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8話 自分の生活を心配してみれば

8話です。


未来での生活が始まりました。

新しいことが次々に起こります。


そして、この物語の大事なものの一つが……


お楽しみ下さい。

 僕の未来の生活は政府の役人の監査(かんさ)で決まることになった。

 これでこれからの僕の生活がどうなるかが決まる。

 その話を聞いて、いろいろと思いを(めぐ)らしていたが流石に疲れたのか、早めに寝てしまった。


 そして、翌日の午前中にこの時代の管理をしている政府の役人2人がやってきた。


 1人は人の良さそうなおじさんで、上着のエリの所々に(なぞ)の切れ込みがある。

 非常に斬新(ざんしん)な服なのだがどうやらスーツの変化したものらしい。

 全体としては濃紺(のうこん)なのだが、左下から右上に見事(みごと)なグラデーションになっていて、右肩は少し赤紫色だ。


「こんにちは。21世紀からいらっしゃった方ですね。こちらにはどうやってこられたんでしょうか?」

「えー、僕にもよくわからないんですが、体調が悪いので未来で治療する必要があるとかで『神様』に送り込まれたんです」


 いきなり『神様』とか言っても信じてもらえないとも思うが、すでにAIにそう答えちゃっているし脳内を検査されているので取り(つくろ)っても仕方がない。


「ふむ。21世紀にタイムトラベルをする技術はないはずですから、他の誰かが送られたのは確かですが……『神様』ですか。よくわかりませんが背後関係は白。脳に問題はなく、記憶の改竄(かいざん)の可能性も低いと。一体、どなたがあなたを送り込んだんでしょうなあ。まあ、それは一旦置くとして、セイモル君。詳細検査の結果はどうですか?」


 セイモル君と呼ばれたもう1人は、若い男でこれも奇妙な服なのだが、これはこの時代の白衣であるらしい。

 キラキラ光っていてやたら派手なのでラメが入っているのかと思ったがそうではないらしい。

 キラっとするのはさまざまな検査を実行する際に、常に無菌(むきん)状態を保つための消毒処理なのだそうだ。

 正しい調査結果を取得するために必要な処理だそうだが、異なる時代からの病原菌(びょうげんきん)侵入(しんにゅう)を防ぐためのものでもあるらしい。


「病原菌、悪意を持ったナノマシンの付着などの危険因子(きけんいんし)は何もありません。発言されていることにも嘘偽(うそいつわ)りや薬物、意識誘導(いしきゆうどう)などの心配もないようです。ただし、療養(りょうよう)は必要です。本当に体調は悪いようですから、養生(ようじょう)にはこの時代の科学を持ってしてもある程度の期間が必要と思われます」

「なるほど、ある程度機能が高い住居が良いでしょうな。それではこの避難(ひなん)用ラウンジをそのまま住居とするのが妥当(だとう)ですね。登録はこちらで済まして置きます。内装などはお好みで変えていただいて(かま)いません」


 あっさりと終わった。

 審議(しんぎ)とか制限事項だとか書類の提出とか一切なし。

 ちょっと肩透(かたす)かしを食った気分。


 しかし……うーむ、この人の診立てでも僕の調子は悪いのか。

 養生が必要、なのかあ。


 また、神様も言っていたのでしばらくはおとなしくしなくては行けないんだろうなあ。

 そんなことを考えている間、役人2人と天使みたいなAIは、あーでもないこーでもないと話し合っていた。


 その協議(きょうぎ)の結果、天使型の管理AIは僕の専属になった。

 政府の役人2人は「これから未来生活をお楽しみください」と言って帰って行った。


 そして……


「改めまして。

 (わたくし)、都市管理AIサーバ・認識番号『6Ω(オメガ)7sect-P3@203491』です。これからは、来栖川慶太様個人支援管理AIサーバとしてあなたにお仕えします」


 へっ? あっ? 何? そうなの。

 そうなるわけね。よろしく。

 僕はひとしきり混乱し、状況を把握(はあく)できずに思考停止し、なんとなく現状を受け入れることにした。


「そーですね。そのままだと呼びづらいでしょうから何かわたくしに名前をおつけください」

「名前かあ。そう言われても直ぐには思いつかないなあ」

「そうなのですか? そういうものですか。

 では、……これからはわたくしを『リレイア』とお呼びください」

「どういう意味なの?」

「さあ、何となく頭に浮かびました」


 うーむ。

 何となく頭に浮かんだって! 

 流石は優れた未来のAI……ってことなのか?


 『リレイア』は体長10cm。

 ポニーに結った赤髪に青い瞳の美人さん。

 フワッとした衣装であちこち飛び回る姿はまるで『ティンカーベル』。

 小さな杖をふる姿は本当に天使みたいだ。


「これからどうぞよろしくお願いいたします」

「……なんか堅苦(かたくる)しいな。もう少し(くだ)けた話し方にならないかな」

「よろしいのですか?」

「ああ、(かしこ)まったのは苦手なんだ」

「わかりましたわ。そうさせていただきますの。来栖川様については今後『慶太』とお呼びしますね」


 わー、このAI。

 いきなり口調が変わって気安(きやす)くなった。

 まあ、それの方が肩が()らなくていいかな。


 それからと言うもの()にも(かく)にも未来の生活が始まった。

 暮らし始めてみるとまあ、ここは未来なんだろうな、と納得できるようになった。


 なかなかの悠々自適(ゆうゆうじてき)の生活で部屋は大きな球状のサンルーム。

 今日は、地上から700mのところで浮いている。

 昨日より少し高い位置なのは、この辺ではこの高さが景観(けいかん)が一番良いからだそうである。


 まあ、僕の部屋だけでなく、大抵の部屋は基本的に空中にある。

 地上にも部屋、家、施設はあるようだが、空中都市なのは流石に未来っぽい。


 交通手段はエアカー(に見えるもの)が一般的だがなんでも良い。

 生身のままで飛んでる人もいるし、ものぐさな人は住んでる家ごとあるいは部屋ごと移動することもあるらしい。

 その辺はまあ、未来らしいと言えば未来らしい。


 だが、そのほかは『いわゆる未来都市』みたいなものはあまり感じられない。

 辿々(たどたど)しく(しゃべ)るクセに人間と見分けが付かないアンドロイドとか、浮遊(ふゆう)マルチディスプレイが空中に浮かぶとか、奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)極彩色(ごくさいしょく)の都市風景とかそういうのはない。


 リレイアが聞いてきた。


「そういうの出しましょうか? ワ・レ・ワ・レ・ワ ミ・ライ・ジン・ダ」


 いや、いいです。

 理想的未来人ヤメロ。

 それに、それ未来人じゃなくて宇宙人でやるのが普通だから。


 そうこうしているうちに、昼だ。

 リレイアがメニュー内容を告げ、昼飯を持ってくる。


「お食事はサンドイッチとスープ、サラダにコーヒーですわ」


 リレイアはくだけた口調になった。

 気安くてこちらの方がいい。

 大事なこと、正式な告知・報告の時は、ですます調に戻るようだ。

 行動のメリハリは付けているらしい。


 そんなことより昼飯、昼飯。

 いろいろ調査とかで時間もかかったし、お腹減ってるんだ。

 用意されたものは21世紀で見慣れた食事だった。


 早速頂こう。


 「う、美味(うま)い! 何だこれ!」


 食べ始めた昼飯がとにかく美味い。

 これほどのは食べたことがないなあ。

 未来の人はこんな美味いもの食べてるのかあ。


「いいえ、そういうものは食べませんわ。お出しした食事はケータのいた時代と好みに合わせてます。ただし、栄養価(えいようか)や成分は少し違いますの。ケータの身体にはいささか問題がありますので、その治療薬も兼ねておりますわ」


 あーそう。


 好みは僕に合わせてくれているのね。

 それは良いとして、治療薬というのが気になる。

 僕本当にどっか悪いのかなあ?

 未来に来てからは、えらく調子がいいんだけど。


 それにしても飯が美味いね。

 この時代の流行の飯は持っと美味いのかなあ。

 次はこの時代の一般的な飯も食ってみたいな。


「いえ、56世期ではこういう食料は一般的じゃありませんわ。というか一般化していると言えるものもありませんの」


 えっ? 違うの? って言うか一般的と言えるものがないって?


 気になることは聞く。


 未来人の食べるものをリレイアに(たず)ねて、教えてもらったのだが理解不能であった。

 携帯食糧(けいたいしょくりょう)とかレーションみたいなものはともかく、やき魚風なのに中にカプセルが入っているのを好む人がいるとか。


 何だそりゃ。


 ものは試しということで56世期で流行している香辛料というのがあるというので、それで調理してもらった料理を出してもらった。

 かなり料理に深みをもたらしてくれるらしい調味料だそうである。


 食べてみると……確かに深みはあった。

 なんか、ふか〜い味。

 でも深みがありすぎて最早(もはや)美味いかどうかわからなかったよ。


 ほら、経験ないかなあ?

 高すぎるスイーツを食べたときに高級すぎて、果たしてこれが美味いと言えるかわからない、みたいな。

 あんな感じ。


 それに、流行りと言われるこの香辛料にしても人口の0.00001%しか食したことがないらしい。

 てか、人口比で考えても全然流行ってないじゃん! その香辛料。

 今の地球の人口がどれだけだか知らないけど、それだけパーセンテージ低いと食べたことがあるのって100人とか1,000人なんでしょ?

 まあ、それだけ多様化しすぎていて一般的な食事が存在しないってことだけはわかったけど。


 長い歴史の中で、食文化は多様化しすぎたためもはや共通認識というものがなく、それぞれの個人の味の好みには、互いに感知しなくなったらしい。

 先程の流行している香辛料も、ネット上で誰かが美味いと言い出し、その組成を公開したらたまたま流行ってしまい、注目されたと言うだけの口コミレベルで若干他のものより出荷量が若干多い食材というだけだそうである。


 そーかー、『これが未来食!』みたいなのは存在しないのかー。

 『56世紀風お好み焼き』とかあるなら食ってみたかったなー。


 さて、だんだん日が暮れてくると部屋が勝手に明るく……

「あれっ、部屋の明るさはちょうどいいのにどこにも灯りが見つからないのはなぜ?」

「その辺は21世紀から来たばかりだと説明が難しいわ。でも大丈夫。調光(ちょうこう)機能はあるのはわかるでしょう?」


 あー、調光機能があるのはわかる。

 けれど、何で明るくなっているのかはわからない。

 光源が見つからないのに明るい。

 動力も電気じゃないだろうしね。


「そうですわね。電気は使われておりませんわ」


 うん、電気じゃなければなんなんだと思ったが、それは口にしなかったのには二つの理由がある。

 一つ目はなぜか、話し(しぶ)っているように感じたからだ。


 そしてもう一つは、この世界に慣れるための特殊な日常が始まるからである。

と言う訳で、8話にしてやっとタイトル回収です。

リレイアというのはAIの名前でした。

彼女(?)がこの先、慶太の相棒として付いて行きます。


次回は、『9話 未来の暮らしを始めてみれば』5/6 投稿予定です。


気に入っていただけたら嬉しいです。

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