれないだろ?」
「!」
仇だの復讐などで頭に血が上っていたアスタロトはようやく冷静になる。
「・・・すまない。少し熱くなってたみたいだ。」
「熱くなりすぎて無関係な街の人間たちまで巻き添え。これは流石にいただけねぇな?」
「そうだな。私の標的はあくまでこの国の王と勇者だけだ。街の人間には無関係だったな・・・。」
反省したアスタロトは指をパチンと鳴らし、大地を覆っていた魔獣の大軍が消滅していった。
戦っていた兵士たちは目の前から突然魔獣が姿を消し、脱力していった。
「あの大軍もこれで出した奴だったのか。」
「あぁ、私の魔道具、『マルチブック』と言う。その本に掛かれている魔術式や道具、モンスターなど、好きな物を具現化できる魔王のみ使う事が許される禁書だ。」
話を聞いて恐ろしくなったエクトは魔法書をアスタロトに返した。
すると遠くで墜落した勇者が立ち上がるのが見えた。
「アイツがお前の仲間を?」
「あぁ、奴だけはこの手でケリを付けたい。助けてくれたのはありがたいがこれは私の問題だ。君達はこの場から離れてくれ。」
「何言ってやがる。友人が一人で戦っているのに黙って帰れってか?お断りだね。」
「友人・・・。」
急な言葉に目を見開くアスタロトにエクトが言った。
「昨日会ったばかりだが、お前とはいろんな話をした。もう互いに理解し合えるぐらいにな。だから、勝手かもしれないが俺達は友達だ!そう言わせてくれ!」
二ッと笑うエクトにアスタロトもつられて頬が上がる。
(変わった人間だ。魔王として恐れられた私を友人と呼ぶとは・・・。)
彼は魔法書を握りしめる。
「この縁、二度と手放したくないな!」
アスタロトは魔法書を開き戦闘態勢に入る。
エクトも拳銃を構え助太刀しようとすると、
「エクト!君はこの国の王を押さえてくれ。」
「何で?」
「全ての元凶はその王だ。我儘かもしれないが奴も私が直接手を下したい。勇者とのケリがつくまで押さえておいてくれ。頼む・・・!」
彼からは覚悟がビシビシ伝わってくる。
当然エクトの答えは決まっていた。
「自爆とか考えるなよ?」
「善処する。」
二人は笑い、エクトは無人鉄機と共に王宮へと向かっていった。
そして勇者が飛行魔法で再びアスタロトの前に現れる。
「妙な奴を引きつれていたとは、油断ならない・・・!」
「妙な奴ではない。」
パラパラと魔法書のページがめくれ背後に無数の魔法陣が設置される。
「彼は、私の友だ!」




