『第十章 再び異世界へ』
どこか別次元の世界。
廃墟となった城の中、一人の影が窓から外を覗いていた。
「・・・時は近い。人間共への復讐が・・・!」
すっかり日の暮れた森の中。
その中にポツンと長い光があった。
「これが無人鉄機か!」
新たな仲間、レイナが漆黒の機関車に興奮気味だった。
「あん時は良く見えなかったけど、ホントにまんま機関車だな!カッケェ!」
「ほら、中に入るぞ。こっちだ。」
二人が客車に乗るとロアが出迎えてくれた。
「お帰りエクト!」
「おう、ただいま。」
ロアがエクトをぎゅっと抱きしめた。
(帰った時に誰かがいるって最高・・・!)
出迎えの暖かさに浸っているとロアはレイナの方に視線が移る。
「この姿で会うのは初めてだね。僕はこの機関車、無人鉄機のコアのロア。よろしくね。」
「あ、あぁ。よろしく・・・。」
レイナはエクトの腕を引き耳打ちする。
「エクト。無人鉄機のコアってどういう意味だ?」
「まんまの意味だよ。」
エクトはロアの事について説明した。
「マジかよ⁉この機関車がお前の身体ってことなのか⁉」
「そうだよ。あ、ここにいる僕は無人鉄機の心臓って思ってくれていいよ。」
ニッコリ笑顔で言うロア。
「早速人外のお出ましか・・・。異世界スゲェな・・・。」
「まず人かどうかも怪しいがな?無機物だし。」
エクトもロアの事は詳しく知っていなかった。
「で?これからどうすんだ?エクトの王国への復讐をしに行けばいいのか?」
早速ソファでくつろいでいるレイナ。
「いや、正直言ってまだ人数が足りない。相手は一つの国だ。たった三人で太刀打ちできる相手じゃない。もっと仲間が必要だ。」
銃を手入れしながらエクトが言った。
「腐っても相手は軍隊か・・・。確かにこれだけの人数じゃ勝ち目無いわな。」
ゴロンと横たわるとロアがコーラを出してくれた。
「お、サンキュ♪」
「見たことない飲み物だな。あれもインストールしたのか?」
「うん。レイナの記憶を覗いてインストールしてみた。」
「ブーーーーーッ‼」
レイナはコーラを吹き出した。
「き、記憶を覗いてって⁉どういう意味⁉」
「ここは僕の身体の中だからね。乗ってる人の記憶や思ってることを読み取ることができるんだ。」
可愛い顔で恐ろしい事を言うロア。
「そういえば前に俺の思ってたことをビンゴに当ててたな。」
「おいおいおい・・・。プライバシーの侵害じゃねぇかよ・・・。」
レイナはロアにむやみに人の記憶を覗くことを禁止した。
翌朝。
森に停車している無人鉄機に朝日が差し込む。
「そろそろ出発するか。」
「うん!」
ロアは機関室の火室に入る。
『皆、準備はいい?』
客車で座っている二人に車内放送が通る。
「いつでもいいぞ!」
「わくわく♪」
『それじゃ行くよ!』
汽笛が鳴り、車輪が力強く動き出す。
そして次第に宙に浮き、無人鉄機は早朝の空を走り始めた。
「飛んだーーー⁉」
「そういう反応になるよな。」
どんどん高度を上げる無人鉄機。
『そろそろ次元の扉に入るよ。』
車輪が光、前方に裂け目が現れる。
無人鉄機はそのまま裂け目に突入、扉はゆっくりと閉じたのだった。
漆黒の背景に無数の緑色の線と輪が混在する次元の狭間。
その中を無人鉄機は走る。
「へぇ~、ここが世界と世界の狭間・・・。」
「世界を渡るときはここを通るんだ。つっても俺はまだ二回目だけど。」
レイナは窓から外の風景を見る。
「何もねぇな。どれくらいで次の世界に着くんだ?」
するとロアが戻ってきた。
「定まってないけど、一週間もかからないよ。あとどんな世界に出るかは全く分からないからそのつもりで。」
「・・・マジ?」
「マジだ・・・。」
行き先がランダムのシステムにちょっと不便に思ったエクトとレイナだった。
出発してから二日後、レイナはすっかり車内に身を落ち着かせていた。
特に同性のロアと凄く仲が良かった。
「エクト!見てみて!」
走ってきたロアの長い髪が三つ編みで背中にまとまっていた。
「お、いいじゃん!大分スッキリしたな。」
「ロアの髪は凄く長いからな。あたしも結構長い方だと思ってたけど、ロアの方がもっと長かったな。」
レイナも金髪のロングだがロアよりかは短かった。
「ロアは髪が長くてちょっと暑苦しかったから結ってみたんだけど、案外可愛く仕上がったもんだ。」
ニシシと笑うレイナだった。
世界を発って一週間。
車内で各々過ごしていたある日、レイナとゲームをしていたロアが突然立ち上がった。
「どした?ロア?」
「・・・着くよ。」
ロアがそう言うと列車の前方に光が見えた。
「次の世界か。一体どんな世界だろうな。」
次元の扉から無人鉄機が出てくる。
そこには辺り一帯に広い森が広がっていた。
「ここが異世界?森ばっかだけど?」
窓から顔を覗かせるレイナ。
『おかしいな?なるべく人がいるところに出るように設定しているんだけど・・・。』
列車が森の上空を走行しているとエクトが客車の上に登った。
「エクト⁉危ねぇぞ!」
客車の上から辺りを見回すと前方の大きな山の麓に街があるのを見つけた。
「ロア!あの山の麓に街がある!一先ずあそこに向かおう!」
『分かった!』
列車は真っ直ぐその街を目指して走って行った。
その街は、荒廃していた。
何かの惨劇の後のようにボロボロに崩れ、とても人が住んでいるようには思えなかった。
その様子を上空から見るエクトたち。
「・・・廃墟だ。」
「あぁ、しかもあちこちに武器の残骸のような物がゴロゴロしている。この街は人為的に滅んだ可能性があるな。」
そして街を見下ろすように丘の上にそびえ立つ大きな城。
だがその城も廃墟となり果てていた。
すると無人鉄機のセンサーに何かが反応を示した。
『っ!』
「どうした?ロア。」
『お城から一つだけ生体反応を検出した!誰かいるよ!』
こんな人も住めない程の廃墟に人がいる。
他に手掛かりもないため、エクトたちはその反応を確かめに城の方へ走って行った。
廃墟とはいえ城の庭には無人鉄機を止められるほどのスペースがある。
無人鉄機はその庭に降り、ゆっくりと停車した。
「・・・ん?」
客車から降りたエクトは何かを感じ取った。
「どうした?エクト?」
続いてレイナも列車から降りてくる。
「いや、何か変な魔力を感じてな。」
「魔力!お前そんなもの感じ取れるのか⁉」
魔法とは無縁のレイナが興奮気味で言い寄ってきた。
「そっか。お前の異能は魔法じゃないんだもんな。列車から出た瞬間突き刺さるような魔力を感じたんだ。恐らく何かがある。気を付けろ。」
「お?おう、分かった。」
無人鉄機から離れられないロアに留守番を任せ、エクトとレイナの二人は廃墟となった城の中に足を踏み入れた。
壁や天井はボロボロに崩れておりあちこちにコケや野草が鬱葱としていた。
「こんな所に本当に人が居るのか?」
「それは間違いない。だがこんな廃墟にいるとはいえ流石に住んではいないだろう。もしかしたら人間じゃないかもしれない。」
「人間じゃない・・・。もしかしてお化け⁉」
以外にもレイナはお化けが怖いみたいだ。
「何だ?渋谷の番犬ともあろうものがお化けが怖いのか?」
煽り顔で言うエクトに頬を膨らませて無言でどつくレイナだった。
しばらく城内を進んでいくと、
「・・・ん?」
レイナが突然歩みを止めた。
「どうした?レイナ。」
「今、視線を感じたような?誰かに見られているような感じが・・・。」
すると次の瞬間、壁に無数の穴が開き、そこから先端の尖った棒が飛び出してきた。
「おわ⁉」
ギリギリで避けるエクトとレイナは棒を避けながら道を進む。
すると今度は床と天井からも棒が飛び出し始め、四方から二人を襲う。
「危ね!エクト!何とかしてくれ!」
紙一重で避け続けるレイナ。
エクトは二丁の拳銃を構え、無造作に発砲する。
棒はへし折られ、難を逃れることに成功した。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・、何なんだよ突然・・・。死ぬかと思ったわ・・・。」
「随分古典的なトラップだな。」
(それに、明らかに人為的に設置された物だった。恐らく奥にいる奴の仕業だな。)
気を取り直して先を進もうとすると、ガコン!とレイナがスイッチのような物を踏んでしまった。
「あ。」
「・・・おい。」
案の定、様々なトラップに襲われながら二人は城の奥へと進んでいったのだった。
割と殺傷能力のあるトラップを掻い潜りながらようやく奥の部屋の前に到達できたエクトとレイナ。
「やっと着いた・・・。」
「ここが目的地か・・・?」
「あぁ、そうだ・・・。」
既に疲労困憊の二人。
エクトは扉をゆっくり開けると、大きな窓にカーテンがかかりかなり暗い室内が広がっていた。
正面にはデスクのような家具が置かれている。
「学校の偉い人がいるみたいな部屋だな。」
エクトは辺りを見回す。
最初に感じた気配を探っていると、二人の足元が突然光出した。
「うわ⁉何だ⁉」
「魔法陣⁉」
二人は足物と魔法陣の光に捕らわれどこかに転移してしまった。
「あだ!」
「おっと!」
尻もちをつくエクトとうまく着地したレイナ。
二人は妙な空間に建つコロシアムのような建物の真ん中にいた。
「変な所に来たぞ⁉おいエクト!あたしたち瞬間移動しちまった!」
「魔法の存在する世界なんだから当たり前だろ。それよりも・・・。」
尻をさすりながら立ち上がり、大声を張る。
「おい!いるのは分かってる!いい加減隠れてないで出てきたらどうだ!」
すると、二人の目の前に魔法陣が展開され、そこから巨大な生き物が現れる。
二足歩行の牛、ミノタウロスだ。
「わぁーーー⁉ファンタジーモンスター‼」
初めてのモンスターに驚くレイナ。
「ブモォォォォォォ‼」
ミノタウロスの咆哮が辺りを震わせる。
「かなり強いな。レイナ!下がってろ!」
「ハン!何言ってやがる!あたしもやるに決まってるだろ!」
指をポキポキ鳴らしエクトの隣に立つ。
「異世界初めての戦いだ!あたしの雷で感電させてやるぜ!」
意気込むレイナにエクトもフッと笑い拳銃を構える。
「さっさと片づけるぞ!レイナ!」
「おう!」




