85話 サルーテが消滅すれば
リレイアの計画が開始されます。
まずは空にある虚像の月サルーテを消し去ります。
ケータ達の準備は8割方終わっていた。
あとの2割はクリスクロスが妖精たちに依頼している新システム用ボットの設置。
そして、依然として不安なタリオトルテの迎撃体制の充実だ。
「まだ十分とは言えないけど、これ以上待ってもいられないわ。けいちゃん、始めるわよ」
「大丈夫なのか? リレイア。…………いや、もうこのやり方は玲子姉さんそのものだな」
リレイアの根源である来栖川玲子は有能な人間だった。
その才能の一つが『見切り発車』である。
全ての準備ができていなくとも物事の時期を見極めることが上手い。
『完璧な準備』という絵に描いた餅を追い求めず、多少の困難は途中な何とかしてしまう。
「クリスクロス。起動するわよ」
「えーーー! まだ、設置してないボットが数千台ある! 2、3日かかるぜ。それだけまってもらえば……」
「ダーーメ! 設置済みの物だけで作動させるわ。設置前の移動中のボットはちゃんと起動しないようになっているから。安心して設置して」
「設置したらそいつも起動するんだろ?」
「大丈夫よ。設置後2日は起動しないようなってるから、万が一にも妖精が高濃度の魔素にさらされる可能性はないわ」
「わあったよ!」
リレイアはシステム表示のスクリーンを空中に表示し、新システムを起動した。
するとその波動は魔法または電波、近くのものは音そのもので、起動指示を伝えていった。
この惑星ランゾルテの地脈に設置されたボットは周辺の魔素の測定を開始し、早い物は1分以内に、遅い物でも数十分で魔素のコントロールを開始した。
「これで一応、魔界の周辺以外は魔素量が安定する。けれど、既存のシステムを早く止めないと魔素が濃すぎるためにオーバーフローするボットが出てくるわ。サルーテは地上からは変化がわからないようにするつもりだったけど… ………仕方ないわね」
亜空間から巨大な機械が出現する。
真っ黒な金属ともセラミック素材ともわからない材質でできているそれは、それは工場のようでもあり尖塔のようでもある。
その先端は正しくランゾルテの月の一つ、サルーテの方を向いている。
「システムチェックOK。全機能正常動作を確認。秒読みは……いらないわね。発射!」
その装置から光の矢が放たれ、一直線にサルーテにめがけて飛んでいく。
その一部が分かれてフレーメの裏側に。
ドーンともボーンとも言える不思議な響きを惑星にいるすべての者が聞いた。
それは音としてではなく、頭の中に直接響いているようであった。
そしてサルーテは電波が悪くて受信不良のテレビ画像のようにその姿が乱れ、やがてプツンと消えてしまった。
「計測。魔素の降下は停止したわ。まずは成功ね。次に……フレーメの旧システムは破壊完了ね。これで不要な魔素が軌道上に溢れかえることもなし、と。打ち上げ装置の方は……あー、流石にオーバーヒートしてるわね。砲塔の内部回路が一部焼き切れてる。まいっか、明日までには何とかなる……と」
ケータ達はリレイアが状況を開始したのを知った。
当初の予定と違うのは、サルーテが一旦消えるもののすぐに空に浮かんで見えるはずだったが、今は消えたままだったことだ。
それに不安を覚えながらもとりあえず目の前の仕事に集中しなければならない。
◇
魔界は混乱していた。
魔素は急激に薄くなっていたが、東西南北の境界沿いでは普通の濃度、そこから中央に向かうに従って極端に薄くなっているが、中央付近は逆に普段以上に濃い魔素が立ち込めていた。
魔獣は暴れ魔界の中程にいた魔獣達は一旦境界を目指す勢いであったが、魔素の薄い領域であるものは生き絶え、あるものは引き返した。
やがて中央に魔獣達は集中し、殺し合いが始まった。
そして中央に中央にと進む魔獣達はその中心にたどり着くと、今度は濃すぎる魔素のためにまた力尽きていくのだった。
普段なら自分に最適な魔素でない中央部分には近づかない魔獣達も薄い魔素環境に晒され、狂騒状態で中央を目指したために判断力を失っていたのだ。
「慶太、怖いわ。この魔獣がここにも来るのよね」
「ひとみ、大丈夫だ。この魔獣達は魔界を出るまでに消耗するはずだから、それにこのコルキニアには決して入ってこれない。この指輪に神様が付与してくれた力は強力だから」
「ええ、信じていない訳ではないの。でもあまりにも悲惨な光景だから」
普段なら転移先のこの世界での名前で呼び合っているのだが、今、ケータとフィリアの心は、来栖川慶太と上川ひとみの感情に占められている。
二人がいるのはコルキニア、フィリアが倒れていた森の中だ。
そこでリレイアが用意してくれたモニタ映像を見ており、魔界から飛び出してくる魔獣がいないかを監視している。
万が一この段階で飛び出すようなことがあったら、作戦としては失敗でありケータ達に止める手段はない。
「どうせ、僕たちの使命はこの森でこの指輪の力を維持し続けることだけだもの。焦っても仕方がないよ」
「そうなんだけど魔獣とはいえ、殺し合う姿をずっと見せつけられるのは辛いわ」
「わかった。モニター切っとこう。魔界の境界にはセンサーも仕掛けてあるから飛び出してきたらわかるし」
二人とも心配はしていない。
神の付与を得た指輪の力を信じている。
◇
それから2日が経過し、魔界の魔素は一番濃いところでもそれまでの半分以下。
淘汰された魔獣は全体の6割、まだ生きてはいるものの動けなくなった魔獣が1割、残りは魔素を求めて狂騒状態になっていた。
もはや|魔素降る死の国<<テル・デ・モールト>>とは名ばかりの荒野となった大陸西北部から魔獣が溢れ出すだろう。
リレイアは中継と交信のためのボットを各地に飛ばした。
もはや、技術を隠すことはやめていて、魔法よりも未来技術を駆使している。
ただし、媒体は56世紀ではもうあまり使われていない電波だ。
それ以上の亜空間を使った交信は流石に神に止められていた。
「けいちゃん、そちらの様子はどう?」
「コルキニアは普段通りだけど、魔界はもう限界みたいだ。きっと魔獣が溢れ出してくると思う」
「それはこちらでもモニターしてるわ。予定より5%多く生き残っているのが気がかりね。スタンビートから討伐までの期間が長くなるかも知れない」
「それ、まずいだろ」
「ええ…………でも、何とかするわ」
それを聞いてケータはため息をついた。
それはリレイアというよりも来栖川玲子の言種だ。
“何とかする”
その一言だけで今後の成功は約束されたようなものだ。
それは21世紀の学生時代から何度も聞いてきたセリフであり、その後の玲子の行動が作り上げてきた実績による信頼である。
「わかった。何か手伝えることがあったら連絡して」
「ええ、じゃあね」
リレイアはケータとの通信を切って、今度は都市国家群にいるマルキャルトとパメロに連絡した。
「今、どこにいるの?」
「あっ、はい。マルキャルトです。今、パメロさんと一緒に都市国家群最大の都市ランブルにいます」
「状況は?」
「一応、城壁に羅鉄鋼の埋め込みは終了してますし『ルオークの杖』の設置も完了してます。ただ……」
「ん? 何?」
「なんか反応が薄いような気がして、あまり魔素の吸入がうまくいっているように見えないんです」
「なるほどね。パメロは」
「この都市の南端に行きました。住民を一旦は集めたんですが、門を開けて両隣の都市に移動させているようです。城壁自体はここの方が厚いはずなんですけど」
「たぶん、その町は持たないは。マルキャルトも両脇のどちらかの町に早く移動しなさい。魔獣の襲撃に巻き込まれるわよ」
「わっ、わかりました」
マルキャルトは通信を切って、隣の町の最南端に避難することにした。
様子を見るために都市の北端にいたので時間がかかる。
小走りで無人の都市を駆けていたが、パメロを見つけた。
「あっ、パメロさん。こんなところで何してるんですか?」
「避難に遅れた人を見回っていたんだけど、もう限界だから私も退避しようとしてたんです」
「なるほど。でも、どうしてこの一番大きな都市から人を移動させたんですか? 本当に持たないんですか?」
「ええ、おそらく一番最初に崩壊するでしょうね。その理由はこれです」
パメロが見せたのは、壁に取り付けた羅鉄鋼の欠片なのだが、マルキャルトは違和感を感じた。
「壁に埋め込まれた羅鉄鋼ですよね?」
「ええ、ですが偽物なんです。今回、壁に埋め込むために形状を統一していますが、これは形が同じであるだけで材料はただの鉄クズです」
「どうしてそんなことが……」
「埋め込み作業の時に見てしまったんですよ。この都市国家の責任者が手下に埋め込み作業をやっているように見せかけて、この偽物に交換しているのを。彼らは羅鉄鋼が金になるとわかったので、バカ正直に壁に埋め込むのはもったいないと思ったようです」
「そんな! 都市が崩壊してしまえば、いくら羅鉄鋼を持っていても何にもならないじゃないですか!」
「少しくらい減らしても大丈夫だと思ったんでしょうね。リレイアに問い合わせたところ、流石に想定はしていたようです。実際マージンは5%ぐらいはあったのですが、抜き取られた量は15%を超えていました。それに、こんなものまで」
それは『ルオークの杖』に似せて作った鉄の筒であった。
本物は近くで見ただけで魔力や魔素に反応している様がわかり表面が少し光って見えるのだが、これには粗雑なラメのような加工が施してある。
一見してわかる粗悪品なのだが、この国では本物を見たことがない人がほとんどだ。
疑いもしなかったのだろう。
「ひどい…………これじゃあひとたまりもありませんね。それで住民をわざわざ別の都市に移動させてたんですか。でも左右に都市がありますが、大半が小さな方の都市ポルメッカに避難してますよね。なぜです?」
「もう一つの都市ザルペスは、この都市の責任者と繋がりがあるんです。貧しいものを拒否し、都市に避難するときも金を取っているようです」
「羅鉄鋼の配備状況は?」
「ザルペスは完璧でした。ポルメッカは標準的でしたが、元々の城壁の強度がないので不安がありました」
「過去形で言っているということは、対策したんですね」
「ええ、流石にこのやり口には腹が煮えましてリレイアに相談したところ、ボットを貸してくれました」
パメロはリレイアにこの都市国家群の防衛に難があるのを報告したのだが、その答えと対策は辛辣にして過激なものだった。
ザルペスの羅鉄鋼をボットに取り替えさせてその数をギリギリまで削り、その何割かをポルメッカの壁面に追加したのだ。
さらに、元々脆弱であったポルメッカの城壁にはリレイアのスペシャルな56世紀の技術による物理防膜が展開されていた。
これで、物理的にも魔法的にも堅固な状態になっており、ポルメッカは魔獣が去った後も、都市がまるまる健在であるはずだ。
「ザルペスはどうなるんです?」
「一応、最初の数時間は耐えられるでしょう。でもおそらくスタンビードが一番激しくなる頃には崩壊します」
「中の人は助からないんですか? いえ、ザルペスの城壁から抜き取った羅鉄鋼は避難先の建物のいくつかに埋め込みました。その建物は周りをぐるっと羅鉄鋼で囲ってますから崩壊はしません」
「でも建物の中にいても、壁に激突する魔獣の振動にさらされるわけですよね」
「ええ。でも自業自得です。自分のしてきたことをたっぷり反省してもらいましょう」
ザルペスには元々選民思想がある人たちが集まっている。
他の都市国家において財産を秘匿したい富裕層が隠れ蓑に使っている場所もたくさんある。
◇
数日後、ついに魔獣が|魔素降る死の国<<テル・デ・モールト>>から溢れ出した。
魔獣達はその魔界から放射状に広がっていくと思われたが、そうはならずほとんどが真っ直ぐ南に向かっていた。
そのおかげで群れは渋滞し、互いに殺し合うことで当初より総数の上では減っている。
だが、足の速い先頭の魔獣達には関係ない。
都市国家群の城壁に殺到する魔獣たち。
ブレスを浴びせるもの。
頭からぶつかっていくもの。
さまざまだが、いずれも羅鉄鋼に跳ね返された。
ギャアァァァ
身もよだつような声と肉が潰れ骨が砕ける音がしている。
それでも魔獣の群れは後から後から押し寄せている。
都市国家群最大の町が崩れたのは、最初の魔獣が到達してからわずか30分後であった。
「ランブルが崩れたようだな。想定通りではあるけれど」
「ええ、避難してきた人たちは動揺しているみたい」
「ちょっと言ってくる」
パメロがドルターラを持って飛び出していく。
広場に座って不安そうな市民に大きな声で言った。
「もう少し耐えていれば魔獣はいなくなります。みなさんがんばりましょう」
だが、不安に駆られた何人かが文句を言い出した。
「あとどれくらい待てばいいんだ。我慢にも限度があるだろう」
「本当に大丈夫なのか? お前らにいう通り城壁の補強をしたのにランブルは崩れたじゃないか」
「この責任をとってくれるんだろうな」
それを聞いてパメロは処置なしという風に、肩をすくめ手を広げた。
「さあ? 私とマルキャルトは壁の補強をしにきただけですよ。被害を少しでも少なくするためにね。どうして責任を取る必要があります? 逆に感謝してもらいたいぐらいですが」
「しかし、指図をしたのはお前達だろ。ここが大丈夫だという保証をしろよ」
「そんなこと知りませんよ。まあ、あえて言うなら私がここでのんびりできているのは、大丈夫だと信じているからですけどね。それ以上、何を保証しろと言うんですか」
「それは…………くそぅ」
パンパンとパメロは手を叩いて、再度民衆の注目を惹きつけるとドルターラを取り出して、チューニングを始めた。
「子供さんもいますし、ここで待っているのも不安になるでしょう。ちょっと音楽でも聴いてリラックスしましょうか。私パメロ・キュレータが少しばかり皆さんの時間を拝借しますよ」
民衆に動揺が広がった。
まさか都市補強を申し出て工事の指揮を取っていたのが、あのドルターラの名人パメロであるとは思わなかったのだ。
先ほど文句を言った者でさえ、もう黙って演奏を待っている有様だ。
パメロはボロンとドルターラを鳴らした後、落ち着いた曲、リラックスできる曲、楽しい曲を続けて5曲ほど弾いた。
それらは故郷のローアニエストに元々あった曲ではなく、ケータとの旅の途中で作ったり、ケータやリレイアから教えてもらった日本の曲だったりした。
ドルターラの演奏曲目は、魔素による転移によって暗く閉ざされたローアニエストの歴史から解き放たれていたのだ。
最初の数曲は黙って聞き、曲の終わりに拍手が起こっていただけであったが、じきに子供が歌い出し大人も立ち上がり手拍子や踊ったりするものもいた。
広場の中に喉が渇いたり、食事が取れていなかったりしたものもいたようだが、パメロの演奏中にマルキャルトが見回ってパンや飲み物を配って歩いていた。
パメロはその後も何曲か弾いて、その即席のステージから降りた。
何人かの商人がパメロに取り入ろうと近づいてきたが周りの大人達がそれを阻止し、目の前に来たのはこのポルメッカの都市国家最高責任者だった。
「パメロさん、ありがとうございます。民衆は不安に潰されそうでしたが、あなたのお陰で楽しい時を過ごせたようです」
「いえ、私も自分の演奏を知ってもらうことができて良かったですよ」
「それと謝らせて下さい。工事の指揮から民衆を落ち着かせるための演奏までしてくれたのに、あなたに心無い言葉をぶつけていた者が何人もいました。私はそれを止めるべき立場なのに」
「いえ、不安になる気持ちもわかりますからね。それに、あの発言をしたのはランブルからきた者のようですしあなたが気にするようなことでは……まあ、ポルメッカの市民だったとしてもどうこうするつもりはありませんけどね」
その後、現在の状況について話をした。
魔獣の大半は過ぎ去ったが、あと一日はこの城壁から外には出られないこと。
ランブルとザルペスの都市は崩壊したが、ザルペスに避難した人は建物の中にいて無事であること。
そして、今後についてマルキャルトが指導することになった。
「まず、戦える自警団を作ります。どうしても都市の外に出なければならないことはあるでしょうから。その組織単位で動けるように。そして、相手は魔獣だけではありません」
「それは?」
「人です。ザルペスから避難民が来るかと思いますが、彼らは不当に自分達の権利を主張するでしょう。絶対折れてはいけません。武力を使おうとしたら、それをたたき折って下さい。生きるための施しにも適切な対価を必ず受け取るように。特にこのポルメッカが貧しい中でやりくりしているのに、食料やその他の物を要求、強奪するような行為は絶対に阻止です」
「そうは言ってもザルペスにいる連中の中には、傭兵上がりや冒険者などもいますので力づくで来られたら対処できません」
「大丈夫です。私が指導しますから」
それからマルキャルトはポルメッカに住む人の中から戦闘の素質がある人を選んで訓練を始めた。
ほんの数日間で彼らはメキメキと上達していた。
彼女は一日だけ自習にして、街全体が崩壊したランブルに出かけていった。
◇
翌日、マルキャルトは避難民のうち、自警団に参加してきた人たちに武具の強化について説明していた。
「今使っている剣はただの鉄剣ですがこの柄の部分にこれを差し込んで下さい。それで物理特性が大きく上がり、魔法耐性も付きます」
「剣が強くなるんですか?」
「はい。鋼の剣と打ち合っても大丈夫です。敵の魔法に対しても切り払うことができます。パメロ殿、手伝ってもらえますか?」
「マルキャルト。私は火属性の魔法使えませんよ?」
「ケータ殿から預かったものの中にありませんでした?」
「ええっ! あれ相当強力ですよ。厚さ50cmある城壁溶かせますから」
「大丈夫です! みなさん、見ていて下さい」
パメロが頭をかきながら、ガンタイプの魔道具を取り出した。
引き金を絞り、マルキャルトに向かって打ち出す。
ボゥワッッッ
特大の火球がマルキャルトの方に向かう。
マルキャルトが鉄剣を振るうと火はたちまち消えてしまう。
「「「「「おおおおお!」」」」」
「こんな具合です」
「それは騎士様しかできませんよお」
「大丈夫です。これほどの大きさは無理だとしてもファイヤー・ボールぐらいの威力でしたら属性に関係なく防げます。誰か攻撃魔法を使える人を呼んできてくれませんか? 来てもらうまでに皆さんはこの欠片を鉄剣の柄に仕込んでおいて下さい」
マルキャルトはそれが羅鉄鋼とは告げずに、欠片を皆の剣に付けさせた。
その間に三人の男が走ってくる。
一人は呼びに行った人であるので、魔法使いは二人いたことになる。
「お二人ともご苦労様です。ちょっと協力して欲しいのですが、魔法を払う訓練がしたいのです。どの属性が使えますか?」
「私は土属性です」
「私は火属性と水属性です」
「それはよかった。まずは、水属性からお願いします。最初はウォーターで水をかけるところから、それが払えるようならウォーターブリッドを打ってあげて下さい」
「私は?」
「ウォーターは全員すぐに払えるようになるので、できたら半分に分けてファイアー・ボールで訓練します」
それから訓練が開始された。
最初はウォーターの魔法に対し、構えることを忘れて水浸しになる者もいたが、軽く剣を合わせるだけで魔法の効力が全部無効化できるとわかったところから感を掴んでいったようだ。
約2時間の訓練で全ての者が火属性、水属性、土属性の単純中級魔法を切り払えるようになったのである。
数日後、想定していた通りザルペスから人がやってきた。
身なりはいいが腹に一物持っていそうな商人、それにザルペスとランブルの都市国家責任者がいる。
さらに約10人、ガタイがいいが如何にも札付きというような用心棒の男たちが。
「我々には、食料が不足しているのだ。適切な価格をお支払いするので、ザルペスの避難民1ヶ月分をお譲り頂きたい」
言葉遣いは丁寧だが、不遜な態度。
それはお願いではなく、要求して当然の権利といった感じである。
「残念ながらこのポルメッカでも物資は不足しております。お困りのようなら、何とか3日分だけはお譲り致しますが」
「3日だと! 話にならん! きちんと金は払うと言っているのだ。それとも、こちらの足元を見て値を上げるつもりか?」
「いえ、本当に余裕がありません。特に貧窮層の母子家庭なども多く、自立した生活を送るには時間がかかりまして…………」
「自立できないだと!? そんな奴らなど打ち捨てておけば良いではないか。そんなことだからいつまで経っても都市機能が回復できんのだ」
あまりの言種にポルメッカの住民がザルペス代表を睨みつけている。
それを見て、ザルペス側から一本のナイフが投げられた。
キン
マルキャルトがわずかに帯刀している剣の柄をわずかにあげてそのナイフを弾いてみせた。
「物騒なことをする奴がいるな」
「おやおや、女騎士さまはご立腹のようで。ですが、これは都市国家の間の話。大陸東部のお国の方には関係ありませんぜ」
「ほう? そうか? では、私は静観するかな」
「それは物わかりのよろしいことで」
ザルペスの商人はやりやすくなったと思ったようだが、ポルメッカの代表は落ち着いていた。
マルキャルトが話している間にパメロが交渉についてのアドバイスしていたからである。
「では、もう一度返事を聞きましょうか。私どもの要求は避難民1ヶ月分の食糧と生活物資だ。金も少々色をつけて出してやるんだ。文句はないだろう」
「先ほどをお願いだったものが要求になっておりますよ。しかも生活物資などと……舌の根の乾かぬうちにとはこのことですかな。到底お受けすることはできません。こちらとしても当座は金よりも今いる市民への生活の安定が大事ですので。交渉は決裂です。おかえり下さい」
「なっ! 何だと! もういい!! 言ってわからないなら力づくで戴くまでさ。やれっ!」
ザルペスの用心棒たちは、真っ直ぐ突っ込むふりをして左右に分かれた。
そして中央から来たのは、魔法弾だった。
だが、マルキャルトの指導を受けていた自警団は、鉄の剣を構えてポルメッカ代表を後ろに匿った。
「ああ? 鉄の剣だと? そんなもんで魔法が…………何だとっ!?」
嘲るような態度で見ていたザルペスの商人は目を見開いて驚いている。
ファイアー・ボール、サンド・ブリッド、ウォーター・アローなど数人の魔法使いがわざわざ属性をそれぞれ変えてまで攻撃したはずが、全て剣の一振りでうち消されてしまっていたのだから。
「ええい! 魔法がダメなら、力ずくでいく。そんななまくら剣など物の数ではない! 叩きのめせ!」
用心棒たちは、鎖鎌、長剣、短剣、槍とバラバラな装備ではあったが、自警団の鉄の剣よりもかなり強力に見える。
だが、武器同士が打ち合った瞬間。
ガァッ、ドグッッッ
はるかに強いはずの豪剣は折れ飛び、槍はひしゃげた。
それどころか、体躯に勝る用心棒たちが打ち合いに負けて、吹っ飛ばされたのだ。
「…………どうなっているのだ」
「いきなり切り掛かっておいてそれですか。図体がでかい割に腕も力も未熟。半端な魔法を卑怯な騙し討ちで放っておいてこのザマです。このツケは大きいですよ」
よほど腹に据えかねたのかマルキャルトが嘲りながら、敵を煽っている。
「この狼藉は許せませんな。全員逮捕します。物資は2日分だけ無料でお渡ししますが、ザルペスを調査し武装解除させてもらいます。武器については全て没収します」
「そ、そんな。まだ、周りに魔獣はいるんだぞ!」
「こちらには関係ありませんな。それに血の気の多い魔法使い様もまだお仲間の内には残っているでしょう。魔獣の対処もそちらにお願いするが良いでしょう」
「わっ、わかった。金を…………約束の3倍払おう。それなら文句ないだろう?」
「先ほど、金などいらないと申し上げた通りです。それに、あなたが真っ当な商売をしてこなかったことについては、すでに調べはついています。ポルテッカの法で裁判を受けていただきますよ」
結局ほとんどが捕縛され、ランブルの責任者を連れてマルキャルトは物資を運び、自警団と共にザルペスに入った。
隠されていた武装を調べると呆れ果てたことに大量の羅鉄鋼と重機が見つかった。
権利を主張する者、力に訴える者など抵抗は様々であったが、マルキャルトと自警団は難なくこれを排除し、ザルペスはポルテッカにとって脅威でなくなった。
運び込んだ物資は、真っ当に配られるはずもなく取り合いになり混乱を極めた。
この一連の事件は、他の都市国家にも知られることとなり、ザルペスの住人は国を捨てて散り散りになった。
◇
「うまくやったみたいね。マルキャルトもパメロも」
「ええ、あまり後味は良くなかったですけれど、このポルテッカの人たちが安心して暮らすためには仕方がなかったです」
「お疲れ様。もう大丈夫なら、二人ともコルキニアに向かってくれる?」
「わかりました」
リレイアは二人の連絡を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
事態が悪くなる可能性は二つあったのだが、これでその一つは切り抜けることができたからである。
サルーテからの魔素供給がなくなり、魔界から魔獣が溢れ出します。
ケータ達はこの星に住む人々を救うため、大陸を移動して戦います。
次回、『86話 魔獣との戦いが続けば』1/31 投稿予定です。
1月中に完結予定でしたが、どうにもまとめ切れそうもない状況で、最終話は2/3、87話になりそうです。
あと少し、お付き合い下さい。
よろしくお願いします。




