83話 各地へと計画の準備に向かえば
ケータ達はあちこちに分かれて魔法システムの再構築に備えます。
ケータと仲間達は各地に散っていった。
それぞれがリレイアの計画を実行するための準備である。
◇
クリスクロスは困っていた。
他のみんなは魔獣のスタンビートに備えているが、彼の役目はこの星のあらゆる場所に妖精を派遣して、地脈に新魔法システムの鍵となるボットを設置すること。
「どうすっかな、妖精連中はみんな引き受けてはくれたけど問題は重さなんだよな」
そう言ってため息を吐く。
任された仕事は、リレイアの作成したボットの運搬と設置。
そして問題はその重さにあった。
当初の予定では2gであったボットは、仕様変更によって5gになっていた。
大きな魔力を使うことができる妖精であっても物理的に出せる力は小さい。
従ってたかが3gの違いでも妖精が物を運ぶには大きな違いが出る。
たかが3g。
されど3gなのだ。
だが、妖精なら魔法も使えるし空を飛ぶことだってできる。瞬時に現れたり消えたりするのでどこにでも移動できるように思えるが、実は制限は多く、そんなに自由度があるわけでもない。
空を飛ぶ場合の速度は時速10〜20km程度であるので、車より遅いのだ。
しかも、1時間跳び続けることはできない。
そして、自分以外の荷物の種類。この場合はこのボットなのだが、その材質に鉄が使われていることがネックとなていて瞬間移動もできないのだ。
仮にできたとしても、一度消えて、他の場所に現れる場合は瞬間的な移動ができるのは自分のいる里の中だけ。
その妖精の里といえる範囲はせいぜい10km四方なので、瞬間移動の範囲はかなり限られてしまう。
つまり、瞬間移動は実質使えない。
そして、ボットは妖精たちが一つ一つ抱えて飛ぶとなると航続距離が大問題。
これがクリスクロスがため息を吐いた理由なのだ。
一応、他の方法を考えてはみたのだ。
抱えて飛ぶには限度があると考え、魔力を使ってボットを浮かしたまま運ぶことはできないか、と。
しかし、結局は自分以外の物を浮かせたり飛ばすとなると魔力を大量に消費する。
さらに、瞬間移動の時と同様に、自分の里の外では制限を受ける。
魔素を取り込む速度が遅すぎる。
どう考えてもうまくいかない。
すると、どうしたら良いか悩んでいるクリスクロスのところにリレイアがやってきた。
「ああ、それ飛ばせるから。妖精さん達は微弱な魔法で制御するだけでいいわ」
「飛ばせる? 制御?」
「ええ、自立飛行できるのよ。そのボットに手を翳すとほとんど魔力を消費せずに、空中に浮かして運ぶことができるの」
「何だってーーー!! オイラ、メッチャ悩んでたのにぃぃ! 早く言えよぉぉぉ!!」
クリスクロスは怒り狂ったが、問題は解決したのだった。
◇
ザーフェスト・オーはランシェル神主国に帰国した。
背中には国を出た時より遥かにでかい荷物を背負っている。
「今、帰った」
「おおおお、英雄オーがお帰りになったぞ!」
「凄い荷物だ! 魔界での獲物に違いない!」
「ああああ、軍神さまっーーー」
人々は集まり崇め立つようにオーを讃える。
ザーフェスト・オーは人々に手を振り、声援に答えた後。
「急いで国王に話さなければならないことがある。戦士長も交えてお目通りを願いたい」
「はっ、はは!」
「この荷物は城壁に埋め込むための金属だ。外壁に沿って埋め込む作業が必要だ。人を集めておけ」
「はっ? はあ」
門番はオーに一礼すると王宮の方に走って行った。
この国においてのオーの地位は高い。
民衆にとって強大な戦士は神のように崇められる。
このランシェル神主国というのは、よく間違えられるが宗教国家ではない。
存在するすべての神を敬う。
特定の神だけに偏ることなく、特定の宗教が力を持つことも良しとしない。
また、偉大な人物を神格化し、国の宝としている。
すなわち神または神に準ずる人物を讃えることを大事にしている不思議な国なのだ。
他国の国民から見ると、神と人をごっちゃにするのは不敬とも思うわけだが、この国の考え方は一種独特なのである。
オーは集まる人たちに構わず王宮へ歩いていく。
止めるものはこの国にはいない。
「ザーフェスト・オー、ただいま戻りました。陛下をお取り次ぎ願いたい」
「戦神オー。よく戻って下さいました。陛下はお待ちです」
王宮の衛兵も敬礼してオーを迎える。
この国に戻ったところですでに知らせは来ており、用意はすでにできている。
謁見の間に入ったオーは、背負っている大荷物を横に置いて跪く。
「陛下、今、戻りました」
「ああ、よく戻ってきてくれた。話があるのであろう?」
「はい」
謁見の間には王と宰相、そのほかは軍を預かる将校たちが数人。
ザーフェスト・オーは、余計なことは言わずすぐに用件について話し始める。
国王もオーの為人がわかっているので異を唱えることはない。
「魔素降る死の国がこの世界の元凶であるという私の考えは間違っておりました」
「ああ、確かにあの魔界の問題について其方はそう言っていたな。それについては反対意見もあった。だが、其方は他の者が止めるのも聞かず、あの魔界に出向いた時は流石に戻れないかと思ったぞ」
「申し訳ありません」
「まあ、良い。単に間違いを認めることだけでここにきた訳ではあるまい」
「はい。ですが魔界についての状況については、今は話している時間がありません。それよりも今、この世界には未曾有の危機が迫っているのです。まずはそれに対し、国を上げて対策して頂く必要があります」
「何……だと!」
周りがざわめく。
一人の軍務少将が発言した。
「それはタリオトルテが大規模な戦闘を仕掛けてくるということか?」
「いや、タリオトルテなど問題にもなりません。文字通り、大陸のすべての人々にとっての危機です」
そこで、オーは一旦言葉を切り、周りを見渡すと絞り出すように言った。
「魔素降る死の国から魔獣が溢れ出してきます」
それを聞いた一同はざわめき戸惑い、言葉もなかった。
恐ろしいということはわかる。
ただし、実感がないのだ。
魔界と言われる魔素降る死の国には入っただけで命がない。
しかし、その魔界の魔獣が非常に強力であるということは理解できるが、実際には戦ったことなどなく見当がつかないのだ。
そんな中、国王は言った。
「対抗はできるの?」
「今のままでは無理でしょう。この国の強固な外壁も魔獣には容易く破られるでしょう」
「策はあるのか」
「はい」
オーは横の荷物から1本の杖と鉄の塊を取り出した。
「これは『ルオークの杖』と言い、これがあれば魔界でも10日間は過ごすことができます。そしてこの鉄の塊は羅鉄鋼」
「なるほど、その杖があるから其方は帰ってこれたというわけだな。それと羅鉄鋼……か、名前だけは知っている。なんでも大陸東部の国で作られている魔獣の攻撃を防ぎ、剣の威力を増す効果があるそうだな」
そこで、宰相が。
「確か羅鉄鋼はタリオトルテと戦うには不要ということではなかったか?」
「はい。タリオトルテと戦うには必要ありません。しかし、今回あの魔界の魔獣と戦うときは切り札となるのです」
「なんと! 説明してもらおうか」
それからザーフェスト・オーは羅鉄鋼を城壁に埋め込むこと。
埋め込んだ城壁は密に連結し、その中の一枚の壁のと地面との接地部分に『ルオークの杖』を設置することを話した。
「それでどのように機能するのだ」
「物理耐性が3倍、魔界の大型魔獣の吐く魔素ブレスも耐えることができます」
「それはどれ位のものなのだ?」
「瞬間的に魔素降る死の国の10倍以上の魔素濃度になります」
「それに耐えるというのか! それは凄いな!」
魔界の魔獣を知らない彼等であっても魔界の魔素の濃度に着いては知っている。
その10倍以上というブレスの威力は想像以上だが、それを防ぐことができるというのはさらにまた驚きなのである。
「して、どれ位の魔獣が来るというのだ」
「この国に到達するものだけで、恐らくは200万は下らないと。大型はその1割程度」
「「「「!!」」」」
魔界以外の魔獣など硬人族の戦士にかかれば同時に複数を相手取ることも可能ではある。
しかし、魔界の大型魔獣が現れた場合、ブレスの威力から考えて複数の戦士で当たらなければ勝ち目はない。
そして、硬人族の戦士は見習いを含めても1,000人といないのだ。
そこで、オーは硬人族としては考えられない方法を提案する。
「今回は城の外に出ない。城壁の上に櫓を組み、魔素の変換による魔法攻撃を中心として戦闘を行う」
「そっ、そんな! 硬人族の戦士ともあろうものが!」
「ならば問おう。これ以外に魔獣の群れを退ける手段があるのか?」
「それは……」
硬人族の戦闘は基本的に近接戦である。
アウトレンジで魔法を使うものもいるにはいるが、そういったものも近接戦闘ができないわけではない。
他種族とは異なり、戦う者たちは全て卓越した剣技、そしてそれを支える体力・腕力に秀でている。
従って、城壁に隠れて相手を防ぐなどという闘い方をしたことがないし、まさかそれをザーフェスト・オーが提案するとは思わなかったのだ。
「本気なのですね」
「ああ、本気だ」
そこまで聞けば、反対するものはいない。
その後、城壁の前の塹壕や罠の配置などとてもオーの口から出るとは思えない作戦の数々に驚きながらも軍務につく者達は、言われた通りの準備を進めるのだった。
◇
北の都市国家群
そこには、マルキャルトとパメロが向かっていた。
これらの国々はよく言えば独立独歩、悪く言えば多くの者と相容れないはぐれものの国の集まりだ。
自分の利権に固執するため、あまり協力的ではない。
到着するとマルキャルトは、都市国家群の各代表と面会したがその態度に手を焼いていた。
「もうすぐ魔界から魔獣の群れが押し寄せますので対処を……」
「何だと? どうにかならんのか? 守るなら我が国が最優先だ! 金なら出すぞ」
「いえ、都市国家群全体で手を取り合って対応しないと……」
「他の国など知ったことか! 協力なんぞして、他の国が助かったからと言って、ワシの土地や建物が被害があったら誰が補償するんだ!」
パメロが取りなすが……
「まあ、まずは話を聞いて下さい。ここで協力して乗り切れば、その後は安定して経済も安定しますよ」
「信用できるか! それよりあんた、パメロ・キュレータだろ? うちのお抱えにならんか? 給金も弾む。ステージで稼げれば文句ないだろう?」
「いえ、まず国の守りを固めませんと……」
「あーー、そんなことは戦争屋に任せておけば良い。ウチは高い金をタリオトルテに払ってるんだ! いざとなったら戦ってくれる手筈になっておる!」
するとマルキャルトがキレた。
ザン!
一振りで目の前の机が真っ二つになる。
「なっ、何をする! その机は高かったんだぞ! 弁償しろ!」
「魔獣が来れば机どころか全ての建物ごとひっくり返されるんですよ」
「そんなものがなんだというんだ。軍にも城壁にもタリオトルテの新素材を導入済みだ。大型魔獣も突き破れまい」
「そんなものは役に立ちません」
「何だと? そんな鈍で机を切ったからといっていい気になるな! ほら、できるもんなら、この剣を切ってみよ。この新しい鋼には歯が立つまい」
そこで、再びマルキャルトが剣を振るう。
ザ、ザン!
「ひっ! ヒィィィ!!」
構えた剣も半ばであっさりと折れ飛び、その刃先が目の前をかすめた。
「そ、そんな! クソッ! 偽物をつかまされたか?」
「違います。タリオトルテの新金属は以前よりは強いですが、羅鉄鋼には劣るんです」
「羅鉄鋼だと? なるほど、これがあの……よし! ワシが全部買い取ろう。他の国の倍の金を出す!」
「いや、うちの国が先だ!」
「何だと? 我が国の街並みを見よ。もし壊されれば文化的損失になる。さらに希少美術品を最も有している我が国にこそ配備されるべきだ!」
ドッ、ドォォォン
小さな箱から思いもよらぬデカイ音が鳴り、言い合いをしていた各代表が止まった。
パメロがドルターラのカホン部分のみから出した音だ。
「いい加減にしてもらえませんかね。それに羅鉄鋼の剣は持ってきていません。この欠片を城砦の壁に埋め込んでいくんです」
「では、その剣だけでも」
そう言って、マルキャルトの剣に手を出そうとしたが……
「私から騎士の証を持っていくというのか?」
「い、いえ、そんな………けっ、結構です」
マルキャルトの凄みのある微笑みを見て引き下がった。
その後は文句を言いながらも各都市国家代表城の外壁の強化に協力することになった。
ただ、話し合いの最後にパメロは。
「住民は魔界とは反対の南側に避難させておいて下さい。それと南側の各都市の門は緊急避難を受け入れられるようにお願いします」
「城壁はこの羅鉄鋼の欠片を入れておけば大丈夫ではないのか? なんで住民を避難させる?」
「念のためですよ」
「む。まあ、いいだろう…………念のため……ねぇ」
その様子を見たパメロは珍しく念を押す。
「必ずお願いします」
マルキャルトも剣に手を掛け。
「聞いていただけますよ、ねぇ」
「は、はい。かっ、必ず!」
マルキャルトはパメロが何のためにしつこくそんな指示を出したかわからなかったが、おそらく意味のあることだろうと睨みを聞かせて徹底させた。
都市国家群には討伐を期待していない。
その民衆を守り、都市の崩壊を防ぐことだけを主眼としている。
だが、それをやり遂げるには全住民の協力が必要だ。
マルキャルトは非協力的な代表者の話に不安を覚えていた。
◇
サリナはモグルーク王国に戻り、魔界から魔獣のスタンピードが発生することを伝えた。
国王シャルースは即座にタリオトルテ戦で戦った参謀達を召集し、その内容を伝えた。
「陛下! 本当ですか! 我が国の守りは現在南のタリオトルテ側に集中しております。魔界からの大規模な魔獣の襲撃にはとても耐えられません」
「ケータ殿はどうした? ケータ殿にお力添えをお願いするしかあるまい!」
「北から魔獣、南にタリオトルテ軍。同時に攻められることも考えられるぞ!」
どうしていいかわからず、口々に意見を述べる参謀たち。
タリオトルテに勝利して培ったはずの自信がまた揺らいでいる。
それだけ、前回の戦いにおいても依存している部分が大きかったのだ。
「静まれ! 陛下の前であるぞ!!」
「「「「「ははっ!」」」」」
「サリナ殿から今後についての対処の方針について話があるそうだ」
宰相が一喝し、参謀達は不安を持ちながらも一旦は収まった。
サリナが前に出て話し始める。
「これから防衛策についてお話しします。魔獣がこの地に来るまであまり時間がありません。モグルークの全てを懸けて対処する必要があります」
「南は放置するというのですか?」
「はい。そちらに構っているヒマはありません」
「タリオトルテ軍はどうするのです」
「その心配はありません」
タリオトルテの心配をする参謀達にサリナは、ランシェル神主国からタリオトルテに対して大攻勢があることを明かした。
そして、その総大将がザーフェスト・オーであることも。
「その情報は真実なのですか? ブラフということはないのでしょうか?」
「さあ、それはどうかわかりません。しかし、それはどちらでも良いのです」
「「「「「??」」」」」
一同は唖然としている。
それを見渡して頃合いを図り、サリナは話を続ける。
「タリオトルテはすでにその大攻勢に備えて全軍をランシェル側にシフトしています。守備隊については、北側にも十分に配置していますが、進軍能力はほとんどありません。そうですね? 宰相閣下」
「ああ、それについては我が国の諜報部門でも把握している。戦力についてはサリナ殿の言うとおりであるし、タリオトルテ北部では住民の避難が始まり、南部が大規模な疎開先となっているようだ。あの様子ではモグルークを狙うとすると補給線が相当長くなる。侵攻は不可能だろう」
それを聞いて参謀たちはやっと納得し、ほっとした表情を見せる。
だが、その一人ゼルアーノ少将の表情は硬いままだ。
「サリナ殿。しかし、安心はできない状況に思えます」
「はい。その通りです。魔獣との戦いはタリオトルテ戦以上になるでしょう」
その言葉にざわつく一同。
タリオトルテ以上の敵など想定したことすらないのだ。
「そんなものを防ぐことができるのですか?」
「ええ、ですが今回は防衛戦ではありません。討伐戦になります」
またしても険しい表情をしている参謀たち。
タリオトルテ以上の相手に対し防ぎ切るだけでなく倒すということが想像ができないのだ。
その中でゼルアーノ少将だけが、違っていた。
「それで具体的にどうすれば良いのですか?」
「南の城壁に使った羅鉄鋼を取り外して北の城壁に付け替えます」
そこまではある程度想定内。
「そして、城壁同士の結合を密にしてこの『ルオークの杖』を壁と壁の間の地面に設置します」
「それも守りのための装置なのですね?」
「いえ、これは攻防一体の装置で今回の要です」
サリナはその用途について説明した。
まず、羅鉄鋼は物理防御力も強化するが、同時に魔法攻撃については単に強化するだけでなく、その魔素を内部に取り込むことができること。
さらに『ルオークの杖』が羅鉄鋼に溜まった魔素を吸い上げて、別の魔法を使う時の動力とすることができる。
「この『ルオークの杖』からの魔素を使って城壁の上から、魔獣に対し魔法砲撃を行います。使う砲門は普通の鉄を打ち出す大砲で構いません。点火口にちょうど差し込める形になっている小さなリング付きの羅鉄鋼を差し込んでください」
「そのリングは何に使うのでしょうか?」
「このリングは打つ相手を見るときの照準になりますが、それだけでなく敵の魔法的弱点属性を表示します。それに従い射手は砲門で任意の属性魔法を打ち出すことができます」
「なんと!」
物理的に強固であり、敵の魔法をも防ぎ、それどころか敵の魔法から魔素を吸い取ってさらに魔法砲撃の燃料とするわけである。
燃料切れの心配も過剰魔素による崩壊も全て防げてしまうリレイア自慢のシステムなのであった。
「後は、城壁の上に直接攻撃された時のための盾ですが、これも羅鉄鋼を頼らざろう得ません。この盾だけが独立していて、過剰な魔法攻撃による魔素飽和の危険性があります」
「わかりました。それには射手を交代制にすれば盾と人員の交換を合わせてコントロールできますので、問題ないかと」
「それはいい案ですね。射手の班編成をよろしくお願いします。最悪、まる2日戦い続けることになりますので、ローテーションが一番のカギになります」
途中から恐れるだけでなく、無謀にも、驕ることもなく作戦を冷静に考えられるようになったのを見てサリナは満足そうに笑った。
このアルファニアに来て、長くいるこのモグルーク王国は彼女にとって第二の故郷なのだ。
この参謀達の成長を自分のことのように誇らしく思っていた。
モグルークは魔獣のスタンビートを迎え撃つ目算がたった。
◇
クリフラクト王国にヨシュア・メイソンが帰ってきていた。
「おっ、お前はヨシュア・メイソン! 国を追放されたはずなのによくおめおめと戻ってこれたものだな」
「緊急の要件があります。この書状を持ってきました」
門番の態度に臆することはなくメイソンは、持っていた書状を渡した。
「何だと? おおっ? これは……本物なのか?」
「破ってもよろしいですが、もし本物であった場合……わかりますよね?」
「わっ、わかった。ちょっと待っておれ。誰かぁ、誰か王宮に取り継ぎを!」
書状の表書きには連名で、ヨシュア・メイソンの身分とこの文書を保証する文言が綴られていた。
中身についてはクリフラクト王以外には閲覧許可がない。
問題はその連名の名前だ。
クルゼ王国国王エリウス・フォン・クローゼ
ローアニエスト公国女王アニエス・ローアルテ
モグルーク王国国王シャルース・モグルーク
ランシェル神主国の名代として英雄ザーフェスト・オー
門番が呼んできた宮廷貴族の一人がその書状を見て言った。
「本物だ。サインといい国印といい間違いない。急いで、陛下にお取り次ぎを。それと、メイソン。ついてきてくれるな?」
「はい」
ヨシュア・メイソンは宮廷貴族と共に王宮に入る。
途中いくつかのチェックが入ったが、いずれもその貴族が一言二言言葉を交わすとフリーパスであった。
「陛下、お久しぶりです。このヨシュア・メイソン。もう二度とこの地を踏むことができるとは思っておりませんでした」
「ああ、メイソン。其方の功績を大きい。できれば国に残って欲しいとも思ってはいたのだ。だが、其方の農業改革が一時的にでもこの国を窮地に置いたのもまた事実。心情として許せないものも多いのだ」
「わかっております。私は十分、クルゼ王国にて報われて暮らしております。それよりもまずは書状を」
王はうなづくと書状を受け取り中を開いた。
その内容に目を走らせているうちに表情が険しくなる。
「メイソン。この内容は誠か?」
「はい」
「仮に其方が嘘だと言っても、この表書きの連名を見れば疑うことなど出来はしないが」
メイソンはそれには答えない。
王は顔を上げると。
「この国難に其方の力が必要になる。そしてその背中に荷物に重要な武具があると言うがとても信じられん」
メイソンが背負っている荷物はデイパックのようなもので、これでは短剣を数本入れることしかできないように見える。
これでは、国を救うカギとなるアイテムが詰まっていると言われても信じられなくて当然だろう。
「このバッグは見かけと収納量が大きく異なります」
「なんと魔道具であったか」
「えっ、ええ、そのようなもので」
歯切れの悪い答えを返したのは、このバッグはリレイア謹製の一品であり魔力も利用しているものの技術の大部分は56世期の科学技術であり、亜空間収納庫であるからだった。
詳しく説明するわけにも行かないのでメイソンは羅鉄鋼を取り出した。
「それは?」
「羅鉄鋼といいます。この鉄の塊にしか見えないものをこの国の城壁に埋め込みます」
「それで、強化されるのか?」
「ええ、素晴らしい強度を保つことができます」
王とメイソンの会話についていけない周りの貴族達が。
「陛下。まだ、説明いただいておりません。何があるのですか」
「魔獣のスタンビートが始まるのだ。しかも大規模に。そしてその発生地点は|魔素降る死の国<<テル・デ・モールト>>|だ」
「「「「「!!」」」」」
ざわつく貴族達に王は高らかに宣言した。
「静まれ! 方策はある。このメイソンが持ち帰った羅鉄鋼を使い、この国難を何としても乗り越える」
「「「「「ははっ!」」」」」
その後は、メイソンがこの国の役割を皆に説明した。
クリフラクト共和国の役目は、一言で言うと『受け流すこと』。
魔獣を討伐するより身を守り、国の左右に魔獣の群れを分断する。
大河に接しているこの国で魔獣の群れに反発した場合、川に沿って大陸東部へ魔獣が進出してしまう。
それだけは何としても避けなければいけない。
「だが、守るにしてもその羅鉄鋼だけで大丈夫なのか? この国はいくら魔獣を分けるだけの役割だとしても長時間魔素に晒されることには変わりはないだろう?」
「その辺は大丈夫です。国の北側にはこの砂を撒きます」
「それは?」
「魔素を魔獣から吸収し、その圧力を低下させる効果があります。また、魔素病についてはクルゼ王国でノウハウが蓄積されていますので、治療法も確立しており、そのための薬も持参しています」
「なるほど、それでは民の中で魔素病が発生してもすぐに対応できるよう救護組織の手配が必要だな?」
「はい。よろしくお願いします」
「だが、本当にその羅鉄鋼の数は足りるのか? 城壁の北だけでなく、東も西も処理が必要なのだろう?」
「大丈夫です。クルゼ王国から持ち込んだ羅鉄鋼の量は、モグルークやランシェルに渡している量の3倍はありますから」
こうして全ての心配は解決したことから、一致団結してクリフラクト王国も国を挙げての防御体制が整ったのである。
新システムは全ての人類のためのもの。
しかし、敵対するタリオトルテは協力をしないし、新たなシステムを信じてもいない。
それでも魔獣のスタンビートに巻き込まれれば、たくさんの人々が犠牲になります。
言って解らなければ、身を持って知るしかありません。
次回、『84話 非道な戦闘が必要ならば』1/24 投稿予定です。




