『第一章 突然の終わり』
投稿二作目です。同時制作で行っていきますのでよろしくお願いします。
人は誰しも負の感情を持っている。
時にはその感情が膨れ上がり悪の衝動に走ってしまう者もおり、それは決して君も例外ではない。
では何故負の感情が膨れ上がってしまうのか?
それは己に起きた不幸から始まる。
そして最も不幸を与えている存在。
その存在とは・・・『人間』である。
街明かりで夜でも明るい都市。
この世界は文明の発達が優れており人類は陸、海、空、その全てを我が領地にすることが出来ていた。
そして交通手段として生み出された空飛ぶ車、船、そして『空間列車』。
空間列車は線路の上はもちろん空も水中も走ることが可能になった人類の最高傑作だ。
空中都市、海底都市と行ける場所に制限はなく人類に欠かせない存在となったのだ。
だがそうして成功を重ねた人類は調子に乗り今度は別の世界に手を出そうとしていた。
次元を自由に行き来できる列車を開発し完成間近に差し掛かった時、事件は起きた。
夜の都市の表通りにて若い男女が歩いている。
「ねぇ、次はあそこに行こうよ。」
「ん?アクセサリーショップか。いいぜ、今の俺は金が有り余ってるからな!」
女が男の腕を組み歩いていると突如頭上に長く巨大な何かが猛スピードで通り過ぎた。
「おわっ⁉」
「きゃぁ⁉」
突然の突風にセットした二人の髪がぐしゃぐしゃに乱れた。
「な、何だったんだ一体・・・?」
街明かりが照らす夜の都市。
その明かりの中に点々と移動をする赤い複数の光。
それはこの世界の秩序を守る保安組織『トラフィック・ガーディアン』の空間列車だった。
「クソッ!規定ルートを無視して逃げ回るとは!」
「隊長!このままではじり貧です。街にも被害が出る可能性もありこちらも思うように追跡できません!」
「わかっている!他の隊にも連絡をしろ。連携して奴を捉えるぞ!」
トラフィック・ガーディアンの空間列車数機で追っているのは全体が黒く塗装された車体。
客車の上下部分に赤いラインが入っており先頭は煙室扉が突き出るように尖ったデザインの機関車だった。
「隊長!他の隊と連絡が取れました!いつでも砲撃が可能とのことです!」
「よし!B地点に誘導しろ!そこで一網打尽にするぞ!」
トラフィック・ガーディアンの空間列車全てで黒い機関車を追い込みしてうまくB地点へ誘導することに成功した。
黒い機関車を中心に周りにはガーディアンの空間列車全車が砲口を機関車に向けていた。
「全車目標を捕らえました!」
「今だ!撃てぇ‼」
全ての列車から一斉に砲撃が放たれ黒い機関車に直撃しようとしたその時、機関車の客車の窓が一斉に開き中から無数の砲口が表れた。
「何⁉」
そして砲口から一斉に砲撃が打ち出されガーディアンの攻撃を相殺した。
そして相殺した流れ弾がガーディアンの列車に直撃し陣形が崩れた。
「ぐっ!何が起きた⁉」
「相手も砲撃でこちらの攻撃を相殺し流れ弾が各隊の列車に直撃しました!」
ガーディアンの陣形が崩れた隙に黒い機関車は再出発しその場を離れようとしている。
「奴が逃げるぞ!追うんだ!」
「無理です!各隊損傷が激しくてこれ以上の追跡は不可能です!」
「く、くそ‼」
黒い機関車は陣形の崩れた列車の隙間を通り抜け上空に向かって速度を上げる。
すると機関車の車輪が光だし前方に空間の裂け目が表れた。
「あれはまさか⁉」
「次元の扉か・・・⁉」
機関車は次元の扉をくぐり妙な雰囲気が漂う空間の奥へと消え、扉が閉まった。
「・・・・。」
「た、隊長?」
隊長は力が抜けたように椅子に腰を落とした。
「なぁ、あの機関車に、人は乗っていないんだったよな?」
「はい、報告では完成直後に突然動き出しそのまま逃走したと聞いてますが?」
隊長は頭を抱え重いため息をつく。
「はぁ、次元を超える列車か。とんでもないものを生み出してくれたものだ。」
隊長は深い痛手を負った他の隊の列車を見渡す。
「・・・人の乗っていない列車、『無人鉄機』か。」
そして次元の狭間に逃げ込み漆黒の背景に緑色の線や輪が無数に広がる空間を走る黒い機関車。
無人の機関室にある火室の内部にて、
「・・・・・何故、僕を作ったの?・・・・何故、僕は生まれたの?・・・誰か教えて。僕は・・・何のために生きているの?」
火室の中に炎は燃えておらず代わりに黒い長髪の幼い少女がうずくまっていた。
機関車はそのまま走り続け空間の果てへと消えていった。
静かな夜明け、朝陽が小さな村を照らす。
その中の一つの家から一人の青年が出てきた。
「ん~っいい朝だ!」
目一杯背伸びをする青年。少し遅れて家から青年より少し幼い少女が顔を出した。
「エクト兄ちゃん!ご飯できたよ!」
「おう!」
エクトと呼ばれた青年は少女に呼ばれ家に戻って行った。
食卓には貧相ながらも暖かそうな食事が並んでいる。
「「いただきます!」」
行儀よく挨拶し野菜のスープを飲む二人。
「エクト兄ちゃん、今日は隣の村まで作物を売りに行くんだよね?」
青年は髪が刎ねた白髪の一七歳くらいの容姿だ。
今はズボラな服装を着ているが整えたらかなり男前になるだろう。
「あぁ、今年は例年より沢山収穫できたからな。張り切って売り込みに行ってくるぜ!」
袖を巻きガッツポーズする。
「だから帰ってくるのが明日くらいになっちまうけど・・・ごめんなシア。」
「ううん、エクト兄ちゃんはシアのためにいつも頑張っているの知っているから。お留守番は任せて!」
まだ十歳だというのになんて頼もしくそして自慢の妹なのだろう。
エクトはたまらず鼻をすすった。
「ズビッ、ありがとな・・・!」
朝食を終えエクトは荷車に農作物を乗せている。
と、ふとエクトはシアがこちらを見ていないことを確認すると荷台の底からサッと何かを取り出し懐にしまった。
「ん?エクト兄ちゃんどうかした?」
「い、いや?何でもない・・・。」
「?」
首を傾げながらもシアは倉庫から野菜を運び出している。
(ふう、危ない危ない。バレちゃプレゼントの意味がないからな・・・。)
荷車に作物を乗せ終えエクトは荷車を引く。
「じゃぁ行ってくる!」
「いってらっしゃーい!早く帰ってきてね!」
シアは大好きなぬいぐるみを抱え手を振って見送ってくれた。
エクトは緑溢れる山道を難なく上り見晴らしのいい崖までやってきた。
「ふう、流石にいつもより重いな。だが帰ったら妹が待っていると思うと俄然やる気が出てくる。よし!いっちょ気合入れるか‼」
一休みし再び出発しようとすると、
『・・・恐い・・・・。』
どこからか声が聞こえたような気がした。
「ん?・・・・・・気のせいか?」
出発して三時間、ようやく隣町に到着した。
人が多く通う市場の片隅にエクトは急式の屋台をそそくさと組み立て収穫した野菜や果物を並べた。
「よしっ準備完了!」
「おっ、来たかエクト!」
話しかけてきたのはもはや顔なじみでもある肉屋の親父だった。
「オヤジさんどうも。」
「今年はやけに大量だな。」
「あぁ、今回の売り上げ勝負俺が勝たせてもらうからな?」
「ほう?ガキが言うようになったじゃないか。うちも負けねぇからな!」
バチバチと火花を散らす二人。
そして市場が開店され一気に活気が溢れた。
「安いよ安いよ‼今年は生きの良いのが入ったよ‼」
「鉱山から発掘された水晶が使われたアクセサリーだ!寄ってらっしゃい見てらっしゃい‼」
商人も何人かおり市場の熱気が凄まじかった。
そんな中エクトの屋台にはあまり客足は多くは無いが着実に作物の売れ行きは順調だった。
「全部で銀貨三枚です。ありがとうございました!」
大分在庫が無くなり今年はかなりの収入になりそうだ。
お客のピークが過ぎようやく一息付けられるようになった。
「ふぅ・・!」
「ほれ、お疲れさん。」
肉屋のオヤジが竹水筒を渡してくれた。
「サンキュー。」
「途中経過はお前が少しリードか。」
オヤジも水筒の水を飲みながら言った。
「このまま順調にいけば今年は俺の勝ちかもな。」
「はっ!まだ勝負はこれからさ!」
いつもと何ら変わりないひと時が過ぎるが今日は少し違った。
「そういやエクトは知っているか?王国の噂。」
「いや?何も聞いてねぇが。王国がどうかしたのか?」
王国。
この地一帯を治める国土の中心都市の事だ。
今その王国は領土をめぐって隣の帝国と戦争中なのだ。
が、王国に関してはあまりいい話を聞かない。
「やっぱり耳に入ってなかったか。この際だから教えといてやる。最近王国の奴らがこの辺りの辺境にやってきてるって話だ。」
「何⁉」
エクトの住んでいる地域は戦場より対象的に離れているので巻き込まれる心配はない・・・はずだが戦場よりかけ離れているこの地域に何故王国の連中がやってくるのか理解が出来なかった。
「何で王国軍がこんなところに来るんだ?ここに来たって奴らにはメリットなんてないはずだろ⁉」
「俺も同じこと思ってるさ。けど連中が来ていることは事実だ。王国に関しちゃあまりいい噂は聞かねぇしどうにも釈然としねぇ。」
オヤジも腕を組んで頭を悩ませる。
「まぁ、ただの農民の俺たちに何かしてくることはないんじゃないか?理由も思い当たらないし。」
水筒を飲み終え屋台の方を見ると既に何人かお客さんが並んでいた。
「っと、そろそろ営業再開だな!」
「エクト!」
「ん?何だオヤジ?」
「・・・なんだか胸騒ぎがする。お前も気を付けておけ。」
「お、おう?」
この時、オヤジの言ったことにもっと注意しとけばと酷く後悔した。
それから二日経った。
日はすっかり傾き市場の屋台も片づけ始めるところも増えてきた。
「よし、片づけ終わり!」
「お疲れさん!エクト。これから飲みに行かないか?」
片づけを終えた肉屋の親父が手を振っていた。
エクトはシアが帰りを待っているからと軽く説明しさっさと荷車に荷物を積める。
「悪いな、妹が待ってるもんで。そいじゃ!」
速足でその場を後にしたエクトだった。
「あのシスコンめ。」
親父は若干呆れ顔で笑ったのだった。
暗い夜道、月明かりのおかげで足元は良く見えていたのが幸いしたのか、エクトは凄い勢いで山道を駆けあがり、途中休憩した広けた丘の上にまでたどり着いた。
「いや~、自分の体力が恐ろしぜ!」
休憩を一瞬だけしたエクトはすぐに出発しようとすると、
『・・・行っちゃダメ・・・。』
再び謎の声が頭の中に響いた。
「ん?・・・またこの声?」
エクトは丘の上から辺りを見回すが幾ら月明かりが照らしていると言っても完全に夜中だ。
暗い森が広がっているだけで何も見つけられなかった。
「・・・やっぱり気のせいだったのか?」
気にかかるが今は家族のシアが待っているため、エクトは気に留めながらもその場を後にした。
『行っちゃダメ・・・その先は、絶望が・・・!』
エクトは足元に気をつけながら山道を降りていく。
「よし、もうすぐで着く。」
ポケットにそっと手を置いた。
「待ってろ、シア。」
山道を抜け村の近くまで帰ってきた。
「・・・ん?何か村の方が明るい?」
急いで村まで戻ると、彼の目にはこの世のものとは思えない光景が広がっていた。
「何だよ・・・これ⁉」
村が炎に焼かれていたのだ。
エクトはありえない光景に呆然としていたがハッと我に返る。
「っ‼シア‼」
燃え広がる瓦礫の間を通り抜け、エクトは自宅に急ぐ。
途中馬の樋爪跡や甲冑の足跡らしきものもあったが気にも留めず、やっとの思いでたどり着いたがエクトの家は既に灰となり、崩れ去っていた。
「シア、シア‼」
必死に瓦礫を退かし妹を呼ぶが返事がない。
エクトは無我夢中で瓦礫を退かし続けていると見覚えのある物を見つけた。
それはシアがいつも抱きかかえていたぬいぐるみだった。
「そ・・・んな・・・!」
あの子はいつもこのぬいぐるみを持っていた。
いついかなる時でも絶対に手放さない程に。
それが今ここにあるということは・・・。
「う、うあぁぁぁぁぁぁぁ‼」
突然の絶望にうちしがれた青年の叫びが燃える村に響き渡ったという。
一作目はこちら。
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